物理療法は時代遅れ?疾患別の根拠と使いどころ・中止判断

臨床手技・プロトコル
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物理療法は時代遅れ?現在の使いどころ

物理療法は時代遅れではありません。ただし、温熱・TENS・NMES・FES・治療用超音波などを、すべての患者に有効な手段として使用することも適切ではありません。現在は、疾患別のガイドライン、介入目的、安全条件、実施後の反応を踏まえて選択することが重要です。

たとえば、変形性関節症や腰痛では推奨されない電気療法がある一方、脳卒中後の運動機能障害では条件付きで電気刺激を検討できる場合があります。この記事では、PT・OTが物理療法を使う場面、見送る場面、変更・中止する場面を、疾患別の根拠と実務上の判断から整理します。

結論は、機器が新しいか古いかではなく、「誰に、何のために、どの根拠で使うか」で判断することです。

結論|物理療法は疾患・病態によって判断が変わる

物理療法の有効性は、機器名だけでは判断できません。同じ電気刺激でも、変形性関節症の症状管理と脳卒中後の運動機能障害では、推奨や使用条件が異なります。

物理療法の推奨・非推奨が分かれる代表例
対象・目的 物理療法 ガイドライン上の位置づけ
変形性関節症の症状管理 TENS、NMES、治療用超音波など NICE NG226では、利益を示す根拠が不十分として、これらの電気療法を提供しないよう推奨[4]
腰痛・坐骨神経痛の管理 TENS、治療用超音波、干渉波 NICE NG59では使用を推奨しない[5]
脳卒中後の上肢運動障害 電気刺激 一律の使用は推奨しないが、筋収縮があり、抵抗に抗して上肢を動かせない場合は包括的リハビリの一部として試行を検討[6]
脳卒中後の肩痛 NMES 肩痛の原因を評価したうえで、疼痛管理の選択肢として検討[6]
慢性神経疾患などによる筋力低下 NMES・FES NICE NG252では、筋力増強運動・機能的活動とのNMES併用や、上位運動ニューロン障害による下肢筋力低下への歩行練習とFESの併用を検討[7]
上位運動ニューロン障害による下肢機能障害 FES ACPINの2022年ガイドラインでは、歩行機能、装着能力、安全性、フォローアップ体制などを確認して適応を検討[8]

この表は、英国のガイドラインに基づく代表例です。NICE NG252は慢性神経疾患などを対象とする指針で、成人の脳卒中リハビリテーションは対象外です。脳卒中後の上肢電気刺激については、NG236など該当する指針を確認してください。

海外の推奨を日本のすべての患者へ一律に適用するのではなく、対象疾患、病期、治療目標、国内の関連指針、施設の実施条件も確認します。

判断の境界|非推奨と禁忌は同じではない

「ガイドラインで非推奨」と「医学的な禁忌」は同義ではありません。ただし、非推奨の介入を、目的があるという理由だけで漫然と実施することも避けます。また、ある疾患での有効性を別の疾患へ一般化しないことが重要です。

物理療法が時代遅れと言われる理由

物理療法が古いと受け止められる背景には、機器の使用状況の変化と、受動的な治療だけでなく能動的な運動・活動を重視するリハビリテーションへの変化があります。ただし、機器の使用頻度が減ったことと、有効性が否定されたことは区別する必要があります。

Abeらによる日本の理学療法士を対象とした調査と、その5年後の追跡研究では、多くの物理療法機器で使用頻度の低下傾向がみられた一方、電気刺激機器では利用の増加が報告されました[2,3]。これらは機器の利用状況を調べた研究であり、治療効果を直接検証したものではありません。

生野公貴氏による2026年の総説でも、物理療法の臨床利用の変化と、神経・内部障害・運動器領域における新たな応用が整理されています[1]。物理療法は一律に不要になったのではなく、対象と目的に応じた選択が求められています。

見直したいのは、目的のないルーチン使用

物理療法の漫然使用と見直し方
見直したい運用 修正するポイント
毎回同じ機器を使う 疾患・病期・目標に対する適応を確認する
痛みがあるからTENSを使う 疼痛の原因と疾患別の推奨を確認する
筋力低下があるからNMESを使う 筋収縮の状態、目標、禁忌、他の介入との関係を整理する
実施時間だけ記録する 目的・設定・反応・次回方針を残す

