歩行・バランス評価は「主役 1 本」と「条件固定」で回ります
歩行・バランス評価は、たくさん測るほど正確になるわけではありません。結論はシンプルで、いま決めたいこと(層別化/要因分析/生活場面の推定/経時変化)に合わせて主役の評価を 1 本に固定し、条件(環境・補助具・合図・試行回数)を揃えて再評価できる形にするのが最短です。
本ページは「何を選ぶか」と「どう運用を固定するか」に絞った総論(ガイド)です。手順や採点の細部は、各評価の個別記事に逃がして、迷いを減らします。
同ジャンル回遊(まずここから)
このページで決められること( 3 つ)
このページでは、次の 3 つを 1 枚で決められるようにします。
- 初回に取る “主役 1 本”(目的別に固定)
- 追加評価の順番(時間と目的で最小化)
- 再評価でブレない条件と記録(チームで共有できる型)
迷わない最短フロー(実施 → 記録 → 解釈 → 次の一手)
運用が崩れる原因は「点数」よりも「条件の揺れ」です。まずは順番と記録項目を固定します。
- 目的を 1 つに絞る(層別化/要因分析/生活推定/経時変化)
- 主役 1 本を決める(下の早見表)
- 条件固定(環境・補助具・合図・試行回数・中止基準)
- 結果+破綻ポイントを 1 行で残す
- 次の一手(介入/追加評価/再評価間隔)を 1 つ決める
目的別|主役 1 本を決める早見表
※スマホでは表を左右にスクロールできます。
| 目的(いま決めたいこと) | まず 1 本(主役) | 補助(必要なら) | 固定して記録するポイント |
|---|---|---|---|
| 転倒リスクのスクリーニング | TUG | 5xSTS/ SPPB(下肢包括) | 椅子高/補助具/速度条件(通常)/開始合図/試行回数 |
| 歩行 “ 速さ ” の層別化 | 歩行速度( 10MWT など) | 10MWT vs 6MWT(比較) | 助走・計測距離/快適 vs 最速/靴・装具/介助量 |
| 歩行 “ 耐久 ” と屋外の見立て | 6MWT | Borg/ SpO2/休憩ルール | コース長/声かけ/酸素・休憩基準/中止基準 |
| バランスの要因分析(どこで崩れるか) | 動的バランス系(選び方) | 課題別スケール(必要に応じて) | 課題条件(速度変化・旋回・障害物等)/失点パターン |
| チーム共有(点数で経過を追う) | BBS/ Mini-BESTest など | TUG/歩行課題 | 採点の “ 介助の境界 ” /同じ順番/同じ指示 |
初回に強い「最小セット」 3 ステップ
初回は “ 全部やる ” より 3 ステップで回す方が安定します。迷うときは、下の順番で固定してください。
- ステップ ①:TUG(総合力+破綻ポイントを拾う)
- ステップ ②:目的で分岐(速さ= 10MWT /耐久= 6MWT /要因分析=バランス系)
- ステップ ③:補助を 1 本だけ追加(例:5xSTS で立ち上がり要因、必要なら SPPB で下肢包括)
「転倒」に寄せて最小セットを固定したい場合は、転倒リスク評価の最小セットを起点にすると早いです。
条件固定と記録の “ 型 ”(最低限そろえる 6 項目)
点数や秒数だけだと、次の評価者が再現できません。最低限は次の 6 項目を固定して残すと、経時比較が一気に楽になります。
- 実施日・評価者
- 検査名(速度/耐久/転倒/バランス)
- 補助具・装具・靴(種類・設定)
- 環境(コース長、床、混雑、手すり等)
- 条件(速度条件、椅子高、合図、試行回数、中止基準)
- 結果+破綻ポイント(例:旋回で減速/立ち上がりで膝崩れ)
現場の詰まりどころ(よくある失敗)
評価が “ 回らない ” 最大の理由は、条件が揺れて再評価が効かないことです。よくある失敗を先に潰します。
※スマホでは表を左右にスクロールできます。
| 失敗(詰まり) | 起きること | 対処(固定ポイント) | 記録に残す |
|---|---|---|---|
| 椅子高・合図・停止基準が毎回違う | TUG/ 5xSTS の秒数がブレる | 同じ椅子、同じ合図、停止基準を施設で統一 | 椅子高、開始合図、停止基準 |
| 補助具・装具・靴が混ざる | “ 改善 ” が条件差に見える | 普段条件で固定。変えたら “ 別条件 ” として扱う | 補助具の種類、装具設定、靴 |
| 速度条件が日によって違う | 介入効果の説明が揃わない | 基本は通常速度で固定。目的が違うなら別枠で測る | 通常/最速、声かけ文 |
| 点数だけ共有して “ 次の一手 ” が決まらない | カンファで意思決定が止まる | 「止まった場面 → 仮説 → 次の 1 手」を 1 行で残す | 破綻ポイント、仮説、次の 1 手 |
回避の手順(チェックリスト)
再評価が効くように、測定前にここだけ確認します。
- コース長( 6MWT はコース長を固定)/折り返し位置の目印
- 椅子(高さ・肘掛けの有無)/床のすべり
- 補助具・装具・靴(普段条件で固定)
- 速度条件(通常)/合図/試行回数
- 中止基準(胸部症状、めまい、著明なふらつき、 SpO2 低下 など)
