起立性低血圧の運動療法・生活指導とは?
起立性低血圧( orthostatic hypotension: OH )は、起立後 3 分以内に 収縮期血圧が 20 mmHg 以上、または 拡張期血圧が 10 mmHg 以上 低下する状態を指します。 PD ・ MSA などの神経因性 OH に加え、長期臥床や活動量低下に伴う 廃用性起立性低血圧 も多く、リハビリテーションでは「どこで止めるか」だけでなく「どう再開するか」まで含めた実務設計が重要です。
本記事では、起立性低血圧に対する 運動療法・生活指導・中止基準・記録の型 を 1 ページで整理します。定義や診断の基礎を広く確認したい場合は親記事に譲り、このページでは 早期離床パス、等尺対抗手技、起立時モニタリング、記録シートの使い方 に絞って、病棟でそのまま使いやすい形にまとめます。
まずここだけ( 1 分サマリー )
- 離床の基本:ベッド上安静を最小限にし、短時間 × 高頻度の早期離床 で循環反応を慣らします。
- 前兆時の対応:ふらつき・悪心・冷汗などが出たら、下肢交差+殿筋締め やつま先立ち反復を 10–15 秒行い、改善しなければ座位・下肢挙上へ切り替えます。
- モニタリング:仰臥 5 分安静後の BP / HR を基準に、起立 1 分・ 3 分の値と症状をそろえて記録します。
- 生活指導:起床直後・食後・入浴後・夜間移動は悪化しやすいため、装着タイミング、水分、食後の過ごし方までセットで共有します。
記録シート PDF
起立性低血圧の評価は、測定値だけでなく 症状・対応・次回条件 を同じ粒度で残すと運用が安定します。下の記録シートは、赤旗確認 → 分類 → 最小評価 → 方針 / 再評価の流れで、病棟で書き込みやすいように整理した A4 1 枚版です。
起立性低血圧のタイプ別リハビリ戦略
同じ「起立性低血圧」でも、神経因性・容量減少・廃用関連では、当日に優先すべき介入が異なります。現場では厳密な分類そのものよりも、どの要因が強そうかを見立てて、その日に何を優先するか をそろえる方が実用的です。
下表では、 PT / OT が当日に押さえやすい視点に絞って整理しました。スマホでは表を横スクロールできます。
| タイプ | 主因 | 見分けのヒント | 重点介入 |
|---|---|---|---|
| 神経因性 | 自律神経反射低下 | 朝・食後に悪化しやすい、 HR 上昇が乏しい、臥位高血圧を伴いやすい | 腹帯・弾性ストッキング、等尺対抗手技、時間帯調整、生活指導 |
| 容量減少 | 脱水・出血・利尿薬など | 口渇、尿量低下、感染後、摂取不足などが目立つ | 補液・水分塩分・原因調整を優先し、立位負荷は慎重に開始 |
| 廃用関連 | 臥床・活動量低下 | 術後安静、高齢フレイル、長期入院、下肢筋ポンプ低下 | 短時間 × 高頻度の離床、下肢筋活動、段階的歩行訓練、条件固定 |
早期離床パス:起立耐性を高める流れ
廃用性起立性低血圧の予防・改善では、長時間の離床を 1 回だけ行うより、短く安全な離床を何回も積み上げる 方が運用しやすいです。まずは「どの条件なら安全に開始できるか」をチームでそろえ、その日の負荷量を段階的に決めていきます。
以下は急性期〜回復期病棟で使いやすい一例です。日数は固定ではなく、循環動態、疼痛、創部、酸素化、全身状態を見ながら前後させてください。
| 段階 | 実施内容 | モニタリング | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 開始前 | □ 急変徴候 □ 服薬変化 □ 脱水所見 □ 転倒リスク を確認 | 仰臥 5 分後の BP / HR ・症状を基準化 | 条件がそろわない日は、離床より先に原因確認を優先 |
| Step 1 | 頭側挙上 10–20°、足関節ポンピング、殿筋締めを各 10 回 × 2–3 セット | 頭側挙上 1 分・ 3 分の BP / HR ・症状 | 悪心・冷汗・視野狭窄・強いふらつきで中止 |
| Step 2 | 端座位 1–3 分 × 数回 → 立位 30–60 秒、必要時に腹帯・弾性ストッキング導入 | 端座位・起立 1 分の BP / HR ・症状 | 単独立位は避け、前兆時対応を先に練習 |
| Step 3 | 病棟内歩行 3–10 分 × 2–3 回、等尺対抗手技を自己管理できるよう確認 | 歩行前後の BP / HR ・症状・疲労感( RPE ) | 食後・入浴後は負荷を下げ、見守りを厚くする |
段階式運動と等尺対抗手技のポイント
