立ち上がりの動作分析【新人 PT 向け】

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動作分析(歩行以外)の最短ルート:立ち上がりで「観察→分析→対応」を型にする

臨床で使える「評価の組み立て方」をまとめて見る( PT キャリアガイド )

新人の動作分析は「何を見ればいいかわからない」から詰まります。結論はシンプルで、観察する位置を固定し、相(フェーズ)で区切りズレは 1〜2 個だけ拾えば十分です。本記事は歩行は扱わず、歩行以外の代表として立ち上がり( Sit to Stand )を題材に、明日から再現できる観察の型・記録の型までまとめます。

「動作分析=難しい理論」ではなく、観察の順番を決めるだけで精度が上がるのが立ち上がりです。まずはこの 1 動作で型を作り、他動作(立位保持・方向転換・段差・床からの立ち上がり等)へ横展開しましょう。

動作分析とは:見るのは「事実→仮説→次の一手」だけ

動作分析は、動作を細かく言語化することが目的ではありません。臨床で必要なのは、①動作で起きた事実(ズレ)を押さえ、②起きた理由の仮説を 1〜2 個立て、③安全に改善できる次の一手を決め、④同じ条件で再評価することです。ここまでできれば「自信をもって説明できる」状態になります。

逆に、見るポイントが増えすぎると情報が渋滞します。新人はまず位置(側面→正面)相( 4 フェーズ)の 2 軸を固定し、ズレを拾う量を意図的に減らすのが近道です。

新人でも迷わない: 30 秒観察ルーチン(側面→正面)

立ち上がりは「側面で 8 割決まる」動作です。まず側面でタイミング(前傾→離殿→伸展)を取り、最後に正面で左右差を 1 点だけ足します。これで観察がブレません。

観察位置:側面でタイミング、正面で左右差(改良版) 薄いグリッド背景と青・ティールのアクセントで、側面 20 秒・正面 10 秒の観察ルーチンを図示 立ち上がりの観察位置:まず側面、最後に正面 側面=タイミング(前傾→離殿→伸展)/正面=左右差(骨盤の逃げ) 側面( 20 秒 ):タイミングを見る 見る 1 点:すねの前傾(背屈) チェック:前傾→離殿の順番になっているか 詰まったら:前傾で 1 秒停止→離殿 正面( 10 秒 ):左右差を 1 点だけ見る 見る 1 点:離殿直後の骨盤の逃げ 補助:膝の内側化/外側化(股関節コントロールのサイン) 運用:正面で見るのは 1 点だけ(情報を増やしすぎない) コツ: 1 回の試行で cue は 1 個だけ。うまくいった条件(足位置/座面高/支持)を固定して再評価する

立ち上がりを 4 フェーズで区切る(相分け)

立ち上がりは、①開始姿勢(セット)②前傾(運動量づくり)③離殿( butt off )④伸展+安定、の 4 つに分けると観察が安定します。新人はまずこの相分けだけ覚えれば十分です。

立ち上がり( Sit to Stand )相分けフロー 白ベースの薄いグリッド背景と青・ティールのアクセントで、 4 フェーズと観察の要点を整理した図 立ち上がり( Sit to Stand ):相分けで迷わない 基本は「側面でタイミング → 正面で左右差」を最小セットで確認 ズレは 1〜2 個、仮説は 1〜2 個まで ① 開始姿勢(セット) 見る 1 点:足位置・座面高 ズレ例:足が前すぎる まず:膝下〜やや後ろへ ② 前傾(運動量づくり) 見る 1 点:前傾が止まらない ズレ例:恐怖で前傾が浅い cue:鼻を膝へ(目標化) ③ 離殿( butt off ) 見る 1 点:前傾→離殿の順番 ズレ例:反動で一気に立つ cue:前傾で 1 秒止める ④ 伸展 +安定 見る 1 点: 股→膝協調 立って 2 秒 使い方:まず側面で「前傾→離殿→伸展」の順番を確認し、最後に正面で左右差を 1 点だけ追加

