補装具費支給で「評価依頼」が来る理由
補装具費支給(装具・義肢・車いす等)の申請では、医師が作成する意見書・判定書が土台になります。現場でリハ職に依頼が来るのは、「なぜ必要か(目的)」「どの条件で使うか(生活)」「安全に使えるか(リスク)」を、測定と場面情報で裏づける必要があるからです。
ポイントは、数値を盛ることではなく、測定条件(体位・方法・補助具の有無)と、使用場面(屋内外・距離・段差・疲労)がセットになっていることです。ここが揃うと、意見書の手戻りが減り、あなたの評価が“そのまま使える情報”になります。
まず確認する 5 点(曖昧だと手戻りが増える)
補装具は種目が多く、自治体や判定の流れで「求める情報」が変わります。測定に入る前に、何を、どの条件で、何の目的で残すかを揃えます。
とくに 目的(更生用/治療用の扱い)や 装用条件(屋内外・靴・装具併用)がズレると、同じ所見でも意味が変わります。
| 確認ポイント | なぜ重要か | 聞き返す一言(例) |
|---|---|---|
| ① 種目(装具/車いす/義肢など) | 種目で必要所見(姿勢・歩行・座位保持など)が変わる | 「対象の補装具種目(例:短下肢装具)を確認できますか?」 |
| ② 目的(何を解決したいか) | 支持・矯正・代償のどれが主かで、見るべき所見が変わる | 「主目的は “転倒予防/膝折れ対策/痛み軽減” のどれですか?」 |
| ③ 装用条件(屋内外・靴・段差) | 環境が違うと必要な安定性・安全対策が変わる | 「普段の移動は屋内中心ですか、屋外も想定しますか?」 |
| ④ 評価条件(装具あり/なし、補助具) | 条件が混ざると、数値の意味が揺れて転記できない | 「杖・歩行器・既存装具は “あり/なし” どちらで揃えますか?」 |
| ⑤ 採型・採寸の段取り(誰が、いつ) | 浮腫や疼痛が強い時期は適合が崩れやすい | 「採型(採寸)はいつの状態で行う想定ですか?」 |
最小セット|まずはこの 6 つを揃える
補装具は「関節の数値」だけでは弱く、姿勢・動作・安全がセットになると一気に強くなります。迷ったら、次の順で整理すると、意見書に落ちやすいです。
① 目的 → ② 所見( ROM ・筋力・疼痛)→ ③ 動作(立位・歩行・移乗)→ ④ 介助量( ADL )→ ⑤ 条件(補助具・装用条件)→ ⑥ リスク(転倒・皮膚トラブル)
| 項目 | 最低限の書き方 | 記録ポイント(例) |
|---|---|---|
| 目的(困りごと) | 転倒・膝折れ・尖足・疼痛などを 1 行で | 「立脚期の膝折れで屋内歩行が不安定」 |
| ROM | 体位/自動・他動/角度/制限因子 | 「足関節背屈:膝屈曲位 他動 0–5°、下腿三頭筋の硬さ」 |
| 筋力・運動機能 | 主要筋の段階+代償の有無 | 「前脛骨筋: MMT 2 、つま先クリアランス低下」 |
| 立位・歩行 | 屋内外/距離/介助量/危険場面 | 「屋内: T 字杖・監視、 20 m で疲労増悪」 |
| 移乗・ ADL | 介助量+できない理由+場面を短く | 「浴槽またぎ:背屈制限と恐怖で介助が必要」 |
| リスク(安全・皮膚) | 転倒歴/皮膚弱さ/疼痛増悪など | 「足背に発赤が出やすい、装着後の観察が必要」 |
ROM と歩行所見の“返し方テンプレ”(短くて強い)
意見書に活きるのは、「角度」よりも “その角度が歩行・立位にどう影響しているか”です。おすすめは、次のテンプレで短文化する方法です。
| 要素 | 書く内容 | 例文 |
|---|---|---|
| 条件 | 靴/補助具/装具の有無 | 「屋内、靴あり、 T 字杖あり」 |
| 所見( 1 つ) | ROM ・筋力・疼痛の要点 | 「背屈制限( 0–5°)と前脛骨筋低下」 |
| 動作への影響 | 歩行のどこで崩れるか | 「遊脚期のつま先クリアランス低下」 |
| 危険場面 | 段差・方向転換など | 「方向転換で足部が引っかかりやすい」 |
| 期待する効果 | 補装具で狙う結果 | 「背屈補助でつまずきリスク低下を狙う」 |
書類全体の「評価依頼」総論を先に押さえたい場合は、途中で一度だけこちらも参照すると整理が早いです:書類の評価依頼が来る理由と返し方(総論)
現場の詰まりどころ(よくある失敗)
よく詰まるのは、この 2 つです。(リンク先はこの記事内の該当節です)
| NG (起こりがち) | なぜ弱いか | OK (直し方) |
|---|---|---|
| ROM の角度だけ返す | 歩行・立位への影響が分からない | 「影響(どこで崩れる)+期待効果」を 1 行追加 |
| 条件が混在(靴・杖・既存装具) | 同じ所見でも意味が変わる | 「条件」を先に固定してから所見を書く |
| “できる / できない” だけ | 安全上の理由が抜けて判断できない | 危険場面(段差・方向転換)を短く添える |
| 採型の時期がズレる | 浮腫・疼痛が強い時期は適合が崩れやすい | 「いつの状態で採型するか」を先に合意する |
よくある質問(FAQ)
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Q1. 装具あり/なし、どちらで評価して返すのが正解ですか?
原則は「普段の生活で使っている条件」を基本にし、例外がある場合だけ注記します。大事なのは正解探しより、条件を揃えて返すことです。意見書側が転記しやすくなります。
Q2. 数値に自信がありません。何を優先して返せばいいですか?
迷ったら、目的 → 動作への影響 → 危険場面の 3 点を優先します。補装具は「何度」よりも、「どこで崩れて、何が危ないか」が書類として強いです。
Q3. 疼痛や疲労で日によって変わります。
変動は“条件”として価値があります。午前/午後など分かりやすい単位で、「どの方向に変わるか」「安全上の問題が出る場面」を短く添えるだけで、書類の説得力が上がります。
Q4. 依頼が曖昧で、何を測ればいいか分かりません。
この場合は、まず 種目と目的を確認します。次に、最小セット(目的・ ROM ・筋力・歩行・ ADL ・リスク)だけを先に揃え、追加が必要なら後追いで増やすのが安全です。
次の一手(運用を整える → 共有の型 → 環境も点検)
補装具の書類対応は「個人の頑張り」で回すほど消耗します。次の順で整えると、現場がラクになります。
- 運用を整える:最小セットとテンプレを、チームで共通言語にする
- 共有の型を作る:返却メモ(短文化テンプレ)をフォーマット化して、手戻りを減らす
- 環境の詰まりも点検:教育体制や標準化が噛み合わないなら、外部の選択肢も確認する
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参考文献
- 補装具費 支給事務(ガイドブック)(PDF)
- 補装具費支給判定基準マニュアル(PDF)
- 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(e-Gov 法令検索)
- 関係省令(e-Gov 法令検索)
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


