結論:P は「目的 → 介入 → 量・頻度 → 注意点 → 再評価」を 1〜2 文で具体化します
SOAP の P( plan )が抽象的になる典型は、「自主トレ指導」「筋力増強練習継続」など、内容が想像できない言葉で終わるパターンです。P は“やったことのメモ”ではなく、次の介入が再現できる設計図です。
書き方のコツは、P を ①目的 → ②具体的介入 → ③量(回数・時間) → ④頻度 → ⑤注意点(中止基準・リスク) → ⑥再評価指標の順で 1〜2 文に圧縮すること。これだけで、監査にも引き継ぎにも強い P になります。
なぜ P が抽象的になるのか:よくある 3 パターン
P が薄くなる原因は、だいたい次の 3 つです。①「何のためにやるか(目的)」が書かれていない。②量・頻度がなく、実施イメージが湧かない。③注意点(リスク・中止基準)と再評価指標が抜けて、次回どう判断するかが見えない。
逆に言うと、P の最低ラインは「目的+量・頻度+再評価指標」です。時間がない日は、まずこの 3 点だけでも揃えると、読み手が迷わない記録になります。
P を 1 行で書くテンプレ(穴埋めで OK)
P は「目的」「介入」「量・頻度」「注意点」「再評価」のブロックに分けると崩れません。文章が苦手でも、まずは穴埋めで回して、必要に応じて具体度を上げていけば十分です。
SOAP 全体の流れ( S に対応する O → A → P )を復習したい場合は、親記事の SOAP によるカルテの書き方(実例つき)も合わせてどうぞ。
| 構成 | 穴埋め文 | 書く目的 |
|---|---|---|
| 目的 | ( ADL/安全性/耐容能 )改善のため、 | 介入の狙いを明確化する |
| 介入 | ( 具体的介入 )を実施し、 | 他者が再現できる形にする |
| 量・頻度 | ( 回数/セット/時間 )を( 頻度 )で行う。 | 算定根拠・継続性を担保する |
| 注意点 | 中止基準は( 症状/バイタル )とし、 | 安全管理を明文化する |
| 再評価 | ( 指標 )で( 期間 )を目安に再評価する。 | 次回判断の軸を残す |
頻出 7 パターン:P の書き方(例文)
ここからは、現場で頻出の場面別に P の例文を示します。ポイントは、P に「量・頻度」「注意点」「再評価指標」を必ず 1 つずつ入れること。完璧を狙うより、最低限の再現性を確保するのが実務では強いです。
どれも 1〜2 文で書けるように整えています。施設の様式(時間表記・署名など)に合わせて語尾や表現を調整して使ってください。
| 場面 | P( 1〜2 文例 ) | 注意点(例) | 再評価指標(例) |
|---|---|---|---|
| 歩行を安全にしたい | 歩行の安全性向上のため、平地歩行練習(歩行器/杖)と方向転換練習を実施し、10 分× 2 セット/日を週 5 回行う。めまい・ふらつき・ SpO₂ 低下が出現した場合は中止し、2 週後を目安に TUG と介助量で再評価する。 | ふらつき、息切れ | TUG、介助量 |
| 立ち上がり( STS )改善 | 立ち上がりの自立度向上のため、椅子立ち上がり練習(高さ調整)を 8 回× 2 セット/日、週 5 回実施する。膝痛が NRS( )以上で増悪する場合は回数を減らし、2 週後に 5xSTS で再評価する。 | 疼痛増悪 | 5xSTS |
| 疼痛で動けない | 疼痛軽減と活動量回復のため、疼痛教育と許容範囲内での課題動作練習を行い、自主練は 5 分× 3 回/日で開始する。疼痛が翌日まで残る場合は負荷を 1 段階下げ、1 週後に NRS と可動域で再評価する。 | 翌日疼痛 | NRS、 ROM |
| 息切れ(呼吸) | 運動耐容能向上のため、口すぼめ呼吸の練習と屋内歩行を 10 分/日から開始し、週 5 回で漸増する。 SpO₂ が( )% 未満または強い息切れ( RPE 15 以上)で中止し、2 週後に歩行距離と SpO₂ で再評価する。 | SpO₂ 低下 | 歩行距離、 SpO₂ |
| 転倒リスクが高い | 転倒予防のため、立位バランス練習と環境調整(動線・履物)を実施し、練習は 5 分× 2 回/日を週 5 回行う。ふらつきが強い日は座位課題へ切替え、2 週後を目安に BBS と転倒関連イベントで再評価する。 | ふらつき強い日 | BBS、転倒イベント |
| 認知・理解が難しい | 遂行率向上のため、課題を 1 つずつ提示し、手順カードと環境調整(刺激量低下)を併用して練習を行う。介助は言語指示→ジェスチャー→身体誘導の順で最小化し、1 週後に遂行率と介助量で再評価する。 | 刺激量の調整 | 遂行率、介助量 |
| 低栄養が絡む | 筋力・耐容能改善のため、運動介入と並行して栄養アセスメントを実施し、必要時は NST と情報共有する。運動負荷は疲労度( Borg )を指標に段階付け、2 週後に体重と歩行指標で再評価する。 | 疲労度で調整 | 体重、歩行指標 |
よくある失敗:P の OK / NG(修正の考え方)
