せん妄の初期対応|PT・OTが見るポイントと記録例

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せん妄の初期対応|PT・OTは安全確認と報告を優先する

せん妄が疑われるとき、PT・OTが最初に行うのは診断ではなく、急な変化の確認、安全確保、身体状態の確認、リハ中止・報告の判断です。「昨日より反応が遅い」「急に指示が入らない」「日中なのに強く眠い」といった変化は、不穏がなくても見逃せません。本記事では、新人PT・OT向けに、リハ場面で最初に見るポイント、最初の5分の対応、中止・報告基準、SBARと記録例を整理します。

新人PT・OTの初期対応を全体から確認する

せん妄が疑われる場面では、せん妄らしさだけでなく、意識、バイタル、呼吸、疼痛、低血糖などの身体変化を合わせて確認します。

新人PTの臨床初期対応まとめを見る意識・鎮静・せん妄評価ハブを見る

最初の5分は安全確保・急変除外・比較・報告の順で動く

せん妄が疑われた直後は、評価尺度を始める前に、離床を続けてよい状態かを判断します。行動の順番は「安全確保→急変の除外→普段との比較→中止・報告→記録」です。

せん妄が疑われたときにPT・OTが行う最初の5分の初期対応フロー
せん妄が疑われたときの最初の5分フロー
順番 行動 確認内容
1 安全を確保する 歩行・移乗を止め、転倒、転落、ライン抜去を防ぐ
2 急変を除外する 意識、呼吸、SpO2、血圧、脈拍、体温、急な神経症状を確認する
3 普段と比較する 昨日、当日午前、リハ開始前との違いを確認する
4 中止・報告する 安全に継続できなければ負荷を中止し、看護師・医師へ共有する
5 事実を記録する 変化、測定値、実施判断、共有先、再評価予定を残す

急な意識低下、片麻痺、構音障害、けいれん、著しい呼吸状態の悪化などがある場合は、せん妄の確認よりも院内の急変対応を優先します。施設の報告基準や緊急連絡手順に従ってください。

せん妄では「急性発症」と「状態の変動」に注目する

せん妄を疑う重要な手がかりは、短期間に生じた変化と、時間帯による状態の揺れです。注意が続かない、話がかみ合わない、見当識が低下する、落ち着かない、幻視があるといった症状だけでなく、強い傾眠や反応遅延として現れることもあります。

PT・OTは診断名を付けるのではなく、「昨日までと違う」「午前中と比べて反応が落ちた」「訓練中に急に指示が入らなくなった」という変化を拾います。

認知症がある患者でも、急に反応や注意が変化した場合は「認知症だから」と決めつけません。認知症にせん妄が重なることもあるため、普段の認知機能を基準にして変化を確認します。

PT・OTが最初に気づきやすいサインは注意・覚醒・行動の変化

せん妄は不穏だけではなく、注意、覚醒、会話、行動の変化として現れます。特に低活動型では、眠気や反応の遅さが「疲れている」「やる気がない」と解釈され、見逃されやすいため注意が必要です。

せん妄の初期対応でPT・OTが最初に見る注意・覚醒・行動の3ポイント
せん妄が疑われるリハ場面のサイン
観察領域 気づきやすい変化 記録に残す表現
注意 声かけに集中できない、指示が途中から入らない、話が逸れる 声かけへの注意持続困難
覚醒 強い傾眠、開眼を保てない、反応が遅い 開眼維持困難、声かけへの反応遅延あり
行動 落ち着かない、急に立ち上がる、ラインへ触れる 安静保持困難、点滴ラインへの反復接触あり
会話 話がかみ合わない、質問への答えが変わる、場所を誤る 質問への応答に一貫性を欠く
動作 普段できる手順を間違える、ブレーキ操作を忘れる 移乗手順の理解低下、反復指示を要した
変動 朝と午後、開始時と訓練中で反応が異なる 午前と比較し午後に注意・覚醒の低下あり

初期確認では意識・バイタル・呼吸・不快症状・環境を見る

せん妄が疑われるときは、「せん妄かどうか」を先に決めるのではなく、原因となり得る身体変化と安全性を確認します。PT・OTが確認しやすい項目は、意識・注意、バイタル、呼吸、疼痛や不快症状、環境・チューブ類です。

