嚥下スクリーニング検査は目的で選び、陰性だけで安全と判断しない
嚥下評価全体の順番を先に確認する
嚥下スクリーニング検査は、摂食嚥下障害や誤嚥の可能性がある人を拾い上げ、詳しい評価や対応へつなぐための検査です。結論として、RSST、MWST、WST、EAT-10、GUSS、V-VSTにはそれぞれ異なる目的があり、全例で同じ順番に実施するものではありません。
本記事では、各検査の感度・特異度、適する場面、限界、中止判断を比較します。個別の採点や実施手順ではなく、「何を知りたいときに選ぶか」「陰性・陽性をどう解釈するか」「どの段階で精査へつなぐか」を整理したい医療従事者向けの記事です。
感度・特異度は検査名だけでなく対象とプロトコルを確認する
感度は障害や誤嚥がある人を陽性として拾える割合、特異度は障害や誤嚥がない人を陰性と判定できる割合です。感度が高い検査でも、陰性だけで安全を確定できるとは限りません。また、特異度が低い検査では、陽性者の中に実際には誤嚥していない人も含まれます。
嚥下スクリーニングの数値は、対象疾患、使用した水量・粘度、陽性基準、比較対象がVEかVFかによって変わります。異なる研究の数値を単純に順位付けせず、その検査が何を対象に検証されたかまで確認します。
※表は横にスクロールできます。
| 検査・方法 | 報告された感度 | 報告された特異度 | 解釈上の注意 |
|---|---|---|---|
| EAT-10 | 0.92 | 0.68 | 自覚症状を確認する質問紙。客観的な嚥下評価や食形態決定の代わりにはならない |
| RSST | 0.98 | 0.66 | 嚥下惹起と反復性を確認する。指示理解や口腔乾燥の影響を受け、誤嚥を直接観察する検査ではない |
| MWST 冷水3mL |
1.00 | 0.71 | カットオフ4点とした報告。少量でも不顕性誤嚥を完全に除外できるわけではない |
| 単回嚥下 1~5mL |
0.71 | 0.90 | 水飲みテストのメタ解析値。MWST固有の数値とは限らない |
| 連続嚥下 90~100mL |
0.91 | 0.53 | 感度は高いが特異度は低め。30mL水飲みテストと同じプロトコルではない |
| 漸増法 2~90mL |
0.86 | 0.65 | 施設独自の水量増加ではなく、検証されたプロトコルに従う必要がある |
| GUSS | 1.00 | 0.50~0.69 | 原著の急性期脳卒中患者における小規模標本の結果。別疾患へそのまま適用しない |
| V-VST | 0.91 | 0.28 | 量と粘度を変えて安全性・効率を観察する。陽性だけで食形態を確定する検査ではない |
上記は代表的な研究・学会資料に示された値です。対象集団と判定基準が異なるため、検査同士の優劣を直接示す数字ではありません。数値は「陰性ならどこまで安心できるか」「陽性後に追加評価が必要か」を考える材料として使います。
目的別の使い分け|何を知りたいかで検査を選ぶ
検査は「簡単だから」「前回も使ったから」ではなく、今回確認したい問題に合わせて選びます。すべての検査を順番に実施する必要はありません。

※表は横にスクロールできます。
| 検査 | 主な目的 | 向く場面 | 分からないこと | 陽性・異常時の対応 |
|---|---|---|---|---|
| EAT-10 | 嚥下に関する自覚症状を拾う | 本人が症状を回答できる外来・入院・在宅 | 誤嚥の有無、食形態の安全性 | 問診、観察、ベッドサイド評価を追加する |
| RSST | 空嚥下の惹起性と反復性をみる | 水や食物を用いる前の情報が必要な場面 | 液体・食物嚥下時の誤嚥や咽頭残留 | 他の所見と統合し、必要な追加評価を選ぶ |
| MWST | 冷水3mLに対する嚥下反応をみる | 少量水で標準化された評価を行える場面 | 食事全体の安全性、不顕性誤嚥の完全な除外 | 異常所見があれば現在の試行を中止し、包括的評価へつなぐ |
| 30mL WST | 30mLの飲み方、所要時間、むせをみる | プロトコルを実施できる状態で、飲水パターンを確認したい場面 | 3 ozテストや100mLテストと同一の診断精度 | プロフィールと臨床所見を統合し、必要時は精査する |
| 3 ozテスト | 約90mLの連続飲水時の気道反応をみる | 検証された連続飲水プロトコルを採用している施設 | 30mL WSTやMWSTと同じ判定 | 異常反応があれば中止し、専門的な嚥下評価へつなぐ |
| GUSS | 急性期脳卒中で段階的に嚥下リスクを評価する | 訓練された評価者が規定の手順で運用できる場面 | 他疾患における同等の妥当性 | 規定の重症度分類と院内フローに従う |
| V-VST | 量と粘度による安全性・効率の変化をみる | 複数条件を標準化して観察できる場面 | 咽頭残留や誤嚥の詳細な部位・機序 | 必要に応じてVE・VFなどの精査へつなぐ |
検査選択の5ステップ|一律に負荷を上げない
安全な進め方は、すべての患者に「RSST→MWST→WST」を実施することではありません。実施可否と評価目的を確認し、必要な検査だけを選びます。