P の NG は「抽象語だけ」「量・頻度がない」「再評価がない」に集約されます。修正は簡単で、NG 文に 量・頻度と再評価指標を足すだけで“次につながる記録”になります。
また、監査や引き継ぎの場面では、中止基準が書かれているかも見られやすいです。すべてを詳細に書く必要はありませんが、「息切れ強い時は中止」「 SpO₂ が一定値を下回れば中止」など、判断の軸を 1 行で残すと安全側に寄せられます。
| NG(避けたい) | なぜ弱い? | OK(修正例) |
|---|---|---|
| 「筋力増強練習継続。」 | 何を、どれだけ、いつやるか不明 | 下肢筋出力向上のため、椅子立ち上がり 8 回× 2 セット/日を週 5 回実施し、疼痛増悪時は回数調整する。2 週後に 5xSTS で再評価する。 |
| 「自主トレ指導。」 | 内容・量・頻度が想像できない | 自主練は屋内歩行 10 分/日から開始し、週 5 回で漸増する。 SpO₂ 低下や強い息切れで中止し、2 週後に歩行距離と SpO₂ で再評価する。 |
| 「様子見。」 | 判断の条件が書かれていない | 症状とバイタル推移を確認し、(指標)をもとに負荷を 1 段階ずつ調整する。次回(期間)で再評価し、継続/変更を判断する。 |
現場の詰まりどころ:P を書く前の 30 秒チェック
忙しい日ほど、P が短くなりがちです。そこで、P の前に 30 秒だけ次を確認すると、抽象語で終わりにくくなります。特に「量・頻度」「再評価指標」を 1 つ入れるだけで、記録の強度が上がります。
チェックは、①目的が 1 つ言えるか。②量・頻度があるか。③中止条件が 1 行あるか。④次回の再評価指標が 1 つあるか。ここまで揃えば、P は短くても“使える”計画になります。
| 確認 | 目安 | 詰まったら |
|---|---|---|
| 目的は 1 つ? | 安全性/耐容能/疼痛など | 「何を良くしたいか」を名詞で固定 |
| 量・頻度はある? | 回数 or 分数 + 週何回 | 最小で「○分/日」「○回/日」 |
| 注意点は 1 行? | 症状・バイタルの中止条件 | 息切れ強い/ SpO₂ 低下/疼痛増悪 で整理 |
| 再評価指標は 1 つ? | TUG、5xSTS、 NRS など | 次回も測れる指標にする |
よくある質問( P の書き方 Q&A )
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. P に「今日実施した内容」は書くべきですか?
A. 施設の運用によりますが、P は「次にどうするか」を中心に書くと迷いにくいです。今日実施した内容を残す必要がある場合は、P の冒頭に 1 行だけ簡潔に入れ、その後に「継続/変更点」「量・頻度」「再評価指標」を書くと整理できます。
Q2. 中止基準まで細かく書けません
A. 最低限は 1 行で十分です。「息切れが強い場合は中止」「 SpO₂ 低下で中止」「疼痛増悪で回数を減らす」など、判断の軸を残すだけでも安全側に寄せられます。詳細は施設基準や医師指示に従い、必要な場合のみ具体化してください。
Q3. 量・頻度が決められない時はどう書く?
A. 迷う時は “最小量” で開始し、再評価で段階付ける方針を明記します。例:「屋内歩行 10 分/日から開始し、症状が安定すれば 2〜3 分ずつ延長。1 週後に歩行距離と症状で再評価」など、最初の一歩が見えると P が固まります。
おわりに
P( plan )は、目的の確認 → 具体的介入 → 量・頻度の設定 → 注意点(中止基準) → 再評価という臨床のリズムを、そのまま次回の設計図に落とし込むパートです。まずは「量・頻度」と「再評価指標」を 1 つずつ入れるだけでも、抽象語の P から抜け出しやすくなります。
忙しい日は完璧を狙わず、テンプレで最低ラインをそろえるのがコツです。P が具体化すると、引き継ぎも監査もラクになり、チームの介入が同じ方向に揃っていきます。
参考文献
- Weed LL. Medical Records That Guide and Teach. N Engl J Med. 1968. DOI:10.1056/NEJM196803142781105
- Aronson MD. The Purpose of the Medical Record: Why Lawrence Weed Was Right. Am J Med. 2019. S0002-9343(19)30352-3
- Wright A, Sittig DF. Bringing Science to Medicine: an Interview with Larry Weed. J Am Med Inform Assoc. 2014. PubMed Central
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信しています。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

