心不全の退院前指導|再入院を減らす「最小セット」と確認法
心不全の退院前指導は、たくさん説明したかどうかではなく、患者・家族が退院後に“実行できる行動”になっているかで成否が決まります。特に体重・浮腫・息切れなどのセルフモニタリングと、増悪時の受診行動が曖昧なままだと、退院後の不安と再入院が増えやすくなります。
本記事では、退院前に外せない内容を「最小セット」に絞り、伝え方/理解確認(言い換え)/記録まで含めて標準化します。運用の全体設計(入院中→退院前→退院後の役割固定)は 心不全再入院予防継続管理料 1 の運用記事 にまとめています。
結論|退院前指導は「 6 つだけ」固定すれば回り始める
退院前指導は、説明項目を増やすほど抜けやすくなります。まずは、体重・症状・受診行動・服薬・食事(塩分/水分)・活動の 6 点に絞り、患者・家族が自分の言葉で言い換えできる状態まで確認してください。
この 6 点が揃うと、退院後フォロー(外来・訪看・訪問リハ等)に引き継ぐ情報が一本化され、再指導や問い合わせが減ります。
最小セット早見表|教える内容・確認・記録を 1 枚にまとめる
現場では「教えたつもり」が最も危険です。ここでは、各項目を行動に落とし、理解確認(言い換え)と記録欄までセットにします。施設ごとの数値基準がある場合は、その値に置き換えて運用してください。
| 項目( 6 つ ) | 伝えるポイント(行動) | 理解確認(言い換え) | 記録で残す欄 |
|---|---|---|---|
| 体重 | 毎日、同じ条件で測る(時間・服装・場所)。増加が続いたら連絡する。 | 「いつ・どこで・何を見て」連絡するかを本人が説明できる。 | 測定方法、連絡基準(施設基準)、指導日 |
| 症状(息切れ・浮腫など) | 息切れの変化、浮腫、眠れなさ等の“いつもと違う”をチェックする。 | 悪化のサインを 2 つ以上、本人が言える。 | 観察項目、悪化時の対応、家族同席有無 |
| 受診行動 | 夜間・休日も含め、連絡先と受診の順番を決めておく。 | 「まず誰に連絡するか」を本人/家族が即答できる。 | 連絡先、緊急時の手順、配布資料 |
| 服薬 | 飲み忘れ防止(薬箱・アラーム)。副作用や中止判断は自己判断しない。 | 飲み忘れ時の対応を本人が説明できる。 | 服薬管理方法、理解度、再指導の要否 |
| 食事(塩分/水分) | 塩分を意識する。外食・加工食品の選び方を具体例で伝える。 | 「明日から変える 1 つ」を本人が決められる。 | 指導内容(要点)、具体的合意( 1 つ )、家族への説明 |
| 活動(運動) | 疲労や息切れを見ながら“続けられる強度”で。中止目安を決める。 | 中止の目安を本人が 1 つ以上言える。 | 推奨活動、注意点、中止目安、次回確認日 |
教え方のコツ|「説明」より「言い換え確認」で再指導が減る
退院前指導は、説明の上手さより理解確認の手順で揃えたほうが安定します。おすすめは、各項目で「説明 → 患者の言い換え → 家族の言い換え(可能なら) → 記録」の順で 1 分だけ取る方法です。
言い換えが詰まる部分は、患者の理解が弱いというより、行動が具体化されていないことが多いです。「いつ」「どこで」「何を見て」「誰に連絡する」を埋めると、行動に落ちます。
現場の詰まりどころと対策
退院前指導は、忙しいと「説明した/資料を渡した」で終わりがちです。そこで、失敗パターンを先に共有し、最小チェックで潰します。
- よくある失敗( 3 つ )
- 回避チェック( 1 分 )
- 関連:記録の型を減らして回すなら リハ書類簡素化の実務
よくある失敗( 3 つ )
- 基準が曖昧:体重増加や症状悪化の「連絡の目安」が決まっていない
- 連絡先が迷子:夜間・休日の連絡ルートが患者・家族で共有されていない
- 家族が置き去り:本人の説明は通っても、家族が実行手順を言えない
回避チェック( 1 分 )
- 体重:測定条件(時間・服装)と、連絡の目安が言える
- 症状:悪化サインを 2 つ言える
- 受診行動:まず連絡する先と順番が言える
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. 退院前指導は「どの職種がやる」のが正解ですか?
正解は 1 職種に寄せないことです。重要なのは、6 項目を「誰が担当し、どこに記録するか」を固定することです。職種ごとの強み(服薬は薬剤師、食事は栄養、活動はリハ等)を活かしつつ、説明の重複と抜けを減らしてください。
Q2. 体重増加の基準は何 kg が一般的ですか?
基準は施設・主治医の方針・患者背景で変わるため、ここでは固定しません。代わりに「施設基準の値」と「連絡先・順番」をセットで決め、患者・家族が言い換えできる状態まで確認するのがポイントです。
Q3. 家族が同席できない場合、どう補いますか?
同席が難しい場合は、連絡先と受診行動だけでも、電話で 1 回“言い換え確認”を入れると効果的です。退院時サマリーや地域連携の送付をテンプレ化し、退院後フォローで再確認できる設計にしておくと途切れにくくなります。
Q4. 再入院予防に教育や移行期支援は効果がありますか?
心不全の疾病管理や移行期支援は、再入院などのアウトカムに影響し得ることが系統的レビューや介入研究で報告されています。一方で介入内容に幅があるため、院内では「最小セット」を固定し、継続できる形に落とすのが現実的です。
次の一手
- A:運用の全体像(役割固定)に戻る:心不全再入院予防継続管理料 1 の運用
- B:記録を減らして回す型を作る:リハ書類簡素化の実務
参考文献
- Gonseth J, Guallar-Castillon P, Banegas JR, Rodríguez-Artalejo F. The effectiveness of disease management programmes in reducing hospital re-admission in older patients with heart failure: a systematic review and meta-analysis of published reports. Eur J Heart Fail. 2004;6(3):375-382. PubMed
- Takeda A, Taylor SJ, Taylor RS, Khan F, Krum H, Underwood M. Clinical service organisation for heart failure. Cochrane Database Syst Rev. 2019;1:CD002752. PubMed
- Van Spall HGC, Lee SF, Xie F, et al. Effect of Patient-Centered Transitional Care Services on Clinical Outcomes in Patients Hospitalized for Heart Failure: The PACT-HF Randomized Clinical Trial. JAMA. 2019;321(8):753-761. doi:10.1001/jama.2019.0710. PubMed
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


