口腔機能評価は「何を確認したいか」で最初の1つを選びます
口腔機能評価は、すべてを一律に実施するのではなく、確認したい問題に合わせて最初の評価を選びます。オーラルフレイルの拾い上げにはOF-5、嚥下に関する主観症状にはEAT-10、舌口唇の運動機能にはオーラルディアドコキネシス(ODK)、口腔衛生状態には舌苔付着度(TCI)、舌の筋力を定量化する場合には舌圧測定を使用します。
この記事では、病棟・施設・訪問・地域で迷いやすい5つの評価について、目的別の選び方、判定値の意味、追加評価や専門職連携へ進む目安を整理します。各評価の結果だけで嚥下障害や口腔機能低下症を確定せず、評価の目的と適用範囲を区別して使用してください。

- 口の衰えを広く拾う:OF-5
- 飲み込みの自覚症状を確認する:EAT-10
- 舌・口唇の動きを数値化する:ODK
- 舌苔の付着状態を確認する:TCI
- 舌の最大筋力を測定する:舌圧
目的別|最初に選ぶ口腔機能評価
評価名ではなく、「何を判断したいか」から選ぶと使い分けやすくなります。OF-5、EAT-10、ODK、TCI、舌圧は似た評価ではなく、それぞれ確認している対象が異なります。
| 確認したいこと | 最初に選ぶ評価 | 主な対象 | 結果から判断できること | 結果だけでは判断できないこと |
|---|---|---|---|---|
| 口の軽微な衰えを広く拾いたい | OF-5 | 地域・介護予防・外来など | オーラルフレイルに該当する可能性 | 口腔機能低下症や嚥下障害の確定診断 |
| 飲み込みに関する本人の困りごとを確認したい | EAT-10 | 病棟・施設・訪問・外来など | 嚥下に関する主観症状の有無と程度 | 誤嚥の有無や食事の安全性 |
| 舌・口唇の反復運動を確認したい | ODK | 発話や口腔運動の低下が疑われる人 | 口唇、舌前方、舌後方の運動機能 | 舌筋力や嚥下機能全体 |
| 舌苔の付着状態を共通指標で確認したい | TCI | 口腔ケア前後や衛生状態を確認する人 | 舌背に占める舌苔の付着割合 | 肺炎リスクや口腔内細菌数そのもの |
| 舌の最大筋力を定量化したい | 舌圧 | 歯科・嚥下外来・回復期など | 随意的最大舌圧と経時変化 | 咀嚼・送り込み・嚥下機能全体 |
最小セットは、5項目すべてを行うという意味ではありません。最初の評価で問題を絞り、必要な項目だけを追加します。例えば、嚥下の自覚症状が主訴であればEAT-10から開始し、口腔運動の低下も疑う場合にODKや舌圧を追加します。
3分で行う口腔機能評価の選択フロー
最初に主訴または観察上の問題を1つ決め、対応する評価から開始します。基本的なスクリーニングは約3分を目安にできますが、舌圧測定や追加の嚥下評価を行う場合は別途時間が必要です。
- 口の衰えを広く確認したい:OF-5を使用する
- 飲み込みに関する本人の困りごとがある:EAT-10を使用する
- 発音の不明瞭さや舌・口唇の動きが気になる:ODKを追加する
- 舌苔や口腔衛生状態を共有したい:TCIを追加する
- 舌筋力を数値で追跡したい:測定機器がある場合に舌圧を追加する
| 主訴・所見 | 最初の評価 | 次に検討すること |
|---|---|---|
| 口の衰えがないか広く確認したい | OF-5 | 該当項目に応じて歯科評価や個別の機能評価へ進む |
| むせ、つかえ、飲み込みにくさの訴えがある | EAT-10 | 食事場面の観察や嚥下スクリーニング、専門職への相談を検討する |
| 構音が不明瞭、会話中に舌が動きにくそう | ODK | 音ごとの低下、神経学的所見、舌圧などを確認する |
| 舌苔が多い、口腔ケアの効果を共有したい | TCI | 口腔乾燥、清掃方法、観察条件を併せて記録する |
| 舌筋力低下が疑われ、定量的に追跡したい | 舌圧 | 姿勢、義歯、疼痛などの測定条件をそろえて再評価する |
各評価の判定値と解釈
判定値は問題を拾い上げる基準であり、単独で疾患や嚥下の安全性を確定する値ではありません。どの基準に基づく数値なのかを区別して記録してください。
| 評価 | 判定の目安 | 解釈 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| OF-5 | 5項目中2項目以上 | オーラルフレイルに該当 | セルフチェックによる拾い上げであり、口腔機能低下症の診断基準ではない |
