記憶障害ドリルと遂行機能障害ドリルは「失敗する場面」で使い分けます
記憶障害ドリルと遂行機能障害ドリルは、「症状名」よりもどの場面でつまずくかを基準に使い分けると整理しやすくなります。提示直後・作業中・遅延後のどこで崩れるかを見ると、記憶への介入を優先するのか、計画・実行・修正への介入を優先するのかが分かります。
本記事では OT 向けに、比較・課題選定・難易度調整・記録までを「現場で迷わない形」で整理します。検査点数の詳説ではなく、「どちらのドリルを選ぶか」を決める比較記事です。

この記事で決めること|どちらのドリルを優先するか
この記事のゴールは、記憶障害ドリルと遂行機能障害ドリルを主症状に合わせて選び、次回調整まで記録できる状態にすることです。対象は、高次脳機能障害の介入で「覚えられない」と「段取りが崩れる」の見分けに迷う OT と教育担当者です。
記憶障害が主であれば、記銘・保持・想起、または外的補助具の定着を中心にします。遂行機能障害が主であれば、目標設定・計画・実行・自己修正を中心にします。
まずは比較|記憶障害と遂行機能障害の違い
最初に見るべき違いは、「情報が保持できない」のか、「保持できても段取りが崩れる」のかです。ここを分けるだけで、ドリルの目的と記録項目が変わります。
| 比較軸 | 記憶障害ドリル | 遂行機能障害ドリル |
|---|---|---|
| 主問題 | 情報の記銘・保持・想起が難しい | 目標設定・計画・実行・修正が崩れる |
| よくある失敗 | 遅延後に抜ける | 順序・切り替えで崩れる |
| 初期目標 | 再生率、保持時間、補償定着 | 段取り完遂、自己修正 |
| 代表課題 | 間隔反復、手がかり再生 | 手順化、問題解決、自己点検 |
| 記録の軸 | 遅延後再生、手がかり量 | 脱線、修正行動 |
5 分フロー|失敗の時系列で主症状を決める
迷ったときは、失敗を「提示直後」「作業中」「遅延後」に分けます。どこで崩れるかを見るだけで、初動の方向性を決めやすくなります。
| 場面 | 記憶障害が主 | 遂行機能障害が主 | 初動 |
|---|---|---|---|
| 提示直後 | 説明を保持できない | 開始できない | 情報量調整/開始合図 |
| 作業中 | 途中で抜ける | 脱線・順序崩れ | 手がかり/手順分解 |
| 遅延後 | 再生低下 | 再現性が不安定 | 遅延段階づけ/条件固定 |
課題選定|1 症状 × 1 目的に絞る
課題選定では、記憶障害なら「覚える・保つ・取り出す」、遂行機能障害なら「計画する・実行する・修正する」に目的を分けます。目的が混ざると、改善したのが記憶なのか遂行なのか説明しにくくなります。
| 領域 | ドリル例 | 主な狙い | 調整ポイント |
|---|---|---|---|
| 記憶障害 | 意味づけ学習、間隔反復、手がかり再生 | 再生率と保持時間を上げる | 情報量、遅延時間、手がかり量 |
| 記憶障害 | メモ、手帳、アラームなど外的補助具訓練 | 生活場面での補償戦略を定着させる | 使用場面、自発使用率、継続性 |
| 遂行機能障害 | 手順分解課題、優先順位づけ課題 | 計画性と順序化を安定させる | 手順数、制約条件、時間制限 |
| 遂行機能障害 | 問題解決課題、自己点検チェック課題 | エラー検出と修正行動を促す | 自己モニタリング頻度、フィードバック量 |
記録の型|次回調整に残す 5 項目
記録は長文よりも、「次回の調整に必要な情報」を固定することが重要です。目的・課題・手がかり・エラー傾向・次回調整をそろえると比較しやすくなります。
| 項目 | 記憶障害で重視 | 遂行機能障害で重視 |
|---|---|---|
| 目的 | 遅延後再生の改善 | 段取り完遂率の改善 |
| 手がかり | 量と種類 | 自己点検の自立度 |
| エラー | 忘却、想起失敗 | 脱線、修正遅延 |
| 次回調整 | 遅延時間、情報量 | 手順数、制約条件 |
共通ドリル記録シート( A4 )
記憶障害ドリル・遂行機能障害ドリルの比較検討で共通利用できる記録シートです。同一フォーマットで 1 週間運用し、カンファレンスで見直してください。
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現場の詰まりどころ|見立てが逆になると効果判定がぼやけます
最も多い詰まりは、「遂行の崩れを記憶として扱う」または「記憶低下を遂行として扱う」ことです。見立てが逆になると、課題難易度が合わず、改善が見えにくくなります。
回避手順
| 手順 | やること | 記録に残すこと |
|---|---|---|
| 1 | 失敗の時系列で主軸を決める | どこで崩れたか |
| 2 | 1 症状 × 1 目的で課題を絞る | 目的と達成基準 |
| 3 | 昇降条件を固定する | 段階変更理由 |
よくある失敗
| 失敗 | 理由 | 対策 |
|---|---|---|
| 主症状を固定しない | 同時進行しすぎる | 初期は主軸 1 つ |
| 課題を混在 | 目的が曖昧 | 目的ごとに分ける |
| 生活場面未確認 | 訓練室のみ評価 | 病棟・自宅でも確認 |
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. 混在している場合はどう進めますか?
初期は主症状を 1 つに固定します。改善が見えた段階で副次症状へ広げると、課題選定と効果判定が安定します。
Q2. 検査点数と生活場面のどちらを優先しますか?
生活場面での破綻を優先します。検査点数は方向性確認として使い、実生活で困る場面へつなげます。
Q3. 手がかりは使ってもよいですか?
使用して問題ありません。ただし減量計画を前提にし、依存が続く場合は難易度を戻します。
次の一手
比較で使い分け軸が固まったら、総論と運用テンプレで「選定→記録→再調整」を実装してください。
参考文献
- Velikonja D, Ponsford J, Janzen S, et al. INCOG 2.0 Guidelines for Cognitive Rehabilitation Following Traumatic Brain Injury, Part V: Memory. J Head Trauma Rehabil. 2023;38(1):83-102. doi: 10.1097/HTR.0000000000000837
- Jeffay E, Ponsford J, Harnett A, et al. INCOG 2.0 Guidelines for Cognitive Rehabilitation Following Traumatic Brain Injury, Part III: Executive Functions. J Head Trauma Rehabil. 2023;38(1):52-64. doi: 10.1097/HTR.0000000000000834
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士


