言語聴覚士が行う評価の全体像【成人・脳血管障害編】

評価
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ST 評価のゴールとこの記事の位置づけ

本記事は、成人の脳血管障害(脳梗塞・脳出血など)を対象に、言語聴覚士( ST )が実施する評価の「全体像」を整理することを目的としています。失語・構音・嚥下・高次脳機能など個別の検査は多岐にわたりますが、現場では限られた時間で「安全の確保」と「コミュニケーション・生活再建」に直結する情報を優先的に集める必要があります。

ここでは、初期 24〜48 時間で押さえるべき 4 本柱と、その後の詳細評価の組み立て方を、若手 ST や多職種にもイメージしやすいようにまとめます。個々の検査のマニュアルではなく、「どのタイミングで・何を優先して・どうカンファレンスにつなげるか」というフローをつかむことがゴールです。

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初期 24〜48 時間で押さえる 4 本柱

急性〜回復期の入り口では、詳細な検査よりも「安全に関われるか」「今どこまでコミュニケーションが通じるか」を短時間で見極めることが重要です。そのために、初期 24〜48 時間では、意識・全般認知、失語・コミュニケーション、嚥下リスク、高次脳機能(注意・記憶・遂行)の 4 本柱をざっくりと押さえます。

具体的には、①意識レベル・見当識の確認、②呼名応答や簡単な口頭命令・発話の観察、③水飲み試験や唾液嚥下などによる嚥下スクリーニング、④簡便な課題(数字の保持・列挙・二重課題など)で注意機能を確認するといった流れです。そのうえで、「どこを深堀りするべきか」「どの検査を次のステップで選ぶか」を決めていきます。

失語・コミュニケーション評価:検査の選び方と組み立て

失語・コミュニケーションの評価では、標準化された検査と、日常場面に近い実用的な評価を組み合わせることがポイントです。標準失語検査(例: SLTA 系・ WAB 系など)は、聴く・話す・読む・書くを網羅的に把握できますが、所要時間が長く、急性期では全バッテリーを実施できないことも少なくありません。

そのため、初期は「呼名・復唱・単語レベルの理解」「自発話の有無と質」「読み書きのごく簡単な課題」など、短時間でおおまかなプロフィールをつかみます。状態が安定してきたら、標準化検査の中から優先すべき下位検査を選び、「日常コミュニケーションの支障(例:会話の順番が取れない・必要な情報が取り出せない)」と結びつけて解釈していくことが重要です。

また、実用コミュニケーションを評価する尺度では、電話・買い物・病棟での呼び出しなど具体的な場面を想定した課題が設定されていることが多く、復職や在宅生活を見据えたゴール設定に役立ちます。「標準検査での障害プロファイル」と「実生活での困りごと」を橋渡しする視点を意識しましょう。

構音・音声評価:聴覚的評価と簡便指標

構音障害や音声障害の評価では、まず「聞いた印象」と「発話器官の動き」を切り分けて整理することが大切です。話しことばの明瞭度、声の高さ・大きさ・持続性、話速やプロソディなどを聴覚的に観察しつつ、舌・唇・軟口蓋・下顎などの運動を視診・触診で確認します。

そのうえで、持続発声時間( MPT )、/pa-ta-ka/ などの連続発音、短い音読課題など簡便な指標を用いると、変化の追跡や他職種への共有がしやすくなります。異常所見をみつけたら、「構音器官の運動そのものの問題か」「音声の産生(発声・呼吸)の問題か」「高次の運動プログラミングの問題か」といったレベルで切り分けると、介入方針や専門的検査へのつなぎ方が整理しやすくなります。

嚥下スクリーニングと詳細評価へのつなぎ方

嚥下評価は「誤嚥のリスク管理」と直結するため、 ST 介入のごく早期から関わることが多い領域です。ベッドサイドでは、観察(口腔内清潔度・分泌物・声の性状)、唾液嚥下の有無、簡便な水飲み試験などを組み合わせ、現時点で経口摂取を安全に試みてよいか、どの程度の形態が適切かを検討します。

同時に、「画像検査( VF・ VE )の適応があるか」「姿勢調整や一時的な栄養ルート変更が必要か」などを、主治医・看護師・栄養士と共有することが重要です。詳細な段階評価や食形態の設定は、既存のガイドラインや施設プロトコルに沿って進めつつ、「どの条件なら安全に食べられるか」「どこから危険信号が出るか」を明確にして記録に残すことが求められます。