| EAT-10 | 合計3点以上 | 嚥下機能低下に該当する目安 | 質問紙による主観評価であり、誤嚥の有無は判定できない |
| ODK | 「パ」「タ」「カ」のいずれかが6回/秒未満 | 舌口唇運動機能低下に該当する目安 | 5秒間の発音数から1秒当たりの回数を算出する |
| TCI | 50%以上 | 口腔衛生状態不良に該当する目安 | 舌背9区画を観察し、合計点を百分率へ換算する |
| 舌圧 | 30kPa未満 | 低舌圧に該当する目安 | 専用機器による随意的最大舌圧の測定が必要 |
口腔機能低下症は、口腔衛生状態、口腔乾燥、咬合力、舌口唇運動、舌圧、咀嚼機能、嚥下機能の検査結果を組み合わせて評価する疾患名です。この記事で扱う評価の一部が基準を下回っても、それだけで口腔機能低下症と確定するわけではありません。
OF-5とEAT-10は目的が異なります
OF-5は口腔機能の軽微な衰えを広く拾う評価、EAT-10は嚥下に関する本人の困りごとを確認する評価です。両者は置き換えられる関係ではありません。
| 比較項目 | OF-5 | EAT-10 |
|---|---|---|
| 主な目的 | オーラルフレイルの拾い上げ | 嚥下に関する主観症状の把握 |
| 評価範囲 | 歯、咀嚼、嚥下、口腔乾燥、発音 | 飲み込みに関連する困難感 |
| 向く場面 | 地域・介護予防・外来での入口 | 嚥下症状が疑われる病棟・施設・訪問・外来 |
| 陽性後の対応 | 該当項目に応じて歯科や個別評価へつなぐ | 食事場面の観察や追加の嚥下評価へつなぐ |
口の状態を広く確認したい場合はOF-5から開始します。むせ、食物のつかえ、錠剤の飲みにくさなど、嚥下に関する訴えがある場合はEAT-10を選びます。両方の目的がある場合には併用できますが、全員へ機械的に両方実施する必要はありません。
ODK・TCI・舌圧で結果をそろえるポイント
経時比較を行う場合は、数値だけでなく測定条件もそろえます。測定条件が異なると、実際の機能変化ではなく、説明方法、姿勢、口腔乾燥、義歯、疼痛などの影響を拾う可能性があります。
| 評価 | ぶれやすい要因 | そろえる条件 | 記録すること |
|---|---|---|---|
| ODK | 説明の理解、発音開始のタイミング、疲労 | 姿勢、測定時間、教示、測定機器 | 「パ」「タ」「カ」それぞれの回数/秒、測定条件 |
| TCI | 照明、舌の乾燥、食事や口腔ケアの直後 | 観察場所、照明、ケアとの時間関係 | 合計点、TCI、観察時点、乾燥の有無 |
| 舌圧 | 姿勢、義歯、疼痛、プローブ位置、理解 | 測定姿勢、義歯条件、教示、代表値の決め方 | 各試行値、採用値、義歯・疼痛・姿勢の条件 |
ODKは音ごとの役割を分けて解釈する
ODKでは、5秒間にできるだけ速く同じ音を反復し、合計発音数から1秒当たりの回数を算出します。「パ」は主に口唇、「タ」は舌前方、「カ」は舌後方の運動機能を反映します。
いずれかが6回/秒未満の場合は舌口唇運動機能低下の目安になります。ただし、構音障害、失語、聴覚、認知機能、呼吸状態などの影響も考慮し、数値だけで原因を決めないことが重要です。
TCIは観察条件と百分率を記録する
TCIでは、舌背を9区画に分け、舌苔がない場合を0点、区画の半分未満を1点、半分以上を2点として評価します。各区画の合計点を18で割り、100を掛けて百分率を求めます。
TCI=合計点÷18×100であり、50%以上が口腔衛生状態不良の判定目安です。合計点では9点以上に相当します。
舌圧は測定機器と前提条件が必要
舌圧は、専用の舌圧計を用いて随意的最大舌圧を測定します。30kPa未満は低舌圧の判定目安ですが、疼痛、義歯、姿勢、教示の理解などによって値が変化します。
低値であっても舌圧だけで食事の可否を判断せず、咀嚼、食塊形成、送り込み、嚥下、栄養状態などを併せて確認します。
基準値を下回った後の次の一手
基準値を下回った場合は、再測定だけで終わらず、評価が示す問題に応じて追加評価や専門職連携へ進みます。
| 結果 | 追加で確認すること | 主な連携先 |
|---|---|---|
| OF-5が2項目以上 | 該当項目、歯科受診状況、咀嚼・嚥下・乾燥・構音の個別評価 | 歯科医師、歯科衛生士、言語聴覚士など |
| EAT-10が3点以上 | 食事場面、むせ、湿性嗄声、発熱、体重減少、追加の嚥下評価 | 医師、歯科医師、言語聴覚士、管理栄養士など |
