TCT の落とし穴:歩行予後を点数だけで決めない

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TCT で歩行予後を読むときの落とし穴:点数だけで決めないための実践ガイド

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TCT( Trunk Control Test )は、寝返り・起き上がり・端座位保持などの体幹コントロールを短時間で数値化できる評価です。一方で、「点数=歩ける」と短絡すると、臨床判断がズレます。本記事は、TCT を歩行予後に使うときにハマりやすい 3 つの落とし穴と、外さないための追加評価・介入の組み立てを、表とケースで具体化します。

結論はシンプルです。TCT は歩行の“必要条件の一部”を見ています。だからこそ、代償天井/床効果非体幹要因をセットで点検し、歩行の安全性と再現性へつなげましょう。

TCT で何がわかり、何がわからないか

TCT は、体幹機能を「ベッド上動作〜座位」の範囲で簡便に評価するためのテストです。一般的に、寝返り(麻痺側/非麻痺側)、起き上がり、端座位保持といった基本動作を観察し、段階的な介助量や達成度を点数化します。

歩行は「体幹」だけでなく、支持性(下肢筋力・荷重能力)、感覚、注意、疼痛、耐久性、環境要因などの複合アウトカムです。TCT はその一部(特に“起き上がり〜座位の安定”)に強い一方で、立位・方向転換・二重課題の不安定さは拾いにくい点が、予後読みのズレにつながります。

落とし穴 1:代償で点が取れる(=体幹が良いとは限らない)

新人がまず迷うのが「 TCT が上がった=体幹が良くなった?」です。TCT は短時間で測れる反面、勢い・上肢牽引・反動などの代償で達成できると、点数が上がっても“立位・歩行の安定”が伸びないことがあります。

見抜き方は 2 つです。①動作をゆっくりやらせたときに同じ質で再現できるか、②「成功する条件(手すり・ベッド柵・介助位置)」が変わると途端に崩れないか。点数よりも、再現性と崩れ方をメモできると、次の一手が明確になります。

落とし穴 2:天井効果/床効果(高得点=安心、低得点=絶望ではない)

高得点側では、TCT が満点近くでも「立位でふらつく」「方向転換で怖い」「屋内は歩けるが屋外が危ない」など、歩行の課題が残ることがあります。これは、TCT が主にベッド上〜座位を見ており、歩行の難所(立位バランス、支持性、注意、耐久)を直接反映しないためです。

低得点側では逆に、TCT が低いからといって「歩行練習はまだ早い」と固定すると、伸びるチャンスを逃すことがあります。鍵は、覚醒・理解座位の再現性、そして介入の段階づけです。歩行そのものに入る前に、立位保持や荷重の質を作れるかが分岐点になります。

落とし穴 3:非体幹要因が“隠れる”(感覚・注意・疼痛・耐久)

TCT が示すのは「体幹の一部」です。ところが臨床では、歩行のボトルネックが感覚低下注意障害/ USN 疼痛息切れ・易疲労であることが少なくありません。TCT だけ見ていると、原因が “体幹” に寄ってしまい、介入がズレます。

コツは、歩行が崩れる瞬間を「いつ・どこで・何をしているときか」で分解することです。立位保持で崩れるのか、 10 m を超えたあたりで崩れるのか、方向転換や人の往来で崩れるのか。崩れ方が見えれば、追加評価と介入の優先順位が決まります。

現場の詰まりどころ:ここで迷ったら、この順で整理

① TCT が上がった=体幹が良くなった?
速度を落としても同じ質でできるか(再現性)、条件が変わっても崩れないか(汎化)を確認します。点数ではなく「崩れ方」を言語化します。

② TCT 高得点なのに立位・歩行が不安定
体幹“以外”を優先的に点検します。支持性(荷重・疼痛)、感覚、注意、耐久を見て、最短でボトルネックを特定します。

③ TCT 低得点で、いつから歩行に入る?
歩行の前に、座位の質→立位短時間→荷重→ステップの順で「安全に繰り返せる最小単位」を作ります。介助量が減るか、崩れ方が減るかで前進判定します。

早見表:TCT が高得点でも歩けないときの点検(追加評価と次の一手)

※表は横にスクロールできます。

TCT が高得点でも歩行が伸びないときの代表パターン(追加評価と次の一手)
現場での所見 背景の候補 まず追加で見る評価 介入の方向性 記録のコツ
ベッド上は自立だが、立位でふらつく 感覚低下、支持性不足、恐怖心 立位耐久、荷重左右差、疼痛、自覚的不安 支持基底面の整理→荷重練習→成功体験の設計 「何が怖いか」「どの瞬間に崩れるか」を言語化
起き上がりは速いが、姿勢が崩れやすい 代償優位(勢い・上肢牽引)、分節コントロール不足 端座位でのリーチ、体重移動、骨盤・胸郭の連動 速度を落として分節化、骨盤・胸郭のコントロールを作る 「速さ」より「質(再現性)」でメモ
方向転換や人の往来で急に不安定 注意障害、 USN 、二重課題耐性の低さ 簡易二重課題、視覚探索、方向転換の安全性 単純課題→二重課題へ段階づけ、環境調整 「環境・課題条件」を固定して経過比較
歩くと疲れてフォームが崩れる 持久力不足、呼吸循環、疼痛 自覚的運動強度、休息での回復、歩行距離の再現性 量の設計(分割)+症状マネジメント 距離・休息・症状をセットで残す