高次脳機能障害に対する ST 評価と多職種連携

脳血管障害では、失語や構音障害に加え、注意障害・記憶障害・遂行機能障害などの高次脳機能障害がしばしば併存します。これらはコミュニケーションや食事、更衣・移動などの ADL に大きく影響するため、「評価の有無」ではなく「どの程度ありそうか」という視点で早期からスクリーニングしておくことが大切です。

具体的には、覚醒レベルや注意の持続、二重課題での破綻、指示理解の持続性、予定の自己管理や段取りの可否などを、会話・課題・日常場面の観察から総合的に捉えます。詳細な神経心理検査は OT・臨床心理士と役割分担しつつ、 ST は「コミュニケーション・食事・家族とのやり取りにどのような影響が出ているか」に焦点を当てて整理し、多職種カンファレンスで共有することが重要です。

評価結果をカンファレンスと家族説明に落とし込むコツ

ST 評価は、実施して終わりではなく、チームと家族に「どのように伝えるか」で価値が大きく変わります。専門用語や点数だけを並べるのではなく、「今できていること」「今は難しいこと」「工夫すればできるようになる可能性があること」を、具体的な行動レベルに変換して伝えることがポイントです。

例えば失語であれば、「はい・いいえで答えられる質問なら伝わりやすい」「選択肢を 2 つに絞ると伝わりやすい」といった形で、家族がすぐ試せる工夫を提示します。嚥下であれば、「この姿勢・この食形態なら比較的安全」「この状態なら中止すべきサイン」といった、現場での判断の目安を共有します。こうした「具体的な使い方」まで落とし込むことで、評価結果が日々のケアに生きるようになります。

現場の詰まりどころ(よく迷うポイント)

若手 ST が悩みやすいのは、「すべての検査をきちんとやらなければ」と考えてしまい、時間的・体力的に患者さんの負担が大きくなってしまうケースです。実際には、急性期の不安定な時期にフルバッテリーを行う必要はなく、「安全確認と方針決定に必要な最小限の情報」を優先して集めることが臨床的には重要です。

もう一つは、「結果をどう解釈して、どのように介入につなげるか」で詰まりやすい点です。例えば、失語の評価結果を見ても、「具体的にどんなコミュニケーション支援をすればよいのか」がイメージできないと、レポートが「点数の羅列」で終わってしまいます。評価用紙を埋めることが目的化していないかを振り返り、「この結果をもとに、明日から何を変えるのか」という視点で記録やカンファレンス内容を組み立てることが大切です。

おわりに(評価フローを運用に落とす)

ST 評価は、失語・構音・嚥下・高次脳機能と領域が広く、すべてを完璧に網羅しようとすると、どうしても「手続き」が中心になりがちです。まずは本記事で示したように、初期 24〜48 時間で押さえる 4 本柱を意識しつつ、「安全確認 → 情報収集 → 多職種共有 → 方針修正」というリズムを作ることが、臨床で疲弊しないための第一歩になります。

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著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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よくある質問

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Q. 初期評価で、失語・構音・嚥下・高次脳機能のどこから手をつけるべきですか?

A. まずは「安全」に直結する嚥下と意識・注意レベルを優先し、そのうえでコミュニケーション(失語・構音)の大枠を把握する流れがおすすめです。意識や注意が不安定な状態では、詳細な言語検査を行っても正確な結果が得られにくいため、「今はどこまで関われるか」「誤嚥リスクはどうか」を先に確認し、状態安定後に標準化検査で細かく評価するのが現実的です。

Q. 急性期で標準化検査をほとんど実施できない場合、どう記録すればいいですか?

A. 無理に全バッテリーを行う必要はありません。観察や短時間の課題で得られた情報から、「聞き取りやすさ」「単語レベルの理解の有無」「簡単な Yes / No の正確さ」「唾液や水分の嚥下の様子」「注意の持続性」など、臨床判断に必要なポイントを文章で整理しましょう。そのうえで、「現在は状態不安定のため詳細評価は後日予定」と明記しておくと、チームにも意図が伝わりやすくなります。

Q. ST 評価結果を多職種カンファレンスでうまく共有するコツはありますか?

A. 点数や専門用語だけでなく、「今できていること」「今は難しいこと」「工夫すればできそうなこと」の 3 点を、具体的な行動レベルで示すことがポイントです。例えば「短い文なら理解できるが、長い説明では途中で情報が抜ける」「とろみ付きであれば安全に飲めるが、水分単独はむせやすい」など、看護師や介護職がその場でイメージしやすい表現を心がけると、ケア内容の統一につながります。

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