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この記事は「臨床的体幹機能検査:FACT」をキーワードに内容を構成しております。こちらのテーマについて、もともと関心が高く知識を有している方に対しても、ほとんど知識がなくて右も左も分からない方に対しても、有益な情報がお届けできるように心掛けております。それでは早速、内容に移らせていただきます。
脳卒中患者の体幹機能は、日常生活動作(ADL)や予後にも関わる重要な機能となります。しかし、手足の機能評価と比較すれば、体幹の評価方法については、そこまで詳しく知らないという方が多いかと思います。そこで、こちらの記事で脳卒中患者の体幹機能評価尺度(FACT)について紹介します。
【簡単に自己紹介】
30代の現役理学療法士になります。
理学療法士として、医療保険分野と介護保険分野の両方で経験を積んできました。
現在は医療機関で入院している患者様を中心に診療させていただいております。
臨床では、様々な悩みや課題に直面することがあります。
そんな悩みや課題をテーマとし、それらを解決するための記事を書かせて頂いております。
理学療法士としての主な取得資格は以下の通りです
登録理学療法士
脳卒中認定理学療法士
褥瘡 創傷ケア認定理学療法士
3学会合同呼吸療法認定士
福祉住環境コーディネーター2級
理学療法士、作業療法士、言語聴覚士として働いていると、一般的な会社員とは異なるリハビリ専門職ならではの苦悩や辛いことがあると思います。当サイト(rehabilikun blog)ではそのような療法士の働き方に対する記事も作成し、働き方改革の一助に携わりたいと考えております。
療法士の働き方に対する記事の 1 つが右記になりますが、"理学療法士は生活できない?PTが転職を考えるべき7つのタイミング"こちらの記事は検索ランキングでも上位を獲得することができております。興味がある方は、こちらの記事も目を通してくれると幸いです☺
脳卒中患者の体幹機能について
脳卒中は、脳血管の閉塞や破裂によって脳の一部に障害が起こる病気になります。
そして、脳卒中の影響により、運動機能や感覚機能、認知機能などに影響を来たすことがあります。その中でも体幹機能については、姿勢制御や平衡感覚、移動や起き上がりなどの基本的な動作に欠かすことができない機能となります。
体幹機能については歩行能力に対して相関性があり、体幹機能が低下している症例では転倒などのリスクも高くなることが報告されています。したがって、脳卒中患者の体幹機能評価は、リハビリテーションにおいて重要な指標の 1 つとなります。
臨床的体幹機能検査:FACTとは
臨床的体幹機能検査(Functional Assessment of the Coordination of Trunk movement:FACT)は、脳卒中患者の体幹機能を評価するための指標になります。
脳卒中患者において体幹機能の重要性はかねてより指摘されておりました。脳卒中患者に対する評価尺度の SIAS(Stroke Impairment Assessment Set)や TCT(Trunk Control test)の項目に体幹機能を評価する項目があるものの、体幹機能評価としては十分な評価には至らないのではないかという課題がありました。
そこで、より治療指向的な体幹機能の評価指標として、臨床的体幹機能検査(FACT)が開発されました。
臨床的体幹機能検査(FACT)の基本概念は以下の通りになります。
- 検査を通して問題点が明確になり具体的な治療の手がかりとなる治療指向的な検査であること
- 体幹機能の変化を客観的に捉えられ、治療効果の判定ができる尺度化された検査であること
- 被験者に負担のかからない臨床的で簡便性を有する検査であること
FACT 評価方法 評価のやり方
臨床的体幹機能検査(FACT) は、相対的に体幹をみるものであり、課題の一部には上下肢の運動を含んでいます。
体幹機能に関する 10 項目の課題の実施状況についてを評価することになりますが、評価の正確性を高めるためには「測定姿勢」や「測定場所」などの測定条件を統一する必要があります。
測定姿勢
可能な限り両下肢の足底面を床面に接地した端座位姿勢で評価します。
測定場所
40 ~ 45 cm の高さで一定の硬さの座面を持つ治療台やベッドなどで測定します。
測定の手順
「1.静的座位保持能力」から始め最後に「10.上肢拳上に伴う動的座位保持能力」の順序になるように、「1→2→3…」の順序で測定します。
臨床的体幹機能検査(FACT)は最大能力を測定するため、3 回施行した際の最大パフォーマンスを代表値として記録します。
