歩行・バランス評価の選び方|SPPBとTUG

評価
記事内に広告が含まれています。

結論:目的別に“これを選ぶ”早見(歩行・バランス/下肢機能)

評価 → 介入 → 再評価の“型”をまとめて見る( PT キャリアガイド )

歩行・バランスの評価は、「何を知りたいか」を先に決めると迷いが減ります。転倒リスクをざっくり把握したいのか、生活場面の移動(起立 → 歩行 → 方向転換)を見たいのか、筋力寄りに見たいのか、持久力まで含めて見たいのかで、選ぶ評価は変わります。

現場で回しやすい基本は、下肢機能の俯瞰は SPPB 、移動タスクの詰まりは TUG 、立ち上がりの“筋力寄り”は 5 回立ち上がり( 5xSTS )、持久力は 6MWT という役割分担です。まずは SPPB(手順と読み方)を軸に、必要な 1 本だけ追加する運用が安定します。

目的別:歩行・バランス/下肢機能評価の選び方(成人・高齢者の実務向け)
知りたいこと(目的) 第一選択 追加するなら( 1 本 ) 向いている場面 注意(見守りの要点)
転倒リスク/下肢機能を短時間で俯瞰 SPPB 立位バランス系(必要時) 外来・回復期・地域のスクリーニング ふらつきが強い日は“点数”より条件と介助量を固定
移動タスク(起立 → 歩行 → 方向転換)の詰まり TUG SPPB(俯瞰) 転倒不安、方向転換が怖い、停止で崩れる 時間だけでなく“どの局面で崩れるか”をメモ
立ち上がり能力(筋力寄り)をシンプルに 5 回立ち上がり( 5xSTS ) SPPB(包括) 場所が限られる、短時間で定量したい 椅子の高さ・腕の使用・靴を固定して縦比較
持久力/運動耐容能(どのくらい歩けるか) 6MWT SPPB or TUG(動作の質) 退院前、在宅・地域での歩行耐久の確認 SpO₂・脈拍・自覚的運動強度( RPE )と中止基準をセット
“とにかく時間がない” SPPB or TUG(どちらか 1 本 ) 診療枠が短い、スタッフが少ない 同じ手順・同じ条件で“ぶれない”運用が最優先

※スマホでは表が横スクロールになる場合があります。

評価を選ぶ 3 ステップ(目的 → 制約 → 安全)

評価が増えるほど“迷い”も増えます。ここでは、現場でぶれないための決め方を 3 ステップに固定します。

  1. 目的:転倒リスク、移動自立、介入効果、退院可否など「何を決めたいか」を先に言語化します。
  2. 制約:時間( 3 分 / 5 分 / 10 分 )、場所(廊下距離の確保)、人手(見守りの確保)を確認します。
  3. 安全:転倒リスクが高い日は、無理に“フルセット”を回さず、条件固定と観察記録を優先します。

この順番にすると、「今日は 1 本だけでいい」「今日は歩行距離が取れないから代替でいく」といった判断がスムーズになります。

まず押さえる定番セット(現場で回る組み方)

“評価の理想”よりも、継続して回ることが重要です。以下は、現場で運用しやすい組み方の例です(必要時のみ追加)。

定番セット例:場面ごとの組み方( 1 回で全部やらない運用も含む)
場面 まずやる(主指標) 追加するなら ねらい ポイント
外来・回復期(時間が短い) SPPB TUG 下肢機能の俯瞰+移動タスクの詰まり SPPB の下位項目で“どこが弱いか”を特定
退院前(移動安全性) TUG SPPB 生活内の移動で転びやすい局面を拾う 方向転換・停止・座り込みの質を観察
在宅・地域(継続モニタリング) SPPB or 5xSTS 6MWT(可能なら) 継時変化の追跡(介入の効果判定) 同じ条件で測る(椅子、靴、杖、声かけ)

現場の詰まりどころ(よくある失敗と回避)

同じ評価でも、運用がぶれると“点数”が信用できなくなります。詰まりやすいポイントを先に潰しておくと、チームで共有しやすくなります。

OK / NG 早見:運用が崩れやすいポイント
詰まりどころ NG(ぶれる) OK(固定する) 記録に残すコツ
時間がない 毎回“やれるだけ全部”で内容が変わる 主指標を 1 本に固定(必要時のみ追加) 「主指標:SPPB、追加:なし」など運用ルールを明記
場所がない 歩行距離や助走が毎回違う 距離・助走・減速を固定(難しければ代替に切替) 距離、助走の有無、廊下条件(混雑など)をコメント
見守り基準 日によって介助量が変わる 介助量・補助具・声かけを固定し“条件”を縦比較 補助具( T 字杖など)、手添えの部位、声かけ量を残す
点数に引っ張られる 点数だけで判断して“質”を捨てる “どの局面で崩れるか”を観察して介入につなぐ 方向転換、停止、初動( 1 歩目 )など局面メモを追加

