低栄養患者の理学療法|新患で見る栄養評価と負荷調整

栄養・嚥下
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低栄養患者の理学療法は「筋力」より先に栄養状態をみる

新患で低栄養が疑われる患者さんに理学療法を始めるときは、ROM・筋力・歩行だけでなく、体重、BMI、体重減少、食事摂取量、エネルギーバランスを最初に確認することが重要です。歩ける、立てる、指示が入るという情報だけで負荷量を上げると、リハによって消耗を強めてしまう場合があります。

この記事では、PT が初回介入時に最低限みたい栄養情報と、運動療法を「進める・抑える・分割する・相談する」判断の流れを整理します。評価全体の位置づけは 評価ハブ も参考にしながら、低栄養患者を安全に動かすための実務に落とし込みます。

低栄養リスクを見逃さず、初回評価から運動負荷を調整する

体重・BMI・摂取量・疲労の見方をそろえると、PT の介入量をチームで説明しやすくなります。

リハ栄養の全体像を確認する

関連:サルコペニアの評価とリハ起立性低血圧の評価と対応

なぜ PT が体重・BMI・摂取量をみる必要があるのか

低栄養患者では、運動療法そのものが悪いのではなく、栄養状態に見合わない負荷設定が問題になります。摂取量が不足し、炎症や疾患負荷が強い時期に反復練習や長距離歩行を増やすと、筋力向上よりも疲労、食欲低下、翌日の活動性低下が前面に出ることがあります。

GLIM 基準では、低栄養の評価に体重減少、低 BMI、筋量低下などの表現型基準と、摂取量低下や炎症・疾患負荷などの病因基準を組み合わせます。つまり、PT が運動負荷を決める場面でも「体重」「BMI」「摂取量」「炎症」は避けて通れない情報です。

新患で最低限確認したい 5 項目

初回介入では、すべての栄養評価を PT だけで完結させる必要はありません。ただし、運動療法の強度を決める前に、少なくとも「体重」「BMI」「体重減少」「食事摂取量」「エネルギーバランスの見通し」は確認しておきたい項目です。

特に重要なのは、BMI だけで判断しないことです。浮腫がある患者では体重が保たれて見えることがあり、BMI が正常範囲でも実際には筋量低下や摂取不足が進んでいる場合があります。

低栄養患者の初回 PT 評価で確認したい項目
項目 確認する内容 PT が見る意味
体重 現体重、入院前体重、直近の変化 運動負荷に対して予備力があるかを考える材料になります。
BMI 低 BMI、浮腫、脱水、体格の変化 低体重だけでなく、隠れた低栄養を疑うきっかけになります。
体重減少 1〜6 か月の減少、入院前後の急な減少 筋量低下や消耗の進行を疑う重要な情報になります。
食事摂取量 主食・副食の摂取率、補助食品、食止め期間 「食べているつもり」でも必要量に届いていないケースを拾えます。
エネルギーバランス 摂取不足、炎症、発熱、離床量、疲労回復 リハでさらに赤字を広げないための負荷調整に直結します。

エネルギーバランスを見ない運動療法はなぜ危ないか

低栄養患者では、運動療法による消費が摂取量を上回り続けると、練習量を増やしているのに体力が上がらないという状態になりやすくなります。これは「やる気がない」「廃用が強い」だけではなく、回復に必要な材料が不足している可能性があります。

PT がみるべきポイントは、栄養量の計算を一人で完璧に行うことではありません。食事摂取率、疲労の残り方、起立耐性、翌日の反応を組み合わせて、今の運動負荷が患者さんの回復力に合っているかを判断することです。

“今日は進めていい?”を決める運動負荷調整フロー

低栄養患者の運動療法は、「できる動作」ではなく「回復できる負荷」から考えます。端座位が可能、立位が可能、歩行器で歩けるという情報だけで進めるのではなく、介入前後の消耗と翌日の反応を確認します。

基本は、摂取量が少ない時期は短時間・分割・低負荷、摂取量と疲労回復が安定してきたら反復量や歩行距離を増やす流れです。栄養状態が不安定な時期ほど、運動の「量」よりも「目的」を絞ります。

低栄養患者の初回評価と負荷調整フロー図版
低栄養患者では、筋力より先に栄養状態とエネルギーバランスを確認して負荷量を調整します。
低栄養患者の運動負荷調整フロー
状態 判断 PT の進め方
摂取量が明らかに少ない 負荷を抑える 高強度の反復練習は避け、離床、呼吸循環確認、関節運動、短時間立位などに絞ります。
食止め後・再開直後 分割する 1 回で頑張らせず、午前・午後で短く分け、介入後の食事量低下を確認します。
疲労回復が遅い 翌日反応を見る 歩行距離や反復回数を増やす前に、翌日の倦怠感、起立耐性、摂取量を確認します。
摂取量と回復が安定 段階的に進める 筋力練習、歩行練習、ADL 練習を再評価指標とセットで進めます。

現場の詰まりどころ:食べていない患者に頑張らせてしまう

低栄養患者で最も多い失敗は、「動けるから進める」という判断です。実際には、動作能力が一時的に保たれていても、摂取不足や炎症があると、介入後に強い疲労が残ったり、次の食事量が落ちたりすることがあります。