FACT 評価項目 検査項目
臨床的体幹機能検査(FACT)は、10 項目の課題により構成されています。「可能」か「不能」で判定する項目が 8 項目、「両側可能」か「片側可能」か「不能」で判定する項目が 2 項目となっています。採点は各項目の得点を加算していき、得点範囲は 0 ~ 20 点、得点が高いほど体幹機能が高いことを示します。
1.静的座位保持能力(上肢支持利用)
上肢で手すりや座面を支持することで 10 秒以上座位保持することができるのかどうかを判定します
可能:1 点 不能:0 点
2.静的座位保持能力(上肢支持不使用)
上肢を使用せずに 10 秒以上座位保持することができるのかどうかを判定します
可能:1 点 不能:0 点
3.動的座位保持能力(下側方への重心移動)
下側方へ重心移動を行う際の動的座位保持能力を判定する項目になります。
口頭による検査の説明方法としては「右(左)手で左(右)の足首を握れますか?」と指示します。動作遂行時に前腕や肘などを大腿部について、支持しないように動作を行なってもらいます。右手で左足首を掴むパターン、左手で右足首を掴むパターン、どちらのパターンを選択しても構いません。
可能:1 点 不能:0 点
4.動的座位保持能力(前方への重心移動)
前方へ重心移動を行う際の動的座位保持能力を判定する項目になります。手は座面についたりしないように、胸やお腹の前で組んでもらいます。
口頭による検査の説明方法としては「軽くお尻を持ち上げて(軽く立ち上がって)お尻の位置を左右に移動することができますか?」と指示します。
可能:2 点 不能:0 点
5.動的座位保持能力(広範囲の側方への重心移動)
側方へ重心移動を行う際の動的座位保持能力を判定する項目になります。手は座面についたりしないように、胸やお腹の前で組んでもらいます。
口頭による検査の説明方法としては「右(左)側のお尻を持ち上げて保つことができますか?」と指示します。
左右のどちらか片側ではなく、左右両方とも評価します。視覚的にお尻が持ち上がっているかどうか判定が難しい場合には、座骨と座面の間に検者の指が通るかどうかを確認します。持ち上がった状態で 3 秒以上保持できれば「可能」と判定します。
両側: 2 点 片側:1 点 不能:0 点
6.動的座位保持能力(後側方への重心移動)
後側方へ重心移動を行う際の動的座位保持能力を判定する項目になります。手は座面についたりしないように、胸やお腹の前で組んでもらいます。
口頭による検査の説明方法としては「右(左)の太股が座面から離れるように足を持ちあげて保つことができますか?」と指示します。
左右のどちらか片側ではなく、左右両方とも評価します。視覚的に持ち上がっているかどうか判定が難しい場合には、大腿後面遠位部に手が通るかを確認します。持ち上がった状態で 3 秒間保持できれば「可能」と判定します。
両側: 2 点 片側:1 点 不能:0 点
7.動的座位保持能力(広範囲の後方への重心移動)
後方へ重心移動を行う際の動的座位保持能力を判定する項目になります。手は座面についたりしないように、胸やお腹の前で組んでもらいます。
口頭による検査の説明方法としては「両方の太股が座面から離れるように両足を持ちあげて保つことができますか?」と指示します。
視覚的に持ち上がっているかどうか判定が難しい場合には、大腿後面遠位部に手が通るかを確認します。持ち上がった状態で 3 秒間保持できれば「可能」と判定します。
可能:2 点 不能:0 点
8.動的座位保持能力(広範囲の側方への重心移動)
側方へ重心移動を行う際の動的座位保持能力を判定する項目になります。手は座面についたりしないように、胸やお腹の前で組んでもらいます。
口頭による検査時の説明方法としては「片側のお尻を持ち上げて、前後にお尻をずらしてみてください。それを左右で交互に行い、お尻で歩くようなイメージで前後に移動できますか?」と指示します。
持ち上げた側の骨盤が移動しているか、支持側の座骨は移動していないかを確認して、前後に移動できるようであれば「可能」と判定します。
可能:3 点 不能:0 点
9.動的座位保持能力(体幹回旋)
体幹伸展位で体幹を回旋させ、重心を移動したときの動的座位保持能力を判定する項目になります。手は座面についたりしないように、胸やお腹の前で組んでもらいます。
口頭による検査時の説明方法としては「身体の後方に指を何本か立てて置いておくので、肩越しに覗いて見て、何本か答えてください」と指示します。
検者は座面に手を接触させ、1 秒間隔で合計 3 回指の本数を変えます。体幹回旋位を保持しながら指の本数を正答できた場合には「可能」と判定します。