起立性低血圧の運動療法では、「筋ポンプの賦活」と「前兆時の自己対応」の両方を教えることが大切です。立位や歩行だけを増やすのではなく、臥位・座位で安全に始めて、半臥位・立位へつなぐ 形にすると、失敗が減りやすくなります。
病棟で使いやすい基本形は次の通りです。
- 段階 1:足関節ポンピング、殿筋締め、大腿四頭筋等尺を各 10 回 × 2–3 セット / 日
- 段階 2:リカンベントバイク 10–20 分、または半臥位での下肢運動を週 3–5 回
- 段階 3:壁もたれ 1–3 分 → 短距離歩行 → 病棟内歩行へ漸増
前兆時は、下肢交差+殿筋締め、つま先立ち反復 を中心に 10–15 秒行い、呼吸を止めないことを繰り返し伝えます。改善しなければ、その場で座位または下肢挙上へ切り替えます。
生活指導: OK / NG を具体例で共有する
起立性低血圧は、リハビリ時間だけ整えても安定しません。起床直後、食後、入浴後、夜間移動といった 生活場面ごとの悪化パターン を共有すると、患者さんや家族も対応しやすくなります。
特に装着タイミング、水分、食後の過ごし方は説明があいまいになりやすいため、 OK / NG 形式でそろえると伝わりやすくなります。スマホでは表を横スクロールできます。
| 領域 | OK | NG / 注意 |
|---|---|---|
| 睡眠 | 朝の症状が強い場合は、頭側挙上を選択肢として検討する | 完全フラットのまま経過をみる |
| 水分・塩分 | 日中の十分な水分摂取、主治医の指示下で塩分量を個別調整する | 心不全・腎不全などの禁忌を無視して一律に増量する |
| 装具 | 腹帯や大腿までの弾性ストッキングを 起床前に装着 する | 足首丈のみ、サイズ不適合、起きてから装着する |
| 食事 | 小分け食、ゆっくり摂取、食後 1 時間は強い負荷を避ける | 大食、高炭水化物の一気摂取、飲酒直後の起立 |
| 環境 | 高温環境や長時間静止立位を避け、午前中中心に活動する | 入浴直後や炎天下での活動を繰り返す |
起立時モニタリングと中止基準
安全管理で最も大切なのは、同一条件・同一時刻 で測ることです。測定する時間帯や体位が毎回ずれると、数値の比較が難しくなり、離床判断もぶれやすくなります。
最低限そろえたい確認項目は次の 4 つです。
- 基準測定:仰臥で 5 分安静後の BP / HR を測定する
- 起立後測定:起立 1 分・ 3 分の BP / HR と症状を確認する
- 中止基準:収縮期血圧 20 mmHg 以上、または拡張期血圧 10 mmHg 以上の低下、もしくは悪心・冷汗・視野狭窄・強いふらつきなどの前失神症状を認めた場合は中止する
- 再開判断:症状が改善したら 1 段階低い負荷で再試行し、同じ反応が出る日は無理に進めない
危険サインと転倒リスクが高い時間帯
起立性低血圧で見逃したくないのは、失神・転倒につながる 前失神サイン です。悪心、冷汗、視野狭窄、顔面蒼白、反応の鈍さ、支持物の増加などが出現した場合は、歩行や立位練習を続けず、すぐに座位または下肢挙上へ切り替えます。
また、起床直後、食後、入浴後、夜間トイレは転倒リスクが高く、単独移動を避けるよう繰り返し共有することが重要です。
現場の詰まりどころと解決のヒント
起立性低血圧のリハビリは、「危ないから様子見」「測っているが比較できない」「指導したが実場面で使えていない」で止まりやすいです。まずは 確認項目をチェック式でそろえる、前兆時の対応を固定する、次回条件を 1 行で残す の 3 点だけでも運用しやすくなります。
下表は、病棟で詰まりやすい場面と対策の整理です。スマホでは表を横スクロールできます。
| 場面 | よくある詰まりどころ | 対策のヒント |
|---|---|---|
| 離床開始 | 「誰も開始条件を言えず、毎回様子見になる」 | □ 急変徴候 □ 服薬変化 □ 脱水所見 □ 転倒リスク を先に確認する |
| 測定条件 | 時間帯・体位・測定者が毎回違い、比較しにくい | 朝食前・仰臥 5 分 → 起立 1 分・ 3 分の条件をテンプレ化する |
| 前兆時対応 | 指導したつもりでも、実際には何をするか迷う | 下肢交差+殿筋締め、つま先立ち反復、座位移行の順でロールプレイする |
| カルテ記載 | 「起立時めまいあり」で終わり、次の人が動きにくい | 条件 → BP / HR → 症状 → 対応 → 結果 → 次回条件 の順で 1 行記録する |
チーム連携:早期離床パスを日常業務に埋め込む
起立性低血圧の対応は、 PT / OT だけで完結しません。 PT / OT は 離床パスの設計と評価、 Ns は 朝の装着・水分声かけ・食後配慮、 Dr は 薬剤調整・禁忌管理 を担う形で役割を分けると、日常業務に落とし込みやすくなります。
