頸部の整形外科テスト|神経根症と TOS の選び方
頸部の整形外科テストは、診断名を「当てる」ためではなく、神経根症(頸椎由来)と胸郭出口症候群( TOS )などの候補を絞り、次に何を確認し、何を避けるかを決めるための道具です。迷いやすいのは「知っているのに、順番と陽性の定義が毎回ズレて比較できない」こと。本記事では、最小セット( 1〜3 個 )を固定し、再評価まで回せる形に整理します。
結論として、上肢への放散痛・しびれを伴う場合は、まず神経根症クラスタ( Spurling/ Distraction/ ULTT 1 +頸部回旋 ROM )で確からしさを上げ、違和感が残るときに TOS 系( Roos/ Adson/肩引き下げなど )を追加します。テスト単独で確定はせず、問診(誘発姿勢)+神経所見(筋力・感覚・腱反射)と整合するかを最後に合わせます。
まずはここから:頸部テストを 5 分で組み立てる(最小セット)
時間がない場面ほど「全部やる」より 1〜3 個を固定した方が、再評価で差が出ます。以下の順で、今日の症例に合わせて最小セットを決めてください。
- 問診で仮説:頸部の姿勢/動きで増悪するか、腕の位置で増悪するか(睡眠姿勢、デスク、上肢挙上)
- 神経根症が濃い:Spurling(誘発)+ ULTT 1(陰性なら除外寄り)+頸部回旋 ROM(制限)
- 軽減が取れるか:Distraction(牽引で軽減)を 1 つ足して「解除で変化」を確認
- TOS が混ざる:Roos(再現)+肩引き下げ(症状変化)を追加し、頸部所見と整合するか確認
- 再評価の軸:症状再現(部位・質)と、日常生活の困り(例: NDI )を 1 つだけ固定
頸部の整形外科テスト一覧(目的別)
「何のためにやるか」を先に固定すると、テスト名に振り回されません。下表は、目的→使う候補→次に何を見るか、を 1 行で揃えるための一覧です。
| 目的 | 代表テスト | 陽性の見方(要点) | 次に確認する |
|---|---|---|---|
| 神経根症を疑う(誘発) | Spurling/ Jackson | 頸部痛だけでなく、上肢への放散(しびれ・電撃痛)が「同じ質」で再現し、解除で変化する | 神経所見(筋力・感覚・腱反射)と整合するか |
| 神経根症を疑う(除外寄り) | ULTT 1 | 陰性で可能性が下がりやすい。陽性は偽陽性も混ざるので「頸部操作で変化」まで確認 | Spurling/ Distraction と組ませて整合を見る |
| 解除で変化を見る | Distraction(牽引) | 牽引で軽減(解除で再現)を重視 | 痛みの部位・質が神経っぽいかを言語化 |
| TOS を疑う(再現) | Roos/ Adson | しびれ・だるさ・冷感などの再現と、姿勢・呼吸・肩帯位置で変化するか | 頸部由来(神経根症)と混在していないか再確認 |
| TOS を疑う(機械刺激) | 肩引き下げ( Shoulder Depression ) | 肩帯を下げたときの症状変化。局所痛だけなら解釈に注意 | 末梢要因(肩・肘・手)の混在を疑う |
| 鎖骨下の圧痛・誘発 | Eaton など | 局所の圧痛と、誘発姿勢での症状再現 | TOS と神経根症のどちらが主かを決める |
頸椎症性神経根症を疑うとき|“ 組み合わせ ” で確からしさを上げる
神経根症は、頸部局所痛よりも上肢への放散痛・しびれが主で、筋力・感覚・腱反射の変化を伴うほど疑いが上がります。頸部テストは単独より、複数所見の一致で解釈した方がブレにくいです。
実務では、Spurling(誘発)・ Distraction(軽減)・ ULTT 1(陰性なら除外寄り)・頸部回旋 ROM(制限)を “ そろえて読む ” のが扱いやすいです。迷ったら、まずは Spurling(特異度側) と ULTT 1(感度側) を見直し、条件(角度・保持・解除)を固定してください。
神経根症クラスタの読み方(例)
- 可能性が上がる:Spurling で放散再現 + Distraction で軽減 +回旋 ROM 制限
- 可能性が下がる:ULTT 1 が陰性で、頸部操作でも症状が動かない
- 混在を疑う:頸部テストは陽性っぽいが、症状が dermatomal に一致せず、末梢(肩・肘・手)所見が強い
胸郭出口症候群( TOS )を疑うとき|“ 混ざりやすさ ” を前提に扱う
TOS は「しびれが出た=確定」ではなく、姿勢・呼吸・肩帯位置で変化するか、頸部由来の所見と矛盾しないかを見ます。特に Roos は反応が出やすい一方で、疲労や筋痛も混ざります。
運用は、① Roos で再現 →② 肩帯位置(肩引き下げ/肩甲帯の保持)で変化 →③ 頸部テスト(神経根症クラスタ)と整合、の順にすると迷いにくいです。
記録の型:陽性/陰性ではなく「比較できる 1 行」にする
頸部テストは、結果がカルテに残らないと “ 次が決まらない ” 評価になります。陽性/陰性の丸だけではなく、どの条件で/どこに/どんな質で/解除でどう変わったかを 1 行化してください。
- 例:Spurling:右伸展+右側屈+軸圧で C6 しびれ再現、解除で軽減
- 例:ULTT 1:肘伸展で前腕橈側の牽引感、頸部左側屈で増悪、解除で軽減
- 例:Distraction:牽引で放散が軽減、解除で再現
