HADS 高値のとき PT ができる 3 つの関わり方|「進まない」をほどく手順
HADS( Hospital Anxiety and Depression Scale )が高いと、離床・運動負荷・自主練が「進まない」場面が増えます。大切なのは、点数そのものを追いかけるより、①状態を整理する→②セッション設計を変える→③連携して共有するの 3 手で “詰まり” をほどくことです。本記事は「高値のとき、 PT は具体的に何をする?」に答える各論として、現場で迷いにくい運用に固定します。
同ジャンル回遊:評価の全体像 → 総論 → 各論の順で読むと、判断がブレにくくなります。
現場の詰まりどころ|「進まない」原因を 3 分で見立てる
HADS 高値で止まるときは、“気持ち” だけが原因ではなく、痛み・息苦しさ・不眠・薬剤・環境(騒音/説明不足)などが重なっていることが多いです。まずは「よくある失敗」を避け、次に「回避チェック」で条件を揃えると、同じ介入でも進みやすくなります。
HADS 高値とは|まず押さえる「解釈」と「限界」
HADS は不安( A )と抑うつ( D )を別々に捉えるスクリーニングで、一般に 0–7 点=正常、8–10 点=疑い、11 点以上=明確の目安が用いられます。ただし診断ツールではないため、点数だけで原因を断定せず、症状・病状・生活背景と合わせて解釈します。
| 区分 | 目安 | PT での捉え方 | 次の一手 |
|---|---|---|---|
| 0–7 点 | 概ね正常 | 心理面の影響は小さめ(ただし 0 でも不安はあり得る) | 通常の説明・目標設定で進める |
| 8–10 点 | 疑い | 痛み・息苦しさ・不眠など “増悪因子” の併存を疑う | 条件調整+負荷設計を見直す |
| 11 点以上 | 明確 | セッションの合意形成が崩れやすい(回避・過覚醒・意欲低下) | 小刻み介入+連携(医師/看護/心理)を早めに |
カットオフの推奨は原著やその後のレビューでも示され、臨床では 8 点以上を “拾い上げ” として扱うことが多いです。日本語版の妥当性・信頼性の検討も報告されています。
PT ができる 3 つの関わり方|状態整理→設計→連携
① 状態を整理する:不安なのか、抑うつなのか、増悪因子なのか
最初にやるのは “気持ちの問題” への決め打ちを避け、不安(過覚醒・回避)と抑うつ(意欲低下・活動量低下)を分けて見立てることです。同時に、痛み・息苦しさ・めまい・不眠などの増悪因子があると、点数も介入反応も悪化しやすいので、当日の主症状を 1 つに絞って確認します。
- 今日いちばんつらいのは「痛み/息苦しさ/不眠/不安」どれですか?
- 動くと増えるのは「症状」か「怖さ」か、どちらが先ですか?
- できること( OK )と、まだ難しいこと( NG )を一緒に線引きします
② セッション設計を変える:負荷より “予測可能性” を上げる
HADS 高値の場面では、運動強度を上げるよりも予測可能性(見通し)を上げたほうが進むことが多いです。「今日は何をどこまでやるか」を短く言語化し、終了条件(やめどき)を合意してから開始します。
| 設計ポイント | 具体 | ねらい |
|---|---|---|
| 合意 | 「 5 分だけ」「立位 2 回」「歩行 10 m まで」など最小単位で約束 | 回避を減らし、成功体験を作る |
| 可視化 | 回数・距離・時間を 1 つだけ記録して見せる | “できた” の根拠を残す |
| 中止条件 | 痛み増悪、息苦しさ増悪、めまい、過換気など “やめどき” を先に共有 | 安心して挑戦できる |
| ペーシング | 「やる→休む」を固定(例: 2 分→ 1 分 ) | やり過ぎ→反動を防ぐ |
③ 連携して共有する:相談の目安と “伝え方” を固定する
高値のときに一番効くのは、 PT が単独で抱え込まず、同じ言葉でチーム共有することです。とくに「離床が進まない」「過換気が出る」「夜間不眠が強い」など、介入を妨げる要素がある場合は、早めに医師・看護・心理(あるいはリエゾン)へ相談します。
| 状況 | PT での対応 | 共有先の例 |
|---|---|---|
| 痛み/息苦しさが強く、介入が成立しない | 負荷を下げ、終了条件を明確化。増悪因子を整理して記録 | 医師、看護(鎮痛・呼吸・睡眠の調整) |
| 過換気、強い恐怖で実施困難 | 呼吸・休息を優先し、短時間に分割。説明は短く | 医師、看護、心理(必要に応じて) |