- 実施可否を確認する:覚醒、呼吸状態、唾液管理、姿勢保持、指示理解、拒否の有無を確認します。
- 何を知りたいか決める:自覚症状、空嚥下、少量水への反応、連続飲水、量・粘度の影響のどれを確認するか明確にします。
- 検証された方法を1つ選ぶ:水量、温度、注入位置、判定基準を独自に混ぜず、採用したプロトコルに従います。
- 異常所見が出たら現在の試行を止める:確認のために同じ負荷を繰り返さず、呼吸と全身状態を優先します。
- 結果を他の情報と統合する:既往、肺炎歴、声、咳、痰、食事観察、栄養状態を確認し、必要に応じてST・医師・歯科医師への相談やVE・VFへつなぎます。
MWSTが良好であっても、30mL WSTや3 ozテストを必ず追加するわけではありません。反対に、RSSTが不良でも食物嚥下が同じように不良とは限りません。各検査は結果を足し算するのではなく、異なる側面を確認する情報として扱います。
実施を見送る条件と中止時の対応
スクリーニングは、実施することより「今日は実施しない」「現在の試行を止める」と判断できることが重要です。施設の手順、職種ごとの役割、主治医の指示がある場合は、それらを優先します。
※表は横にスクロールできます。
| 状況 | 判断 | その場の対応 | 記録する内容 |
|---|---|---|---|
| 覚醒低下、急な意識変化、指示理解が成立しない | 検査の実施を見送る、または判定不能とする | 全身状態の確認とチームへの報告を優先する | 覚醒状態、理解できなかった指示、判定不能理由 |
| 安静時から呼吸苦、努力呼吸、チアノーゼがある | 水・食物を用いる検査を開始しない | 呼吸状態の安定化と医学的評価を優先する | 呼吸数、呼吸様式、SpO2、酸素投与条件 |
| 唾液を保持できない、口腔・咽頭分泌物が多い | 経口試行を見送る | 口腔ケア、吸引を含む分泌物管理、専門職への相談を行う | 唾液流出、湿性音、吸引の要否と量 |
| 強いむせ、窒息様反応、咳が持続する | 現在の試行を直ちに中止する | 気道と呼吸を確認し、施設の急変対応手順に従う | 水量・性状、体位、出現時点、回復までの経過 |
| 湿性嗄声、呼吸切迫、新たな呼吸状態悪化 | その検査の異常所見として扱い、追加負荷を行わない | 状態を再確認し、包括的な嚥下評価へつなぐ | 声質、呼吸、咳払い後の変化、報告先 |
| SpO2低下 | 呼吸状態の悪化を伴う場合は中止する。ただし一定割合の低下だけで誤嚥を判定しない | 測定状態と全身状態を確認し、呼吸管理を優先する | ベースライン、酸素条件、波形・脈拍、低下量、回復時間 |
SpO2は呼吸状態を把握する補助情報です。低下がなくても誤嚥は否定できず、低下があっても誤嚥が原因とは限りません。「2%または3%低下したから誤嚥」と単独で判断しないことが重要です。
よくある失敗|検査結果を安全判断へつなぐ
嚥下スクリーニングで起こりやすい問題は、検査の選択よりも、異なるプロトコルを混ぜることと、陽性・陰性を確定診断のように扱うことです。
※表は横にスクロールできます。
| よくある失敗 | 問題点 | 修正方法 |
|---|---|---|
| MWST、30mL WST、3 ozテストを同じ検査として扱う | 水量、飲み方、判定基準、診断精度が異なる | 検査名と水量を記録し、採用したプロトコルを混在させない |
| すべての患者に低負荷から高負荷まで実施する | 不要な経口負荷を加える可能性がある | 実施可否と目的を確認し、必要な検査だけを選択する |
| むせがなければ陰性と判断する | 不顕性誤嚥や咽頭残留を見逃す可能性がある | 声、呼吸、咳、分泌物、既往、食事場面を含めて統合する |
| SpO2の低下率だけで誤嚥を判定する | 誤嚥との関連が一定せず、偽陰性・偽陽性が生じる | 呼吸状態の監視には使うが、誤嚥判定は他所見と組み合わせる |
| スクリーニング結果だけで食形態を決める | 嚥下の効率、残留、誤嚥の機序、食事全体の耐久性が分からない | 包括的評価、食事観察、必要時のVE・VFを含めて方針を決める |
| 異常所見を確認するため同じ負荷を繰り返す | 誤嚥や呼吸状態悪化のリスクを重ねる | プロトコルで再試行が定められ、実施条件が保たれている場合を除き追加負荷を避ける |
嚥下スクリーニング記録シート(PDFダウンロード付き)
検査結果を比較できるようにするには、点数だけでなく「どの検査を、どの条件で行ったか」を残す必要があります。記録シートには、患者基本情報、事前チェック、実施検査、所見、判断、次の対応、再評価条件をA4一枚で記録できます。
PDFプレビューを開く
再評価では、検査名、水量・性状、体位、覚醒、呼吸状態、酸素投与条件をそろえます。条件が変わった場合は、結果の変化が嚥下機能によるものか、評価条件によるものか区別できるように記録してください。
よくある質問(FAQ)
各項目名をタップすると回答が開きます。
Q1. 最初に実施する検査はRSSTでよいですか?