| ODKが6回/秒未満 | 音ごとの差、構音、舌・口唇運動、神経学的所見、舌圧 | 歯科医師、言語聴覚士、医師など |
| TCIが50%以上 | 口腔乾燥、清掃方法、義歯、口腔内の疼痛や粘膜状態 | 歯科医師、歯科衛生士、看護師など |
| 舌圧が30kPa未満 | 舌運動、咀嚼、食塊形成、嚥下、摂取量、栄養状態 | 歯科医師、言語聴覚士、管理栄養士など |
むせの増加、湿性嗄声、呼吸状態の変化、発熱、食事摂取量の低下、意図しない体重減少などを認める場合は、簡易評価の反復だけで対応せず、医師・歯科医師・言語聴覚士などへ相談してください。
詳しい測定手順を確認する
各評価の具体的な実施方法や記録方法は、以下の個別記事で確認できます。
口腔機能記録シートPDF
OF-5、EAT-10、ODK、TCI、舌圧の結果を、1枚で記録するためのA4用紙です。各評価の実施条件や補足所見も併せて記録し、再評価や多職種共有に使用してください。
PDFプレビューを開く
よくある質問
質問をタップすると回答が開きます。
OF-5とEAT-10は両方実施した方がよいですか?
必ずしも両方は必要ありません。口腔機能の軽微な衰えを広く拾う場合はOF-5、嚥下に関する本人の困りごとを確認する場合はEAT-10を選びます。両方の目的がある場合には併用します。
EAT-10が3点以上なら嚥下障害と判断できますか?
EAT-10だけで嚥下障害や誤嚥を確定することはできません。3点以上は嚥下機能低下を疑う目安であり、食事場面の観察や追加の嚥下評価、必要に応じた専門職への相談につなげます。
ODKは「パ」「タ」「カ」のすべてを測定しますか?
口腔機能低下症における舌口唇運動機能の評価では、「パ」「タ」「カ」をそれぞれ測定し、いずれかが6回/秒未満の場合を低下の目安とします。オーラルフレイルのOF-5を補完する測定では、「タ」のODKが用いられる場合があります。評価目的を記録して区別してください。
TCIが50%以上なら肺炎リスクが高いと判断できますか?
TCIは舌苔の付着割合を示す指標であり、単独で肺炎リスクを判定する評価ではありません。口腔乾燥、口腔内細菌、嚥下機能、全身状態などを併せて確認します。
舌圧計がない場合はどうすればよいですか?
舌圧を定量化するには専用機器が必要です。機器がない場合は、OF-5、EAT-10、ODK、TCIや食事場面の観察から問題を絞り、必要に応じて測定可能な歯科・医療機関へつなぎます。
参考文献・資料
- 一般社団法人日本老年歯科医学会. 口腔機能低下症 保険診療における検査と診断 Ver.5.0. 2026.
- Tanaka T, Hirano H, Ikebe K, et al. Oral frailty five-item checklist to predict adverse health outcomes in community-dwelling older adults: a Kashiwa cohort study. Geriatr Gerontol Int. 2023;23(9):651-659. doi:10.1111/ggi.14634.
- Minakuchi S, Tsuga K, Ikebe K, et al. Oral hypofunction in the older population: position paper of the Japanese Society of Gerodontology in 2016. Gerodontology. 2018;35(4):317-324. doi:10.1111/ger.12347.
- Belafsky PC, Mouadeb DA, Rees CJ, et al. Validity and reliability of the Eating Assessment Tool (EAT-10). Ann Otol Rhinol Laryngol. 2008;117(12):919-924. doi:10.1177/000348940811701210.
- Shimizu T, Ueda T, Sakurai K. New method for evaluation of tongue-coating status. J Oral Rehabil. 2007;34(6):442-447. doi:10.1111/j.1365-2842.2007.01733.x.
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