可能:3 点 不能:0 点
10.動的座位保持能力(脊柱の最大伸展)
脊柱を最大伸展させたときの動的座位保持能力を判定する項目になります。
口頭による検査時の説明方法としては「肘を伸ばして手をまっすぐ上まで持ち上げることができますか?」と指示します。
脊柱完全伸展位、肩関節内外転・内外旋中間位で上腕骨を床面に対し垂直位まで挙げることができている場合に「可能」と判定します。左右どちらかの上肢で行うことができれば構いません。
可能:3 点 不能:0 点
FACT 評価用紙
臨床的体幹機能検査(FACT)の評価用紙は以下の論文に記載されているものが参考になります。こちらの論文では各項目の検査方法についても写真付きで記載されています。
出典:臨床的体幹機能検査(FACT)の開発と信頼性
FACT カットオフ値
臨床的体幹機能検査(FACT)のカットオフ値とは、体幹機能の水準を判定するための基準値になります。
前述したように体幹機能については歩行能力に対して相関性が認められています。そのため、臨床的体幹機能検査(FACT)の点数と歩行の自立度には相関があります。臨床的体幹機能検査(FACT)を用いた研究についていくつか紹介します。
こちらの研究では、歩行自立に関係する因子は、「BRS 下肢」stageV、「SIAS 体幹腹筋力」3 点、「体幹機能: FACT」14 点と報告されています。
出典:脳卒中片麻痺者の歩行自立に影響する運動機能とその基準
こちらの研究では急性期脳卒中患者に対して、約 3 週間理学療法介入を行い、臨床的体幹機能検査(FACT)の点数が 4 点以上向上した場合には、体幹機能が改善したことを示すと報告されています。
出典:急性期脳卒中患者におけるFunctional Assessment for Control of Trunk(FACT)の反応性および臨床的に意義のある最小変化量の検討
カットオフ値はあくまで基準であるため、上記の点数に拘る必要はありません。しかし、脳卒中発症直後に臨床的体幹機能検査(FACT)を実施することで、体幹機能の経時的変化や予後予測に繋げることができます。
FACT以外の評価尺度
FACTの他にも、脳卒中患者の体幹機能を評価するための尺度はいくつかあります。代表的なものを紹介します。
SIAS(Stroke Impairment Assessment Set)
SIAS は、脳卒中患者の運動機能や感覚機能、高次脳機能などを総合的に評価するための尺度になります。SIAS の中には、体幹機能を評価する項目も含まれています。SIAS の体幹機能評価項目は以下の通りです。
- 項目 1:仰臥位での頭部挙上
- 項目 2:仰臥位での上肢挙上
- 項目 3:仰臥位での下肢挙上
- 項目 4:仰臥位での体幹の回旋
- 項目 5:座位での体幹の安定性
- 項目 6:座位での体幹の動き
それぞれの項目に対して、0 点から 4 点の 5 段階で評価します。SIASの体幹機能評価の最高得点は 24 点になります。
TCT(Trunk Control test)
TCTは、脳卒中患者の体幹機能を評価するための尺度です。TCT は、患者に対して 4 つの動作を行わせます。それぞれの動作に対して、0 点から 3 点の 4 段階で評価します。TCT の最高得点は12点になります。TCT の評価項目は以下の通りです。
- 項目 1:仰臥位から座位への移行
- 項目 2:座位から仰臥位への移行
- 項目 3:座位での前屈
- 項目 4:座位での回旋
脳卒中の患者以外へのFACTの使用
FACT は脳卒中患者以外にも使われることがあります。例えば、地域在住の要支援・要介護者やパーキンソン病患者などに対しても FACT を用いた研究が行われています。FACT は体幹機能と身体機能や日常生活動作との関連性を調べるのに有用な尺度になります。ただし、FACT の適用範囲や信頼性・妥当性については、さらに検証が必要な点もあります。
脳卒中のリハビリで有用なその他の評価スケール
こちらの記事で紹介した臨床的体幹機能検査(FACT)も信頼性・妥当性が認められた脳卒中評価スケールになりますが、臨床的体幹機能検査(FACT)の他にも有用な脳卒中評価スケールがありますので、簡単に説明させていただきます。
脳卒中重症度スケール(JSS)
脳卒中重症度スケール(Japan Stroke Scale)とは、脳卒中を発症した患者の急性期における重症度を判定するためのスケールになります。1997 年に日本脳卒中学会によって発表されて以降、急性期の脳卒中診療の場において広く活用されています。
