頸部の整形外科テストとは
頸部の整形外科テストは、頸椎症性神経根症・胸郭出口症候群・椎骨脳底動脈循環不全・上位頸椎不安定性などを疑う際に用いられる評価手段です。教科書では「頸椎 Jackson テスト」「頸椎 Spurling テスト」など個々のテストが紹介されますが、いずれも単独で診断を「確定」するものではなく、あくまで 病態仮説を絞り込むための 1 要素 にすぎません。本記事では、日常臨床で遭遇しやすいパターン別に代表的テストを整理し、理学療法での安全な使い方をまとめます。
最優先はレッドフラッグ(脊髄障害・悪性腫瘍・感染症・著明な骨折、急激な神経症状の進行など)を見逃さないことです。そのうえで、どの症状に対してどのテストを選び、陽性・陰性所見をリハビリテーションの方針や禁忌判断にどうつなげるかを、評価→介入→再評価の流れの中で整理していきましょう。
頸椎症性神経根症を疑うときのテスト
片側上肢への放散痛やしびれ、頸部〜肩甲帯の痛みがある場合には、まず頸椎症性神経根症を念頭に置きます。代表的なテストとして、頸椎 Jackson テスト、頸椎 Spurling テスト、Shoulder Depression テスト、Eaton テストなどがあり、いずれも頸椎伸展・側屈・圧縮や肩帯への牽引によって神経根周囲の狭小化を再現しようとするものです。
| テスト名 | 主な操作 | 想定する主な病態 |
|---|---|---|
| Jackson テスト | 頸部を側屈した状態で下方圧 | 同側神経根の圧迫・椎間孔狭小化 |
| Spurling テスト | 頸部伸展+側屈+回旋で下方圧 | 同側神経根の圧迫、椎間関節負荷 |
| Shoulder Depression テスト | 頸部側屈と反対方向への肩引き下げ | 神経根・腕神経叢の牽引ストレス |
| Eaton テスト | 頸部伸展+回旋での症状変化を確認 | 椎間関節・神経根周囲の機械的刺激 |
評価のポイントは、「どの肢位で」「どの部位に」「どのような症状が」出るかを具体的に押さえることです。頸部局所痛のみであれば椎間関節由来の痛みを優先して考え、上肢への放散痛やしびれが dermatomal に再現される場合には神経根症状の可能性が高まります。一方で、肩甲帯や肩関節周囲の鈍痛のみのときは、肩関節疾患との鑑別も必須です。
禁忌・注意点として、急性外傷直後の頸部痛、著明な可動域制限、進行性の筋力低下や広範囲の感覚障害、脊髄症状(歩行障害・巧緻運動障害・膀胱直腸障害など)が疑われる場合には、強い圧縮や牽引は避けるべきです。このようなケースでは無理にテストを完遂するよりも、安静肢位での観察と神経学的評価、主治医への情報共有を優先します。
胸郭出口症候群を疑うときのテスト
頸部〜肩甲帯のだるさ、上肢のしびれや冷感、特定肢位での症状増悪がみられる場合には、胸郭出口症候群(thoracic outlet syndrome: TOS )を疑います。いわゆる「胸郭出口症候群 整形外科テスト」として、Adson テスト、Morley テスト、Eden テスト、Wright テスト、Roos テスト(Elevated Arm Stress Test)などが挙げられ、いずれも腕神経叢や鎖骨下動静脈が通過する部位を意図的に狭め、その際の症状再現や脈拍変化を確認します。
しかし、これらの TOS テストは健常者でも陽性になることがあり、感度・特異度ともに十分とはいえません。臨床では、「日常生活のどの肢位で症状が出やすいか」「テスト肢位でどの症状がどの程度再現されるか」を問診と合わせて解釈することが重要です。特に Roos テストでは、上肢挙上・外転・外旋位を数分維持した際に、しびれ・だるさ・脱力感が出現するタイミングを記録しておくと、作業姿勢の調整やリハビリ時の肢位設定につなげやすくなります。
椎骨脳底動脈循環不全を疑うときの注意点
めまい・複視・構音障害・嚥下障害・意識障害などを伴う場合は、椎骨脳底動脈循環不全や脳幹病変を慎重に疑う必要があります。いわゆる「椎骨動脈テスト」は、頸部伸展・回旋などで脳底動脈領域の虚血症状を誘発しようとするものですが、現在では安全性・有用性について議論があり、理学療法士がルーチンで実施することには賛否があります。
実務的には、頸部を大きく伸展・回旋させたときに「世界が回るようなめまい」「視界が二重に見える」「気分不良」「耳鳴り増強」などが出るかどうかを、日常生活のエピソードや評価場面での姿勢変化から確認することが大切です。検査のために意図的に虚血を起こすのではなく、日常生活と既往歴からレッドフラッグを抽出する スタンスのほうが安全です。
頸部姿勢の変化で上記症状が出現したり、突然発症の激しい頭痛・呂律困難・四肢の脱力などがみられたりした場合には、ただちにリハビリテーションを中止し、医師へ緊急報告します。頸部への手技やストレッチを行う際も、強い伸展・回旋を強要せず、軽い違和感の段階から訴えを丁寧に拾いながら進めることが重要です。
上位頸椎不安定性を疑うときのテスト
環椎・軸椎( C1–C2 )周囲の不安定性は、リウマチ性疾患、外傷、先天性疾患(例: Down 症候群)などでみられます。上位頸椎不安定性が疑われる場合、環椎横靱帯ストレステスト(Transverse Ligament Stress Test)、翼状靱帯ストレステスト(Alar Ligament Stress Test)などが教科書で紹介されていますが、脊髄圧迫のリスクがあるため、誰にでも安易に実施してよいテストではありません。
