NPI-NH 運用プロトコル(結論:観察ログ→介入 1 つ→ 1〜2 週で再評価)
NPI-NH(Neuropsychiatric Inventory – Nursing Home Version)は、病棟・老健・特養など施設場面での BPSD を、職員の観察情報をもとに面接形式で整理し、頻度 × 重症度で「重み」と「変化」を追うための枠組みです。加えて、ケアに伴う職員負担(Occupational Disruptiveness)も同時に記録できるため、カンファレンスで「どこを優先するか」を決めやすくなります。
本記事は尺度の説明を重ねず、施設で同じ手順・同じ様式で回すための「実装マニュアル」に絞ってまとめます(設問本文の掲載はしません)。
最短フロー(5 ステップ:これだけ固定)
- 観察ログを集約:直近 1 週間の具体例を、日勤・夜勤から最低 1 件ずつ。
- 面接で共通化:有無 → 具体例 → 頻度 → 重症度 → 誘因 → 次の一手。
- 記録を 1 枚に統一:ドメイン点と、具体例 1 行をセットで残す。
- カンファで介入は 1 つだけ:ターゲットは上位 1〜2 ドメイン。
- 1〜2 週間で再評価:同条件で取り直し、効いたかどうかを判定する。
導入準備(現場の詰まりどころ:点数より “準備” が先)
導入で詰まりやすいのは、評価技術よりも「誰が・いつ・どの範囲で観察したか」が揃わないことです。最初に観察期間・記入者・再評価間隔を固定すると、合計点の増減が「症状変化」なのか「条件の違い」なのか迷いにくくなります。
また、運用が回らない施設では「申し送りの質」がボトルネックになりがちです。申し送りやカンファを整えるための面談準備チェック(A4)を使うと、情報が途切れにくくなります。/mynavi-medical/#download
| 決めること | 推奨 | NG 例 | メモ(運用ルール) |
|---|---|---|---|
| 観察期間 | 直近 1 週間(固定) | 「最近」など曖昧 | 週次で回すなら 1 週固定が扱いやすい |
| 情報源 | 職員(主担当+夜勤) | 家族と職員が混在 | 混在すると推移が読めなくなる |
| 役割 | 質問役/書記/タイム | その場で成り行き | 評価者が変わっても構成は固定 |
| ログの型 | 時間帯・場面・誘因・対応・結果 | 「暴言あり」だけ | 具体例 1 行が、介入の材料になる |
| 優先順位 | 上位 1〜2 ドメイン | 全部を同時に | ターゲットを絞るほど再評価が明確 |
| 再評価間隔 | 1〜2 週間 | 不定期 | 施設リズムに合わせて固定 |
| 変更ルール | 1 サイクル 1 変更 | 同時に複数変更 | 効いた要因が分からなくなる |
面接スクリプト(逐語訳しない:聞く順番を固定する)
NPI-NH は面接形式ですが、現場では設問をそのまま読む必要はありません。むしろ、スタッフが同じ流れで聞けるように「要点スクリプト」を作ると、評価者が変わってもブレにくくなります。ここではどのドメインでも共通の “聞く順番”だけ固定します。
| 手順 | 聞くこと(テンプレ) | 記録の型 | 詰まりやすい点 |
|---|---|---|---|
| ① 有無 | 直近 1 週間で「それっぽい行動」はありましたか? | あり/なし | “印象” だけで判断して具体例が出ない |
| ② 具体例 | 一番最近の出来事は「いつ・どこで・誰と・何がきっかけ」でしたか? | 具体例 1 行 | 時間帯・場面が抜ける |
| ③ 重み | 頻度(どのくらい)と、重症度(どの程度影響)を決めます | 頻度×重症度 | 点数だけ残り、意味が共有されない |
| ④ 誘因 | 環境(音・光・待機)や関わり方で変わりますか? | 誘因メモ | “原因探し” が広がりすぎる |
| ⑤ 次の一手 | 次の 1〜2 週で「 1 つだけ」変えるなら何ですか? | 介入 1 個 | あれもこれも同時に入れる |
記録フォーマット(A4 を 1 種類に統一:点数+具体例のセット)
点数は「重み」を揃えるための道具ですが、点数だけだと介入に落ちません。施設運用では、各ドメインで具体例 1 行を必ず残し、次回は同条件で再測できる形にしておくのがコツです。
- 1 ドメイン= 1 行:有無/具体例/頻度/重症度/(必要なら)職員負担。
- 右端に再評価列:1〜2 週間後に同じ紙へ追記できる。
