介助技術ハブ|移乗・体位変換の型
介助は「気合い」より手順と条件の固定で安全性と再現性が上がります。このハブでは、移乗・体位変換・ベッド上動作を中心に、腰を守るボディメカ、場面別の型、用具の使い分け、禁忌・中止基準までを 1 ページで整理します。
介助の前提になる「基本動作(起居・立ち上がり)」の評価を押さえたい場合は、基本動作評価ハブもあわせて確認すると、介助量の見立てが揃いやすくなります。
介助の型(手順・用具)を整えると、現場は回りやすくなります。働き方の選択肢も一緒に整理しておくと迷いが減ります。
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5 分で回す:安全 → 条件固定 → 方法選択 → 実施 → 再評価
介助は「やり方」が変わると事故リスクも負担も増えます。最短で安定させるには、毎回同じ順番で回すのがコツです。
- 安全確認:疼痛、血圧、SpO2、意識、ライン・ドレーン、転倒リスク。
- 条件固定:ベッド高さ、ブレーキ、フットサポート、手すり、靴、介助者の立ち位置。
- 方法選択:水平移動(滑らせる)/回旋(回転盤)/段差越え(ボード)/持ち上げ回避(リフト)。
- 実施:合図( 1・2・3 )と体重移動を揃える。ねじり+前屈を避ける。
- 再評価:同じ条件で「毎回できるか」「どこで崩れるか」を 1 行で記録。
場面別:介助 6 場面の型(手順の骨格)
※スマホでは表が横にスクロールできます。
| 場面 | 最初に見るポイント | 手順のコツ(型) | よくある NG | 次の一手 |
|---|---|---|---|---|
| 寝返り | 痛み/麻痺/肩・骨盤の可動 | 肩と骨盤を「回す」。持ち上げない。ベッド高さを合わせる。 | 上体だけをねじる/遠い位置から腕で引く | 摩擦が強いならスライディングシートを検討 |
| 起き上がり | 血圧反応/頭部コントロール | 側臥位→端座位を回旋で作る。合図で一気に起こさない。 | 上肢を引っ張る/速度が速い | 段階化(途中で端座位保持)+再評価 |
| 立ち上がり | 足位置/前傾/膝折れ | 足を後方へ。介助者は前後開脚で体重移動。 | 腋窩を持つ/介助者が丸まる | 座面高さ調整(ベッド・椅子)を先に |
| 方向転換(立位) | 荷重可能性/膝の捻れ | 回転盤で回旋を作る。足底の滑りと混同しない。 | 膝がねじれる/勢いで回す | 回転盤が難しければ座位移乗へ切替 |
| ベッド ⇄ 車いす移乗 | 座面差/距離/座位保持 | 距離短縮+水平移動。必要ならボード/ゲイトベルト。 | フットサポート未収納/ブレーキ不十分 | 同条件で 3 回連続できるか再評価 |
| 車いす姿勢調整 | 骨盤後傾/ずり落ち | 奥へ滑らせる(持ち上げない)。設定(座奥行・足台)も見る。 | 上肢だけで持ち上げる/設定を触らない | シーティングハブで調整の型を確認 |
用具の使い分け(早見)
用具は「摩擦を下げる/段差を越える/回旋を助ける/持ち上げをゼロに近づける」のどれを狙うかで選ぶと迷いが減ります。
※スマホでは表が横にスクロールできます。
| 目的 | 用具の例 | 向く場面 | 注意点(落とし穴) | チェック |
|---|---|---|---|---|
| 摩擦を下げる | スライディングシート | ベッド上方移動、体位変換 | 斜めに引くと「ずれ」が増える/端で皮膚を巻き込む | 方向・人数・皮膚の引っ張られ感 |
| 段差・間隙を越える | スライディングボード | 座位でのベッド ⇄ 車いす移乗 | 座位保持が不十分だと危険/差し込み・抜去で体幹が崩れる | 座面高さ・距離・体幹保持 |
| 回旋を助ける | 回転盤(ターンディスク) | 立位で方向転換を伴う移乗 | 膝の捻れが出たら中止/足底の滑りと混同 | 膝アライメント・疼痛 |
| 把持点を作る | 歩行ベルト(ゲイトベルト) | 立位保持、立ち上がり補助、歩行介助 | 引っ張る道具ではない/腹部圧迫に注意 | 装着位置・皮膚・呼吸苦 |
| 持ち上げを最小化 | リフト(床走行・天井走行 など) | 重介助、協力が得にくい場面 | 準備に時間→手順の標準化が必要/吊り具サイズ不一致 | 吊り具サイズ・手順・声かけ |
禁忌・中止基準(現場で迷わない最小セット)
介助の「続行可否」は、個別の院内ルールに合わせつつ、まずは最小の基準を固定しておくとブレが減ります。
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| 状況 | 中止・変更の目安 | 代替案 | 記録ポイント |
