5 回立ち上がりテストは「条件固定 → 測定 → 解釈 → 記録」で回すとブレにくいです
5 回椅子立ち上がりテスト( Five Times Sit-to-Stand Test: 5xSTS / 5STS )は、短時間で下肢機能と立ち上がり動作の質をみやすい評価です。大事なのは、速さそのものだけでなく、椅子条件・手の扱い・開始停止の定義をそろえて前後比較できる形にすることです。
本記事は、「 5 回立ち上がりテストのやり方」「基準値とカットオフ」「停止基準のそろえ方」「カルテに残す書き方」を、臨床でそのまま回せる形に整理したページです。病棟・外来・通所・訪問で 5xSTS を使う 理学療法士( PT )やリハ職を想定しています。
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5xSTS 記録シート PDF
A4 1 枚で、条件固定・採点・所見メモを残せる記録シートを用意しました。初回評価と再評価で同じ書式を使いたいときに便利です。
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まず固定する条件(椅子・手・開始停止)
5xSTS はシンプルに見えますが、結果がぶれやすい評価です。とくにズレやすいのは、椅子高、上肢使用ルール、開始の合図、どこで止めるかの 4 点です。ここを先に決めておくと、担当者が変わっても比較しやすくなります。
文献では椅子条件や停止基準に幅があります。だからこそ、絶対に 1 つの方法だけが正しいと考えるより、自施設の採用条件を固定し、評価用紙に残すことが実務では重要です。
| 項目 | 実務の基本 | 記録に残すポイント |
|---|---|---|
| 椅子 | 背もたれ付き、座面高の目安は 43〜45 cm | 同じ椅子を再評価でも使う。肘掛けの有無、座面高、床条件を書く。 |
| 手の位置 | 原則は胸の前で組む | 上肢支持を許可した場合は、その理由と条件差を残す。 |
| 開始 | 「用意、ゴー」の ゴー で計測開始 | 練習の有無、本試行回数、合図の文言をそろえる。 |
| 停止 | 施設で 臀部接触 か 5 回目完全伸展 を統一 | SPPB に合わせる場合は「 5 回目完全伸展」で統一すると混乱しにくい。 |
| 足部条件 | 足底全面接地、左右差が強く出ない位置 | 足の引き込み量や左右差が大きい場合は所見に残す。 |
安全管理と中止基準
準備物は、椅子、ストップウォッチ、必要時のすべり対策、見守り者 1 名です。補助具や装具は、日常使用しているものに限って許可し、種類・高さ・使用側を必ず記録します。
中止基準は、胸部症状、強い息切れ、めまい・失神前駆、著明なふらつき、膝折れの連続、痛みの急激な増悪などです。数値だけを取りにいかず、安全に最後までできるかを優先してください。
| 場面 | 見るポイント | 対応 |
|---|---|---|
| 開始前 | 立位保持が不安定、痛みが強い、体調不良 | 実施を見送り、条件調整や代替評価へ切り替える。 |
| 実施中 | 胸痛、強い息切れ、めまい、著明なふらつき | 直ちに中止し、休息と追加確認を行う。 |
| 動作の質 | 上肢で強く押し出す、膝折れが続く | 無効試行か中止かを施設ルールで統一し、所見に残す。 |
5 回立ち上がりテストのやり方(現場で使える逐次プロトコル)
評価者ごとにアドリブで回すと、同じ患者さんでも比較しにくくなります。姿勢確認 → 指示 → 計測 → 安全確認 → 記録の順で固定すると、結果の意味が読みやすくなります。
- 初期姿勢を確認する:背を背もたれに付け、足底は床全面接地、膝関節はおよそ 90 度屈曲、腕は胸の前で組みます。
- 口頭指示を行う:「できるだけ速く 5 回立って座ってください。途中で手は使わないでください。つらくなったらすぐに言ってください。」
- 「用意、ゴー」で計測を開始します。
- 採用した停止基準に従って計測を止めます。臀部接触で止めるのか、 5 回目完全伸展で止めるのかは毎回同じにします。
- 終了後に、息切れ、めまい、疼痛、膝折れ、上肢支持の出現を確認します。
- 椅子高、靴、補助具、停止基準、練習回数を評価用紙に記録します。
年齢別基準値とカットオフ(文脈別に読む)