- 合計点より上位ドメイン:上位 1〜2 つが「今回の議題」になる。
多職種カンファでの使い方(非薬物的介入:1 サイクル 1 つだけ)
NPI-NH の点数は「議論の焦点」を揃えるための材料です。カンファでは、まず上位 1〜2 ドメインに絞り、介入は 1 つだけ実装します。1 回で複数の要素を変えると、次回の再評価で “何が効いたか” が分からなくなります。
| 項目 | 決め方 | 記録に残す一言 | OK / NG |
|---|---|---|---|
| ターゲット | 上位 1〜2 ドメイン | 「今回の議題は ○○」 | OK:絞る / NG:全部 |
| 仮説 | 誘因を 1 つに絞る | 「夕方の待機時間が誘因」 | OK:1 個 / NG:原因列挙 |
| 介入 | 環境 or 関わり方 or 活動から 1 つ | 「待機を短縮し、声かけを先に」 | OK:1 変更 / NG:同時に複数 |
| 成功指標 | 点数+具体例の減少 | 「具体例が 1 件→ 0 件へ」 | OK:具体的 / NG:ふわっと |
| 再評価条件 | 同じ情報源・観察期間 | 「主担当+夜勤、直近 1 週」 | OK:固定 / NG:毎回変わる |
再評価サイクル(1〜2 週間で回す:同条件で “効いたか” を判定)
再評価は「点数を取り直すこと」ではなく、今回の介入が当たったかを判定する場です。次の 3 点だけ守ると、推移が読みやすくなります。
- 同一条件で再測:情報源(職員)・観察期間(直近 1 週)・できる範囲でスタッフ構成も揃えます。
- 上位ドメインを可視化:合計点より、上位 1〜2 ドメインの推移を見ます。
- 変更は 1 つだけ:効果が乏しい場合も、次のサイクルで変えるのは 1 点に絞ります。
よくある質問( FAQ )
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. 10 ドメイン運用と 12 ドメイン運用、どちらが良いですか?
まずは施設で回ることが最優先です。導入直後は「拾いたい症状が多すぎて回らない」ことが多いので、上位になりやすい症状に絞って運用し、回り始めたら対象を広げる、という段階設計が現実的です。
Q2. 点数(合計点)だけ追っても大丈夫ですか?
合計点だけだと、どの症状が動いたのか分からず、介入に落ちにくくなります。施設運用では、上位 1〜2 ドメインと、各ドメインの具体例 1 行をセットで追うほうが再評価が明確です。
Q3. 面接で具体例が出てこないときは?
「いつ・どこで・誰と」を先に固定すると出やすくなります。時間帯(夕方、夜間など)と場面(食事、排泄、更衣など)を指定し、最後に「そのとき職員はどう対応したか」を聞くと、具体例が立ち上がりやすいです。
Q4. 介入を複数入れたくなるときの対策は?
「 1 サイクル 1 変更」をチームルールにします。複数入れると次回の再評価で“何が効いたか”が分からなくなります。どうしても必要なら、優先順位を付けて段階的に入れます。
次の一手(関連:総論→入口→実装の順で読む)
参考文献
- Wood S, Cummings JL, Hsu M-A, et al. The Neuropsychiatric Inventory—Nursing Home version (NPI-NH). Am J Geriatr Psychiatry. 2000;8(1):75–83. DOI:10.1097/00019442-200002000-00010
- Cummings JL, Mega M, Gray K, et al. The Neuropsychiatric Inventory. Neurology. 1994;44(12):2308–2314. DOI:10.1212/WNL.44.12.2308
- Boada M, et al. Neuropsychiatric Inventory–Nursing Home version (NPI-NH) validation. PubMed
- Cummings JL. The Neuropsychiatric Inventory: Development and Applications. 2020. PMC
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