|---|---|---|---|
| 循環・呼吸 | 血圧低下や症状(冷汗・めまい)/SpO2 低下/強い呼吸困難 | 段階化(端座位保持→休憩)/体位の再設定 | 体位、角度、症状、回復までの時間 |
| 疼痛 | 鋭い痛み、増悪、抵抗増大 | 手順変更/用具使用/可動域を減らす | 痛み部位、誘発動作、対処 |
| ライン・ドレーン | 牽引・抜去リスクが高い | 人員追加/配置替え/一時停止 | 固定方法、介助者配置 |
| 姿勢崩れ・転倒 | 膝折れ、立位保持困難、制動不能 | 座位移乗へ切替/ボード/リフト | 崩れた場面(前半/回旋/着座) |
現場の詰まりどころ(よくある失敗)
「できない原因」は本人だけでなく、条件(高さ・距離・設定)と手順(合図・体重移動)で起きます。失敗パターンを先に潰すと、教育も申し送りも一気にラクになります。
※スマホでは表が横にスクロールできます。
| よくある失敗 | 起きやすい原因 | すぐできる対策 | 記録のコツ |
|---|---|---|---|
| 持ち上げてしまう | 距離が長い/座面差が大きい/用具がない | 距離短縮→座面調整→水平移動(シート/ボード) | 「持ち上げなし」でいけた条件を 1 行で残す |
| ねじり+前屈で腰が痛い | 立ち位置が遠い/合図が揃わない | 近づく+開脚+体重移動。合図( 1・2・3 )を固定。 | 介助者位置(右/左)と合図を記録 |
| 着座で崩れる | 制動不足/座面差/足位置が不適 | 着座前に足位置確認。座面高さを合わせる。 | 崩れたのが「着座前半/終末」かを残す |
| ずり落ち・皮膚トラブル | 頭側挙上、摩擦、支持の一点集中 | ポジショニングのチェック順で原因を切り分け | 圧・ずれ・湿潤の所見を短く併記 |
関連:評価・記録につなげる(回遊の入口)
- 基本動作評価ハブ:起居・移乗の「介助量」を揃える土台
- ADL・IADL 評価まとめ:介助の変化を「生活の言葉」に翻訳
- シーティングハブ:ずり落ち/姿勢崩れの原因と調整の型
- 評価ハブ:他の評価スケールへ戻る(全体像)
よくある質問( FAQ )
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. 「持ち上げない」は分かるのに、結局持ち上げてしまいます
多くは「距離」と「座面差」が原因です。まず距離短縮(車いすを近づける/角度を作る)→座面高さの調整→それでも難しければ水平移動の用具(スライディングシート/ボード)を入れる順が最短です。手順を変える前に、条件(高さ・距離・ブレーキ・フットサポート)を固定すると再評価が効きます。
Q2. 回転盤(ターンディスク)を使う判断は?
回転盤は「立位で方向転換を作れる」時に効きます。膝の捻れや疼痛が出る場合、荷重が不安定な場合は中止し、座位移乗(ボード)やリフトに切り替える方が安全です。足底の滑り(靴・床)と混同しやすいので、まずは環境要因も確認してください。
Q3. 介助が人によって違って申し送りが崩れます
「介助の言葉」を固定すると揃います。おすすめは 1 行の型で、動作+条件(用具/介助量/環境)+頻度です。例:ベッド ⇄ 車いす移乗をスライディングボード使用で見守り、日中 5 回。条件が揃うと、誰が入っても再現性が上がります。
Q4. ポジショニングで「ずれ(剪断)」が止まりません
頭側挙上の角度、背抜き、支持の位置(膝下・足底・骨盤周囲)、摩擦(シーツ素材・しわ)を順に見直すと原因が絞れます。詳しい切り分けは 褥瘡予防のポジショニング実務 にまとめています。
次の一手(現場で回す・整える)
運用を整える → 共有の型を作る → 環境の詰まりも点検(無料チェックシート)
マイナビコメディカルの無料チェックシートを見る臨床の武器(評価・記録・プロトコル)を増やしつつ、働き方の選択肢も整理したい場合は PT キャリアガイド も活用してください。
参考文献
- 厚生労働省:職場における腰痛予防対策指針及び解説
- CDC / NIOSH:Safe Patient Handling and Mobility ( SPHM )
- OSHA:Healthcare – Safe Patient Handling
- HSE:Moving and handling in health and social care
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


