SARA スコア別:歩行ゴールと治療例

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SARA スコア別:歩行ゴールと治療例(点数から “ 次の一手 ” を決める)

評価を “ ゴールと介入 ” につなげる型(PT キャリアガイド)を見る

SARA( Scale for the Assessment and Rating of Ataxia )は、運動失調の重症度を 0–40 点で定量化する臨床スケールです。採点そのものはできても、「この点数なら歩行ゴールはどう置く?」「介入は何を優先する?」で止まりやすいのが実際です。本記事は、スコア帯→歩行ゴール→介入→再評価までを “ 迷わない形 ” に落とします。

結論は、スコア帯で “ 優先課題(安全・支持・協調・耐久・環境)” を決め、歩行を 1 段ずつ前に進めることです。点数は便利ですが万能ではありません。必ず「どの場面で崩れるか(直線/方向転換/屋外/疲労後)」をセットで観察し、ゴールの現実性と安全性を担保しましょう。

まず押さえる:SARA を歩行に “ 使える形 ” で運用するコツ

SARA を歩行ゴールに活かすには、①スコア帯(目安)②崩れる場面(現象)③リスク(転倒・疲労・恐怖)の 3 点を同時に扱うのがコツです。スコアが同じでも、崩れる場面が違えば “ 次の一手 ” は変わります。

運用はシンプルにしましょう。同じ靴・同じ補助具・同じ距離・同じ環境で短時間に観察し、「直線」「方向転換」「二重課題(声かけ)」「疲労後」のどこで崩れるかを 1 行で記録します。SARA は “ 変化を追う物差し ” として、ゴールと介入の軌道修正に使います。

現場の詰まりどころ:新人が止まりやすい 3 つ

① 点数は変わらないのに歩行が良くなる/悪くなる
歩行は安全性・注意・環境の影響が大きいので、スコア変化だけで評価しないのが基本です。「崩れる場面」と「再現性」が改善しているかをセットで見ます。

② 介入の優先順位が決められない
スコア帯ごとに “ 最優先 ” を 1 つ決めます(例:軽症=屋外と二重課題、中等症=方向転換と支持、重症=安全と移動手段)。全部やらないのが近道です。

③ ゴールが抽象的になる( “ 歩けるように ” で止まる )
歩行ゴールは「距離」だけでなく「条件(補助具・介助・環境)」まで含めて具体化します。条件が具体的だと、再評価が速くなります。

SARA スコア帯別:歩行ゴールと介入(早見表)

※表は横にスクロールできます。

SARA スコア帯から決める歩行ゴールと介入の優先順位(成人・臨床目安)
スコア帯(目安) 歩行で起きやすい課題 短期ゴール例 介入の優先順位(例) 注意点・中止目安 再評価の見方
0–5 点
(軽症)
屋外・人混み・方向転換で崩れる/二重課題に弱い 「屋内は自立、屋外は条件付きで安全に」
例:屋外 10–15 分を転倒なく
方向転換と停止動作の質→二重課題の段階づけ→疲労管理 スピード優先でフォームが崩れる/焦りで転倒リスク上昇 直線ではなく “ 方向転換・屋外・疲労後 ” の崩れ方が減るか
6–10 点
(軽〜中等症)
支持基底面が広い/ふらつき増加/歩行が不安定になりやすい 「屋内の移動を条件付きで安定」
例:見守り〜軽介助で安全に反復
支持と荷重の安定→ステップの再現性→方向転換の手順固定 介助者の位置が不適切だと崩れやすい/疲労で質が急落 介助量より “ 崩れ方のパターン ” が減るか(再現性)
11–20 点
(中等症)
立位保持が不安定/歩行は介助・補助具が必要になりやすい 「安全な移動手段の確立」
例:歩行練習は短時間・分割で実施
安全確保(介助・補助具)→立位の質→短距離反復→休息で質維持 転倒・過負荷が最大リスク/ “ 量 ” で押すと悪化しやすい 歩行距離より、立位・ 1 歩の質が保てる時間が伸びるか
21–40 点
(重症)
立位・歩行の安全性が低い/移乗・姿勢保持の崩れが大きい 「転倒ゼロの生活動線」
例:移動は車椅子中心、立位は目的を限定
環境と介助の最適化→移乗の安全→短時間の立位課題→呼吸・疲労管理 転倒は重大イベント/立位は “ 目的と条件 ” を厳密に 歩行に固執せず、生活動線の安全性と介助量の安定を追う