物理療法を単に「運動療法の前処置」と位置づけるだけでは不十分です。疼痛管理、筋収縮の補助、歩行中の動作支援など、それぞれの介入目的と根拠を確認します。

物理療法の適応判断フロー|使用・見送り・中止を決める

物理療法を選ぶときは、機器名より先に患者の問題、疾患別の根拠、安全性を確認します。以下の図は、その判断を整理するための実務フローです。

物理療法の適応判断フロー。患者の課題、疾患別の根拠、禁忌・安全性を確認し、使用・見送りを判断する。実施後は反応に応じて継続・変更・中止を選ぶ。
物理療法の適応判断フロー。疾患別の根拠と安全条件を確認し、実施後の反応から継続・変更・中止を判断します。特定の診断基準や医学的禁忌の一覧を示すものではありません。

判断が分かれる3つの場面

① 使用を支持する根拠が確認できない場合:機器の使用をいったん見送り、対象疾患のガイドラインや代替介入を確認します。根拠が不十分であることと、効果が絶対にないことは同義ではありません。

② 安全性を確認できない場合:禁忌・注意事項の確認を優先します。必要に応じて医師や関連職種に相談し、実施の可否を判断します。

③ 実施後に期待する反応が得られない場合:評価時期、刺激条件、目的、患者の負担を確認します。効果が乏しい場合は変更を、有害反応や症状悪化が生じた場合は中止と状態評価を優先します。

図の分岐は臨床推論を整理するためのものであり、すべての患者に共通する固定的な治療プロトコルではありません。

温熱・TENS・NMES・FES・超音波の使い分け

各モダリティには異なる作用と目的があります。名称だけで選ばず、対象疾患での根拠と、実施後に確認したい反応を組み合わせて考えます。

代表的な物理療法の目的と再評価指標
種類 検討する目的 確認する反応
温熱 温熱刺激による疼痛や不快感などの症状調整 疼痛、運動時の反応、皮膚状態
寒冷 冷却による疼痛などの症状管理 疼痛、冷却への耐容性、皮膚状態
TENS 感覚神経への電気刺激による疼痛管理 疼痛、活動への影響、不快感
NMES 電気刺激による筋収縮の誘発 収縮の質、筋出力、疲労、皮膚反応
FES 機能的動作に必要な筋収縮の補助 歩行や上肢動作の質、機器使用時・非使用時の機能
治療用超音波 音響エネルギーによる治療的作用 疾患別の推奨、症状・機能の変化、有害反応

この表は各手段の一般的な使用目的を整理したものであり、記載した目的に対してすべての疾患で有効性が確立していることを意味しません。実施の可否は、疾患別の根拠と安全条件で判断してください。

FESとNMESは、目的と課題との関係で整理する

NMESは電気刺激によって筋収縮を誘発する方法です。一方、FESは電気刺激による筋収縮を、歩行や上肢動作などの機能的な活動と関連づけて使用する考え方です。

両者は機器の機能や臨床上の使い方が重なる場合もあります。名称だけで完全に区別するのではなく、どの筋に、どのタイミングで刺激し、何を改善したいのかを明確にします。

特に下肢FESでは、上位運動ニューロン障害に伴う運動機能障害かどうかに加え、歩行の問題、装着能力、刺激に対する反応、継続的なフォローアップが可能かを確認します[8]。

治療用超音波と超音波画像評価は別の技術

治療用超音波は、音響エネルギーを用いた治療手段です。一方、超音波画像評価は、筋厚や筋・関節の動態などを観察する評価手段です。

超音波画像評価が有用であることを、そのまま治療用超音波の有効性の根拠として扱わないようにしてください。

物理療法を始める前の禁忌・安全確認

安全確認では、機器固有の禁忌だけでなく、対象部位の状態、全身状態、患者の理解や反応を確認します。禁忌・注意事項はモダリティと製品によって異なるため、取扱説明書と施設の安全管理手順を優先してください。

物理療法の種類別に確認したい安全事項
種類 主な確認事項
温熱・寒冷 感覚障害、皮膚の脆弱性、循環障害、炎症・組織損傷の状態
TENS・NMES・FES 刺激部位の皮膚、植込み型医療機器、心疾患、刺激に対する反応
治療用超音波 照射部位、対象組織、照射を避ける部位、製品固有の禁忌

たとえば、ACPINの2022年FESガイドラインでは、ペースメーカー装着者は使用可否について循環器専門医に相談することが示されています[8]。このような場合、療法士だけで安全と判断して通電を開始しないことが重要です。

実施中に強い疼痛、熱傷を疑う皮膚変化、胸部症状、急な体調悪化などが生じた場合は刺激を停止し、患者の状態を評価して必要な医療対応につなげます。

物理療法を継続・変更・中止する判断

物理療法の実施後は、期待した反応だけでなく、有害反応や患者の負担も確認します。短時間で変化がなかったことだけで無効と断定せず、介入の目的に応じた評価時期を設定します。