立ち上がりの観察チェック(最小 8 項目)

新人は「項目を増やす」より、「同じ項目を同じ順で」見た方が上達が早いです。以下は最小構成のチェック表です。まずはこの 8 項目だけで十分です。

立ち上がり( Sit to Stand )の観察チェック(新人向け:最小 8 項目)
フェーズ 見る項目(事実) 典型的なズレ メモ欄(短く)
開始姿勢 足位置(膝の下〜やや後ろ) 足が前すぎて前傾が作れない 例:足前方/修正で改善
開始姿勢 座面高(高すぎ/低すぎ) 低すぎて離殿困難、反動増 例:座面 +◯ cm で成功
前傾 体幹前傾量(途中で止まらない) 前傾不足、恐怖で止まる 例:前傾浅い/止まる
前傾〜離殿 すねの前傾(背屈)=足部の上に乗る 背屈が出ず、荷重移動が不十分 例:背屈小/足底接地不良
離殿 順番(前傾→離殿) 反動で離殿(制御が粗い) 例:反動強/停止 cue で改善
伸展 股→膝の協調(膝だけで立たない) 膝折れ/膝だけで立つ 例:股伸展遅れ/膝折れ
伸展〜安定 左右荷重差(正面で 1 点だけ確認) 健側逃げ(骨盤側方偏位) 例:健側へ逃げ/FBで改善
立位安定 立った後に 2 秒止まれる 後方ふらつき/過伸展固定 例:後方不安定/支持で安定

カルテに強い:観察→分析を 2 行で書くテンプレ

記録は長いほど良いわけではありません。新人が「再現できる記録」は、フェーズ+ズレ+仮説+次の一手が 2 行に収まる形です。

立ち上がりの 2 行メモ(ズレ 1 つに絞る:新人向け)
よくあるタイプ 観察( 1 行 ) 分析→対応( 1 行 ) 見る位置+見る 1 点
軽度(左右差) 離殿〜伸展で健側荷重が強く、麻痺側の接地が浅い。 麻痺側足部セット不良で荷重回避の可能性→足部接地を整え、左右荷重 FB で反復。 正面:離殿直後に骨盤が健側へ逃げるか
中等度(前傾不足) 前傾が小さく離殿で止まり、上肢で押して反動的になる。 足位置前方で前傾が作れない可能性→足を後方へ再設定し「前傾 1 秒停止→離殿」で練習。 側面:すねの前傾(背屈)が出ているか
重度(膝折れ) 離殿後に膝折れが出て、伸展局面で崩れる。 支持性不足(疼痛含む)で伸展維持が困難な可能性→座面高調整+介助で成功条件を作り反復。 側面:股が伸びず膝だけで立っていないか

現場の詰まりどころ:新人がやりがちな 3 つの失敗

立ち上がりは観察が増えやすい動作です。詰まりどころはだいたい 3 つに集約されます。

新人が詰まりやすいポイント(立ち上がり:よくある失敗→修正の方向性)
よくある失敗 起きること 修正の方向性(まず 1 つだけ) 再評価(最小)
見る位置が毎回バラバラ 前傾と左右差が混ざり、結論が毎回変わる 側面 20 秒→正面 10 秒の順で固定 同じ相で同じズレが再現するか
cue を盛りすぎる 患者が混乱し、反動や手すり依存が増える 1 試行 1 cue のみ(前傾 or 足位置のどちらか) 成功率( ◯/◯ 回 )が上がるか
条件(座面高・足位置)を変えたまま比較 改善したのか条件が良くなったのか分からない 「うまくいった条件」を固定して再試行 所要時間・介助量が減るか

新人が使える:声かけスクリプト( cue は 1 個だけ)