A. RSSTは水や食物を使わずに嚥下惹起と反復性を確認できますが、全例で最初に行う決まりではありません。自覚症状を確認したい場合は質問紙、急性期脳卒中で施設プロトコルがある場合はGUSSなど、目的と患者状態に合わせて選びます。
Q2. スクリーニングが陰性なら誤嚥なしと判断できますか?
A. 判断できません。スクリーニングは誤嚥や嚥下障害の可能性を拾い上げる検査であり、確定診断ではありません。陰性でも、湿性嗄声、痰の増加、肺炎の反復、食後の呼吸変化、体重減少などがある場合は追加評価を検討します。
Q3. MWSTが良好なら30mL WSTへ進むべきですか?
A. 必須ではありません。MWSTと30mL WSTは目的と判定方法が異なります。連続飲水の情報が臨床判断に必要で、実施条件が整っている場合に限って、採用しているプロトコルに従って実施します。
Q4. 30mL WSTと3 oz水飲みテストは同じですか?
A. 同じではありません。日本で用いられる30mL水飲みテストは飲み方、むせ、所要時間を評価します。3 ozテストは約90mLの連続飲水を用いる別のプロトコルです。水量や判定基準を混在させないでください。
Q5. SpO2が2%または3%低下したら誤嚥ですか?
A. SpO2低下だけでは誤嚥と判断できません。低下がなくても誤嚥は起こり得ます。SpO2は呼吸状態を監視する補助情報として使い、むせ、声質、呼吸、咳、全身状態と組み合わせて判断します。
Q6. EAT-10だけで食形態を変更できますか?
A. EAT-10は自覚症状を確認する質問紙であり、食形態を決める検査ではありません。ベッドサイド所見、食事観察、既往、栄養状態、必要に応じたVE・VFなどを含めて判断します。
次の一手
MWSTと30mL水飲みテストの具体的な準備、手順、採点、記録方法を確認する場合は、各論記事へ進んでください。
院内で手順や相談体制を標準化できない場合のみ
教育体制や人員配置など、評価手順以外の職場環境にも課題がある場合は、職場環境チェックシートまたはPTキャリアガイドを確認してください。
参考文献
- 日本摂食嚥下リハビリテーション学会医療検討委員会.摂食嚥下障害の評価2019.学会資料PDF
- Brodsky MB, Suiter DM, González-Fernández M, et al. Screening accuracy for aspiration using bedside water swallow tests: a systematic review and meta-analysis. Chest. 2016;150(1):148-163. DOI: 10.1016/j.chest.2016.03.059 / PubMed: 27102184
- Oguchi K, Saitoh E, Mizuno M, et al. The Repetitive Saliva Swallowing Test (RSST) as a screening test of functional dysphagia. Jpn J Rehabil Med. 2000;37(6):383-388. DOI: 10.2325/jjrm.37.383
- Belafsky PC, Mouadeb DA, Rees CJ, et al. Validity and reliability of the Eating Assessment Tool (EAT-10). Ann Otol Rhinol Laryngol. 2008;117(12):919-924. DOI: 10.1177/000348940811701210 / PubMed: 19140539
- Rofes L, Arreola V, Mukherjee R, Clavé P. Sensitivity and specificity of the Eating Assessment Tool and the Volume-Viscosity Swallow Test for clinical evaluation of oropharyngeal dysphagia. Neurogastroenterol Motil. 2014;26(9):1256-1265. DOI: 10.1111/nmo.12382 / PubMed: 24909661
- Trapl M, Enderle P, Nowotny M, et al. Dysphagia bedside screening for acute-stroke patients: the Gugging Swallowing Screen. Stroke. 2007;38(11):2948-2952. DOI: 10.1161/STROKEAHA.107.483933 / PubMed: 17885261
- Clavé P, Arreola V, Romea M, et al. Accuracy of the volume-viscosity swallow test for clinical screening of oropharyngeal dysphagia and aspiration. Clin Nutr. 2008;27(6):806-815. DOI: 10.1016/j.clnu.2008.06.011 / PubMed: 18789561
- Britton D, Roeske A, Ennis SK, et al. Utility of pulse oximetry to detect aspiration: an evidence-based systematic review. Dysphagia. 2018;33(3):282-292. DOI: 10.1007/s00455-017-9868-1 / PubMed: 29243086
- Oguchi N, Yamamoto S, Terashima S, et al. The modified water swallowing test score is the best predictor of postoperative pneumonia following extubation in cardiovascular surgery: a retrospective cohort study. Medicine (Baltimore). 2021;100:e24478. DOI: 10.1097/MD.0000000000024478 / PubMed: 33530263
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設しました。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

