身体計測の意義と使いどころ
身体計測は 栄養評価・サルコペニア評価・運動療法処方 の出発点です。身長・体重・周囲径・皮下脂肪厚・握力を標準化手順で測ることで、BMI・理想体重・%理想体重・%平常時体重・体重減少率・AMC/AMA などを安定品質で活用できます。
まずは「同一条件で繰り返す」ことが最重要です(時間帯・服装・測定側・回数)。実務用の A4 記録シート(印刷ボタン付き) も用意しました:身体計測 記録シート(A4・HTML)
臨床導入の流れは こちら を参考にしてください。関連記事:評価ハブ
測定の標準化プロトコル
- 環境:硬い床/水平、室温安定。巻尺のゼロ位置を確認。
- 被検者条件:軽装・ポケット中身なし・素足(身長)。測定側は原則「非利き手」。
- 回数と平均化:各測定 2〜3 回の平均。外れ値は再測定。
- 再現性:同一時刻帯(例:午前)、同一測定者、同一手順を徹底。
- 衣類:軽装/ポケット中身なし ・ 時刻:朝/昼/夕(毎回同一)
- 測定側:原則 非利き手(周囲径) ・ 回数:各 2–3 回の平均
- 身長:Frankfurt 平面を水平、踵・臀部・肩・後頭部を壁へ軽接地
- TSF:中点から肩峰側 1 cm、2 回以上測定し平均(単位 mm → 計算は cm)
身長・体重から求める主要指標
身長の測定と例外対応
基本:身長計による立位測定。踵・臀部・肩・後頭部を壁に軽く接地し、Frankfurt 平面を水平にして計測します。立位不可の場合はベッド上で頭頂〜足底をメジャーで直線計測。
変形・拘縮が強い場合:通常法では本来の身長から乖離します。石原法(体節合算)(①頭頂→②乳様突起→③大転子→④膝外側中央→⑤外果→⑥足底の距離を合算)や、膝高(knee height)からの推定式を用いて推定身長を得ます。院内で採用する推定式を一本化し、切替時は「推定法・式・測定側・測定者」を記録欄に明記。以後の継時比較は同一法で統一します。
体重と継時比較
軽装・トイレ後を原則に同一条件で測定します。体重は単発値よりも時間軸の変化を重視し、前回値・平常時体重との比較を必ず記録します。
BMI(Body Mass Index)
BMI = 体重(kg) ÷ 身長(m)2
| 区分 | BMI |
|---|---|
| 低体重 | < 18.5 |
| 普通体重 | 18.5–<25 |
| 肥満(1 度) | 25–<30 |
| 肥満(2 度) | 30–<35 |
| 肥満(3 度) | 35–<40 |
| 肥満(4 度) | ≥ 40 |
疫学的には BMI と疾患・死亡リスクは J 字型の関係が報告されています。増加は糖尿病・脂質異常症・高血圧等、低値は消化器・呼吸器疾患等との関連が知られます。
%理想体重(IBW=22)
理想体重(IBW)= 身長(m)2 × 22(JSSO)。栄養必要量やたんぱく質必要量の算定に用います。
%理想体重 = 現体重(kg) ÷ 理想体重(kg) × 100
| %理想体重 | 判定 |
|---|---|
| ≥ 90% | 正常 |
| 80–<90% | 軽度栄養障害 |
| 70–<80% | 中等度栄養障害 |
| < 70% | 高度栄養障害 |
%平常時体重(%UBW)
%平常時体重 = 現体重 ÷ 平常時体重 × 100。情報源は本人に限らず家族・健診記録等も可。平常時が不明な場合は直近 3–6 か月の最頻値を仮基準として明示します。
| %平常時体重 | 判定 |
|---|---|
| 85–95% | 軽度栄養障害 |
| 75–<85% | 中等度栄養障害 |
| < 75% | 高度栄養障害 |
体重減少率と期間
体重減少率(%) = { 前回(以前)体重 − 現在体重 } ÷ 前回体重 × 100
| 期間 | 目安 |
|---|---|
| 1 週間 | 1–2% 以上 |
| 1 か月 | 5% 以上 |