| 意欲低下が強く、自己効力感が落ちている | 成功体験を最小単位で作り、可視化。目標を再設定 | 多職種(目標共有、家族調整) |
症例で見る|HADS 高値の“詰まり”と介入の組み立て
ここでは、現場で多い 2 パターン(急性期/慢性疼痛)を “同じ型” で整理します。ポイントは、点数の高低よりも、何が先に詰まっているか(症状・回避・意欲低下・環境)を見抜いて設計を変えることです。
症例 1:急性期(術後・呼吸苦・痛み)で不安が強い
- 状況:術後/急性増悪後で、動くと息苦しさ・痛みが増える。説明を聞いても表情が硬い。
- HADS:A が高めで、離床直前に「怖い」「苦しくなる気がする」が先行。
- 今日の最小ゴール:端座位 2 分+立位 1 回(合計 5 分以内)。
- 介入(固定):開始前に「今日は 5 分だけ」「苦しくなったらすぐ止める」を合意。やる→休むを 2 分→ 1 分で固定。できた 1 つを可視化。
- 記録( 3 行 ):主症状(息苦しさ/痛み)→反応(恐怖が先行)→対応(小刻み・終了条件)を残し、鎮痛・呼吸・睡眠など調整を相談。
このパターンは “不安” の前に、息苦しさ・痛み・睡眠など 増悪因子が上流にあることが多いので、回避チェックで条件を固定してから負荷を積み上げます。
症例 2:慢性疼痛(回避・破局化)で活動が上がらない
- 状況:慢性疼痛で、痛みが落ち着いている日でも動かない。過去の増悪体験が強い。
- HADS:A と D がともに高めで、「やっても無駄」「また悪くなる」が繰り返される。
- 今日の最小ゴール:自宅でできる “ 1 つだけ” を決める(例: 2 分歩行/椅子立ち 5 回)。
- 介入(固定):痛みの 0 を目指さず、「安全にできる量」を決めてペーシング。やり過ぎ→反動を防ぐため、次回まで同じ量を守る。
- 記録( 3 行 ):反応(回避・自己効力感低下)→成功体験(最小単位)→次回の継続条件(同じ量)を残し、多職種で目標を一致させる。
このパターンは “強度” を上げるより、見通し・中止条件・継続条件を固定して、できた事実を積み上げる方が前に進みます。
現場で使う「例の一言」早見|急性期(呼吸)/慢性疼痛(ペーシング)
症例の要点を “短い声かけ” に落として固定します。迷ったら「言う → すぐやる → 1 行残す」だけで OK です。
| 場面 | 例の一言(短く) | 直後にやること(手順) | 記録 1 行(共有用) |
|---|---|---|---|
| 急性期:息苦しさが怖い(離床前) | 「今日は 5 分だけ。苦しくなったらすぐ止めます」 | 最小ゴールを決める(例:端座位 2 分)→ 中止条件を合意 → やる→休む( 2 分→ 1 分 )を固定 | 「主症状:息苦しさ。離床前に恐怖先行。 2 分→ 1 分で実施し端座位 2 分可」 |
| 急性期:過換気っぽい(最中) | 「いまは休んで OK。吐く方を長くします」 | 動作を止める → 体位を安定(背もたれ/前屈)→ 吐気を長めに誘導 → 落ち着いたら最小単位で再開 | 「過換気疑いで中断。休息+吐気延長で改善。再開は最小単位へ」 |
| 慢性疼痛:回避が強い(開始前) | 「痛みを 0 にせず、“安全にできる量” を決めます」 | 今日の量を 1 つだけ決める(例: 2 分歩行)→ 中止条件を確認 → 次回まで同じ量を守る方針を合意 | 「回避強く活動低下。安全量( 2 分歩行 )を合意。次回まで同量を継続」 |
| 慢性疼痛:やり過ぎて反動(ペーシング失敗) | 「増やすのは “ 1 つだけ”。先に反動を潰します」 | 増やす指標を 1 つに限定(時間 or 回数)→ “増やさない日” を先に決める → できた事実を可視化 | 「やり過ぎ→反動あり。増やす指標を 1 つに限定し、増やさない日を設定」 |
共有がラクになる|記録テンプレ( 3 行 )
チーム共有は “長文” より “固定フォーマット” が強いです。以下の 3 行に揃えると、看護・医師に伝わりやすく、次の打ち手が決まりやすくなります。
- 状況:HADS( A / D )高め。今日の主症状は(痛み/息苦しさ/不眠)。
- 反応:(離床/歩行)で(恐怖/回避/意欲低下)が先行し、(どこまで)で中止。
- 対応:(小刻み・合意・ペーシング)で(ここまで)可能。増悪因子の調整を相談。
記録チェックリスト|HADS 高値時の共有を “抜けなく”
テンプレを “漏れなく” するために、次のチェックを使います。迷ったら、主症状 1 つ+最小ゴール 1 つ+中止条件 1 つだけでも残せれば十分です。
| 項目 | チェック | 書く一言(例) | 共有先(例) |