評価項目は全 12 項目となります。4 つめの設問(視野欠損または半盲)については、A か B の 2 件法、そのほかの 11 項目については A から C の 3 件法となります。
カットオフ値は特別定められておりませんが、得点範囲(数値)が最低 – 0.38 最大 26.95 となるため、数値が大きいほど重症度が高いことを示します。
脳卒中重症度スケールについては、他の記事で詳しくまとめています!《脳卒中重症度スケール Japan Stroke Scale:JSS》こちらの記事もご覧になって頂けると幸いです☺️
SIAS(脳卒中機能障害評価法)
SIAS とは、Stroke Impairment Assessment Set の頭文字をとってできた略称になります。
SIAS は信頼性および妥当性の検証がなされた脳卒中後の機能障害に関する総合評価指標であり、脳卒中治療ガイドラインにおいても SIAS の使用が推奨されています。
SIAS は「麻痺側運動機能」「筋緊張」「感覚機能」「関節可動域」「疼痛」「体幹機能」「視空間認知」「言語機能」「非麻痺側機能」の 9 つの機能障害により構成されており、評価項目としては合計 22 項目あります。
判定方法については「麻痺側運動機能」についての 5 項目のみ 0 〜 5 点の 6 件法、他の 17 項目については 0 〜 3 点の 4 件法により判定を行います。
いずれも項目も点数が低いほど機能障害の重症度が高く、点数が高いほど機能障害が軽度であることを示します。
SIAS の合計点の得点範囲は 0 〜76 点になり、こちらも点数が高いほど脳卒中による機能障害の重症度が高いという判断になります。
SIAS については、他の記事で詳しくまとめています!《【脳卒中機能評価法:SIASとは?】22の評価項目|総得点76点》こちらの記事もご覧になって頂けると幸いです☺️
NIH Stroke scale(NIHSS)
NIH Stroke scale(NIHSS)は「National Institutes of Health Stroke Scale」の略称であり、脳梗塞、脳出血、クモ膜下出血など脳卒中の神経学的重症度を評価することが可能であり、国際的に広く利用されております。
評価項目は 合計 11 項目から構成されており、評価結果に基づいて判定します。各項目は 0 点から 4 点までの範囲で評価されます。総得点は、最低 0 点から最高 42 点までとなり、合計スコアが脳卒中の重症度を示します。
NIH Stroke scale(NIHSS)については、他の記事で詳しくまとめています!《【NIHSS評価項目とカットオフ値】脳卒中・脳梗塞の評価方法とは》こちらの記事もご覧になって頂けると幸いです☺️
The Canadian Neurological Scale(CNS)
The Canadian Neurological Scale(CNS)とは、運動機能、精神状態の大項目から構成される標準的神経学的評価になります。
The Canadian Neurological Scale(CNS)の評価項目は、「精神状態」と「運動機能」の 2 つの大項目に分類することができます。
「精神状態」では意識レベル、見当識、従命の 3 つの設問から評価を行います。「精神状態」の得点範囲は 1.0 〜 5.5 点となり得点が低いほど脳卒中の重症度が高いことを示します。
「運動機能」では顔面、両上肢、両下肢の運動機能を評価します。「精神状態」の従命の設問の結果によって、評価方法が「A1セクション(理解力がある人)」と「A2セクション(理解力が欠如している人)」に分類されます。
The Canadian Neurological Scale(CNS)の得点範囲は 1.0 〜 12.0 となり、得点が低いほど脳卒中の重症度が高いことを示します。
カットオフ値は特別定まっておりませんが、脳卒中発症直後から評価することが可能であるため、発症直後の重症度を捉え、その後の重症度の変化を定量的に評価できることは有用であると考えられます。
The Canadian Neurological Scale(CNS)については、他の記事で詳しくまとめています!《【CNS】Canadian Neurological Scale》こちらの記事もご覧になって頂けると幸いです☺️
まとめ
最後までお読みいただきありがとうございます!
この記事では「臨床的体幹機能検査:FACT」をキーワードに考えを述べさせていただきました。
こちらの記事が、臨床的体幹機能検査(FACT)についての理解を深めることに繋がり、臨床における体幹機能評価に少しでもお力添えになれば幸いです。