遂行機能障害ドリルは「目標→計画→実行→自己修正」で分けると運用が安定します
遂行機能障害への介入で迷いやすい理由は、「うまくできない」を一括で捉えてしまうことです。実際には、目標を決める段階、手順を組む段階、実行する段階、エラーを修正する段階でつまずき方が異なります。
どこで崩れるかを先に分けると、課題選定と記録が一気に整理されます。本記事は、 OT が現場で使いやすいように、評価→課題選定→実施→記録の流れで「運用の型」をまとめます。
対象読者とこの記事のゴール
対象は、遂行機能障害が疑われる患者を担当する OT 、教育担当者、チームで介入を共有したい実務者です。特に「課題は実施しているが、どの要素が改善したか説明しにくい」「担当者で難易度調整が変わる」と感じる場面に向いています。
ゴールは、遂行機能障害ドリルを“比較できる運用”に変えることです。つまり、同じ見立てで評価し、同じ基準で難易度を変え、同じ形式で記録できる状態を目指します。
まず押さえる 4 要素(目標設定・計画・実行・自己修正)
遂行機能障害ドリルの入口は、「どの要素で崩れるか」を分けることです。目標設定が曖昧なら開始が遅れ、計画が弱いなら順序が乱れ、実行が不安定なら途中離脱しやすく、自己修正が弱いと同じ誤りを反復します。
混在例では主軸を 1 つに固定して開始すると、介入の効果判定が明確になります。はじめから全要素を同じ重みで扱うと、課題が散らばりやすくなります。
| 要素 | 観察の視点 | 初期の狙い | 課題例 |
|---|---|---|---|
| 目標設定 | 目的の言語化、到達点の明確さ | 開始条件をそろえる | 目標文作成、ゴール確認 |
| 計画 | 手順化、優先順位、時間配分 | 段取りの安定化 | 手順分解、順序並べ替え |
| 実行 | 開始遅延、脱線、完遂率 | 課題完遂を増やす | 制約付き実行課題 |
| 自己修正 | エラー気づき、修正の自発性 | 再発防止の定着 | 自己点検チェック課題 |
評価の進め方|どの要素で崩れるかを特定する
評価では点数だけでなく、失敗の時系列を観察します。開始前で止まるなら目標設定、途中で手順が崩れるなら計画・実行、同じ誤りを繰り返すなら自己修正が主問題です。どこで崩れるかを特定すると、課題選定の優先順位が決まります。
条件(課題量、時間制限、環境刺激、指示方法)は一定期間固定してください。条件差が大きいと、改善か環境差か判断しづらくなります。
課題選定| 1 要素 × 1 目的 × 3 段階で組む
課題選定は「 1 要素 × 1 目的」を原則にします。目的は「手順 6 項目を順序どおり実施」「制約時間内に完遂」「自己点検でエラー 1 回以内」など、測定可能な形で定義します。目的が明確だと、課題の取捨選択が容易になります。
課題は易→中→難を準備し、昇降条件を先に決めます。完遂率、脱線回数、自己修正回数の 3 指標で判断すると、主観的な調整を避けやすくなります。
遂行機能障害ドリル例(目標・計画・実行・自己修正)
導入時は 4 要素から主軸を 1 つ選び、短時間で反応を確認してから調整します。課題数を増やすより、同条件で反復して比較可能な記録を残すほうが、改善点を明確にできます。
観察は完遂率だけでなく、開始遅延、脱線、自己修正の質をセットで追ってください。とくに「できたか」だけでなく「どう修正できたか」を見ると、再発予防につながります。
| 要素 | ドリル例 | 主な狙い | 調整ポイント |
|---|---|---|---|
| 目標設定 | 目標文作成、成果基準の明確化 | 開始条件をそろえる | 目標の具体性、達成条件 |
| 計画 | 手順分解、優先順位づけ、時間見積もり | 段取りの安定化 | 手順数、制約数、時間枠 |
| 実行 | 制約付き作業課題、二重課題下の実行 | 完遂率の向上 | 刺激量、制約強度、介助量 |
| 自己修正 | 自己点検表、エラー検出・再試行課題 | 再発防止の定着 | 点検頻度、フィードバック量 |
ドリルの進め方(易→中→難)
進行は「完遂率」「脱線回数」「自己修正回数」の 3 指標で判断します。自己修正が増え、脱線が減少し、完遂率が安定すれば次段階へ進みます。崩れが続く場合は段階を戻し、手順数や制約を再調整してください。
中止・調整基準を先に決めると、実施者間の差が小さくなります。疲労増大、混乱増加、拒否が見られた場合は短時間で終了し、次回は成功体験を得やすい設定へ戻す運用が有効です。
| 段階 | 負荷設定 | 合格目安 | 次段階への条件 |
|---|---|---|---|
| 易 | 手順少・外部支援あり・制約少 | 完遂率 80% 以上 | 脱線が少なく自己点検が可能 |
| 中 | 手順中・外部支援最小・制約中等度 | 完遂率 70% 以上 | 修正行動が自発化する |
| 難 | 手順多・複数制約・時間圧あり | 完遂率 60% 以上 | 生活場面へ汎化可能 |
記録テンプレ|次回調整に直結する 5 項目
記録は長文化より、比較可能な定型化が重要です。最低限「本日の目的」「実施課題」「脱線場面」「自己修正」「次回調整案」の 5 項目を固定すると、担当交代時の引き継ぎがスムーズです。
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| 項目 | 記載例 | 次回に活かす視点 |
|---|---|---|
| 本日の目的 | 手順 6 項目を順序どおり実施 | 目的達成率で負荷調整 |
| 実施課題 | 手順分解→制約付き実行課題 | 要素ごとの適正負荷を判断 |
| 脱線場面 | 中盤で順序飛ばしが 2 回 | 脱線トリガーを特定 |
| 自己修正 | 点検表で 1 回自発修正 | 修正の自発性を強化 |
