整形外科的テスト一覧(目的と使い方)
本記事は、頸椎・肩・肘・手関節・股関節・膝・足関節・腰椎/骨盤まわりの整形外科的テストを部位別ハブとして整理するページです。「どのテストをいつ使うか」「どの部位の記事を見に行けばよいか」をまとめて確認できるようにし、若手セラピストが迷いやすいポイントをスッキリさせることがねらいです。
各部位の具体的なテスト手順や禁忌・レッドフラッグは、それぞれの解説記事に詳しくまとめています。本ハブでは、①部位別のざっくりマップ ②レッドフラッグと注意すべきテスト ③評価結果をどう治療計画に落とし込むか に絞って全体像を俯瞰し、必要に応じて詳細記事への導線を示します。評価の全体像は 評価ハブ もあわせて参照していただくと整理しやすくなります。
部位別の整形外科テスト一覧(クイック表)
まずは、部位ごとの代表的なテストと、詳しい解説記事へのリンクを一覧で整理します。困ったときにこの表から飛べる「索引」として使ってください。
| 部位 | 主なテストの例 | 想定する病態 | 詳しい解説記事 |
|---|---|---|---|
| 頸椎・胸郭出口 | Jackson/Spurling/肩引き下げ、Adson/Roos など | 頸椎症性神経根症、胸郭出口症候群、上肢への放散痛 | 頸部の整形外科テスト |
| 肩関節 | Apprehension、Speed/Yergason、Empty/Full Can など | 脱臼・動揺性、腱板損傷、インピンジメント、肩関節唇損傷 | 肩関節の整形外科テスト |
| 肘関節 | Tennis/Golf elbow テスト、中指伸展、内・外反ストレスなど | 上腕骨外側・内側上顆炎、側副靱帯損傷、肘部管症候群 | 肘関節の整形外科テスト |
| 手関節・手部 | Phalen、手根管部/ギヨン管の Tinel、Finkelstein など | 手根管症候群、狭窄性腱鞘炎、尺骨神経障害、末梢循環不全 | 手関節・手部の整形外科テスト |
| 胸椎・腰椎・骨盤 | Kemp、SLR/Lasègue、FNS、梨状筋テスト、SIJ テストなど | 腰椎椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、仙腸関節障害、坐骨神経痛 | 腰椎・骨盤周囲の整形外科テスト |
| 股関節 | Allis、Patrick(FABER)、Trendelenburg、Thomas/Ober など | 股関節脱臼/骨折、変形性股関節症、中殿筋機能低下、拘縮 | 股関節の整形外科テスト |
| 膝関節 | 膝蓋跳動、Apley、McMurray、Lachman、内・外反ストレスなど | 半月板損傷、ACL/PCL 損傷、側副靱帯損傷、膝蓋大腿関節障害 | 膝関節の整形外科テスト |
| 足関節・足部 | 前方引き出し、内・外反ストレス、Thompson、Tinel、Homans など | 足関節捻挫、三角靱帯損傷、アキレス腱断裂、足根管症候群、DVT | 足関節の整形外科テスト |
まずは、この表から「今日の症例で怪しい部位」と「確認したい病態」をざっくり当てはめ、そこから各部位の記事に飛んで細かい手順や禁忌・現場の詰まりどころを確認していく、という使い方を想定しています。
脊椎・上肢・下肢の 3 ブロックで整理する
整形外科的テストは数が多いため、脊椎系(頸椎〜腰椎/骨盤)・上肢系・下肢系 の 3 ブロックで整理すると覚えやすくなります。頸部は神経根症や胸郭出口症候群を疑うテストが中心で、腰椎・骨盤は神経根症状と仙腸関節・梨状筋など「どこ由来の坐骨神経痛か」を切り分ける役割が大きい領域です。
上肢では、肩関節 が脱臼・腱板・インピンジメント・関節唇など病態の幅が広く、肘関節・手関節・手部 は「局所の圧痛+誘発動作の再現」という発想でテストを組み合わせると整理しやすくなります。下肢では、股関節 が骨折・変形性変化・筋短縮の切り分け、膝関節 が半月板・靱帯・ PF 関節、足関節 が靱帯・アキレス腱・神経・血栓というように、各記事で軸となる病態を意識してもらえるよう構成しています。
現場の詰まりどころと「よくある間違い」
若手のうちにハマりやすいのは、①とりあえず全部のテストを一周してしまう ②テスト名を覚えることが目的化する ③レッドフラッグの感度が低い の 3 点です。整形外科テストは「疑っている病態」と「除外したい病態」を確認するための道具であり、漫然と全部行ってしまうと患者の負担が増えるだけで、臨床的な意思決定につながりません。
本ブログの各記事では、「まずこの 1〜2 個だけは押さえておこう」というミニマムセットと、「病態を深掘りするときに追加するテスト」を分けて整理しています。最初から完璧を目指すのではなく、問診と視診で仮説を立て → 最低限のテストで確認 → 必要に応じて追加 というリズムを意識すると、患者負担を抑えつつ診断仮説をブラッシュアップしやすくなります。
レッドフラッグと慎重投与が必要なテスト