ゴール設定の “ 型 ”:距離より先に「条件」を決める

歩行ゴールは「何 m 歩く」だけだと、再評価が曖昧になります。おすすめは、条件(補助具・介助・環境)→安全性(転倒ゼロ)→反復可能性(同条件で繰り返せる)の順に決める型です。

例として、「屋内 20 m」より、「屋内 20 m を T 字杖で見守り、方向転換は声かけ 1 回で安全に」のほうが、次回の修正点がはっきりします。スコア帯は “ 目安 ” にして、条件を具体化していきましょう。

ケース 1:SARA 6–10 点帯|直線は良いが、方向転換で崩れる

状況:直線歩行は見守りで安定するが、方向転換と停止でふらつきが増える。本人は「歩ける感覚」があり、スピードが上がるほど崩れやすい。

評価の焦点:崩れるのは “ 方向転換と停止 ”。直線の距離を伸ばすより、止まる・向きを変えるの手順を固定するほうが安全性が上がる。

介入の組み立て:「足幅」「視線」「手の位置」を決め、方向転換は “ 小さく刻む ” ルールを共有。反復は短時間に分割し、疲労で質が落ちる前に休息を入れる。二重課題は安定してから段階的に追加する。

再評価:スコアの大きな変化がなくても、方向転換での崩れ方が減り、「同じ条件で再現できる」場面が増えれば前進です。

ケース 2:SARA 11–20 点帯|歩行に固執して疲労で悪化する

状況:歩行練習の “ 量 ” を増やすほど、終盤でフォームが崩れ転倒リスクが上がる。本人は頑張り屋で、休息を取りにくい。

評価の焦点:ボトルネックは “ 協調性 ” だけでなく、疲労マネジメントと安全設計。練習量が増えるほど質が落ちるパターンがある。

介入の組み立て:まずは移動手段(補助具・介助)を固定し、歩行は短時間の “ 質の良い反復 ” に切り替える。立位課題は目的を限定し、休息を計画に組み込む。転倒リスクが高い日は、歩行より移乗・立位の安全に優先順位を置く。

再評価:歩行距離より、立位保持の質と反復後の崩れ方が改善しているかを見る。生活動線の安全性が上がれば、治療は前に進んでいます。

よくある質問

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

Q1.SARA の点数だけで歩行自立を判断して良いですか?

A.点数は重症度の目安になりますが、歩行の安全性は環境・注意・疲労の影響も大きいです。「どの場面で崩れるか(直線/方向転換/屋外/疲労後)」を必ずセットで観察し、条件(補助具・介助・環境)を具体化して判断します。

Q2.スコアが変わらないのに歩行が良くなりました。どう解釈しますか?

A.歩行は “ 安全性と再現性 ” の改善で先に良くなることがあります。方向転換で崩れなくなった、疲労後もフォームが保てるなど、場面別の崩れ方が減っていれば前進です。スコアは長期の変化として追い、短期は場面別の指標で評価します。

Q3.歩行練習はどのくらいの量が適切ですか?

A.一律の量より、「質が保てる最小単位」を反復できる設計が重要です。疲労で崩れる場合は分割(短時間×複数回)にし、休息を計画に入れます。転倒が増えるほどの過負荷は避け、安全を最優先に調整します。

Q4.重症( 21 点以上 )では歩行をあきらめるべきですか?

A.“ 歩行そのもの ” より、生活動線の安全(転倒ゼロ)を最優先に考えます。立位・歩行は目的と条件を限定し、移動手段(車椅子等)を含めた最適解を作るのが臨床的に有効です。必要な場面で安全に立てること自体が大きな価値になります。

おわりに

SARA は「採点→スコア帯で仮説→介入の優先順位を 1 つ決める→短時間反復→場面別に再評価」というリズムで回すと、歩行ゴールが具体化します。面談準備のチェックと職場評価の視点を揃えたい方は、マイナビコメディカルのチェックリストも活用すると整理が速くなります。

参考文献

  • Schmitz-Hübsch T, du Montcel ST, Baliko L, et al. Scale for the Assessment and Rating of Ataxia: Development of a New Clinical Scale. Neurology. 2006;66(11):1717-1720. doi:10.1212/01.wnl.0000219042.60538.92. DOI
  • Weyer A, Abele M, Schmitz-Hübsch T, et al. Reliability and validity of the SARA in ataxia. Mov Disord. 2007. PubMed(検索)

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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