mini-CEX( CEX )は「短時間の直接観察+即時フィードバック」で臨床力を伸ばす
mini-CEX( mini-Clinical Evaluation Exercise )は、学習者の患者対応を短時間で直接観察し、その場で具体的なフィードバックを返すための枠組みです。臨床実習や新人教育では「見ているつもり/教えたつもり」になりやすいので、観察→コメント→次回の行動までを 1 セットにすると、指導が途切れにくくなります。
コツは「 1 回を完璧にする」よりも、短い観察を反復して伸びる行動を積み上げることです。忙しい日ほど、観察時間を短くしてもフィードバックだけは残す運用が効きます。
CEX と mini-CEX とは?
CEX( Clinical Evaluation Exercise )は、臨床現場での患者対応を直接観察し、評価と指導につなげる枠組みです。mini-CEX はそれを短時間化し、複数回・複数症例で回しやすくした実装に位置づけられます。
評価の主役は点数ではなく、「次に変えられる行動」です。コメントが行動に落ちるほど、学習者は次回に再現しやすく、指導者側も観察テーマを決めやすくなります。
どんな場面で使う?
mini-CEX は「評価→介入→再評価」を全部まとめて見るより、観察しやすい単位に切ると回しやすいです。まずは “見たい行動が明確な場面” から始めます。
- 問診:主訴の深掘り、生活背景、危険徴候(赤旗)の聴取
- 観察:姿勢・歩行、ROM・筋力、神経所見などの優先順位
- 統合:仮説→追加評価→優先順位の言語化
- 説明:患者・家族への説明、同意、セルフマネジメント指導
- 記録:要点、再評価計画、申し送り
観察テーマの例(PT / OT / ST:各 4 つだけ)
- PT:歩行時の安全確認(中止基準の説明)/疼痛評価の聞き方(増悪因子の特定)/起立・移乗の介助量判断(根拠の言語化)/運動処方の説明(頻度・強度・注意点)
- OT:更衣・整容の段取り(環境調整の提案)/上肢機能評価の優先順位(目的と結びつける)/高次脳機能の観察(生活上の支障に翻訳)/家族・介護者への指導(できることの共有)
- ST:嚥下スクリーニングの説明(リスク共有)/食形態・姿勢の調整提案(根拠を簡潔に)/コミュニケーション支援(代替手段の提示)/訓練メニューの説明(目的・家庭での注意)
運用の手順( 5 分で回るフロー)
mini-CEX は“型”を固定すると、指導者側の負担が減り、学習者側も改善点を受け取りやすくなります。ここでは最小セット(観察テーマ 1 つ/良い点 1/修正 1/次回 1)を前提に整理します。
Step 1:観察の目的を 30 秒で共有する
最初に「今日は何を見るか」を 1 つに絞ります。例:歩行時の安全確認とリスク説明、疼痛評価の聞き方、仮説の立て方など。観察テーマが増えるほど、フィードバックが散ります。
Step 2:短時間で直接観察する( 10 〜 20 分 )
見たい行動が出るところだけ観察します。時間が押すときは「観察を短くして、フィードバックを残す」方が教育効果が落ちにくいです。
Step 3:その場でフィードバック( 3 〜 5 分 )
おすすめは SBI( Situation / Behavior / Impact )で、行動を具体化します。
- Situation:どの場面で
- Behavior:どんな行動が
- Impact:何につながったか(安全・理解・効率・信頼など)
最後に、次回に向けて 1 つだけ“やること”を決めます(例:「次は ‘転倒リスクの説明’ を 1 分で言えるようにする」)。
Step 4:記録して次回につなげる( 1 分 )
点数だけで終わると改善が続きません。良かった行動 1 つ+次回の改善 1 つを短文で残すと、学習者が“伸びた実感”を持ちやすく、指導者も次の観察ポイントを決めやすくなります。
記録の 1 行テンプレ(良い点 1 /次回 1 を行動で残す)
- 良い点:安全確認(◯◯)を先に行い、患者の不安が減った。/次回:中止基準を 1 文で説明してから開始する。
- 良い点:主訴→増悪因子→生活背景の順で聴取できた。/次回:赤旗(例:発熱・呼吸苦など)を 2 点確認する。
- 良い点:仮説(◯◯)を言語化し、追加評価の理由を説明できた。/次回:鑑別を 2 つ挙げて根拠を 1 行で書く。
- 良い点:患者の理解度を確認し、言い換えができた。/次回:Teach-back(言い返し)を 1 回入れる。
- 良い点:介助量の判断を根拠(◯◯)とセットで共有できた。/次回:申し送りを 30 秒で「要点 3 つ」にまとめる。
- 良い点:時間内に観察・評価を完了し、優先順位が明確だった。/次回:観察テーマを 1 つに絞って深掘りする。
評価の観点(項目 “そのまま” は載せず、見るポイントを整理)
mini-CEX の評価は、どの職種でも共通しやすい“行動のまとまり”に落とすとブレにくいです。以下は臨床実習・新人指導で使える観点の例です(施設の様式に合わせて調整してください)。
| 観点 | 見たい行動(例) | 記録のコツ | 次回の一手(例) |
|---|---|---|---|
| 情報収集 | 主訴・経過、危険徴候、生活背景を整理して聴取できる | “聞いた内容”ではなく“聞き方の工夫”を書く | 赤旗の聞き漏れを 3 つチェック |
| 診察・観察 | 安全確認、手順の説明、観察の優先順位が明確 | 安全の判断(中止基準・代替案)を残す | まず姿勢・歩行の 1 観察を固定 |
| 臨床推論 | 仮説→追加評価→介入の優先順位を言語化できる | “なぜそう考えたか”を 1 行で | 鑑別を 2 つ挙げて根拠を言う |
| 説明・同意 | 理解度に合わせて言い換え、確認できる | Teach-back(言い返し)をしたかを書く | 1 分説明→確認質問を 1 つ |
