人工呼吸器離脱でPTが担うのは「離脱可否の決定」ではなく判断材料をそろえることです
人工呼吸器離脱で理学療法士(PT)が担うのは、SBTや抜管の可否を単独で決めることではありません。重要なのは、SBT前後の呼吸反応、咳嗽・分泌物、離床時の耐性、抜管後の呼吸仕事量や上気道所見を確認し、チームが判断できる情報として返すことです。
この記事では、ICU〜急性期病棟で人工呼吸器管理中の成人患者を想定し、SBT前 → SBT前後 → 抜管前 → 抜管後 → 共有の順に、PTが何を見るかを整理します。人工呼吸器設定やSBTそのものの実施基準ではなく、PTがベッドサイドで得られる「負荷をかけたときの反応」に焦点を当てます。
呼吸評価全体の順番から確認したい場合はこちら
最初に結論:PTはSBT前後から抜管後まで5段階で見る
人工呼吸器離脱に関わるPT評価は、項目を増やすより見る順番を固定する方が実務で使いやすくなります。以下は公式の人工呼吸器離脱プロトコルそのものではなく、ガイドラインや離脱プロトコルを踏まえてPT業務へ落とし込んだ実務上の整理です。
| 段階 | PTが見ること | チームへ返すこと |
|---|---|---|
| 1. SBT前 | 覚醒、酸素化・循環、呼吸様式、分泌物、咳嗽 | 離床や運動を行ったときの安定性 |
| 2. SBT前後 | RR、SpO2、呼吸仕事量、会話・表情、疲労 | 自発呼吸負荷で何が変わったか |
| 3. 抜管前 | 咳嗽、分泌物、吸引の必要性、気道防御に関わる所見 | SBTの成否以外に残る懸念 |
| 4. 抜管後 | 呼吸仕事量、嗄声・喘鳴、喀出、離床時反応 | 抜管前から何が変化したか |
| 5. 共有 | 数値、実施場面、変化、回復 | 次回開始条件と相談が必要な所見 |
ポイントは「安静時の数値」だけで終わらせないことです。端坐位・立位など一定の負荷を加えたときに、呼吸・循環・疲労・喀出がどう変化するかまで確認すると、PTが提供できる情報の価値が高まります。

人工呼吸器離脱前後のPT評価・共有チェックシート
記事内の5段階をベッドサイドで確認しやすいように、「人工呼吸器離脱前後|PT評価・共有チェックシート」としてA4縦1ページにまとめました。SBT前、SBT前後、抜管前、抜管後、30秒共有までを同じ順番で確認できます。
Excel版は院内の運用に合わせて編集したい場合、PDF版はそのまま印刷・閲覧したい場合に使用してください。チェックシートは人工呼吸器離脱や抜管の可否を判定するものではありません。施設の離脱・離床基準を優先し、PTが評価した所見を整理・共有する補助資料として使用してください。
人工呼吸器離脱前後|PT評価・共有チェックシート
SBT前 → SBT前後 → 抜管前 → 抜管後 → 共有をA4縦1ページで確認できます。
SBT前後:RSBIだけではなく「自発呼吸に変わったときの反応」を見る
SBT前後では、RSBIなど単独の指標だけで判断せず、自発呼吸の負荷が増えたときに患者全体がどう反応したかを確認します。AARCの2024年ガイドラインでは、SBTを開始できるか判断するためにRSBIの計算は必須ではないとされています。3
PTとして価値が高いのは、SBTの合否を判定することではなく、呼吸仕事量、離床時の反応、疲労、咳嗽・分泌物など、SBTの数値だけでは分かりにくい情報をチームへ返すことです。
| 領域 | 確認すること | 共有したい変化 |
|---|---|---|
| 呼吸 | RR、呼吸様式、努力呼吸、胸腹部の動き | 自発呼吸で努力呼吸が増えたか |
| 酸素化 | SpO2と酸素条件 | 同じ条件で低下・回復がどう変わったか |
| 循環 | HR、BP、冷汗、顔色 | 自発呼吸や離床で循環反応が悪化したか |
| 疲労 | 表情、会話、運動継続可否 | 負荷後に回復できるか |
| 喀出 | 咳嗽、分泌物、吸引の必要性 | 痰を自力で移動・喀出できるか |
「SBTは実施できたが、端坐位では急に努力呼吸が増える」「安静時は安定しているが、分泌物が多く自力喀出が難しい」といった情報は、PTだから得やすい判断材料です。
離床負荷:開始・中断は施設基準を優先し、変化を縦に比較する