| 次回調整案 | 手順維持で時間制約を 10% 強化 | 成功体験を維持して進行 |
現場の詰まりどころ
よくある詰まりは、実行不良だけに注目して目標設定・計画を飛ばすことです。結果として、その場の介助で完了しても再現性が上がりません。まずはどの要素が主問題かを固定し、そこに対する課題を集中的に実施してください。
もうひとつは、フィードバック過多で自己修正が育たないケースです。介入者が修正しすぎると、患者側のモニタリング機会が減ります。自己点検の時間を意図的に確保し、修正を“待つ設計”にしてください。
よくある失敗
ミニ症例( 1 本だけ )|「実行」に見えて、実は「計画」と「自己修正」だった
例:脳卒中後の方で、作業課題(病棟の準備手順など)を「最後までやり切れない」状態が続いていました。介入者が声かけで都度修正すると、その場は完遂できますが、翌日には同じ脱線が再発します。
| 観察 | 誤りやすい解釈 | 実際の主問題 | 介入の修正 |
|---|---|---|---|
| 途中で順序が崩れる | 実行が弱い | 計画(手順化)が弱い | 手順を 6 項目に分解し、並べ替え→本人の復唱で開始条件を固定 |
| 同じ誤りを繰り返す | 理解不足 | 自己修正(点検)が弱い | 点検 1 回だけを“義務化”し、介入者は即時訂正せず「待つ」時間を確保 |
| 声かけで完遂はできる | 改善した | 外部支援で成立している | 記録は「完遂率」だけでなく「脱線回数」「自己修正の自発率」をセットで残す |
この症例のポイントは、「できた/できない」ではなく、どの段階で崩れているかを固定してから課題を組み直すことです。要素を 1 つに絞るだけで、同条件の比較が成立しやすくなります。
| 失敗 | 理由 | 対策 | 記録ポイント |
|---|---|---|---|
| 要素を混在して実施 | 主問題の特定が曖昧 | 目標・計画・実行・修正の主軸を 1 つ固定 | 本日の主要素 |
| 支援過多で進める | 完遂率のみを優先 | 自己修正機会を先に確保する | 修正の自発率 |
| 制約条件が毎回違う | 比較条件を固定していない | 期間内は同条件で実施する | 完遂率の推移 |
| 課題内成績のみで終了 | 生活汎化の確認不足 | 病棟・自宅場面で再現性を確認 | 場面別の実行可否 |
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. どの要素から始めるべきですか?
評価で最も崩れている要素から始めます。迷う場合は「目標設定」または「計画」の安定化を優先すると、実行課題の質が上がりやすくなります。
Q2. 記憶障害が併存する場合はどうしますか?
初期は主症状を 1 つに固定して介入し、改善が見えた段階で副次症状へ広げます。併存時は「思い出せない」のか「段取りが組めない」のかを分け、目的・条件・記録の軸を揃えると判断が安定します。
Q3. フィードバックはどのくらい出すべきですか?
正答をすぐ示すより、自己点検の機会を残す設計が有効です。まず本人の修正を待ち、必要最小限の支援に絞ると自立性が育ちます。
Q4. 記録を短く保つコツはありますか?
5 項目(目的・課題・脱線場面・自己修正・次回案)を固定し、各 1 行で記載すると比較しやすくなります。
次の一手
次は、運用の型(本ページ)を保ったまま、課題セットを使って実施量を確保し、クラスター全体で再現性を高めます。
参考文献
- Velikonja D, Tate R, Ponsford J, et al. INCOG 2.0 guidelines for cognitive rehabilitation following traumatic brain injury, part III: executive function and self-awareness. J Head Trauma Rehabil. 2023;38(1):52-64. doi:10.1097/HTR.0000000000000834 / PubMed
- Kennedy MRT, Coelho C, Turkstra L, et al. Intervention for executive functions after traumatic brain injury: a systematic review, meta-analysis and clinical recommendations. Neuropsychol Rehabil. 2008;18(3):257-299. doi:10.1080/09602010701748644 / PubMed
- Krasny-Pacini A, Chevignard M, Evans J. Goal Management Training for rehabilitation of executive functions: a systematic review of effectiveness in patients with acquired brain injury. Disabil Rehabil. 2014;36(2):105-116. doi:10.3109/09638288.2013.777807 / PubMed
- Stamenova V, Levine B. Effectiveness of Goal Management Training® in improving executive functions: a meta-analysis. Neuropsychol Rehabil. 2019. doi:10.1080/09602011.2018.1438294
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


