立ち上がり動作分析|4フェーズ・30秒観察・記録シートPDF

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立ち上がり動作分析は「相→事実→仮説」の順で見る

立ち上がり(Sit to Stand)の動作分析では、きれいなフォームを探すより、どの相で何が起きているかを先に言語化することが重要です。新人PT・OT・STが観察を整理するなら、4フェーズで相を決める→側面と正面から短時間で観察する→事実と仮説を分けて記録する、の順にすると評価へつなげやすくなります。

本記事では、立ち上がりを臨床で見分けやすい①準備、②離殿・移行、③伸展、④再安定の4フェーズに整理し、フェーズごとの観察ポイント、条件変更後の見方、記録例、A4記録シートまでまとめます。5回立ち上がりテストや30秒椅子立ち上がりテストの基準値ではなく、「どう見るか・どう書くか」に焦点を当てたページです。

動作分析全体の「型」を先に確認したい方へ
事実→仮説→次の一手という共通フレームは、親記事でまとめています。


動作分析のやり方を見る

まず結論|立ち上がりは4フェーズに分けると観察しやすい

立ち上がりでは、最初から関節や筋を個別に追うより、どのフェーズで動作が崩れたかを決めると所見を整理しやすくなります。本記事では、臨床で目視しやすい境界を使い、①準備、②離殿・移行、③伸展、④再安定の4フェーズで観察します。

Schenkmanらは立ち上がりを、flexion-momentum phase、momentum-transfer phase、extension phase、stabilization phaseの4相に分類しています。本記事の4フェーズは、この研究上の4相をそのまま日本語訳したものではなく、臨床観察で使いやすいように整理した呼び方です。1

なお、立ち上がりの相分けには複数の方法があります。研究目的によって区切り方は異なり、脳卒中者の立ち上がりを5相に分けて解析した研究もあります。相数そのものより、どの区切り方を使ったかを明確にし、再評価でも同じ定義で比較することが重要です。3, 4

立ち上がり動作分析で使う臨床用4フェーズ
フェーズ 範囲 側面で見ること 正面で見ること
① 準備 動作開始から離殿直前まで 足位置、骨盤・体幹の前方移動、上肢支持 左右の足位置、開始姿勢の左右差
② 離殿・移行 臀部が座面を離れ、身体が前方から上方へ移る区間 離殿の成立、体幹前傾、踵の接地、反動 荷重左右差、膝の内外側偏位、骨盤偏位
③ 伸展 股・膝関節を伸展し立位へ近づく区間 股・膝伸展、体幹を起こすタイミング、膝折れ・過伸展 左右の伸展差、骨盤の側方偏位・回旋
④ 再安定 立位となり姿勢を安定させる区間 立位保持、前後方向のふらつき 左右へのふらつき、支持基底面、修正ステップ
立ち上がり動作分析の臨床観察用4フェーズと条件・相・仮説・反応の分析手順を示した図版
立ち上がりを臨床観察用の4フェーズに分け、「条件→相→仮説→反応」の順で整理する流れを示しています。

30秒観察ルーチン|側面20秒→正面10秒

観察項目を増やしすぎると、事実と原因仮説が混ざりやすくなります。本記事では、側面でフェーズを決め、正面で左右差を確認するための臨床用ルーチンとして、側面20秒→正面10秒の順で整理します。

この「30秒」は標準化された検査時間や診断基準ではありません。観察する順番を固定し、所見を拾いすぎないための運用上の目安です。

立ち上がりの30秒観察ルーチン
時間 視点 見ること 決めること
0〜20秒 側面 足位置、前方移動、離殿、伸展、立位での再安定 どのフェーズで最も崩れるか
20〜30秒 正面 荷重左右差、膝の偏位、骨盤の側方偏位、足幅 左右差がどのフェーズで強く出るか

