BESTest 系と FGA/FSST の選び方(この親記事の役割)
バランス・歩行の評価は「有名な 1 本」を固定するよりも、いま決めたいこと(スクリーニング/要因分析/歩行課題の抽出)と所要時間で 1 本に絞る方が、現場で回りやすくなります。本記事は BESTest 系(BESTest/Mini/Brief)と FGA/FSST を「どれを選ぶか」という観点で整理し、各スケールの詳細記事へつなぐ親(総論)です。
バランス評価を静的テストまで含めて俯瞰したい場合は、評価ハブから索引的に確認できます。
まずは結論:目的と時間で 1 本に絞る(早見)
迷いの正体は「いま何を決めたいか」が曖昧なことです。次の表で、目的と所要時間から 1 本に絞ってください(詳細は各リンク先)。
| いま決めたいこと | 推奨 | 向く場面 | 所要の目安 | 次にやること |
|---|---|---|---|---|
| 短時間で全体像(スクリーニング/定期フォロー) | Brief-BESTest | 外来・通所・病棟の「まず拾う」 | 約 10 分 | 弱いセクションだけ訓練に落とす |
| どこが弱いか(要因分析/介入設計) | Mini-BESTest | 動的バランスを分解して狙いを決める | 約 10 分 | ボトルネックを 1〜2 個に絞って介入 |
| 歩行課題の抽出(速度変化・方向転換・頭部運動など) | FGA | 歩行の難所を「項目別」に見える化 | 約 10 分 | 難所に合わせて課題特異的に練習 |
| 狭い環境での転倒リスク(方向転換・跨ぎ・切り返し) | FSST(運用) | 在宅・病棟で「スペース最小」で拾う | 数分 | 安全管理・記録テンプレを先に統一 |
| 基本動作中心の包括(立位・移乗・リーチ) | BBS と Mini の比較 | 静的〜基本動作を広く見る | やや長め | 動的課題が残るなら Mini/FGA を併用 |
迷わない運用フロー( 10 分で回す順番)
「全部やる」ではなく、最短で意思決定できる順番に並べ替えると運用が安定します。
| 場面 | まずやる | 次に進む条件 | 次にやる | 再評価の目安 |
|---|---|---|---|---|
| 初回(時間がない) | Brief-BESTest | 弱いセクションがはっきりした | 弱い要素に合わせて課題練習 | 2〜4 週 |
| 初回(介入方針を決めたい) | Mini-BESTest | 歩行の難所も把握したい | FGA を追加(歩行特化) | 2〜4 週 |
| 在宅/病棟(狭い・転倒が心配) | FSST(+安全管理) | 歩行での課題が残る | FGA(難所の特定) | 2〜4 週 |
役割の被りを避ける(「足す」より「分担」を決める)
スケールは増やすほど良いわけではありません。施設内で「役割」を言語化しておくと、導入の抵抗が減ります。
| スケール | 役割(ひとことで) | 強いところ | 弱いところ | おすすめの組み合わせ |
|---|---|---|---|---|
| Brief-BESTest | 短時間の全体スクリーニング | 6 システムを横断しやすい | 深掘りはしにくい | Brief → 必要に応じて Mini/FGA |
| Mini-BESTest | 要因分析と介入の狙い決め | 動的バランスを分解できる | 歩行の難所を網羅しない | Mini + FGA(歩行難所の補完) |
| FGA | 歩行の難所を項目別に抽出 | 速度変化・頭部運動・狭路など | 姿勢制御の要因分析は限定的 | Mini/Brief + FGA |
| FSST | 狭い環境での切り返し・跨ぎ | 在宅・病棟で実施しやすい | 「何が原因か」は別評価が必要 | FSST + Brief(全体像) |
現場の詰まりどころ(よくある失敗と対策)
スケール運用が止まる原因は「評価そのもの」より、条件ブレと記録の粒度です。先に失敗パターンを潰しておくと継続できます。
| 失敗パターン | 起きる理由 | 対策(チームで固定) | 記録ポイント |
|---|---|---|---|
| 毎回条件が違う | 椅子高・距離・路面・補助具が日替わり | 「セット(椅子/フォーム/距離)」を 1 つ決める | 補助具、介助、距離、路面を必ず残す |
| 点数だけ追って介入が変わらない | 合計点しか見ない | 最低得点のセクション(項目)を 1〜2 個に絞る | ボトルネック欄を作り、次回は同部位を比較 |
| 評価に時間が取られて続かない | 初回で全部やろうとする | 初回は「Brief で全体像」か「Mini で要因」どちらか | 評価の目的(スクリーニング/要因分析)を明記 |
| 安全管理が曖昧で実施が止まる | 見守り位置と中止基準が共有されていない | 見守り位置・介助への切替基準を先に統一 | 中止理由(疼痛・息切れ・失調など)を残す |
よくある質問(FAQ)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Brief と Mini は、結局どちらを先に使うべきですか?
まず「いま決めたいこと」で選びます。短時間で全体像(スクリーニング/定期フォロー)なら Brief、介入の狙いを決めたい(要因分析)なら Miniが先です。運用としては「Brief → 必要に応じて Mini/FGA」または「Mini + 必要に応じて FGA」が回りやすいです。
FGA はいつ足すと効果的ですか?
Mini/Brief の結果だけだと「歩行のどの難所で崩れるか」が曖昧なときに足します。速度変化、方向転換、頭部運動、狭路、階段など、歩行課題を項目別に整理したい場面で強みが出ます。
FSST は単独で転倒リスク判定に使えますか?
単独で結論を出すより、他のバランス・歩行指標と束ねて「経時変化」と「場面の再現性」を重視する方が安全です。狭い環境での切り返し・跨ぎの難しさを拾い、必要なら Brief/FGA で全体像や歩行難所を補完します。
次の一手(この親記事から読む順番)
- Brief-BESTest のやり方・採点(小記事)
- Mini-BESTest の評価方法・採点(小記事)
- FGA の評価方法とカットオフ(小記事)
- FSST 運用プロトコル(小記事)
- BBS と Mini-BESTest の違い(比較)
- バランス評価のやり方まとめ(関連:より広い索引)
参考文献
- Horak FB, Wrisley DM, Frank J. The Balance Evaluation Systems Test (BESTest) to Differentiate Balance Deficits. Phys Ther. 2009;89(5):484–498. PubMed
- Franchignoni F, Horak F, Godi M, et al. Using psychometric techniques to improve the Balance Evaluation Systems Test: the mini-BESTest. J Rehabil Med. 2010;42(4):323–331. DOI: 10.2340/16501977-0537
- Padgett PK, Jacobs JV, Kasser SL. Is the BESTest at Its Best? A Suggested Brief Version. Phys Ther. 2012;92(9):1197–1207. DOI: 10.2522/ptj.20120302
- Wrisley DM, Marchetti GF, Kuharsky DK, Whitney SL. Reliability, internal consistency, and validity of data obtained with the Functional Gait Assessment. Phys Ther. 2004;84(10):906–918. PubMed
- Dite W, Temple VA. A clinical test of stepping and change of direction to identify multiple falling older adults. Arch Phys Med Rehabil. 2002;83(11):1566–1571. DOI: 10.1053/apmr.2002.35469
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