人工呼吸器管理中の離床は、PT独自の一律閾値で開始・中止を決めるのではなく、施設の安全基準と多職種の判断を優先します。J-ReCIP 2023では、重症患者のリハビリテーションについて開始基準と中止基準が個別のClinical Questionとして扱われており、呼吸・循環・意識・デバイスなどを含めた安全確認が重要です。2
本記事で重視するのは、基準値を再掲することではなく、同じ条件で反応を比較できるようにすることです。
| そろえる条件 | 記録する内容 | 次回比較 |
|---|---|---|
| 呼吸条件 | 酸素投与・人工呼吸器条件など | 前回と条件が同じか |
| 開始状態 | 覚醒、体位、安静時バイタル | 開始前から差がないか |
| 負荷 | 端坐位・立位・移乗・歩行、時間・距離 | 何を増やしたか |
| 反応 | RR、SpO2、HR、BP、症状、努力呼吸 | 悪化と回復の程度 |
実務上のコツ:前回との比較をしやすくするため、負荷を上げる場合は時間・回数・距離など、どの要素を変更したかを明確にします。これは公式基準ではなく、PT記録を縦比較しやすくするための運用上の整理です。
具体的な開始・中止・再開条件まで確認したい場合は、ICUリハ安全管理SOPで安全管理を分けて確認してください。
抜管前:SBT成功後も「咳嗽・分泌物・気道防御」は別に確認する
SBTに成功したことと、抜管後も安定して呼吸・気道管理を続けられることは同じではありません。抜管判断では、自発呼吸が維持できるかだけでなく、気道を保護できるか、分泌物を処理できるかなどをチームで確認します。14
PTは抜管可否を単独で決定するのではなく、日々の介入から得た咳嗽・分泌物・離床時の呼吸反応を判断材料として共有します。
| 項目 | 確認例 | 共有例 |
|---|---|---|
| 咳嗽 | 自発的に咳ができるか、痰が移動するか | 体位変換後に咳嗽あり、自力喀出は一部可能 |
| 分泌物 | 量、性状、吸引の必要性、その変化 | 分泌物が多く、介入中も吸引を要した |
| 離床反応 | 端坐位・立位での呼吸仕事量や疲労 | 端坐位ではRR上昇するが休息で回復 |
| 覚醒・協力 | 指示理解、咳嗽への協力、危険行動 | 指示理解良好、随意咳嗽可能 |
抜管後喘鳴の高リスク患者では、抜管条件を満たしたうえで医療チームがcuff leak testを検討する場合があります。4 これはPTが独自に抜管適応を判定するための検査ではありません。
抜管後:SpO₂だけでなく「呼吸仕事量・上気道・喀出」の変化を見る
抜管後は、SpO2が保たれているかだけでなく、呼吸仕事量、呼吸数、嗄声・喘鳴、咳嗽・喀出、意識状態の変化を確認します。異常が出た場合は、離床を進めることより医師・看護師などへの速やかな共有を優先します。
観察時刻を「15分・30分・60分」と一律に固定するのではなく、施設の抜管後観察プロトコルに沿って経時変化を残すことが重要です。
| 見ること | 確認ポイント | 対応 |
|---|---|---|
| 呼吸仕事量 | RR、努力呼吸、会話可否、疲労 | 抜管前と比較して悪化していないか共有 |
| 上気道 | 嗄声、喘鳴、呼吸困難 | 新規・増悪なら速やかに報告 |
| 喀出 | 咳嗽、痰の移動、自力喀出 | 分泌物貯留が増えていないか確認 |
| 嚥下関連 | 嚥下障害を疑う変化の有無 | 施設の嚥下スクリーニング・評価フローへ共有 |
| 離床 | 座位・立位で呼吸状態が崩れないか | 安静時だけで負荷を上げない |
重症患者では嚥下障害も評価課題となり、J-ReCIP 2023でも発生頻度やスクリーニング、嚥下機能に関わるリハビリテーションがClinical Questionとして扱われています。2 疑わしい変化があればPTだけで経口摂取可否を判断せず、施設の運用に沿って看護師・言語聴覚士・医師などへつなぎます。
共有:PTは「数値 × 場面 × 変化 × 次の一手」で伝える
人工呼吸器離脱のチーム共有では、「問題なさそう」「少しきつそう」といった印象だけでは再現できません。PTからは、どの条件で、何をしたときに、何がどう変わったかを短く伝えます。
| 項目 | 共有例 |
|---|---|
| 条件 | 覚醒良好、現在の呼吸・酸素条件で実施 |
| 離床 | 端坐位10分から立位まで実施 |
| 反応 | 端坐位でRR上昇あり、SpO2は維持、休息で回復 |
