悪液質・サルコペニア・飢餓(摂取不足)の違い|見分け方と介入の優先順位
悪液質( cachexia )・サルコペニア( sarcopenia )・飢餓(摂取不足が主因の低栄養)は、見た目が似ていても「起きていること」と「最初に優先すべき介入」が違います。ここが曖昧なままだと、栄養だけ/運動だけに寄って反応が鈍くなりやすく、チーム共有も崩れます。
本記事は、①最初の 1 分で方向を決める 3 質問 → ②用語の芯(定義) → ③比較表(運用) → ④併存時の“束の運用” → ⑤評価の最小セット → ⑥介入の優先順位 → ⑦現場の詰まりどころ( OK/NG )までを 1 ページでつなぎます。
まず 1 分で見分ける:最初に固定する 3 つの質問
ここでやるのは「名前当て」ではなく、初動の優先順位を揃えるためのトリアージです。迷ったら、この 3 問に戻るとブレません。
ポイントは「 1 つに決め切る」より、主役を 1 つ置いて最初の 1 手を揃えることです(併存は後で扱います)。
| 質問 | 「はい」のときに疑う主役 | 初動の考え方(最初の 1 手) |
|---|---|---|
| 摂取不足が “理由つきで” 説明できる? | 飢餓(摂取不足) | 摂取( % )を可視化 → 理由を分解 → 介入を 1 つ決めて回す |
| 慢性疾患+持続する炎症(増悪・治療)と連動して機能が落ちている? | 悪液質( cachexia ) | 疾患フェーズ共有 → 安全域で低負荷運動を併走 → 栄養をセットで設計 |
| 筋力低下・パフォーマンス低下が前景で、経過が慢性的? | サルコペニア | 筋力・機能の指標を固定 → 漸進負荷(安全範囲)+栄養の土台づくり |
用語の整理:悪液質/サルコペニア/飢餓(摂取不足)
比較が噛み合わない最大の原因は、言葉の“芯”が混ざることです。ここでは現場の運用に必要な最小限だけ、3 つの定義を揃えます。
結論として、悪液質=炎症と代謝変化が主役、サルコペニア=筋力・機能低下が主役、飢餓=摂取不足(理由がある)が主役です。
悪液質( cachexia ):炎症・疾患イベントと連動する「代謝の偏り」
悪液質は、慢性疾患(例:がん、心不全、 COPD など)を背景に、炎症や代謝変化が絡んで筋肉量が進行性に落ち、機能低下につながる状態です。栄養だけでは戻りきらないことがあるため、運動と栄養を“セット”で運用し、疾患フェーズ(増悪・治療)と合わせて再評価します。
サルコペニア( sarcopenia ):筋力低下を起点に、筋量と機能をそろえてみる
サルコペニアは、筋力低下(握力など)と身体機能低下(歩行速度、 5 回立ち上がり、 SPPB など)が臨床の入口になり、必要に応じて筋量( BIA / DXA など)で確定していく枠組みです。運用では「同じ指標で定点観測」し、安全域の漸進負荷を積み上げます。
飢餓(摂取不足が主因の低栄養):摂取低下に “理由” がある
飢餓(摂取不足が主因の低栄養)は、「食べられない理由」が介入の主戦場です。痛み、悪心、嚥下、口腔、介助量、環境、抑うつ、経済など、理由が分解できるほど 1 手目が具体化します。最初は摂取( % )と理由を固定し、 1 つずつ改善して反応を見ます。
比較早見表: 3 つの違いを「運用の観点」でそろえる
違いを暗記するより、「観察 → 記録 → 再評価」が揃う表にすると回ります。ここはチーム共有の土台になります。
“診断名”より、主役(いま動かすレバー)が何かで列を選ぶのがコツです。
| 観点 | 悪液質( cachexia ) | サルコペニア | 飢餓(摂取不足) |
|---|---|---|---|
| 主役 | 疾患+炎症による代謝変化(栄養単独で反応が鈍いことがある) | 筋力・筋量低下と機能低下(慢性的) | 摂取不足(食べられない理由がある) |
| 見た目のヒント | 体重減少+機能低下が進みやすい(増悪・治療イベントと連動) | 歩行・立ち上がり・握力など “動作の落ち” が前景 | 摂取量が落ちており、介助・症状・環境が絡む |
| 評価の軸 | 疾患イベントと機能の連動、症状・体調の波 | 筋力・機能の定点観測(同じ指標を固定) | 摂取( % )と理由、体重推移、機能 |
| 介入の焦点 | フェーズ共有 → 低負荷運動併走 → 栄養をセットで設計 | 漸進負荷(筋力・機能)+生活内活動量+栄養の土台 | 摂取の可視化 → 理由の分解 → 1 つずつ改善 |
| 再評価 | 増悪・治療イベントの前後で機能を見る | 週次〜隔週で機能の変化を追う | まず 1 週で摂取の反応、 2〜4 週で推移を見る |
併存が多い:現場では「名前当て」より “束の運用” が大事
臨床では、飢餓(摂取不足)にサルコペニアが重なったり、悪液質に摂取低下が重なったりします。ここで大事なのは、ラベルを 1 つに決めることではなく、主役を置いて初動の優先順位を揃えることです。
迷ったら「 ①摂取( % )が上がる余地があるか ②炎症・疾患イベントが強いか ③筋力・機能が落ちているか」を順に見て、最初に動かすレバーを 1 つ決めます。診断フローとして整理したい場合は GLIM 基準の使い方 を “補助線” として使うとチーム共有が楽になります。
評価の最小セット: PT が押さえる「 4 点固定」
迷いを減らすには “見る指標” を固定します。体重だけに寄らず、摂取・体重推移・機能に加えて、悪液質を見落とさないための疾患イベント(炎症の波)を 1 行で残すと判断が安定します。
この 4 点を同じ型で回すと、「介入したのに反応がない」場面で、何が詰まっているかを切り分けやすくなります。
| 項目 | 見るポイント | おすすめ頻度 | 記録の型(短く) |
|---|---|---|---|
| 摂取 | 摂取( % )、食形態、介助量、補助食品の有無 | 毎日〜週次 | 理由 → 対策 → 反応 |
| 体重推移 | 週次の変化(浮腫・脱水があるときは解釈に注意) | 週次 | 単発ではなく推移 |
| 機能 | 歩行・立ち上がり等の同一指標で定点観測 | 週次〜隔週 | 条件固定で比較 |