5xSTS の数値は、どの文脈で読むかで意味が変わります。年齢目安、サルコペニアのスクリーニング、 SPPB との整合、転倒リスクの補助判断は、同じ秒数でも役割が違います。だから、秒数 1 つで断定せず、何のために測ったかを先に決めてから読むのが大切です。
サルコペニア診断の総論は別ページで最新基準を確認し、このページでは 5xSTS 単独の運用に絞って使うと混乱しにくくなります。
| 文脈 | 目安 | 読み方 |
|---|---|---|
| 年齢別の目安 | 60–69 歳: 11.4 秒超 70–79 歳: 12.6 秒超 80–89 歳: 14.8 秒超 |
同年代平均より低いパフォーマンスの目安として使う。 |
| AWGS 文脈 | 12 秒以上 | 低身体機能の目安。サルコペニア疑いの拾い上げに使いやすい。 |
| EWGSOP2 文脈 | 15 秒超 | chair stand を筋力の代理指標として扱うときの目安。 |
| SPPB の chair stand | 0 点=不能 / 60 秒超 1 点= 16.70 秒以上 2 点= 13.70–16.69 秒 3 点= 11.20–13.69 秒 4 点= 11.19 秒以下 |
SPPB へ換算したいときに使う。停止基準は SPPB 側に合わせる。 |
| 転倒リスクの補助目安 | 12 秒以上で追加評価の対象、 15〜16 秒超は要注意のことが多い | 単独で断定せず、 TUG ・歩行速度・バランス所見と合わせて判断する。 |
解釈と次のアクション(所見 → 介入)
秒数だけではなく、どこで詰まっているかを見ると介入が決めやすくなります。離殿で止まるなら股・膝伸展筋力や前傾戦略、立位で揺れるなら足部配置や姿勢制御、後半でペースが落ちるなら耐久性や息切れの影響を考えます。
再評価は 2〜4 週ごとに、同じ椅子・同じ靴・同じ補助具・同じ停止基準で行うと、介入効果を患者さんや家族にも説明しやすくなります。歩行速度や 6MWT などと組み合わせると、「立ち上がり」「歩行」「持久性」のつながりが見えやすくなります。
| 目立つ所見 | 考えたい背景 | 次に足す評価・介入 |
|---|---|---|
| 離殿が遅い | 下肢筋力低下、前傾不足、恐怖心 | 股・膝伸展筋、足位置調整、前傾の反復練習 |
| 立位でふらつく | 姿勢制御、足部配置、感覚入力の問題 | 静的立位、支持基底面の調整、バランス評価追加 |
| 後半で失速する | 耐久低下、呼吸循環負荷、疼痛 | 息切れ評価、持久性評価、ペース配分の確認 |
| 上肢支持が出る | 純粋な下肢出力だけでは不足 | 無効試行か条件変更かを明確化し、支持条件別で再評価 |
記録テンプレ(コピペ用)
カルテでは、結果+条件+所見+次の一手を 1 セットで残すと再評価が安定します。数値だけより、現場ではこちらの方が使いやすいです。
【 5 回立ち上がりテスト( 5xSTS )】 ___.__ 秒 開始:ゴー 停止:臀部接触 / 5 回目完全伸展 条件:椅子高 __ cm、靴 無 / 有、補助具 無 / 有(種類:____) 所見:____(例:離殿遅い / 前傾不足 / 立位で左右動揺あり) 判断:____(例:下肢筋力低下+姿勢戦略の不安定さ) 次の一手:____(例:足位置調整、前傾練習、反復立ち上がり、 SPPB 追加)
よくある失敗と対策
5xSTS で多い失敗は、能力差ではなく条件差です。開始停止のズレ、椅子の違い、上肢支持の扱いが曖昧なままでは、数秒の変化が本当の改善か判断しづらくなります。
| 失敗 | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 開始・停止が毎回違う | 数秒単位で誤差が出る | 「ゴーで開始」「臀部接触 or 5 回目完全伸展」を施設で固定する |
| 椅子高が違う | 負荷が変わり、前後比較できない | 同じ椅子を使う。無理なら高さを必ず記録する |
| 上肢支持を見逃す | 実力より良く見える | 無効試行の扱いを先に決め、所見に残す |
| 数値だけで終わる | 介入テーマがぼやける | 離殿、立位保持、後半失速のどこで止まるかを 1 行で残す |
現場の詰まりどころ
先に確認したい場合は、よくある失敗 と 記録テンプレ から読むと流れをつかみやすいです。
迷いやすいのは、「 30 秒法とどちらを使うか」「 SPPB と同じ止め方にするか」「 AWGS の 12 秒と EWGSOP2 の 15 秒をどう使い分けるか」の 3 点です。こういうときは、立ち上がり評価の使い分け総論 で全体像を先にそろえ、このページでは 5xSTS の手順固定に集中すると整理しやすくなります。
