片麻痺上肢の作業療法評価|FMA・ARAT・WMFTの選び方と最小セット
片麻痺上肢の OT 評価でいちばん迷いやすいのは、尺度の数が多いことではなく、この症例で何を主軸にして、どこまで測れば次の介入が決まるかが曖昧なことです。結論からいうと、まず「回復を追いたいのか」「作業を変えたいのか」を分け、そのうえで 機能+活動 を最小セットで組むと、評価が増えすぎず、再評価もブレにくくなります。
このページは、脳卒中の片麻痺上肢に対して FMA・ARAT・WMFT・巧緻性テストをどう選ぶか に絞って整理した親記事です。各尺度の細かな採点手順や、NHPT / Purdue の運用条件、利き手交換や ADL 観察の各論は子記事へ分け、ここでは 選定 → 最小セット → 記録の型 が決まる構成にしています。
同ジャンル回遊(最短導線):まず「比較」→「OT の総論」→「作業観察」の順に辿ると、上肢評価の迷いが減ります。
上肢評価の比較表を見る何を変えたいかで決まる|最初に「回復」と「作業」を分ける
片麻痺上肢の評価は、同じ「麻痺」でも、①運動麻痺の回復(随意性・分離)、②物品操作の実用度(把持・つまみ・到達)、③巧緻性(速さ・精度・両手協調)、④実生活での使用条件 で見る層が変わります。最初に「今回の意思決定でどの層が必要か」を決めると、評価が増えすぎません。
OT では、点数を更衣・食事・書字・家事・復職課題のような作業へ翻訳して共有する必要があります。そのため、機能だけでも、作業観察だけでも足りず、症例のフェーズと目標に応じて “ 最小セット ” を組むことが大切です。
※以下の表は横にスクロールできます。
| 層 | 知りたいこと | 代表スケール例 | OT の次の判断 |
|---|---|---|---|
| 機能(運動麻痺) | 随意性の回復段階/分離の出方 | FMA-UE(必要なら BRS) | 回復を追うか、代償を強めるかの見通し |
| 活動(物品操作) | 把持・つまみ・到達の実用度 | ARAT/WMFT | どの動作を伸ばすと作業が変わるかの特定 |
| 巧緻性(速度・精度) | 指先操作の速さ/左右差/両手協調 | NHPT/Purdue Pegboard | 書字・ボタン・スマホなど細かい作業の予測 |
| 作業(実生活での使用) | 実際に日常で使えているか/条件は何か | 更衣・食事などの作業観察 | 環境調整・道具・手順・片手戦略の意思決定 |
5 分で決まる|選定→実施→記録→再評価の型
忙しい現場ほど、評価は「増やす」より 止まらない型 が大切です。最初に目的と条件を固定しておくと、担当交代や新人教育でも再現しやすくなります。
ポイントは、全部測ることではなく、今の意思決定に必要な 2〜3 本を同条件で回すことです。点数を取ったら終わりではなく、「どの作業にどうつながるか」を 1 行で残すところまでを評価と考えると、カンファで説明しやすくなります。
- 目的を 1 行で固定:例)「更衣(上衣)で麻痺手が支える役割まで狙う」
- 層を決める:機能を追うのか、活動を追うのか、巧緻性を足すのかを決める
- 最小セットを選ぶ:下の表から 2〜3 本に絞る
- 条件固定:姿勢・支持・用具・合図・例外ルールを記録欄に残す
- 点数→作業を 1 行で書く:カンファでそのまま使える形にする
- 再評価時点を固定:入院時/ 2 週/ 4 週/退院前など病棟ルールに合わせる
ダウンロード|片麻痺上肢評価 5 分フロー記録シート
記事の内容をそのまま現場で回しやすいように、選定 → 条件固定 → 最小評価 → 次の一手 → 再評価ポイント を 1 枚で書ける PDF を用意しました。担当交代時の共有や、カンファ前の整理にも使いやすい構成です。
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迷ったらここで決める|FMA を軸に、ARAT か WMFT を 1 本足す
迷ったときの基本は、FMA-UE で回復の質を見るか、ARAT / WMFT で作業に近い変化を見るかを先に分けることです。急性期〜回復期前半は FMA が主軸になりやすく、作業の変化まで見たい回復期以降は ARAT か WMFT を 1 本足すと整理しやすくなります。
ARAT は「できる / できない」の課題遂行に寄せて見やすく、WMFT は時間と質の変化を追いやすいのが実務上の違いです。さらに、書字・ボタン・スマホ・復職など細かな作業がテーマになった時点で、NHPT や Purdue を追加します。
| スケール | 何がわかるか | 向くフェーズ | OT の次の一手 |
|---|---|---|---|
| FMA-UE | 運動麻痺の回復段階(随意性・分離) | 急性期〜回復期 | 回復を追う領域と、代償で回す領域を分ける |