実施後の反応による継続・変更・中止の判断例
判断 具体例 次の対応
継続を検討 期待する機能や症状の変化があり、有害反応が認められない 適応と負担を再確認し、同条件で経過を追う
変更を検討 期待した反応が乏しい、負担が大きい、目標との一致が弱い 評価指標、刺激条件、実施期間、別の介入方法を見直す
中止して評価 症状悪化、皮膚障害、強い不快感、医学的な問題が生じた 刺激を停止し、状態を確認して必要に応じて医師・チームへ相談する
開始を見送る 禁忌に該当する、安全評価が未完了、対象疾患で非推奨 原因を確認し、安全性と根拠が明確な代替介入を検討する

たとえば、TENS後に一時的な疼痛軽減が得られたとしても、それだけで長期的な活動・機能改善が証明されたわけではありません。症状の変化と生活機能への影響は区別して評価します。

また、物理療法を必ず運動療法の前処置として使用する必要はありません。疼痛管理、筋収縮の補助、機能的動作の支援など、目的に応じた役割を設定します。

物理療法の記録例|目的・条件・反応・次回方針

物理療法の記録では、機器名と実施時間だけでなく、なぜ選んだか、何を観察したか、次回どう判断するかを残します。担当者が変わっても継続・変更・中止の判断を共有しやすくなります。

以下は記録の構造を示すための架空例です。温熱療法の効果を証明するものではなく、実際の患者では適応と安全性を別途確認してください。

温熱療法を検討した場合の架空の記録例
項目 記録例
事前評価 右膝痛NRS 6/10。立ち上がり時に疼痛あり。疼痛の原因、皮膚・感覚・循環状態、適応を確認。
目的 短期的な疼痛変化と立ち上がり動作への影響を確認する。
実施 温熱の種類・部位・設定・時間を記録し、実施後に同条件で立ち上がりを評価。皮膚異常なし。
反応 NRS 6→4。立ち上がり反復回数3→5回。動作時の代償は残存。
次回方針 短期的な変化は認めたが、温熱による効果とは断定しない。疾患別の推奨を再確認し、反応の持続性と他の介入方法を検討する。

機器の種類によっては、電極位置、刺激強度、周波数、パルス幅、オン・オフ時間など、再現に必要な設定も記録します。どの項目を残すかは、使用機器と施設の運用に合わせて決めてください。

次の一手|具体的な実施方法を確認する

物理療法の適応判断を整理したら、次は対象疾患に応じて具体的な安全確認・実施方法・再評価へ進みます。

物理療法は「当てればよい」ものでも、「古いから使わない」ものでもありません。 対象疾患と根拠を確認し、安全条件を満たす場合に目的を定めて使用し、実施後の反応から次の方針を判断することが重要です。


参考文献

  1. 生野公貴.昨今の理学療法場面における物理療法の動向と新たな展開について.理学療法学.2026;53(1):69-74.doi:10.15063/rigaku.53-1kikaku_Ikuno_Koki.J-STAGE
  2. Abe Y, Goh AC, Miyoshi K. Availability, usage, and factors affecting usage of electrophysical agents by physical therapists: a regional cross-sectional survey. J Phys Ther Sci. 2016;28(11):3088-3094. doi:10.1589/jpts.28.3088.PubMed
  3. Abe Y. Changes in availability and usage of electrophysical agents by physical therapists: a 5 year longitudinal follow-up study. J Phys Ther Sci. 2021;33(11):870-875. doi:10.1589/jpts.33.870.PubMed
  4. National Institute for Health and Care Excellence. Osteoarthritis in over 16s: diagnosis and management. NICE guideline NG226. 2022. 公式推奨
  5. National Institute for Health and Care Excellence. Low back pain and sciatica in over 16s: assessment and management. NICE guideline NG59. 2016. 公式推奨
  6. National Institute for Health and Care Excellence. Stroke rehabilitation in adults. NICE guideline NG236. 2023. 公式推奨
  7. National Institute for Health and Care Excellence. Rehabilitation for chronic neurological disorders including acquired brain injury. NICE guideline NG252. 2025. 公式推奨
  8. ACPIN Clinical Guideline Working Group. Evidence Based Clinical Practice Guidelines for the use of Functional Electric Stimulation to improve mobility in adults with lower limb impairment due to an upper motor neuron lesion. Queen Margaret University and ACPIN; 2022. 公式ガイドラインPDF

著者情報

rehabilikunのプロフィール画像

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。

現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。

保有資格

  • 脳卒中認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター2級

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