実務では、カットオフを“診断そのもの”として使うより、追加評価に進むフラグとして扱う方が安全です。秒数だけで決めず、動作の質と文脈を合わせて次の一手を選んでください。
30 秒立ち上がりテストと迷うときの考え方
5xSTS は「何秒で 5 回できるか」をみるため、立ち上がり速度、下肢パワー、開始直後の動作効率に向いています。一方、 30 秒立ち上がりテストは、反復回数から耐久性や後半の失速を見やすい評価です。
個別リハで「立ち上がりが重い」「転倒リスクやサルコペニア文脈で見たい」なら 5xSTS が使いやすく、集団実施や耐久寄りの把握なら 30 秒法が合います。同じ患者さんの経時変化を追うときは、テストを途中で切り替えないことが大切です。
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q. 5 回立ち上がりテストは毎回同じ椅子で行う必要がありますか?
A. 可能な限り同じ椅子で行う方がよいです。座面高が数 cm 変わるだけでも離殿の難しさが変わります。どうしても同じ椅子が使えない場合は、座面高、肘掛けの有無、床条件を記録し、次回も同じ条件へ寄せてください。
Q. 停止基準は「臀部接触」と「 5 回目完全伸展」のどちらがよいですか?
A. どちらでもよい、ではなく 施設で 1 つに統一することが重要です。単独の 5xSTS として運用するなら臀部接触でも構いません。 SPPB の chair stand と整合させたいなら、 5 回目完全伸展で止める方が混乱しにくいです。
Q. AWGS と EWGSOP2 のどちらのカットオフを使えばよいですか?
A. アジア人高齢者を主な対象にする実務では、まず AWGS 系の文脈を押さえる方が使いやすいです。一方で、国際文献や欧州の研究比較では EWGSOP2 の 15 秒超が引用されます。ページ内では“どの文脈の数字か”を混ぜないことが大切です。
Q. 上肢支持が出た場合は無効ですか?
A. 原則条件から外れるので、そのまま通常値としては扱いにくいです。ただし、臨床では「上肢支持ありで実施」「支持なしでは不能」という情報自体に価値があります。無効で再試行するのか、条件付きの結果として残すのかを先に決めてください。
次の一手
参考文献
- Shirley Ryan AbilityLab. Five Times Sit to Stand Test. RehabMeasures Database. SRALab
- Bohannon RW. Reference values for the five-repetition sit-to-stand test. Percept Mot Skills. 2006;103(1):215-222. DOI: 10.2466/pms.103.1.215-222 / PubMed
- Chen LK, Woo J, Assantachai P, et al. Asian Working Group for Sarcopenia: 2019 Consensus Update on Sarcopenia Diagnosis and Treatment. J Am Med Dir Assoc. 2020;21(3):300-307.e2. DOI: 10.1016/j.jamda.2019.12.012 / PubMed
- Cruz-Jentoft AJ, Bahat G, Bauer J, et al. Sarcopenia: revised European consensus on definition and diagnosis. Age Ageing. 2019;48(1):16-31. DOI: 10.1093/ageing/afy169 / PubMed Central
- Guralnik JM, Simonsick EM, Ferrucci L, et al. A short physical performance battery assessing lower extremity function. J Gerontol. 1994;49(2):M85-M94. PubMed
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