このページ内のショートカット
ミニケースで選び方を固める( 3 例)
“ 目的 → 主役 1 本 → 条件固定 ” を、よくある 3 パターンで確認します。
ケース 1 :外来(転倒不安が強い)
- 目的:転倒リスクのスクリーニング+課題の当たりを付ける
- 主役:TUG(通常速度で固定)
- 補助:必要なら 5xSTS(立ち上がり要因)
- 次の一手:旋回で破綻 → 方向転換課題/二重課題を追加、再評価は同条件で
ケース 2 :回復期(退院支援:移動自立の見立て)
- 目的:移動能力の層別化+屋外の見立て
- 主役:歩行速度( 10MWT など)+必要なら 6MWT
- 固定:装具・杖・介助量・コース長・声かけ
- 次の一手:速度は改善だが耐久が不足 → 外出練習/休憩ルールの設計
ケース 3 :在宅(生活内で “ つまずく場面 ” がある)
- 目的:生活場面での破綻(段差・旋回・障害物)を拾う
- 主役:TUG(質的所見を併記)+必要ならバランス系(選び方は こちら)
- 固定:環境(廊下・段差)と補助具条件
- 次の一手:破綻場面を 1 つだけ再現して練習、再評価は同じ場面で
よくある質問(FAQ)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
初回は、どれを “ 1 本 ” に固定すると回りやすいですか?
結論は「目的」で決めます。転倒リスクのスクリーニングなら TUG、速さの層別化なら 10MWT、耐久なら 6MWT が回りやすいです。迷うときは、まず TUG を主役にして条件固定を徹底し、必要なタイミングで 1 本だけ追加( 5xSTS や 6MWT など)する運用が安定します。
結果が日によって変わります。どう扱えばいいですか?
まずは条件(椅子高、補助具、速度条件、合図、試行回数)と環境(コース長、混雑、床)を固定します。条件が固定できていれば、変動自体が「その日の状態」の情報として価値を持ちます。解釈は点数だけでなく、破綻ポイント(旋回で減速、立ち上がりで膝折れ など)を併記すると揃います。
バランスが高得点で “ 変化が出ない ” ときは?
天井(頭打ち)が疑われます。静的なスケールで変化が出にくい場合は、歩行課題や速度変化、方向転換など “ 課題で落ちる理由 ” を拾う評価へ主役を移すのが定番です。選び方の整理は バランス評価まとめから入ると早いです。
介入につながる “ 1 行まとめ ” の書き方は?
「止まった場面 → 仮説 → 次の 1 手」を 1 行にします。例:「 TUG 旋回で減速 → 恐怖+足部戦略低下 → 方向転換課題を週 2 回追加(通常速度で再評価)」のように、次の行動まで落とします。
再評価の間隔はどれくらいが良いですか?
介入量と病期で変わりますが、まずは施設で基準(例: 2 週〜 4 週)を決め、同一条件で比較できる頻度にすると運用が安定します。急性期は短め、生活期は少し長めが目安です。
次の一手(意思決定の三段+サブ導線)
- 運用を整える:歩行・バランス評価ハブで、目的別の “ 主役 1 本 ” を固定する
- 共有の型を作る:転倒リスク評価の最小セットで、施設内の条件固定を揃える
教育体制・人員・記録文化など“環境要因”を一度見える化すると、次の打ち手が決めやすくなります。
チェック後に『続ける/変える』の選択肢も整理したい方は、PT キャリアナビで進め方を確認しておくと迷いが減ります。
参考文献
- Podsiadlo D, Richardson S. The timed “Up & Go”: A test of basic functional mobility for frail elderly persons. J Am Geriatr Soc. 1991;39(2):142-148. DOI: 10.1111/j.1532-5415.1991.tb01616.x
- ATS Committee on Proficiency Standards for Clinical Pulmonary Function Laboratories. ATS statement: guidelines for the six-minute walk test. Am J Respir Crit Care Med. 2002;166(1):111-117. DOI: 10.1164/ajrccm.166.1.at1102
- Guralnik JM, Simonsick EM, Ferrucci L, et al. A short physical performance battery assessing lower extremity function: association with self-reported disability and prediction of mortality and nursing home admission. J Gerontol. 1994;49(2):M85–M94. DOI: 10.1093/geronj/49.2.M85
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