せん妄が疑われるときの初期チェック5項目
確認項目 見るポイント 判断・対応
意識・注意 開眼、呼びかけへの反応、注意持続、指示理解、見当識 急な低下や覚醒維持困難があれば中止・報告する
バイタル 血圧、脈拍、体温、SpO2、必要時は血糖測定の有無 単一の数値だけでなく、普段の値と変化量を確認する
呼吸 息切れ、呼吸数、努力呼吸、チアノーゼ、SpO2低下 低酸素や呼吸状態悪化が疑われる場合は負荷を中止する
疼痛・不快症状 疼痛、口渇、尿意、排尿困難、便秘、悪心、空腹 本人が説明できない場合は表情や動作からも確認する
環境・チューブ類 点滴、酸素、尿道カテーテル、ドレーン、補聴器、眼鏡、騒音 事故につながる要因を除き、必要な感覚入力を確保する

原因としては、感染、低酸素、脱水、低血糖、疼痛、薬剤の開始・変更、睡眠不足、便秘、尿閉、環境変化などが関係することがあります。PT・OTが原因を確定する必要はありません。観察した変化と身体所見を、原因検索を行うチームへつなぐことが重要です。

リハ中止は診断名ではなく安全に実施できるかで判断する

リハを中止・変更するかは、「せん妄と診断されたか」ではなく、覚醒、指示理解、バイタル、呼吸、危険行動から安全性を判断します。

せん妄疑いでリハを中止・報告したい場面
場面 リハ判断 理由・対応
覚醒を保てない 離床を見送る 座位・立位中の転倒や急変を防ぎ、意識状態を報告する
指示理解が不安定 歩行・移乗を中止する ブレーキ操作や荷重指示が入らず事故につながる
不穏・興奮が強い 刺激を減らして安全確保する 転倒、転落、ライン抜去の危険を病棟へ共有する
SpO2低下・呼吸状態悪化 運動負荷を中止する 低酸素が背景にある可能性を含めて報告する
発熱・頻脈・血圧変動 負荷をかけず再確認する 感染、脱水、循環変動などの身体変化を共有する
急な神経症状 院内の急変対応を優先する 片麻痺、構音障害、けいれんなどは直ちに報告する

軽い注意低下があっても、覚醒と指示理解が保たれ、身体状態が安定している場合は、ベッド上の低負荷課題や短時間の介入へ変更できることがあります。ただし、実施可否は施設基準とチームの判断に従います。

療養病棟では、普段から反応が少ない患者や認知症のある患者も多く、単回の受け答えだけでは変化を捉えにくいことがあります。前回のリハ記録、病棟スタッフの観察、食事・睡眠・排泄状況をつなげて比較すると、急な変化を共有しやすくなります。

よくある失敗は不穏だけをせん妄と考えること

最も避けたい失敗は、落ち着きのなさだけをせん妄のサインと考え、傾眠や反応遅延を見逃すことです。「認知症だから」「眠いだけ」「意欲が低い」と判断する前に、急な変化と日内変動を確認します。

せん妄疑いで避けたい判断と見直す視点
避けたい判断 見直したい視点
認知症だからいつも通り 普段の状態と比べた急な変化・日内変動を確認する
眠いだけ 低活動型せん妄、低酸素、感染、薬剤影響などを考える
歩けるから続けられる 注意、指示理解、危険認識が保たれているか確認する
不穏なので説得を続ける 安全確保、刺激の調整、身体的不快の確認を優先する
尺度が陰性なので問題ない 単回評価で終わらせず、急性変化と経時的な変動を見る
なんとなく変とだけ報告する 時間、変化、測定値、危険性、実施判断を具体的に伝える

SBARでは変化・測定値・リハ判断を短く共有する

報告は「せん妄だと思います」ではなく、いつから何が変わり、何を確認し、なぜリハを中止したかを伝えます。SBAR形式を使うと、観察事実と依頼内容を整理できます。

せん妄疑いのSBAR共有例
項目 共有例
S:状況 本日午後のリハ開始時から、昨日より反応が遅く、指示理解が不安定です。
B:背景 昨日は端座位保持と立位練習が可能でしたが、本日は開眼を保てない場面があります。
A:評価 血圧104/62mmHg、脈拍104回/分、SpO2 92%です。注意持続が難しく、離床継続は危険と判断しました。
R:依頼 本日の離床は中止しました。意識状態と呼吸状態の確認をお願いします。

報告時には、「昨日との違い」「いつから変化したか」「安静時と動作時の状態」「転倒やライン抜去の危険」「すでに行った対応」を添えると、次の判断につながりやすくなります。