| ARAT | 把持・つまみ・粗大動作の実用度 | 回復期〜生活期 | 改善した課題を更衣・食事・整容に直結させる |
| WMFT | 速度(時間)+質(FAS) | 回復期〜生活期 | 時短できた課題を、実生活の手順調整へつなぐ |
| NHPT | 指先の速さ・左右差 | 回復期〜生活期 | 書字・ボタン・スマホ操作の速度の壁をみる |
| Purdue | 両手協調・系列動作 | 回復期〜生活期 | 職務課題や両手作業の内訳を説明する |
フェーズ別に決める|急性期・回復期・生活期の最小セット
最初からフルセットで測るより、フェーズ × 目標 で 2〜3 本に絞り、同条件で追う方が結果としてアウトカムが読みやすくなります。特に急性期は「測れない理由を残す」、回復期は「機能+活動」、生活期は「条件つきの実用度」に寄せると整理しやすいです。
つまり、急性期は FMA を主軸にし、回復期で ARAT か WMFT を足し、生活期では必要に応じて巧緻性や作業観察を追加する流れが基本になります。
| フェーズ | まずの目的 | 最小セット(例) | 再評価のコツ |
|---|---|---|---|
| 急性期 | 安全管理+回復ポテンシャルの把握 | FMA-UE(必要部位)+ ROM/痛み/浮腫 | 測れない理由も残す(疲労・疼痛・注意) |
| 回復期 | 機能回復と実用手の見極め | FMA-UE +(ARAT or WMFT)+必要なら NHPT | 点数の変化を作業の変化で 1 行補足する |
| 生活期 | 維持・代償・片手戦略/環境調整 | ARAT or WMFT +(NHPT/Purdue)+作業観察 | できる条件/できない条件を固定して追う |
記録で差がつく|点数を作業に翻訳して、次の介入につなぐ
上肢評価がカンファで弱くなるのは、点数が生活課題の言葉になっていないからです。点数を取ったら、条件つきの結果、観察したボトルネック、次の一手 の 3 点だけは同じ型で残すと、説明が一気にしやすくなります。
とくに巧緻性テストはセットアップのズレで値が崩れやすいため、指先作業の評価を加える場合は、条件固定を先に揃えておく方が安全です。巧緻性テストの運用条件を先に確認したい場合は、NHPT・Purdue Pegboard 運用プロトコルを参照してください。
| 書く項目 | 例 | 意図 |
|---|---|---|
| ①点数(条件つき) | ARAT:つまみが改善(条件:座位・前腕支持あり) | 比較の土台を崩さない |
| ②観察(何がボトルネックか) | 指腹の接触が浅く、物品が回る(前腕回内保持が弱い) | 介入仮説を共有できる |
| ③次の一手(作業へ) | ボタン留め:大径→小径へ段階付け、固定具で成功回数を確保 | 点数が計画になる |
現場の詰まりどころ|止まるのは選定ミスより、条件ズレと翻訳不足
よくある失敗( OT の上肢評価で起きやすいズレ )
| NG(よくある失敗) | 起きる理由 | 対策 | 記録ポイント |
|---|---|---|---|
| FMA だけで完結してしまう | 機能は追えるが、作業の変化が説明しづらい | 回復期以降は ARAT / WMFT を 1 本足す | 点数→作業を 1 行で残す |
| 再評価で条件がズレる | 姿勢・支持・用具・合図・疲労が毎回違う | セットアップを施設基準で固定する | 姿勢/支持/測定者/例外ルール |
| 点数と ADL が一致しない=評価が無意味と誤解する | 代償・環境・利き手交換で ADL が成立する | できる条件を特定して記録する | 道具/手順/姿勢/片手戦略 |
| OT と PT の評価が重複して噛み合わない | 目的(作業 vs 姿勢・移動)が混ざる | PT は姿勢・移動、OT は手の実用度と作業翻訳に寄せる | 役割分担の 1 行を記録に残す |
回避の手順/チェック(この順でやると止まりにくい)
- 目的を 1 行化(作業名まで書く)
- 層を決める(機能/活動/巧緻性/作業観察)
- 最小セットを 2〜3 本に絞る
- 条件固定(姿勢・支持・合図・例外ルール)
- 点数→作業の 1 行を残す
- 再評価時点を固定し、同条件で追う
ここまで整えても毎回同じところで詰まる場合は、書き方や手順だけでなく、教育体制・共通フォーマット・相談相手の有無など、職場環境の影響を受けている可能性もあります。評価・記録・報告の「型」をまとめて整理したい方は、PT キャリアガイドも参考になります。
PT キャリアガイドを見るよくある質問( FAQ )
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1.時間がありません。最優先で入れる 2 本は?