立ち上がりの声かけは「順番」を固定すると安定します。詰まったら追加 cue を 1 個だけ足します。

  • 安全確認:「ふらついたらすぐ座ります。手すりは使って大丈夫です。」
  • セット:「足を膝の下。かかとを床につけます。」
  • 前傾:「鼻を膝に近づけるイメージで前に倒れます。」
  • 離殿:「前に倒れてから、お尻が浮きます。」
  • 伸展:「足の裏全体で踏んで、お尻で立ちます。」
  • 安定:「立ったら 2 秒止まります。」

追加 cue(詰まったら 1 個だけ):前傾不足→「もう少し前。胸を太ももへ」/反動→「前で 1 秒止めてから」/左右差→「左右同じくらい踏む」/膝折れ→「一定の速さで、途中で止めない」

よくある質問(FAQ)

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

Q1. 動作分析が苦手です。まず何から始めればいいですか?

A. 立ち上がりは最短で型が作れます。最初は「側面 20 秒→正面 10 秒」だけ固定し、相分け(開始姿勢→前傾→離殿→伸展)でズレを 1 つ拾うところから始めてください。ズレが 1 つ決まると、仮説と介入が自然に 1 つに絞れます。

Q2. 前傾不足と筋力低下、どう見分けますか?

A. まず足位置を整えたうえで、側面で「前傾→離殿」の順番が作れるかを確認します。前傾が作れず離殿に入れないなら前傾(運動量)の問題が主になりやすいです。前傾は作れるのに伸展で崩れる(膝折れ等)なら支持性の問題が主になりやすいです。

Q3. 反動で立つ人には、どう指導すればいいですか?

A. cue は「前傾で 1 秒止める」だけに絞ります。反動を止めようとして指示を増やすほど、患者は勢いで解決しようとしやすくなります。成功した条件(座面高・足位置・上肢支持)を固定して、同じパターンで反復してください。

Q4. 正面はどこを見ればいいですか?

A. 新人は 1 点だけで十分です。「離殿直後に骨盤が健側へ逃げるか(左右差)」を確認してください。膝の内側化/外側化は余裕が出てから追加で OK です。

おわりに

立ち上がりは、観察位置を決める→相分け→ズレを 1 つ→介入→同条件で再評価のリズムを作るのに最適な動作です。準備・声かけ・記録を「型」にしておくと、忙しい現場でも判断がブレにくくなります。

関連ツールとして、面談準備チェックと職場評価シートを一緒に整理したいときは マイナビコメディカル記事のチェックリスト も活用すると、行動に落とし込みやすくなります。

参考文献

  1. Schenkman M, Berger RA, Riley PO, Mann RW, Hodge WA. Whole-body movements during rising to standing from sitting. Phys Ther. 1990;70(10):638-648. doi: 10.1093/ptj/70.10.638 / PubMed: 2217543
  2. Jeng SF, Schenkman M, Riley PO, Lin SJ. Reliability of a clinical kinematic assessment of the sit-to-stand movement. Phys Ther. 1990;70(8):511-520. doi: 10.1093/ptj/70.8.511 / PubMed: 2374780
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  4. Roebroeck ME, Doorenbosch CAM, Harlaar J, Jacobs R. Biomechanics and muscular activity during sit-to-stand transfer. Clin Biomech. 1994;9(4):235-244. doi: 10.1016/0268-0033(94)90004-3 / PubMed: 23916233
  5. Vander Linden DW, Brunt D, McCulloch MU. Variant and invariant characteristics of the sit-to-stand task in healthy elderly adults. Arch Phys Med Rehabil. 1994;75(6):653-660. doi: 10.1016/0003-9993(94)90188-0 / PubMed: 8002764
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  7. Laporte DM, Chan D, Sveistrup H. Rising from Sitting in Elderly People, Part 1: Implications of Biomechanics and Physiology. Br J Occup Ther. 1999;62(1):36-42. doi: 10.1177/030802269906200111

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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