記録ではせん妄と断定せず観察事実と対応を残す

リハ記録には、観察した変化、比較対象、バイタル、実施・中止判断、共有先を記載します。「せん妄あり」と断定するのではなく、「せん妄疑い」「注意持続困難」「反応遅延」などの表現を用います。

せん妄疑い時のリハ記録例
場面 記録例
傾眠 リハ開始時より開眼維持困難。声かけへの反応遅延あり。昨日と比較して指示理解が不安定であり、離床は中止。看護師へ共有した。
不穏 端座位中に点滴ラインへの反復接触あり。注意持続が難しく、安全確保困難と判断。立位練習は実施せず、ベッドへ臥床後に看護師へ報告した。
注意低下 移乗時、声かけへの反応が遅く、車椅子ブレーキ操作の指示が入らない。転倒リスクが高いため移乗練習を見送り、ベッド上評価へ変更した。
呼吸変化 安静時SpO2 96%から会話・動作時92%へ低下。息切れと注意散漫を認めたためリハを中止し、呼吸状態を看護師へ報告した。
日内変動 午前は会話・指示理解とも可能であったが、午後は質問への応答が一貫せず、注意持続困難。離床は実施せず病棟スタッフへ状態変化を共有した。

初期確認後は施設で採用するせん妄評価へつなげる

安全確認と身体状態の報告後、必要に応じて施設で採用しているスクリーニング尺度へ進みます。一般病棟では4AT、ICUではCAM-ICUやICDSCなどが用いられますが、尺度の陽性・陰性だけで診断を確定するものではありません。

4ATの実施タイミング、保留条件、点数の読み方は、4ATを現場で回す方法と記録例で詳しく整理しています。

院内で評価尺度が決められている場合は、個人の判断で別の尺度へ置き換えず、施設手順に沿って実施・共有してください。

せん妄の初期対応に関するよくある質問

各項目名をタップすると回答が開きます。

PT・OTがせん妄を判断してよいですか?

PT・OTは診断を確定するのではなく、急な注意・覚醒・行動の変化と、リハ中の危険性を観察して共有します。「せん妄疑い」として、変化した時期、観察事実、測定値、実施判断を記録・報告します。

傾眠だけでも報告した方がよいですか?

普段と異なる傾眠、開眼維持困難、反応遅延がある場合は報告します。低活動型せん妄だけでなく、低酸素、感染、低血糖、薬剤影響などの身体変化が背景にある可能性もあります。

不穏があってもリハを続けられますか?

覚醒と指示理解が保たれ、安全を確保できる場合は低負荷・短時間へ変更できることがあります。ただし、ライン接触、急な立ち上がり、指示理解低下、転倒リスクがある場合は中止・報告を優先します。

認知症とせん妄はどのように見分けますか?

PT・OTの初期観察では、普段の認知機能と比較した急な変化と、時間帯による変動を重視します。認知症がある患者にもせん妄が重なる可能性があるため、「認知症だから」と判断せずベースラインと比較します。

記録には「せん妄」と書いてよいですか?

診断として断定せず、「せん妄疑い」「注意持続困難」「開眼維持困難」「昨日と比較して反応遅延あり」など、観察した事実を中心に記録します。確認したバイタル、リハ判断、共有先も併記します。

次の一手

せん妄が疑われたら、「リハを予定どおり進めるか」ではなく、「現在の状態で安全に実施できるか」を先に判断します。急な変化を認めた場合は、安全確保、身体状態の確認、中止・報告、記録の順につなげましょう。


参考文献

  1. 日本サイコオンコロジー学会, 日本がんサポーティブケア学会, 編. がん患者におけるせん妄ガイドライン 2025年版. 第3版. 東京: 金原出版; 2025. せん妄ガイドライン案内ページ
  2. National Institute for Health and Care Excellence. Delirium: prevention, diagnosis and management in hospital and long-term care. Clinical guideline CG103. London: NICE; 2010, updated 2023. NICE guideline CG103
  3. 日本麻酔科学会. 高齢者における術後せん妄の予防と治療のプラクティカルガイド. 2025. 高齢者における術後せん妄の予防と治療のプラクティカルガイド
  4. 国立長寿医療研究センター. 認知症・せん妄ケアマニュアル. 第2版. 2025. 認知症・せん妄ケアマニュアル第2版

著者情報

せん妄の初期対応記事を執筆したrehabilikun blogの理学療法士

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blogを2022年4月に開設。医療機関、介護福祉施設、訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター2級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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