| プロ意識 | 敬意、個人情報、チーム連携、時間管理 | 良い行動を“具体例”で褒める | 申し送りの要点を 30 秒で |
現場の詰まりどころ(よくある失敗と立て直し)
mini-CEX は“仕組み”なので、回らない理由もほぼ決まっています。先に詰まりどころを潰すと、継続しやすいです。
よくある失敗(原因→立て直し)
| つまずき | 起きること | 対策 | 運用メモ |
|---|---|---|---|
| 観察テーマが多すぎる | フィードバックが散り、学習者が動けない | 今日見るのは 1 つに固定 | 次回に回す項目をメモに残す |
| 評価が “感想” になる | 改善点が曖昧で再現できない | SBI で行動を具体化 | 「何を言った/何をした」を 1 行 |
| 時間が取れない | 観察だけしてフィードバックが消える | 観察を短縮しても FB は残す | 3 分でも “次回の一手” を決める |
| 評価が点数だけ | 成長の手触りがない | 短文で「良い点 1+次回 1」 | コメント主、点数は添える程度 |
| 指導者間で基準が違う | 学習者が混乱する | 観点を共有し、例をすり合わせる | 同じ症例を見て 5 分だけ擦り合わせ |
回避の手順(今日からのチェック)
- 観察テーマを 1 つに決める(「今日は安全確認」など)
- 良い点 1 つは “具体行動” で言語化する
- 修正点 1 つは “次回やる行動” に落とす
- 記録は「良い点 1/次回 1」を 1 行で残す
よくある質問( FAQ )
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
mini-CEX は何回くらい必要ですか?
“ 1 回で評価を決める” ではなく、複数回の観察で傾向を見るのが前提です。まずは「 2 週間で 2 回」など、小さく始めて回数を増やすと継続しやすいです。
厳密な採点より、コメントを重視して良いですか?
はい。mini-CEX は学習を促す形成的評価として使われることが多く、点数だけよりも「次に変えられる行動」が明確なコメントが有効です。点数は“現在地の目安”として添える運用が無難です。
フィードバックがうまく言語化できません
SBI( Situation / Behavior / Impact )で、場面→行動→影響の順に話すと短時間でもまとまります。最後に「次回はこれをやる」を 1 つだけ合意すると、学習者が動きやすくなります。
指導者の評価がバラバラになってしまいます
観点の言葉をそろえ、具体例(良い例/改善例)を共有すると収束しやすいです。可能なら短時間の“すり合わせ”を入れ、同じ場面を見たときのコメントの型をそろえます。
次の一手
- 運用を整える:臨床実習・新人教育ハブ(全体像)(全体像)
- 共有の型を作る:EPA(任せ方)入門|監督レベルの決め方(すぐ実装)
教育体制・人員・記録文化など“環境要因”を一度見える化すると、次の打ち手が決めやすくなります。
チェック後に『続ける/変える』の選択肢も整理したい方は、PT キャリアナビで進め方を確認しておくと迷いが減ります。
参考文献
- Norcini JJ, Blank LL, Arnold GK, Kimball HR. The mini-CEX (clinical evaluation exercise): a preliminary investigation. Ann Intern Med. 1995;123(10):795-799. DOI: 10.7326/0003-4819-123-10-199511150-00008
- Norcini JJ, Blank LL, Duffy FD, Fortna GS. The mini-CEX: a method for assessing clinical skills. Ann Intern Med. 2003;138(6):476-481. DOI: 10.7326/0003-4819-138-6-200303180-00012
- Durning SJ, Cation LJ, Markert RJ, Pangaro LN. Assessing the reliability and validity of the mini-clinical evaluation exercise for internal medicine residency training. Acad Med. 2002;77(9):900-904. DOI: 10.1097/00001888-200209000-00020
- Norcini J, Burch V. Workplace-based assessment as an educational tool: AMEE Guide No. 31. Med Teach. 2007;29(9):855-871. DOI: 10.1080/01421590701775453
- Cook DA, Dupras DM, Beckman TJ, Thomas KG, Pankratz VS. Effect of rater training on reliability and accuracy of mini-CEX scores: a randomized, controlled trial. J Gen Intern Med. 2009;24(1):74-79. DOI: 10.1007/s11606-008-0842-3
- 日本医学教育学会.Mini-CEX 関連資料(医療者教育の解説).https://jsme.umin.ac.jp/guide/la22/text/idx2-1.html
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


