HADS 高値のとき PT ができる 3 つの関わり方(不安・抑うつを “ 介入可能 ” にする)
評価から介入までの “ 型 ” をまとめて覚える(PT キャリアガイド)を見る
HADS( Hospital Anxiety and Depression Scale )は、医療場面での不安・抑うつを簡便に把握するスクリーニングです。点数が高いと「離床が進まない」「痛みや息苦しさが強く感じられる」「自主練が続かない」など、リハの進行に影響が出やすくなります。
結論は、PT ができることは意外と多い、です。HADS 高値を “ メンタルの問題 ” で終わらせず、安全と予測可能性、負荷設定(体感に合わせる)、連携(情報の渡し方)の 3 つで、介入を前に進められます。
HADS とは:PT が押さえる “ 使いどころ ” だけ
HADS は、不安と抑うつの傾向を短時間で把握し、治療や支援の “ つまずき ” を早めに見つける目的で使われます。PT にとって重要なのは、診断の代わりにすることではなく、介入の設計(説明・負荷・環境・連携)を調整するトリガーとして扱うことです。
点数が高いほど「不安が強い」「気分が落ち込みやすい」可能性が高まりますが、背景は単一ではありません。疼痛、睡眠、呼吸苦、薬剤、せん妄リスク、社会的要因などが絡みます。だからこそ、PT は “ その日の介入を成立させる条件 ” を整える役割が大きいです。
HADS 高値で起きやすいこと:リハが止まる “ 典型パターン ”
HADS が高いと、リハでは次のような “ 現象 ” が増えます。①離床や運動への恐怖で開始が遅れる、②症状(痛み・息切れ・めまい)への注意が強くなり負荷が上げにくい、③成功体験が積みにくく自己効力感が下がる、④疲労後に不安が増幅してフォームが崩れる、などです。
これらは “ 心の話 ” だけではなく、介入の設計で変えられます。まずは、何が怖いのか、どの瞬間に止まるのか、何をすると安心するのかを 1 つずつ言語化することから始めましょう。
PT ができる 3 つの関わり方
1 )安全と予測可能性を上げる(見通し設計)
不安が強いときほど “ 先が見えない ” ことが負担になります。介入前に「今日やること」「終わりの条件」「中止の基準」を短く共有し、成功しやすいサイズに分割します。目標は “ 頑張らせる ” ではなく、安心して反復できる状態を作ることです。
2 )負荷設定を “ 体感 ” で合わせる(過負荷と過小負荷を避ける)
高値のときは、過負荷で悪化しやすく、逆に過小負荷で “ できない経験 ” が積み上がります。呼吸・痛み・疲労の体感を基準に、短時間反復と休息をセットで設計します。重要なのは、質が保てる最小単位で回数を稼ぐことです。
3 )連携の “ 型 ” を作る(観察所見でつなぐ)
連携は “ 気分が落ちている ” だけでは動きません。PT は、介入中に起きた事実(症状・誘因・軽減因子・安全条件)を、短いフォーマットで共有します。これが、医師・看護・心理職・家族への支援につながります。
早見表:HADS 高値で詰まる場面と、PT の具体対応
※表は横にスクロールできます。
| 現場での所見 | 背景の候補 | PT の対応(まず 1 手) | 負荷の決め方 | 記録のコツ |
|---|---|---|---|---|
| 開始前から拒否・不安が強い | 見通し不足、恐怖、痛みの予期 | 今日の “ ゴールと終わり ” を 1 文で共有 | 短時間( 1–2 分 )×反復+休息 | 「何が怖いか」「安心条件」を残す |
| 痛み・息苦しさを強く訴える | 症状への注意集中、過負荷、睡眠不足 | 症状の誘因と軽減因子を確認し、条件を固定 | 体感で調整(質が落ちる前に休息) | 誘因/軽減因子/再現性をセットで記録 |
| できるのに “ やりたくない ” が増える | 自己効力感低下、失敗経験の蓄積 | 成功体験を “ 最小単位 ” で作って言語化 | 成功率を上げる(難度を 1 段下げる) | 「できたこと」を具体的に書く |
| 疲労後にフォームが崩れて不安が増す | 易疲労、過負荷、回復の遅れ | 分割(短時間×複数回)へ切り替え | 量より質、終了条件を明確に | 疲労の出方(時間・距離)を固定して比較 |
| 環境が変わると急に不安定 | 注意負荷、刺激過多、段取りの複雑化 | 環境と課題を単純化し、段階的に戻す | 単純課題→複雑課題の順 | 環境条件(場所・人・声かけ)を残す |
ケース:離床拒否が続くときに “ 見通し設計 ” で介入が動く
状況:離床のたびに不安が強く、開始が遅れる。症状訴え(痛み・息切れ)が多く、負荷が上げられない。
介入の焦点:まず “ 体を強くする ” 前に、介入が成立する条件を作る。具体的には、①今日やることを 1 つに絞る、②終わりの条件を明確にする、③中止の基準を共有する、④成功しやすいサイズに分割する。
結果の見方:点数そのものより、「開始までの時間が短くなる」「途中で止まる回数が減る」「同じ条件で反復できる」など、介入の再現性が上がれば前進です。
よくある質問
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Q1.HADS 高値のとき、PT は “ 運動量を下げる ” べきですか?
A.一律に下げるのではなく、「質が保てる最小単位」で設計し直すのが基本です。過負荷は悪化につながりやすい一方、過小負荷は “ できない経験 ” を増やします。短時間反復と休息をセットにし、成功体験が積める難度に調整します。
Q2.拒否や不安が強くて介入が始まりません
A.見通し設計が有効です。「今日やること」「終わりの条件」「中止基準」を短く共有し、最初の 1 分を成功させる構成にします。開始できた条件(声かけ・環境・時間帯)を記録して再現しましょう。
Q3.連携で何を伝えると良いですか?
A.「症状」だけでなく、誘因・軽減因子・安全条件をセットで共有すると支援につながります。例として、どの姿勢やタイミングで症状が増えるか、何をすると落ち着くか、介助の位置や環境条件など、介入の成立条件を短くまとめます。
Q4.HADS は “ メンタルの評価 ” なので PT が踏み込んで良いか不安です
A.PT が担うのは診断ではなく、介入を成立させる条件づくりです。安全・予測可能性・負荷設定・環境調整・連携は、PT の専門性として実践できます。困難例は早めにチームで共有し、支援の厚みを増やしましょう。
おわりに
HADS 高値のときほど、臨床のリズムは「安心条件の確認→小さく成功→反復→再評価」です。できることを 1 つに絞り、介入が成立する条件を固定して積み上げると、リハが前に進みます。面談準備のチェックと職場評価の視点を揃えたい方は、マイナビコメディカルのチェックリストも活用すると整理が速くなります。
参考文献
- Zigmond AS, Snaith RP. The Hospital Anxiety and Depression Scale. Acta Psychiatr Scand. 1983;67(6):361-370. PubMed
- Bjelland I, Dahl AA, Haug TT, Neckelmann D. The validity of the Hospital Anxiety and Depression Scale: an updated literature review. J Psychosom Res. 2002;52(2):69-77. PubMed
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下
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