認知症 OT の紙面課題は「視空間」と「見当識」を分けると介入が安定します
親(運用):紙面ドリル運用プロトコル
視空間ドリルは「探す・見つける・配置する」などの処理を観察し、見当識ドリルは「時・場所・状況の把握」を確認します。似て見えても観察対象が違うため、目的を分けて実施すると判断がぶれにくくなります。
本記事では、両者の違いを比較し、開始レベル( L1〜L3 )と記録の要点を実務向けに整理します。迷う場面を減らし、同条件で取り直せる運用を目指します。
視空間ドリルと見当識ドリルの違い【比較表】
選定は「どちらが難しいか」ではなく、「今回 1 セッションで何を確かめたいか」で決めるのがポイントです。目的が曖昧なまま併用すると、記録が散って次回設定が難しくなります。
| 比較項目 | 視空間ドリル | 見当識ドリル |
|---|---|---|
| 主目的 | 探索・位置関係・構成の把握 | 時・場所・状況の把握 |
| 観察の主軸 | 見落とし位置、探索偏り、再指示量 | 時間・場所の誤り傾向、手がかり依存 |
| 向いている場面 | 視探索や配置エラーが目立つとき | 日課や時間見当識の混乱が目立つとき |
| 記録の要点 | 正答に加えて探索過程を残す | 正答に加えて手がかりの種類を残す |
| 進級判断 | 偏り減少+中断減少を確認 | 手がかり減少+応答安定を確認 |
3 分で決める:選び方の 3 ステップ
- 今日の主目的を 1 つに固定(探索・配置を見る/時・場所を見る)。
- 記録軸を先に決める(視空間=偏りと再指示量、見当識=誤り傾向と手がかり量)。
- 変更は 1 要素のみ(課題量・時間・ルールのどれか 1 つ)。
同日に両方やる場合は、順番(見当識→休憩→視空間、またはその逆)を固定し、当日の変更要素は 1 つに絞ると比較可能性が保てます。
開始レベルの決め方( L1〜L3 )
初回は原則 L1 から開始し、成功体験を優先します。進級は 1 要素ずつ(課題量・時間・ルール)に限定し、急な難易度上昇を避けると拒否を減らせます。
短時間セッションでは、課題数を減らしても記録項目(正答・手がかり量・中断有無)は省略しない運用が有効です。
| レベル | 開始の目安 | 進級の目安 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| L1 | 初回、拒否・疲労が出やすい | 手がかり最小で 7〜8 割以上 | 説明を短く固定して成功体験を優先 |
| L2 | 通常フォローに最適 | 誤り傾向が安定して減少 | 変更は 1 要素のみ |
| L3 | 負荷耐性・切替確認 | 中断少なく遂行過程が安定 | 疲労増なら L2 に戻す |
記録で差がつく:残す項目(最小セット)
正答だけだと「次に何を変えるか」が決まりません。視空間は探索の偏り、見当識は手がかりの種類をセットで残すと、次回設定が速くなります。
| 項目 | 視空間ドリル | 見当識ドリル | 次回の決め方 |
|---|---|---|---|
| 結果 | 正答数・誤り数 | 正答数・誤り数 | まず同条件で取り直す |
| プロセス | 探索開始点・見落とし位置・再指示量 | 誤りの傾向(時/場所/状況) | 誤りが固定なら手がかり設計へ |
| 支援 | 指さし・枠線・分割など | 再提示・選択肢・ヒント語など | 手がかりを 1 段階だけ減らす |
| 安全 | 中断・疲労徴候 | 中断・疲労徴候 | 悪化があれば 1 段階戻す |
現場の詰まりどころと、よくある失敗
この章だけ先に見る: よくある失敗 / 回避手順 / 関連:注意課題ドリル
詰まりどころは「同日に複数要素を変更する」「説明文が毎回違う」「点数だけ記録する」の 3 点です。比較可能性を失うと、介入の質が上がりにくくなります。
改善は、目的の明確化(今日は何を確かめるか)、説明文固定、統一記録の 3 点を徹底するのが最短です。
回避手順(目的→説明→記録を固定)
- 開始前:主目的を 1 文で共有(探索を見る/時・場所を見る)。
- 実施中:変更は 1 要素のみ(課題量・時間・ルール)。
- 終了後:正答+(視空間=偏り/見当識=手がかり)+中断・疲労を残す。
よくある失敗(早見)
| よくある失敗 | 起きる理由 | 対策 |
|---|---|---|
| 同日に課題量と時間を同時変更 | 何が改善要因か判別できない | 変更は 1 要素のみ |
| 課題目的が曖昧 | 評価軸が混在して記録が散る | 開始前に「主目的」を 1 文で共有 |
| 点数だけで終える | 次回介入に繋がる情報が不足 | 手がかり量・中断・疲労徴候を記録 |
よくある質問(FAQ)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
視空間と見当識、どちらを先にやるべきですか?
主訴に合わせて決めます。時間・場所の混乱が目立つ場合は見当識を先行し、探索や配置のエラーが目立つ場合は視空間を先に実施すると運用しやすいです。
同日に両方やってもいいですか?
可能です。順番は「見当識 → 短い休憩 → 視空間」またはその逆で固定し、当日の変更要素は 1 つに絞ると比較可能性が保てます。
進級の判断は正答率だけでよいですか?
正答率に加えて、手がかり量・中断有無・疲労徴候を合わせて判断してください。悪化があれば同レベル維持または 1 段階戻すのが安全です。
短時間セッションで省略してよい項目は?
課題数を減らすのは可能ですが、統一記録項目(正答、手がかり量、中断有無)は省略しない運用が推奨です。
次の一手
まずは 2 週間、どちらか 1 つを主軸にして同条件で追跡してください。全体設計は 認知症 OT 紙面ドリル運用プロトコル、実装は 認知症 OT 紙面ドリル集 でそろえると運用が安定します。
参考文献
- Livingston G, Huntley J, Sommerlad A, et al. Dementia prevention, intervention, and care: 2020 report of the Lancet Commission. Lancet. 2020;396(10248):413-446. https://doi.org/10.1016/S0140-6736(20)30367-6
- World Health Organization. Risk reduction of cognitive decline and dementia: WHO guidelines. 2019. PubMed
- 日本作業療法士協会. 認知症に関する情報・実践資料. https://www.jaot.or.jp/
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