| 喀出 | 体位変換後に咳嗽あり、痰の自力喀出は一部可能 |
| 抜管後 | 努力呼吸の増悪なし、喘鳴なし、嗄声あり |
| 次の一手 | 同条件で離床を継続し、呼吸仕事量と喀出を再確認 |
記録では「端坐位で」「立位直後に」「休息後に」など場面を添えることが重要です。数値だけよりも、次回担当者が同じ条件を再現しやすくなります。
よくある失敗:SBTの結果だけでPT評価を終わらせない
人工呼吸器離脱前後のPT介入で避けたいのは、検査値や安静時バイタルだけを見て、実際の活動時反応を残さないことです。
| NG | 問題 | 修正 |
|---|---|---|
| RSBIだけを見る | 患者全体の耐性を拾えない | 呼吸仕事量・疲労・喀出・離床反応を追加する |
| SBT成功=抜管可能と考える | 気道防御や分泌物の問題を見落とす | 咳嗽・分泌物などを別に共有する |
| SpO2だけで抜管後を見る | 努力呼吸や上気道所見を取りこぼす | RR、呼吸様式、嗄声・喘鳴も確認する |
| 毎回違う負荷で離床する | 改善・悪化を比較できない | 条件と変更した負荷を記録する |
よくある質問
Q1. RSBIが良ければSBTや抜管は問題ないと考えてよいですか?
いいえ。RSBIは離脱評価で用いられてきた指標ですが、AARC 2024ではSBTを開始できるか判断するためにRSBIを計算することは必須ではないとされています。SBT前後の呼吸反応や、その後の気道防御・分泌物なども含めてチームで判断します。
Q2. SBTが成功した患者でPTが追加して見ることは何ですか?
咳嗽、分泌物、吸引の必要性、離床時の呼吸仕事量や疲労などです。PTは抜管可否を決めるのではなく、日々の運動・離床で得られた情報をチームへ返します。
Q3. 抜管後にPTが最優先で見ることは何ですか?
呼吸仕事量、RR・SpO2、嗄声・喘鳴、咳嗽・喀出、離床での変化です。新規の喘鳴や強い呼吸困難などがあれば、運動を進めず速やかにチームへ共有します。
Q4. 人工呼吸器管理中の離床開始・中止基準はこの記事だけで判断できますか?
できません。開始・中止基準は病態や人工呼吸器条件、循環、意識、デバイスなどを含めて総合判断します。施設の基準を優先し、本記事は離脱前後にPTが何を評価・共有するかを整理する目的で使用してください。
次の一手
- 開始・中止・再開の安全基準をそろえる:ICUリハ安全管理SOP
- 離床の最高到達レベルを共通言語にする:IMS(ICU Mobility Scale)の使い方
参考文献
- 日本集中治療医学会,日本呼吸療法医学会,日本クリティカルケア看護学会.人工呼吸器離脱に関する3学会合同プロトコル.2015.公式PDF
- 日本集中治療医学会 集中治療早期リハビリテーション委員会.日本版重症患者リハビリテーション診療ガイドライン2023(J-ReCIP 2023).公式PDF
- Roberts KJ, Goodfellow LT, Battey-Muse CM, et al. AARC Clinical Practice Guideline: Spontaneous Breathing Trials for Liberation From Adult Mechanical Ventilation. Respir Care. 2024;69(7):891-901. doi: 10.4187/respcare.11735 / PubMed: 38443142
- Girard TD, Alhazzani W, Kress JP, et al. An official American Thoracic Society/American College of Chest Physicians clinical practice guideline: liberation from mechanical ventilation in critically ill adults. Am J Respir Crit Care Med. 2017;195(1):120-133. doi: 10.1164/rccm.201610-2075ST / PubMed: 27762595
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