| 疾患イベント | 増悪・治療、炎症所見、症状の波 | イベント時 | いつ何が起きたか |
介入の優先順位:何を先に動かすか
優先順位を間違えると、努力の割に反応が出にくくなります。主役ごとに「最初に外せない 1 手」を決めて、再評価で微調整します。
結論として、飢餓は摂取の反応を先に出す、悪液質はフェーズ共有+安全域の運動を先に整える、サルコペニアは指標固定+漸進負荷を先に回すのが基本線です。
| 主役 | 最初に外せないこと | 次にやること | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 飢餓(摂取不足) | 摂取( % )を上げる施策を 1 つ決めて回す | 形態・回数・介助・症状・環境の調整を積み上げる | 理由の分解なしだと対策が空回りしやすい |
| 悪液質 | 疾患フェーズ共有と安全管理(体調の波を前提にする) | 低負荷運動を併走し、栄養をセットで設計する | 栄養単独に寄ると反応が鈍いことがある |
| サルコペニア | 筋力・機能の指標を固定して漸進負荷を組む | 生活内活動量の底上げと栄養の土台を整える | 痛み・バイタル・疲労の管理とセットで |
現場の詰まりどころ:ここで外すと介入が遅れます
このテーマは、判断が曖昧なまま “とりあえず” を続けると、改善が遠回りになります。よくある失敗を OK/NG で固定すると、チーム内のブレが減ります。
教育用のチェックリストを先に作っておくと実装が速いです(関連:面談準備のチェックリストなどをまとめてダウンロード)。
| 場面 | NG(詰まりやすい) | OK(回避策) | 記録ポイント( 1 行 ) |
|---|---|---|---|
| 体重だけで判断 | 体重が横ばい=大丈夫 とみなす | 摂取・機能・イベントをセットで追う | 体重/摂取( % )/同一機能指標 |
| 飢餓の “理由” が曖昧 | 食べてない → 何となく補助食品 | 理由を 1 つに絞って介入 → 反応を見る | 理由 → 対策 → 反応 |
| 悪液質で運動が止まる | 体調が悪い時期に全て中止 | 安全域の低負荷で “継続できる最小量” を残す | 中止基準/実施量/翌日の反応 |
| サルコペニアで指標が毎回違う | 今日は歩行、次は立ち上がりで比較できない | 指標を固定(条件も固定)して定点観測 | 同一条件(補助具・靴・時間帯) |
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
併存しているとき、結局どれを主役に置けばいいですか?
主役は「最初に反応を出せるレバー」で決めます。摂取( % )が明確に低いなら飢餓を主役に置き、炎症・治療イベントの波が強いなら悪液質を主役に置き、筋力・機能低下が前景ならサルコペニアを主役に置きます。主役を置いたら、 1〜2 週で再評価して入れ替えて構いません。
悪液質は栄養を増やしても意味がないですか?
意味がないわけではありませんが、栄養 “だけ” に寄ると反応が鈍いことがあります。疾患フェーズ共有と安全域の運動を併走し、栄養をセットで設計する方が、臨床の再現性が上がります。
サルコペニア肥満はこの枠組みでどう見ますか?
体重や BMI が「普通」でも筋力・機能が落ちることがあるため、サルコペニアは “筋力・機能を主役” にして拾います。体重が動きにくいケースほど、同一指標での定点観測が重要です。
最小セットの「機能」は何を選べばいいですか?
施設で最もブレなく測れる指標を 1 つ固定します。歩行速度、 5 回立ち上がり、 TUG など、条件を揃えやすいものから始めると回ります。
次の一手
- 低栄養の “原因分類( etiology )” をチームで揃える:低栄養の原因を 3 類型で整理(飢餓・炎症・悪液質)
- サルコペニアを “測って確かめる” 運用に落とす:AWGS 準拠 サルコペニア評価プロトコル
- 悪液質を深掘りして運動×栄養の実装へ:がん悪液質(カヘキシア)と PT|評価と介入
参考文献
- Fearon K, Strasser F, Anker SD, et al. Definition and classification of cancer cachexia: an international consensus. Lancet Oncol. 2011;12(5):489-495. doi: 10.1016/S1470-2045(10)70218-7 / PubMed: 21296615
- Jensen GL, Cederholm T, Correia MITD, et al. GLIM Criteria for the Diagnosis of Malnutrition: A Consensus Report From the Global Clinical Nutrition Community. JPEN J Parenter Enteral Nutr. 2019;43(1):32-40. doi: 10.1002/jpen.1440
- Chen LK, Hsiao FY, Akishita M, et al. A focus shift from sarcopenia to muscle health in the Asian Working Group for Sarcopenia 2025 Consensus Update. Nat Aging. 2025;5:2164-2175. doi: 10.1038/s43587-025-01004-y
- Chen LK, Woo J, Assantachai P, et al. Asian Working Group for Sarcopenia: 2019 Consensus Update on sarcopenia diagnosis and treatment. J Am Med Dir Assoc. 2020;21:300-307.e2. doi: 10.1016/j.jamda.2019.12.012
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


