表在感覚とは(触覚・痛覚・温度覚)
※本記事は 「感覚検査の完全ガイド」 の子記事です。
表在感覚は皮膚由来の情報で、触覚・痛覚・温度覚が中心です。本記事では「短時間で再現性高く」評価するための順序、患者さんへの説明文、判定の語彙、記録テンプレを提供します。明日からのベッドサイドで、そのまま 1 セットとして使える構成です。
評価の狙いは左右差と一貫性の把握です。まず視覚遮蔽でバイアスを排し、一定強度・一定時間の刺激をランダムに提示します。ダミー刺激を混ぜて反応の信頼性を確認し、部位差と遅延の有無を明確に記録します。関連する 疼痛評価 や FSST と統合して解釈しましょう。
準備と標準化(視覚遮蔽・刺激・ダミー)
まず静かな環境を整え、体位を安定させます。評価前に目的と流れを短く説明し、健常部位で練習試行を 1–2 回行います。視覚遮蔽はアイマスクや閉眼で代替し、皮膚に病変や疼痛がある部位は回避します。安全配慮は最優先です。
標準化の鍵は「刺激の一貫性」です。綿球や筆での軽接触、鈍針の軽いピンプリック、温冷試験片の一定時間接触など、提示時間と強度を固定化します。順序は左右を交互に、部位は近位・遠位を織り交ぜ、ダミー刺激を 20–30 % 程度混在させます。
触覚:手順・判定・NG/OK
手順:視覚遮蔽下で綿球や筆を用い、皮膚へ軽く接触します。「今・どこ」を即答してもらい、左右と複数部位にランダム提示。反応が不安定なら練習を追加し、言語理解が難しい場合は合図方式へ切り替えます。
判定:左右差、遅延、部位特異の有無を記録します。語彙は「正常/低下/消失」「遅延」「誤認」を統一。NG はリズミカルな提示と誘導尋問的な声掛けです。半側空間無視が疑われる場合は、健側からの注意喚起で補助します。
痛覚(鋭鈍):安全配慮と弁別の設計
手順:安全な鈍針先で軽い刺刺激を提示し、「鋭い/鈍い」を弁別してもらいます。視覚遮蔽とランダム提示、ダミーを併用し、各部位で 3 回程度。疼痛の既往や皮膚損傷がある部位は避け、同意と中止基準を事前に共有します。
判定:鋭鈍弁別の誤認率、遅延、過敏の有無を左右別に記録します。痛覚過敏が強い場合は刺激強度を最小限にし、説明を十分に。解釈は 疼痛評価スケール と統合し、慢性痛の感作が疑われる際は別枠で扱います。
温度覚:提示順序と誤認対策
手順:温冷試験片(例:金属スプーンなど)を用いて「温かい/冷たい」を弁別。提示時間は各 1–2 秒、左右・部位をランダムに。連続同種刺激は予測を招くため避け、ダミーで信頼性を担保します。
判定:誤認の傾向(常に温に寄る、遅れて答える等)を把握し、左右差と遠位優位のパターンを確認。末梢循環が悪いと閾値が上がるため、手足の冷感や浮腫は備考に明記します。必要に応じて再加温後に再評価します。
記録テンプレ(語彙統一)
記録は「左右・部位・語彙」を統一し、再評価日と検者名を残します。自由記載のみは共有性が低く、他職種連携で齟齬が生じます。下の最小フォーマットをコピーしてお使いください。院内様式がある場合は語彙を合わせましょう。
スクリーニングで異常が出た項目は、同日に再検して一貫性を確認します。ダミーへの反応、遅延、過敏、誤認の有無も欄外に簡潔に追記します。写真や動画記録は同意がある場合のみ活用します。
項目 | 左 | 右 | 所見/語彙 | 備考 |
---|---|---|---|---|
触覚 | 正常/低下/消失 | 正常/低下/消失 | 遅延/誤認 など | 部位・再現性 |
痛覚(鋭鈍) | ○/△/× | ○/△/× | 誤認率 xx % | 過敏の有無 |
温度覚 | 温/冷 の弁別可否 | 温/冷 の弁別可否 | 遅延/一貫性 | 冷感・浮腫 |
よくあるミスと対策(OK/NG 早見)
評価の質は「説明」「刺激」「記録」の 3 点で決まります。説明は短く具体的に、刺激は一定強度・一定時間・ランダム、記録は語彙を統一して左右差と一貫性を明確化します。患者さんの理解度に応じて手順を調整しましょう。
NG はリズミカル提示、誘導質問、「当たり」を教える反応、自由記載のみの記録です。OK は練習試行の導入、ダミーの併用、誤答時の追試、再評価日の明記。下表をチームで共有しておくと事故が減ります。
場面 | OK(推奨) | NG(避ける) | 理由/メモ |
---|---|---|---|
説明 | 短く具体的+練習試行 | 冗長・抽象的説明 | 理解不足で偽陽性/偽陰性 |
刺激 | 一定強度・時間・ランダム+ダミー | 予測可能なリズム | 期待バイアスを増やす |
記録 | 語彙統一・左右/部位・再評価日 | 自由記載のみ | 多職種共有が困難 |
関連:深部/複合・ SIAS への橋渡し
関連:深部感覚の評価【位置覚・運動覚・振動覚】 / 複合感覚の評価【二点識別・立体覚・数字書字覚】 / FIM 5 点の考え方 / FSST / SIAS
参考文献(一次情報は DOI/PubMed を後日追記)
- 神経学的検査の標準テキスト(感覚検査の章)
- 触覚・痛覚・温度覚の信頼性/妥当性に関する研究