記録と共有の型(点数 → 解釈 → 次アクション)

点数や時間は“結果”ですが、臨床では次の一手に変換して共有するのが目的です。書き方を型にしておくと、評価が介入に直結します。

カルテ記載テンプレ(短文で回る形)
項目 書く内容(例) ねらい
結果 「 SPPB:合計 ○ 点(バランス/歩行/立ち上がり:どこが低いか) 」 弱点の“場所”を共有
条件 「同一椅子、同一靴、補助具:○○、声かけ:最小、見守り:近接」 縦比較の信頼性を担保
解釈 「下肢筋力よりもバランス局面で崩れ。停止でふらつき」 “何が原因か”を言語化
次アクション 「次回は方向転換・停止の手順固定を優先。負荷は量より質」 介入と再評価をつなぐ

よくある質問

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

Q1. 時間がないとき、 1 本だけ選ぶなら?

基本は、「転倒リスク/下肢機能の俯瞰」が目的なら SPPB 「生活内の移動タスク」が目的なら TUG が回しやすいです。どちらにしても、毎回同じ条件(補助具・椅子・靴・声かけ)で固定し、縦比較できる状態を優先します。

Q2. 廊下が取れず歩行距離が測れない日はどうしますか?

距離や助走が固定できないと、測定値の“ぶれ”が大きくなります。その日は無理に歩行距離を稼がず、条件固定で回る評価(例:立ち上がり系)に寄せ、歩行は観察記録(ふらつく局面、停止、方向転換)を厚めに残すほうが臨床的に有益です。

Q3. 見守りはどこまで付ける?

転倒リスクが高い場合は、安全が最優先です。評価は“介入”ではないので、危険がある日は中止・簡略化を選びます。実施する場合も、手添えや近接見守りなどの介助量を固定し、「今日は近接」「今日は手添え」など条件を明記しておくと、経時変化の解釈がぶれにくくなります。

Q4. 点数が良くても転びやすい人がいるのはなぜ?

評価で拾うのは“能力”の一部で、生活内の転倒は環境・注意・恐怖・二重課題などが絡みます。点数だけで安心せず、どの局面で崩れるか(停止、方向転換、初動、狭い場所)を観察し、介入はタスク特異的に詰まりを潰すと改善しやすいです。

Q5. 再評価はどの頻度が現実的ですか?

理想は短い間隔で“傾向”を見たいですが、現場では負担もあります。まずは主指標を 1 本に固定し、週 1 回、隔週、 1 か月など施設で回る頻度を決めます。頻度を下げる代わりに、条件(椅子・補助具・声かけ)と観察記録を揃えると、再評価の価値が落ちにくいです。

参考文献

  • Guralnik JM, Simonsick EM, Ferrucci L, et al. A Short Physical Performance Battery Assessing Lower Extremity Function: Association With Self-Reported Disability and Prediction of Mortality and Nursing Home Admission. J Gerontol. 1994;49(2):M85–M94. doi:10.1093/geronj/49.2.M85. PubMed
  • Guralnik JM, Ferrucci L, Pieper CF, et al. Lower extremity function and subsequent disability: consistency across studies, predictive models, and value of gait speed alone compared with the Short Physical Performance Battery. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2000;55(4):M221–M231. doi:10.1093/gerona/55.4.m221. PubMed
  • Pavasini R, Guralnik J, Brown JC, et al. Short Physical Performance Battery and all-cause mortality: systematic review and meta-analysis. BMC Med. 2016;14:215. doi:10.1186/s12916-016-0763-7. PubMed
  • Studenski S, Perera S, Patel K, et al. Gait speed and survival in older adults. JAMA. 2011;305(1):50–58. doi:10.1001/jama.2010.1923. PubMed

おわりに

歩行・バランス評価は、安全の確保 → 条件固定 → スケール記録 → 解釈 → 再評価のリズムで回すと、点数が“次アクション”に変わります。忙しい現場ほど主指標を 1 本に固定し、観察記録と条件をそろえて縦比較するだけで、評価の精度と介入の再現性が上がります。

評価と介入の流れを整えたら、面談準備チェックや職場評価シートもあわせて用意しておくと、臨床の選択肢(働き方)を比較するときに迷いが減ります。

タイトルとURLをコピーしました