観察前に条件をそろえる|椅子高・足位置・上肢支持

立ち上がりは、身体機能だけでなく椅子の高さ、足位置、上肢支持によって動作戦略や必要な関節モーメントが変わります。そのため、再評価や左右差の比較では「どう立ったか」だけでなく、どの条件で立ったかも残してください。2

  • 椅子高さ:異なる高さでは必要な負荷が変わるため、再評価では同じ条件を基本にする
  • 足位置:前後位置や左右差を確認し、変更した場合は記録する
  • 上肢支持:肘掛け・手すり・大腿支持の有無を確認し、比較時は条件をそろえる
  • 足底条件:踵浮き、滑り、履物、十分な足底接地を確認する
  • 指示:最初は普段の立ち方を観察し、条件変更を試す場合は一度に1項目とする

観察中に新たなめまい、著明なふらつき、強い疼痛、失神前症状などが出た場合は、動作分析を続けるより状態確認と安全確保を優先します。

フェーズ別チェック表|事実と原因仮説を分ける

動作分析で避けたいのは、見えた現象をそのまま原因と決めることです。まず目で確認できた事実を書き、そのあとに原因仮説を考え、条件変更や追加評価で確かめます。

立ち上がりのフェーズ別チェック表
フェーズ まず書く事実 考える仮説 次に確かめること
① 準備 足部が前方にある/骨盤後傾位/上肢支持を先に使う 開始姿勢、関節可動性、恐怖、支持条件など 足位置や座位姿勢を変えたときの反応を見る
② 離殿・移行 離殿しない/反動が大きい/一側へ偏る/膝が内側へ偏位する 足位置、前方移動、疼痛、左右の筋出力・感覚差など 条件を1つ変更し、離殿と左右差がどう変化するかを見る
③ 伸展 体幹が早く直立する/膝折れ/膝過伸展/一側の伸展が遅れる 股・膝伸展機能、疼痛、バランス、支持への依存など 支持条件や動作速度を変え、伸展過程の変化を見る
④ 再安定 立位でふらつく/一歩出る/支持物を探す 支持基底面、感覚、姿勢制御、恐怖など 足幅や支持条件を変え、立位保持の変化を見る

現場で迷いやすい3つの詰まりどころ

立ち上がりを見ても原因がまとまらないときは、観察項目を増やす前に、条件・フェーズ・事実と仮説の区別を確認します。

  • 条件がそろっていない:椅子高や足位置が変わっているのに、身体機能の変化として解釈している
  • フェーズが決まっていない:立ち上がり全体を一度に見て「不安定」とだけ記録している
  • 事実と仮説が混ざっている:「一側へ偏る」という事実を、そのまま「反対側の筋力低下」と断定している

よくある失敗|「筋力低下」で終わらせない

立ち上がれない、左右差がある、立位で止まれないという所見だけでは原因は決まりません。特に、条件を変えたときに動作がどう変わるかを見ると、環境条件と身体機能の影響を切り分ける手がかりになります。

立ち上がりでよく見る所見と次の確認
見えること 考えられること 最初に確認すること
足部が前方で離殿しにくい 足位置の影響、前方への重心移動不足、身体機能低下など 足部をやや後方へ変更し、離殿が変わるか
体幹前傾が小さく離殿できない 開始姿勢、恐怖、可動性、運動戦略など 座位姿勢や足位置を整えた場合の変化
一側への偏位が大きい 疼痛、感覚、筋出力、足位置、支持戦略など 左右の開始条件をそろえたうえで偏位が残るか
立位になっても止まれない 再安定の問題、支持基底面、姿勢制御、恐怖など 足幅や支持条件を変え、立位保持が変化するか

迷ったときは「条件→相→仮説→反応」の順に戻る

所見が多くなったときは、原因を一度に決めず、条件→相→仮説→反応の4段階へ戻ります。新しい図版と同じ順序で考えると、観察から追加評価までを整理しやすくなります。

  1. 条件を確認する:椅子高さ、足位置、足底、上肢支持
  2. 最も崩れるフェーズを1つ決める:準備/離殿・移行/伸展/再安定
  3. 原因仮説を立てる:見えた事実とは分けて考える
  4. 1条件だけ変えて反応を見る:どの所見が変化し、何が残ったかを記録する