もう一つの失敗は、Alb だけで栄養状態を判断することです。Alb は炎症や水分状態の影響を受けるため、低栄養の有無を単独で決める指標には向きません。PT は Alb の数値だけで安心せず、体重変化、摂取量、浮腫、炎症、運動後反応を合わせて見ます。

低栄養患者の理学療法でよくある失敗と見直しポイント
よくある失敗 起こりやすい問題 見直しポイント
BMI だけで判断する 浮腫や体重変化を見逃す 体重推移、浮腫、筋量、食事摂取率を合わせて確認します。
食事開始だけで安心する 必要量に届かないまま負荷が増える 主食・副食の摂取割合、補助食品、食後疲労を見ます。
歩けるから距離を伸ばす 翌日疲労や食欲低下につながる 距離よりも回復時間、翌日の活動性、再現性を重視します。
疲労を廃用だけで説明する 摂取不足や炎症を見逃す CRP、発熱、摂取量、体重減少をチームで共有します。

低栄養患者のリハで迷いやすい背景には、教育体制や記録文化の差もあります。評価・負荷設定・共有の型を学び直したい場合は、PT キャリアの整理ページ も参考にしてください。

NST・看護師・管理栄養士と共有したい情報

低栄養患者では、PT が単独で負荷量を決めるよりも、看護師、管理栄養士、NST、医師と情報を合わせた方が安全です。特に、食事摂取率、リハ後の疲労、起立時症状、翌日への持ち越し疲労は、PT だから拾いやすい情報です。

管理栄養士へは「もっと食べさせてください」ではなく、「運動負荷を上げたいが、現状の摂取量では疲労が残っている」「歩行練習を増やす前に補助食品や提供量を相談したい」のように、リハ目標とセットで共有すると連携しやすくなります。

記録例:低栄養リスクを踏まえた PT 記載

記録では、低栄養そのものを診断するように書くのではなく、運動負荷を調整した理由として栄養関連情報を残します。体重、BMI、摂取量、疲労、起立耐性、翌日反応をつなげて書くと、チーム内で判断が共有しやすくなります。

記録例

BMI 18.1、入院前 1 か月で体重減少あり。主食 5 割・副食 4 割で摂取不足が疑われる。起立時ふらつきと介入後疲労を認めたため、本日は端座位、立位保持、短距離歩行を分割して実施。食事摂取量と翌日疲労を看護師・管理栄養士へ共有し、負荷量を再評価する。

PDF:低栄養患者 初回 PT 確認シート

新患介入時に、体重・BMI・摂取量・疲労・共有先を 1 枚で確認できる PDF です。運動負荷を上げる前のチェック、カンファレンス前の整理、若手スタッフへの教育用として使いやすい形にしています。

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よくある質問

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

低栄養患者では、運動療法を控えた方がよいですか?

一律に控える必要はありません。ただし、摂取量が少ない時期や炎症が強い時期は、高強度の反復練習や長時間歩行ではなく、短時間・分割・目的を絞った介入から始めます。

BMI が正常なら低栄養の心配は少ないですか?

BMI だけでは判断できません。浮腫、脱水、体重減少、筋量低下、摂取量低下があると、BMI が正常でも低栄養リスクを疑う必要があります。

PT がエネルギー必要量を計算する必要がありますか?

詳細な栄養量の設計は管理栄養士と連携します。PT は、摂取量、疲労、起立耐性、翌日反応を見て、今の運動負荷が患者さんの回復力に合っているかを判断することが重要です。

Alb が低い場合はリハを中止すべきですか?

Alb だけで中止を判断するのは適切ではありません。炎症、水分状態、疾患背景の影響を受けるため、体重変化、摂取量、CRP、浮腫、バイタル、運動後反応を合わせて判断します。

管理栄養士へ何を共有するとよいですか?

体重減少、摂取率、リハ中の失速、介入後疲労、歩行距離を増やしたい理由、補助食品の摂取状況を共有すると、栄養介入と運動負荷の調整がつながりやすくなります。

次の一手

低栄養患者の理学療法では、評価を「筋力低下」だけで終わらせず、栄養状態と運動負荷をつなげて考えることが重要です。次に読むなら、まず リハ栄養の全体像 を確認し、次に サルコペニアの評価とリハ で筋量・筋力低下との関係を整理すると実務に落とし込みやすくなります。


参考文献

  1. Cederholm T, Jensen GL, Correia MITD, et al. GLIM criteria for the diagnosis of malnutrition – A consensus report from the global clinical nutrition community. J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2019;10(1):207-217. doi:10.1002/jcsm.12383
  2. Thibault R, Abbasoglu O, Ioannou E, et al. ESPEN guideline on hospital nutrition. Clin Nutr. 2021;40(12):5684-5709. doi:10.1016/j.clnu.2021.09.039
  3. Nishioka S, Aragane H, Suzuki N, et al. Clinical practice guidelines for rehabilitation nutrition in cerebrovascular disease, hip fracture, cancer, and acute illness: 2020 update. Clin Nutr ESPEN. 2021;43:90-103. doi:10.1016/j.clnesp.2021.02.018

著者情報

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rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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