理学療法士としては、まず「重度の頸部痛」「うがい動作や小さな回旋での強い違和感」「しびれ・脱力・歩行障害・手指巧緻運動障害」など、脊髄症状を示唆する所見の有無を丁寧に確認します。そのうえで、必要に応じて X 線や MRI など画像検査での評価を主治医に依頼することが優先されるべきです。ストレステストの実施は、事前の画像評価や医師の指示のもとで慎重に行う性質のものと考えましょう。
たとえば環椎横靱帯ストレステストでは、上位頸椎を前方へ軽くグライドさせた際に脊髄症状の出現を確認しますが、わずかな刺激でも症状が誘発される可能性があります。違和感やしびれ感が少しでもあれば即座に解放し、それ以上の負荷は一切かけません。上位頸椎不安定性が疑われる症例では、高負荷の頸部運動やマニピュレーションを避け、装具・安静肢位・姿勢指導を中心に安全第一で取り扱う必要があります。
評価結果をリハビリテーションにどう活かすか
頸部の整形外科テストは、「陽性だった/陰性だった」というメモで終わらせず、どの病態仮説の確からしさが上がったのか を整理することが重要です。たとえば Spurling テストなどで神経根症状が強く再現される場合には、急性期は神経根への圧迫を避ける頸部肢位・枕の高さ調整・作業姿勢の工夫を優先し、症状が落ち着いてから段階的な筋力強化や持久性トレーニングへ移行していきます。
TOS が疑われる症例では、 Roos テストなどで症状が出やすい肢位を把握したうえで、斜角筋や小胸筋の過緊張を軽減しつつ、肩甲帯の安定化や胸郭拡張を促すエクササイズを組み立てます。また、上位頸椎不安定性や椎骨脳底動脈循環不全が疑われる場合には、「どの介入を行うか」よりも、「どこまで行ってはいけないか」「どのタイミングで主治医に再評価を依頼するか」を明確にしておくことが、リスクマネジメント上きわめて重要です。
再評価の頻度は、毎回すべてのテストを繰り返す必要はなく、ターゲットとなる病態に関連する 1〜3 個程度のテストを選び、症状の変化とセットで追うと負担が少なくなります。頸部痛の強さだけでなく日内変動や生活上の制限度も併せて記録しておくことで、治療効果の説明やカンファレンスでの共有がスムーズになり、チーム全体で方針をそろえやすくなります。
配布物・チェックシートの活用(働き方の整理にも)
頸部の整形外科テストは、レッドフラッグへの配慮や安全性の確保など、判断に迷う場面が多い領域です。症例ごとに「どの情報を集め」「どのような仮説を立て」「どんな介入を選択したか」を振り返ることで、少しずつ「頸部症例のパターン」が自分の中に蓄積されていきます。同時に、そのような学びを継続しやすい職場環境かどうかを見直すことも、長期的なキャリア形成には欠かせません。
働き方を見直すときの抜け漏れ防止として、見学や情報収集の段階から使える面談準備チェック( A4・約 5 分)と職場評価シート( A4 )を無料公開しています。印刷してそのまま使えるフォーマットです。ダウンロードページを見る から入手できます。
おわりに
頸部の整形外科テストは、神経根症・ TOS ・椎骨脳底動脈循環不全・上位頸椎不安定性など多彩な病態を相手にするだけに、「どこまで評価し、どこから医師に任せるか」の線引きが非常に重要です。テスト名や手順だけを丸暗記するのではなく、想定している病態・レッドフラッグ・介入の可否をセットで整理することで、評価→介入→再評価の流れが安全かつ効率的になります。
面談準備チェックと職場評価シートも活用しながら、自分の学び方と働き方のリズムを整え、頸部症例の評価力とリスクマネジメント能力を少しずつ高めていきましょう。日々の症例から得た気づきを記録し、チーム内で共有することが、最終的には患者さんの安全とアウトカムの向上につながります。
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Spurling テストが陽性なら、必ず頸椎症性神経根症と考えてよいですか?
Spurling テスト陽性は神経根症の可能性を示唆しますが、それだけで確定診断にはなりません。頸部局所痛のみなのか、上肢への放散痛・しびれが dermatomal に出るのか、筋力低下や感覚障害が随伴しているかなどを整理し、神経学的所見や画像検査と合わせて総合的に判断する必要があります。肩関節疾患や末梢神経障害でも類似の症状が出ることがあるため、鑑別を意識して評価を進めましょう。
椎骨動脈テストは必ず行うべきですか?危険ではありませんか?
椎骨動脈テストの安全性・有用性には議論があり、現在では理学療法士が全例にルーチンで実施することは推奨されないことも多いです。むしろ、問診や既往歴、日常生活での頸部伸展・回旋時の症状などからレッドフラッグを抽出し、少しでも疑わしければ強い伸展・回旋を避けて医師に評価を依頼する方が安全です。検査のために意図的に虚血を誘発するような負荷は避けましょう。
TOS テスト(Adson・Roos など)は陽性でもあまりアテにならないと聞きました。本当ですか?
胸郭出口症候群の各種テストは、健常者でも陽性になることがあるため、感度・特異度の面で限界があるとされています。ただし、「どの肢位でどの症状がどの程度再現されるか」を把握すること自体は、作業姿勢の修正やリハビリ時の肢位設定に十分役立ちます。テスト結果だけで診断を完結させるのではなく、問診・動作観察・神経学的所見と組み合わせて解釈することが大切です。
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