条件変更で動作が改善しても、それだけで原因が確定したとは判断しません。変化した所見と残った所見を、次の評価へつなげる材料として扱います。

記録例|フェーズ+事実+仮説+反応を1行で残す

カルテでは「立ち上がり不安定」「筋力低下あり」だけで終わらず、どのフェーズで何が見え、何を試してどう変わったかを残すと再評価しやすくなります。

  • 例1:②離殿・移行:足部前方位で体幹前方移動が小さく離殿困難。足位置の影響を仮説とし足部を後方へ変更すると離殿成立。立位でのふらつきは残存。
  • 例2:②離殿・移行:離殿時に健側への偏位を認める。疼痛・感覚・筋出力差などを仮説とし、左右の開始足位置をそろえて再観察したが偏位は残存。追加評価へつなげる。
  • 例3:④再安定:立位直後に側方への修正ステップあり。足幅を広げるとステップは減少したが、左右動揺は残存。

記録シートPDF|条件・4フェーズ・1行要約をA4で記録

立ち上がりの観察結果を残せるよう、観察条件、4フェーズ、左右差、1行要約をA4 1枚で整理できる記録シートを用意しています。再評価では、動作所見だけでなく椅子高さや上肢支持などの条件も合わせて残してください。


記録シートPDFを開く(ダウンロード)

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よくある質問(FAQ)

立ち上がり動作分析で混同しやすい、相分け・30秒観察・左右差・定量評価について整理します。

Q1. 立ち上がりは4相と5相、どちらが正しいですか?

どちらか一方だけが正しいわけではありません。Schenkmanらは4相で示していますが、研究目的によって異なる相分けが使われ、5相で解析した研究もあります。臨床では、どの区切り方を使ったかを明確にし、再評価でも同じ定義を使うことが重要です。

Q2. 30秒観察は正式な評価法ですか?

いいえ。本記事の側面20秒→正面10秒は、見る順番を固定するための臨床用の観察ルーチンです。5回立ち上がりテストや30秒椅子立ち上がりテストとは別のものです。

Q3. 健側へ偏れば、患側筋力低下と判断してよいですか?

偏位だけで筋力低下と断定することはできません。疼痛、感覚、足位置、恐怖、運動戦略なども考えられます。まず偏位を観察事実として残し、条件変更や身体機能評価で仮説を確かめます。

Q4. 動作分析と5回法・30秒法はどう使い分けますか?

動作分析はどのフェーズで、どのように崩れているかを見る方法です。一方、5回法や30秒法は時間や回数などで立ち上がり能力を定量化します。動作の質を詳しく見る目的と、数値で経過を追う目的を分けて使います。

次の一手|全体像と定量評価へつなげる


参考文献

  1. Schenkman M, Berger RA, Riley PO, Mann RW, Hodge WA. Whole-body movements during rising to standing from sitting. Phys Ther. 1990;70(10):638-648. doi: 10.1093/ptj/70.10.638. PubMed
  2. Janssen WGM, Bussmann HBJ, Stam HJ. Determinants of the sit-to-stand movement: a review. Phys Ther. 2002;82(9):866-879. doi: 10.1093/ptj/82.9.866. PubMed
  3. Etnyre B, Thomas DQ. Event standardization of sit-to-stand movements. Phys Ther. 2007;87(12):1651-1666. doi: 10.2522/ptj.20060378. PubMed
  4. Mao YR, Wu XQ, Zhao JL, et al. The Crucial Changes of Sit-to-Stand Phases in Subacute Stroke Survivors Identified by Movement Decomposition Analysis. Front Neurol. 2018;9:185. doi: 10.3389/fneur.2018.00185. PubMed

著者情報

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rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。

現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。

保有資格

  • 脳卒中認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター2級

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