| 3 か月 | 7.5% 以上 |
| 6 か月 | 10% 以上 |
率だけでなく期間を必ず併記し、発熱・摂食量・浮腫など交絡因子も併せて解釈します。栄養スクリーニングの併用は MST などが実用的です。
| 指標 | 算出式 | 備考 |
|---|---|---|
| BMI | 体重(kg) ÷ 身長(m)2 | 区分:低体重 <18.5/普通 18.5–<25/肥満 ≥25 |
| 理想体重(IBW) | 身長(m)2 × 22 | 栄養必要量の基準に使用 |
| %理想体重 | 現体重 ÷ 理想体重 × 100 | 90%以上=おおむね正常 |
| %平常時体重 | 現体重 ÷ 平常時体重 × 100 | 85–95% 軽度/75–<85% 中等度/<75% 高度 |
| 体重減少率 | {前回体重 − 現在体重} ÷ 前回体重 × 100 | 1M 5%/3M 7.5%/6M 10% 以上は有意 |
周囲径と皮下脂肪厚:AC・TSF・AMC・AMA・CC
AC(上腕周囲長:MUAC)
- 肢位:座位または仰臥位。測定側の肘を 90° 屈曲。
- ランドマーク:肩峰—尺骨肘頭の中点に印を付け、腕を伸ばして巻尺を水平に回す。
- 読み取り:皮膚を圧迫しない程度に軽く接触し、0.1 cm 近似で読む。
評価:JARD2001(日本人の新身体計測基準値)との比較が目安。基準表は院内に備え、毎回同一基準で解釈します。
TSF(上腕三頭筋部皮下脂肪厚)
- 肢位と中点は AC と同じ。中点から肩峰側 1 cmで皮膚ひだをつまみ上げ、皮下脂肪計で 2 回以上測定し平均。
- 単位は mm で得られることが多い(後述の計算で cm に換算)。
AMC(上腕筋囲)
AMC(cm) = AC(cm) − π × TSF(cm)
※TSF の mm 表示は mm ÷ 10 → cm に換算してから代入。
AMA(上腕筋面積)
AMA(cm2) = [ AMC(cm) ]2 ÷ 4π
AMC/AMA は 除脂肪量の推定に有用ですが、単独での診断ではなく、握力・歩行速度など機能指標とセットで解釈します。
CC(下腿周囲長)
- 肢位:座位、膝 90° 屈曲、足底接地。
- ランドマーク:下腿の 最大周径部 を水平に巻尺で測定。
握力(機能指標)
- 推奨肢位(ASHT 基準):肩内転・肘 90° 屈曲・前腕中間位・手関節 0–30° 伸展。立位/座位は施設で統一。
- 試技 3 回・最良値または平均値を採用。利き手設定を記録。
- 測定器のレンジとキャリブレーションを定期確認。
継時比較では 同じ肢位・同じ握り幅 を再現することが重要です。
ミニ計算例(フォーマット動作確認)
身長 1.60 m・体重 50 kg・AC 27.0 cm・TSF 10 mm(=1.0 cm)とすると:
- BMI = 50 ÷ (1.60)2 = 19.5
- 理想体重 = (1.60)2 × 22 = 56.3 kg / %理想体重 = 50 ÷ 56.3 × 100 = 88.8%
- AMC = 27.0 − π × 1.0 = 23.9 cm / AMA = (23.9)2 ÷ 4π ≈ 45.4 cm2
FAQ(よくある質問)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
立位身長が取れない人はどう測る?
TSF を mm のまま計算してしまうミスを防ぐには?
握力は肘 90° と肘伸展のどちらが正しい?
どの指標を優先して見ればいい?
参考文献(抜粋)
- 日本肥満学会(JSSO):肥満症診療ガイドライン(BMI 区分・IBW=22)
- JARD2001:日本人の新身体計測基準値(AC/TSF/AMC/AMA 参照)
- ASHT(American Society of Hand Therapists):握力測定標準プロトコル