早見表:TCT が低得点でも伸びる条件(段階づけの判断材料)

※表は横にスクロールできます。

TCT が低得点でも歩行到達が見込める条件(判断材料と練習の組み立て)
観察ポイント 良いサイン まずの短期目標 練習の順番 再評価の見方
覚醒・理解 指示が通る/注意が保てる 同じ条件で動作が再現できる 姿勢セット→短時間反復→休息で質を保つ 介助量が減るか、崩れ方が減るか
座位の安定 端座位で支持が保てる リーチや体重移動ができる 座位リーチ→立ち上がり前準備→立位短時間 見守りへ移行できるか、手の支持が減るか
立位への移行 立位が短時間でも作れる 安全な立位保持の確立 立位保持→荷重練習→ステップ練習 保持時間、左右差、恐怖心の変化

ケース 1:TCT は高いのに歩行が伸びない(原因は“体幹の外側”)

状況:ベッド上の基本動作はスムーズで、端座位も安定しているため、TCT の点数は高い。一方で、立位になるとふらつき、方向転換で怖さが強く、歩行は不安定。

詰まりの正体:体幹よりも、①荷重の左右差(支持性)②注意の逸れやすさ(環境で崩れる)③疲労でフォームが崩れる(耐久)といった非体幹要因がボトルネックになっていた。

組み立て:まず「崩れる条件」を固定(同じ靴・同じ場所・同じ距離)し、立位保持→荷重練習→ステップの順で “安全に繰り返せる最小単位” を作る。次に、単純課題で安定してから二重課題(声かけ・視線移動)を段階的に追加する。

再評価:TCT の点数は大きく変わらなくても、歩行の安全性(崩れ方が減る)と再現性(条件が変わっても同じ質でできる)が上がり、実用歩行につながる。

ケース 2:TCT が低くても歩行到達する(鍵は“段階づけと量の設計”)

状況:起き上がりや寝返りに介助が必要で、TCT は低め。ところが、覚醒と理解が良く、端座位では介助を最小にできる場面がある。

伸びる条件:①指示理解が安定している、②座位での崩れ方が一定(再現性がある)、③短時間なら立位が作れる。この 3 点がそろうと、点数以上に伸びることがあります。

組み立て:座位の質(骨盤・胸郭の位置)→立位短時間→荷重練習→ステップへ。量は分割し、疲労で質が落ちる前に休息を入れて反復回数を稼ぐ。歩行に入るときは距離よりも「崩れない 1 歩」を優先する。

再評価:TCT の上昇だけを追わず、介助量が減るか、崩れ方が減るか、恐怖心が下がるかを主要アウトカムにして前進判定する。

よくある質問

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

Q1.TCT が満点なら、歩行は自立すると考えて良いですか?

A.満点は「ベッド上〜座位の体幹課題がクリアに近い」ことを示しますが、歩行は支持性・感覚・注意・耐久などの影響が大きいです。満点でも、方向転換・二重課題・疲労で崩れることがあるため、歩行の難所に合わせて追加評価を行いましょう。

Q2.TCT が低いと、歩行練習はまだ早いですか?

A.「歩行そのもの」を急ぐより、座位の質→立位短時間→荷重→ステップの順で、安全に反復できる最小単位を作るのが近道です。覚醒・理解が安定し、座位の再現性が出てきたら、段階づけで歩行関連練習へ入れます。

Q3.TCT の再評価は何日ごとが良いですか?

A.急性期は変化が大きいので、介入頻度が高い施設では週 1 回程度の再評価が運用しやすいです。点数だけでなく「崩れ方」「成功条件」をセットで同じ条件で比べると、介入の軌道修正が速くなります。

Q4.TCT と他の体幹評価はどう使い分けますか?

A.TCT はベッド上〜座位の基本動作を短時間で捉えるのが強みです。立位・歩行の質やバランス課題まで見たい場合は、目的に応じて別の体幹・バランス評価を併用し、ボトルネックを特定していく考え方が実用的です。

Q5.TCT の点数が上がったのに、歩行が変わりません

A.代償で点数が上がっているか、歩行のボトルネックが非体幹要因(支持性・感覚・注意・疼痛・耐久)にある可能性があります。「崩れる条件(距離・環境・課題)」を固定して、どこで崩れるかから追加評価を組み直すと、次の一手が見えます。

おわりに

TCT は便利ですが、臨床のリズムは「観察→仮説→段階づけ→反復→再評価」です。点数だけで安心せず、崩れる場面を特定して “次の一手” を最短で選びましょう。面談準備のチェックと職場評価の視点を揃えたい方は、マイナビコメディカルのチェックリストも活用すると整理が速くなります。

参考文献

  • Collin C, Wade DT. Assessing motor impairment after stroke: a pilot reliability study. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 1990. PubMed
  • Duarte E, Marco E, Muniesa JM, et al. Trunk control test as a functional predictor in stroke patients. J Rehabil Med. 2002;34(6):267-272. doi:10.1080/165019702760390356. PubMed
  • Franchignoni FP, Tesio L, Ricupero C, Martino MT. Trunk Control Test as an Early Predictor of Stroke Rehabilitation Outcome. Stroke. 1997;28(7):1382-1385. doi:10.1161/01.STR.28.7.1382. Journal

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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