整形外科的テストの中には、「ここで異常を見逃すと危険」 という意味でのレッドフラッグと、「テスト自体がやや強いストレスを伴う」 ため慎重投与が必要なものが混在しています。代表例として、頸椎の椎骨動脈テスト(Vertebral Artery Test)、下肢の DVT を疑う文脈での Homans 徴候、急性期の Lachman/Pivot Shift、アキレス腱断裂を疑う Thompson テストなどが挙げられます。
本ブログでは、これらのテストを「診断の決め手」としてではなく、あくまでリスクを疑うきっかけ として位置づけ、強いストレスを反復することは推奨していません。レッドフラッグを疑うサインがあれば、テストを追加するのではなく医師への報告と画像検査・採血などの検討を促す ことが、理学療法士に求められる役割です。頸部・腰部・足関節の記事では、このあたりの線引きをできるだけ具体的に記載しています。
評価結果を治療計画にどう落とし込むか
整形外科的テストの目的は、最終的には「安全に何をしてよいか/何を避けるべきか」 を決めることです。例えば、膝では「水腫が強い間は深屈曲+回旋は避ける」「 ACL 損傷で剪断ストレスの大きい動きは制限する」、股関節では「骨折が疑われるうちは荷重・強いストレッチは行わない」など、テスト結果をそのまま運動療法の Do/Don’t に翻訳していくイメージです。
各部位の記事では、代表的なテストごとに 「陽性なら何を控え、何から始めるか」 という視点で記載しています。本ハブを入り口に、気になる部位の記事を読みながら、自分なりの「評価 → 介入 → 再評価」のテンプレートを作っていくと、カンファレンスやカルテ記載もスムーズになります。
配布物・チェックシートの活用(働き方の整理にも)
整形外科的テストを体系的に学んでいくと、「この職場の体制だとここまでしか踏み込めないな」「手術前後の連携をもっとやりたいけど難しいな」など、環境による限界も見えてきます。症例を通じてスキルを磨くのと同時に、「どんなチーム・勤務形態なら自分の強みを活かしやすいか」を考えることも、バーンアウトを防ぐうえで重要です。
働き方を見直すときの抜け漏れ防止に。見学や情報収集の段階でも使える面談準備チェック( A4・ 5 分)と職場評価シート( A4 )を無料公開しています。印刷してそのまま使えます。ダウンロードページを見る。
おわりに
整形外科的テストは、「安全の確保 → 病態の整理 → 動作への翻訳 → 再評価」 というリズムを作るための言語ツールです。本ハブと各部位の記事を行き来しながら、まずは自分の得意領域(例:膝/足関節、頸椎・胸郭出口など)を 1 つ作り、そこから少しずつ守備範囲を広げていくイメージで学んでいくと、臨床での手応えも変わってきます。
面談準備チェックと職場評価シートも活用しつつ、「評価の精度」と「働きやすさ」を両輪で整えながら、整形外科領域に強いセラピストとしてのキャリアを少しずつ育てていきましょう。日々の気づきをカルテやカンファレンスで共有することが、患者さんのアウトカムとチーム全体のレベルアップにつながります。
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
整形外科的テストが多すぎて覚えられません。どこから手をつければよいですか?
最初から全テストを覚えようとせず、まずは「よく見る部位 × 1〜2 テスト」に絞るのがおすすめです。例えば、膝なら膝蓋跳動+ Lachman、足関節なら前方引き出し、肩なら Apprehension+ Empty Can など、各記事で示しているミニマムセットから始めます。症例を通じて「この病態ではもう少し深掘りしたい」と感じたときに、追加のテストを覚えていくほうが定着しやすくなります。
整形外科医の診断と、自分のテスト所見が合わないときはどうすればよいですか?
診断名とテスト所見がズレて見えるときは、「自分のやり方が標準とズレていないか」「評価したタイミング(急性期/慢性期)や疼痛の状況が違わないか」をまず振り返ります。そのうえで、カルテや画像を確認しながら「このテストではこう感じたのですが、先生はどう見ていますか?」と率直に共有すると、テストのコツや診断の考え方を学べる良い機会になります。合わないこと自体は珍しくないので、遠慮せず対話のきっかけにしましょう。
学生指導や新人教育で、整形外科的テストをどう教えればよいですか?
最初から手順ばかり教えると「形だけ上手いけれど、なぜやっているか分からない」状態になりがちです。まずは部位別の記事や本ハブの図表を使い、「この病態を疑うときはこの 1〜2 個から」「このテストが陽性なら何を避けるか」といった意思決定の流れから共有するのがおすすめです。そのうえで、実技練習ではポジショニング・力の方向・患者さんの表情の見方など、現場でつまずきやすいポイントを一緒に確認していくと、テストが「使える道具」として定着しやすくなります。
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