再評価の軸をそろえるなら、生活障害(困りごと)を同条件で追える NDI も相性が良いです。
現場の詰まりどころ=解決の三段(必須)
ここは “ 読ませるゾーン ” です。ボタンは置かず、まずページ内で迷いを潰し、最後に同ジャンルへ 1 本だけつなぎます。
- ページ内:よくある失敗 へ
- ページ内:回避の手順/チェック へ
- 同ジャンル:NDI(再評価の型)で “ 変化を追う ” を固定する
よくある失敗
| 失敗 | 何が起きる | 修正 | 記録の一言 |
|---|---|---|---|
| 毎回、順番が違う | 比較不能で “ ブレる ” | 最小セット( 1〜3 個 )を固定して、同条件で再評価する | 「表の順序で実施」 |
| 頸部痛だけで陽性扱い | 神経根症が過大評価される | 放散(しびれ・電撃痛)+解除で変化、まで確認する | 「放散が同質で再現」 |
| ULTT の陽性が広すぎる | 偽陽性だらけになる | 頸部側の操作で変化( sensitizing )まで見てから解釈する | 「頸部側屈で増悪」 |
| TOS テストだけで確定する | 肩・末梢要因を見落とす | 頸部所見と整合するか、末梢所見が主ではないかを確認 | 「混在の可能性あり」 |
回避の手順/チェック
- 最初に最小セット( 1〜3 個 )を決める(迷ったら 5 分フロー )
- “ 陽性 ” は再現+解除で変化まで確認する
- ULTT は頸部側の操作で変化まで見てから解釈する
- TOS は姿勢・肩帯位置で変化するかを確認し、頸部所見と整合させる
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Spurling が陰性なら、神経根症は否定できますか?
否定は難しいです。Spurling は特異度寄りのため、陰性でも完全除外にはなりません。問診と神経所見の整合性を取りつつ、ULTT 1(除外寄り)や Distraction(軽減)と組み合わせて判断します。
ULTT 1 が陽性なら、神経根症で確定ですか?
確定はできません。ULTT 1 は陽性が出やすく偽陽性も混ざるため、「頸部側の操作で変化するか」まで確認し、Spurling/ Distraction と整合するかを見ます。
TOS と神経根症が混ざっているとき、何から整理すべきですか?
まずは神経根症クラスタ( Spurling/ Distraction/ ULTT 1 )で “ 頸部由来らしさ ” をそろえ、そのうえで Roos など TOS 系を追加します。どちらも “ 単独で確定しない ” 前提で、誘発姿勢と解除での変化を軸に整理します。
カルテは何を残すと再評価が回りますか?
「どの条件で」「どこに」「どんな質で」「解除でどう変化したか」を 1 行で残すのが最短です。可能なら生活障害(困りごと)を NDI で同条件にそろえると、介入の説明と再評価が通りやすくなります。
次の一手
頸部テストは “ 追加すれば強くなる ” ものではなく、条件をそろえて比較できる型にするほど価値が上がります。まずは本記事の最小セットに戻って「今日やる 1〜3 個」を決め、同条件で再評価してみてください。
- 運用を整える:整形外科的テスト一覧(部位別ハブ)
- 共有の型を作る:NDI(頚部の生活障害)
- 環境の詰まりも点検(無料チェックシート)
教育体制・人員・記録文化など “ 環境要因 ” を一度見える化すると、次の打ち手が決めやすくなります。
チェック後に「続ける/変える」の選択肢も整理したい方は、PT キャリアナビで進め方を確認しておくと迷いが減ります。
PT キャリアナビで進め方を確認する
参考文献
- Wainner RS, Fritz JM, Irrgang JJ, et al. Reliability and diagnostic accuracy of the clinical examination and patient self-report measures for cervical radiculopathy. Spine. 2003;28(1):52-62. DOI: 10.1097/00007632-200301010-00014 / PubMed
- Rubinstein SM, Pool JJM, van Tulder MW, et al. A systematic review of the diagnostic accuracy of provocative tests of the neck for diagnosing cervical radiculopathy. Eur Spine J. 2007;16(3):307-319. DOI: 10.1007/s00586-006-0225-6 / PubMed
- Grondin F, et al. Diagnostic accuracy of upper limb neurodynamic tests in the diagnosis of cervical radiculopathy. Musculoskelet Sci Pract. 2021;55:102427. DOI: 10.1016/j.msksp.2021.102427 / PubMed
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