|---|---|---|---|
| 主症状 | 1 つに絞る | 「主症状は痛み( NRS )」 | 看護、医師 |
| 反応 | 先行する要素 | 「離床前に恐怖が先行」 | 看護、多職種 |
| 最小ゴール | 最小単位 | 「端座位 2 分+立位 1 回」 | チーム全体 |
| 中止条件 | 先に合意 | 「息苦しさ増悪で中止」 | 看護、本人 |
| 設計 | 小刻み・休息 | 「 2 分→ 1 分で固定」 | チーム全体 |
| 相談 | 必要なら即 | 「睡眠・鎮痛の調整を相談」 | 医師、心理 |
よくある失敗|点数に引っ張られて “逆に進まない” パターン
- 説明が長い:不安が強いほど情報量で固まりやすい(要点は 1 つに絞る)
- 目標が大きい:「歩行自立」など大目標だけだと、今日の成功が作れない
- 負荷で押す:できなかった体験が積み上がり、回避が強化される
- PT 単独で抱える:睡眠・鎮痛・環境調整など “PT 以外” の要素が残る
回避の手順・チェック|高値のときほど “条件固定”
次のチェックを上から順に確認します。上流(症状・環境)が揃わないまま下流(運動負荷)に入ると、同じことを繰り返しがちです。
| 順番 | 見る項目 | 確認の一言 | 調整の例 |
|---|---|---|---|
| ① 主症状 | 痛み/息苦しさ/不眠 | 「今日は何が一番つらいですか?」 | 鎮痛、呼吸、休息、環境 |
| ② 見通し | 何をどこまで | 「今日は 5 分だけ、ここまでです」 | 最小単位に分割 |
| ③ 中止条件 | やめどき | 「増えたらすぐ止めます」 | 終了条件を先に合意 |
| ④ 記録 | 1 指標だけ | 「今日できた 1 つを残します」 | 回数/時間/距離の 1 つ |
よくある質問(FAQ)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
HADS が高い= PT を控えたほうがいいですか?
一律に中止ではありません。高値は “方針分岐の合図” と捉え、主症状(痛み/息苦しさ/不眠)と見通し(何をどこまで)を整えた上で、小刻みに成功体験を作ると進みやすくなります。
不安( A )と抑うつ( D )は、介入を変えるべきですか?
変えたほうがうまくいくことが多いです。不安が強いときは “予測可能性” と “終了条件” を増やし、抑うつが強いときは “最小単位の達成” と “可視化” を重視します。両方高いときほど、連携と共有を早めます。
患者さんへの声かけで、まず何を言えばいいですか?
情報量を増やすより、要点を 1 つに絞ります。「今日は 5 分だけ」「ここまでで止めます」「できた 1 つを残します」の 3 つは、安心と前進の両方に効きやすいです。
いつ医師や心理職に相談すべきですか?
痛み・息苦しさ・不眠などが強く介入が成立しない場合、過換気や強い恐怖で中断が続く場合、意欲低下が強く生活機能の回復が止まる場合は、早めに共有すると調整が進みます。PT 単独で抱え込まないのが安全です。
次の一手|運用を整える→共有の型→環境の詰まりも点検
- 運用を整える:評価ハブで “全体像” を固定する
- 共有の型を作る:記録テンプレ( 3 行 )でチーム共有を揃える
教育体制・人員・記録文化など “環境要因” を一度見える化すると、次の打ち手が決めやすくなります。
チェック後に「続ける/変える」の選択肢も整理したい方は、PT キャリアナビで進め方を確認しておくと迷いが減ります。
参考文献
- Zigmond AS, Snaith RP. The Hospital Anxiety and Depression Scale. Acta Psychiatr Scand. 1983;67(6):361-370. PubMed
- Djukanovic I, Carlsson J, Årestedt K. Is the Hospital Anxiety and Depression Scale (HADS) a valid measure in a general population? A 10-year follow-up. Psychol Health Med. 2017. PMC
- 八田宏之 ほか. Hospital Anxiety and Depression Scale 日本語版の信頼性と妥当性の検討. 心理学研究. 1998. J-STAGE
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


