EPA( Entrustable Professional Activities )とは?臨床実習の「任せ方」を 3 段階で型化

制度・実務
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EPA( Entrustable Professional Activities )とは?臨床実習の「任せ方」を型化する

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EPA( Entrustable Professional Activities )は、実習で「どこまで任せるか」を業務単位で言語化し、監督レベルと到達目標をそろえるための枠組みです。見学中心から一歩進めたい場面ほど、任せ方が属人化しやすく、学生側も指導者側も迷いが増えます。

本稿では、臨床参加型実習(CCS)運用のコツの「任せ方」パートを、院内へ落とし込めるように再整理します。ゴールは、監督レベル・観察・フィードバック・記録を一つの言葉でそろえ、指導のブレを減らすことです。

EPA の定義と、コンピテンシーとの違い

EPA は「実務で完結する仕事のかたまり(単位)」として設計します。重要なのは、知識や態度を抽象的に評価するのではなく、現場で観察できる行動に落とす点です。たとえば「移乗介助ができる」ではなく、「条件を確認し、介助し、変化を報告できる」までを 1 つの業務として扱います。

コンピテンシーは能力の構成要素(何ができるか)を示し、EPA は仕事の単位(何を任せるか)を示します。両者を対応づけると、教育と評価が回りやすくなります。

コンピテンシーと EPA の違い(教育設計の視点)
観点 コンピテンシー EPA
粒度 能力要素(知識・技能・態度) 実務の仕事単位(観察できる業務)
評価の形 要素別に評点が散らばりやすい 「任せられるか」を監督レベルで判断しやすい
現場の会話 抽象語が増えやすい 「この業務を、この条件で任せる」へ落としやすい
教育への効き方 到達像を整理できる 運用(任せ方・観察・記録)を固定しやすい

監督レベル(任せ方)を 3 段階で固定する

まずは監督レベルを 3 段階に固定すると、運用が一気に軽くなります。段階が多すぎると記録と合意形成が重くなり、少なすぎると学習設計が粗くなります。院内で共通語にするなら「観察→共同→監督下で実施」の 3 段階が扱いやすいです。

段階の切り替えは「行為の上手さ」だけでなく、条件の確認・中止基準・報告の質で判断します。つまり、技術よりも「判断と言語化」が先に育つ設計が噛み合います。

監督レベルを 3 段階で統一する例(院内の共通語)
段階 学生が行うこと 指導者が見る観点 記録の一言例
観察 手順・声かけ・環境の観察、要点の言語化 目的を説明できる/要点が外れていない 「本日は観察。要点を 3 点で復唱」
共同 一部を担当し、残りは指導者と共同で実施 条件確認が先に出る/報告が短い 「共同実施。条件確認→実施→反応を報告」
監督下で実施 一連を実施し、変化を報告し、次の課題を提案 中止基準を言語化できる/再評価へつながる 「監督下で実施。変化と次回案を提示」

EPA を作る 5 ステップ(院内へ落とす順番)

EPA を作るときは「業務を並べる」より、「迷うポイント」を先に拾うほうが強いです。現場が詰まりやすいのは、任せ方の境界(どこで止めるか)と、報告・記録の最小要件が曖昧なときです。

下の 5 ステップで作ると、教育担当が変わっても運用が崩れにくくなります。最初は 3〜5 本だけを作り、回ったものから増やすのが現実的です。

EPA 設計の 5 ステップ(小さく作って回す)
ステップ やること 決めるべき 1 行 よくあるズレ
1 頻出の「仕事」を 5〜10 個書き出す 「実習で必ず通る業務」を先に レア手技を入れて運用が重くなる
2 各業務の前提条件(禁忌・中止基準・報告先)を決める 「止める条件」と「誰へ報告」を固定 条件が口頭だけで曖昧に残る
3 監督レベル(観察/共同/監督下)を当てはめる 「今日はどの段階か」を残せる形へ 段階が日替わりで学生が混乱
4 観察ポイント( 3 点)と、記録の型( 1 行)を決める 「見る場所 3 点」「残す 1 行」 観察が抜けて FB が抽象化する
5 ミニ CEX/OMP と接続し、短い FB を運用に組み込む 「観察→FB→次回課題 1 つ」 FB が長文化して現場が疲弊

リハ領域の EPA 例(病棟で使える 6 本)

ここでは、PT/OT/ST で共通化しやすい「病棟で頻出の業務」を例にします。院内の規程や担当体制に合わせて、前提条件と報告先だけは必ず施設版へ置き換えてください。