A.迷ったら、機能( FMA-UE )+活動( ARAT か WMFT のどちらか 1 本 )を押さえます。巧緻性( NHPT / Purdue )は、書字・ボタン・復職など細かな作業の意思決定が必要なときに追加すると、最小セットのまま強度が上がります。
Q2.点数は良くなったのに ADL が変わりません。
A.多くは、環境・手順・代償の条件がボトルネックです。点数の変化に対して「どの条件ならできるか/できないか」を記録し、作業の中で成功回数を増やす設計に落とすと、 ADL の変化が出やすくなります。
Q3.ARAT と WMFT はどちらを選べばいいですか?
A.作業に近いタスクで「できる/できない」を見たいなら ARAT、速度と質( FAS )で変化を追いたいなら WMFT が向きます。施設の教育や再評価の回しやすさ(用具・時間)を踏まえ、どちらか 1 本を標準化すると運用しやすくなります。
Q4.巧緻性テスト( NHPT / Purdue )はいつ入れますか?
A.更衣や食事がある程度回ったあとに、「書字・ボタン・スマホ・復職」など細かな手作業の意思決定が必要になったタイミングが目安です。値は条件ズレに弱いので、セットアップと例外ルールを固定して追うことが前提です。
Q5.OT と PT の上肢評価が重複します。どう分けますか?
A.PT が姿勢・移動・歩行中の協調や基礎的な可動性を見ているなら、 OT は手としての実用度(操作能力)と具体的な作業での使い方に寄せると噛み合います。記録に「 PT は〇〇、 OT は〇〇 」と 1 行残すだけでもカンファが整います。
次の一手|全体像を押さえる→作業場面に戻す
- 全体像を押さえる:上肢評価の使い分け(比較表と最小セット)
- すぐ実装する:片麻痺の更衣・食事動作の観察ポイント
参考文献
- Fugl-Meyer AR, Jääskö L, Leyman I, Olsson S, Steglind S. The post-stroke hemiplegic patient. 1. A method for evaluation of physical performance. Scand J Rehabil Med. 1975;7(1):13-31. PubMed: 1135616
- Lyle RC. A performance test for assessment of upper limb function in physical rehabilitation treatment and research. Int J Rehabil Res. 1981;4(4):483-492. DOI: 10.1097/00004356-198112000-00001
- Wolf SL, Catlin PA, Ellis M, Archer AL, Morgan B, Piacentino A. Assessing Wolf Motor Function Test as outcome measure for research in patients after stroke. Stroke. 2001;32(7):1635-1639. DOI: 10.1161/01.STR.32.7.1635
- Mathiowetz V, Weber K, Kashman N, Volland G. Adult norms for the nine hole peg test of finger dexterity. Occup Ther J Res. 1985;5(1):24-38. DOI: 10.1177/153944928500500102
- Tiffin J, Asher EJ. The Purdue pegboard; norms and studies of reliability and validity. J Appl Psychol. 1948;32(3):234-247. DOI: 10.1037/h0061266
- 唯根弘, 宮田一弘, 神保和正, 倉形裕史, 白石英樹. 脳卒中後の上肢機能評価における臨床的に意義のある最小変化量と最小可検変化量の検証―システマティックレビュー―. 作業療法. 2023;42(5):572-580. J-STAGE: 本文を見る
- 日本作業療法士協会. 作業療法ガイドライン 脳卒中. J-STAGE / 協会公開 PDF: PDF
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