毎朝のカンファレンスでは、起立時 BP / 症状に加えて、「どの時間帯に悪化しやすいか」「前兆時に何が効いたか」を短く共有すると、その日の負荷量を決めやすくなります。
カルテ記載のテンプレート(記載例)
カルテでは、数値だけでなく 症状・対応・次回条件 を一緒に残すと、再現性が高まります。おすすめは「条件 → 変化 → 対応 → 結果 → 次回条件」の順です。
例:「 2026-03-24 朝食前。腹帯装着あり。仰臥 5 分後 BP 138 / 82 mmHg 、 HR 72 / 分。起立 1 分で BP 114 / 74 mmHg 、ふらつき軽度。下肢交差+殿筋締め 10 秒で改善。立位 30 秒 × 3 回まで実施し転倒なし。次回も朝食前、同条件で端座位 2 分から開始予定。」
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
起立 1 分と 3 分、どちらを優先すべきですか?
まずは 起立 1 分 を優先してください。起立直後〜 1 分で症状が出やすいため、この時点で BP / HR と症状をそろえると安全管理が安定します。余裕がある場合に 3 分まで追い、遅れて出る反応も確認します。
食後に悪化する患者さんは、リハビリ時間をどう調整しますか?
食後は血流が消化管に分配され、立ちくらみが出やすくなります。まずは 食後 1 時間は強い立位負荷を避ける、必要に応じて午前中中心に実施する、立位時間を短くして休憩を増やす、の順で調整すると実務的です。
弾性ストッキングや腹帯は、いつ装着するのがよいですか?
基本は 起床前(ベッド上)での装着 です。起きてから装着すると、すでに血液が下肢へ貯留して効果が弱くなりやすいです。サイズ不適合や皮膚トラブルも多いため、採寸・装着時間・違和感の有無まで確認してください。
前兆時に最初に教える手技は何ですか?
まずは 下肢交差+殿筋締め と つま先立ち反復 の 2 つに絞ると覚えやすいです。「 10–15 秒」「呼吸を止めない」「改善しなければ座位・下肢挙上へ」の 3 点セットで練習すると、実場面で使いやすくなります。
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参考文献
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- Wieling W, Kaufmann H, Claydon VE, van Wijnen VK, Harms MPM, Juraschek SP, Thijs RD. Diagnosis and treatment of orthostatic hypotension. Lancet Neurol. 2022;21(8):735-746. doi: 10.1016/S1474-4422(22)00169-7
- Juraschek SP, Cortez MM, Flack JM, et al. Orthostatic Hypotension in Adults With Hypertension: A Scientific Statement From the American Heart Association. Hypertension. 2024;81(3):e16-e30. doi: 10.1161/HYP.0000000000000236
- Fanciulli A, Goebel G, Metzler B, Sprenger F, Poewe W, Wenning GK, Seppi K. Elastic abdominal binders attenuate orthostatic hypotension in Parkinson’s disease. Mov Disord Clin Pract. 2016;3(2):156-160. doi: 10.1002/mdc3.12270
- van der Stam AH, Shmuely S, de Vries NM, Bloem BR, Thijs RD. The Impact of Head-Up Tilt Sleeping on Orthostatic Tolerance: A Scoping Review. Biology (Basel). 2023;12(8):1108. doi: 10.3390/biology12081108
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