ポイントは「行為そのもの」より「条件確認→実施→変化報告→記録」までを 1 セットにすることです。ここがそろうと、観察とフィードバックの質が揃います。

EPA の例(病棟:観察→共同→監督下で実施)
EPA(業務単位) 前提条件(例) 観察ポイント( 3 点) 記録の型( 1 行)
① 介入前の状態確認と申し送り 担当範囲/確認項目/報告先が共有されている 確認が先に出る/要点が短い/報告が筋道立つ 「条件確認→実施可否→報告先」
② 起居・移乗の介助(監督レベル付き) 禁忌/中止基準/介助量の範囲が明確 環境調整/声かけ/介助位置と手順 「介助量・条件・反応・次回」
③ 立位・歩行の見守り(転倒リスクの言語化) 補助具/見守り位置/中止条件が共有 リスク予測/介助位置/変化の早期発見 「条件・距離(時間)・反応・対処」
④ ADL 介入の段取り( OT でも共通) 目的/手順/患者の希望が整理済み 目的の一致/手順の簡潔さ/疲労・注意の変化 「目的→手順→結果→次回」
⑤ 嚥下前の姿勢調整と環境準備( ST ) 食形態/手順/共有事項が明確 姿勢条件/声かけ/反応の見取り 「条件(姿勢・形態)と反応」
⑥ SOAP の下書き(事実と判断の分離) 記録の最低ライン(院内版)が共有 S/O の事実/A の理由/P の具体性 「事実→理由→次回条件」

評価とフィードバック:ミニ CEX/OMP と組み合わせる

EPA は「任せ方」を固定し、ミニ CEX は「観察→評価→即時フィードバック」を短く回します。OMP は「コミット→根拠→一般化→良かった点→改善点」で 1 分指導を安定させます。3 つを組み合わせると、忙しい日でも教育が崩れにくくなります。

運用のコツは、フィードバックを 3 点(良かった点 1 つ/改善点 1 つ/次回の課題 1 つ)に固定することです。次回課題を 1 つに絞ると、学生の行動が変わりやすくなります。

EPA × ミニ CEX/OMP:短時間で回すテンプレ
タイミング やること 一言テンプレ 残すもの
介入前( 30 秒) 今日の EPA と監督レベルを宣言 「今日は ② を共同で。中止条件は?」 監督レベル 1 行
介入中( 2〜3 分) 観察ポイントを 3 点だけ見る 「今、何を見てる?」 観察 3 点
直後( 2〜5 分) ミニ CEX/OMP で即時 FB 「良かった点 1/改善 1/次回 1」 次回課題 1 つ
記録( 3 分) SOAP を「事実→理由→次回条件」で短く 「A は 1 行で理由まで」 要約 1 行

現場の詰まりどころ(よくあるミス)

実習の受け入れがしんどいのは、忙しさより「判断の連続」が積み上がるためです。詰まりどころを先回りして、ルールを短く固定すると、指導者側の負荷も下がり、学生側の迷いも減ります。

下の表は、EPA を入れるときに起こりやすいズレを「すぐ効く修正」に落としたものです。まずは 1 つだけ直し、運用が回ってから増やすのがラクです。

EPA 運用で多いミスと、すぐ効く修正
よくあるミス 起きる理由 修正の 1 手 記録ポイント
任せ方が日替わり 監督レベルの共通語がない 観察/共同/監督下で実施の 3 段階に固定 今日の段階を 1 行
条件確認が後回し 「何を見て止めるか」が曖昧 中止基準と報告先を EPA ごとに 1 行で固定 止めた理由/報告先
FB が抽象的 観察がなく行動で言えない 観察ポイントを 3 点に絞ってから FB 強み 1/改善 1/次回 1
記録が長いのに伝わらない 事実と判断が混ざる 「事実→理由→次回条件」の順に短文化 要約 1 行(理由つき)

よくある質問

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

EPA は何本くらい作れば十分ですか?

最初は 3〜5 本で十分です。頻出の業務に絞り、前提条件(中止基準・報告先)と監督レベルを固定して回します。回ったものから増やすほうが、院内で定着しやすいです。

監督レベルの切り替えは何で決めますか?

技術の上手さより、「条件確認が先に出るか」「中止基準を言語化できるか」「変化を短く報告できるか」で決めるとブレが減ります。段階を上げる前に、観察ポイントを 3 点で言える状態を作るのがコツです。

フィードバックの時間が取れません。

長い指導をやめて「観察→即時 FB 」へ寄せます。良かった点 1 つ、改善点 1 つ、次回課題 1 つに固定し、次回課題は必ず行動で書きます。時間がない日は、次回課題だけでも残すと回りやすいです。

学生の記録はどこまで直すべきですか?

最初は「S/O の事実」と「A/P の判断」が分かれているかだけを見ます。文章の上手さより、評価→解釈→計画→実施→反応がつながる形を優先すると、指導が短く済みます。

EPA を入れると指導が厳しくなりませんか?

運用次第です。EPA は「できない」を詰める道具ではなく、「何をすれば次へ進めるか」を明確にする道具です。監督レベルと観察ポイントを明確にし、次回課題を 1 つに絞ると、学生の負担も指導者の負担も下がります。

おわりに

EPA は「任せ方の段階づけ → 短い観察 → 即時フィードバック → 記録 → 再評価」のリズムをそろえると、現場でも無理なく回ります。まずは 3〜5 本だけ作り、回ったものから増築するのが最短です。

面談準備チェックと職場評価シートも持っておくと、教育体制や記録文化の違いを整理しやすいです:面談準備チェック&職場評価シート

参考文献

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著者情報

rehabilikun

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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