脊髄損傷リハビリの進め方|損傷高位・完全性から目標を決める

臨床手技・プロトコル
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脊髄損傷リハは「NLI・完全性→次の動作目標」の順で組み立てます

脊髄損傷のリハビリテーションでは、ROM訓練、筋力訓練、座位、移乗、歩行を一律に並べても、今何を優先すべきかは決まりません。まず神経学的損傷レベル(NLI)と完全/不完全を確認し、現在できている動作から「次に獲得する1動作」を決めることが重要です。

日本脊髄障害医学会は2026年に「脊髄損傷リハビリテーション治療プロトコール」を公開しました。本記事では、この公式プロトコールを軸に、NLI・完全性を確認する→現在の動作をみる→次の目標を決める→阻害因子を確認する→再評価するという臨床の流れに整理します。

なお、公式プロトコールに示された達成時期や訓練量は典型例の目安であり、個々の患者にそのまま当てはめる期限ではありません。全身状態、神経学的回復、合併症、生活環境を踏まえて調整します。

まず5ステップで「次に何をするか」を決めます

脊髄損傷患者を担当したら、訓練メニューを決める前に5つの順番で整理します。最初の2ステップで障害像と現在地をそろえ、そのあとに次の動作目標を決めます。

脊髄損傷リハの進め方をNLI・完全性、現在動作、次の1動作、阻害因子、再評価の5ステップで整理した図版
脊髄損傷リハは、NLI・完全性→現在できる動作→次に獲得する1動作→阻害因子→再評価の順で整理すると、治療の優先順位を決めやすくなります。
脊髄損傷リハを組み立てる5ステップ
ステップ 確認すること 決めること
1.障害像 NLI、AIS、完全/不完全、受傷時期 どの障害像を基準に考えるか
2.現在動作 座位、車いす、移乗、立位、歩行、セルフケア 現在どこまでできているか
3.次の1動作 退院後の生活に必要な動作 次に獲得を目指す動作
4.阻害因子 循環、痙縮、DVT、感染、皮膚、心理面など なぜ予定どおり進まないか
5.再評価 神経学的状態、生活機能、環境条件 目標・訓練を変更するか

臨床で重要なのは、「できない動作」から原因へ戻ることです。 たとえば移乗が進まない場合、上肢筋力だけでなく、座位バランス、殿部クリアランス、車いす条件、起立性低血圧による活動時間の不足などを分けて確認します。

NLIやAISの判定から確認したい場合は、ISNCSCI評価|NLI・AISの判定手順をご確認ください。

2026年版プロトコールは「標準治療の強制」ではなく治療計画の参考資料です

日本脊髄障害医学会の2026年版プロトコールは、脊髄損傷の急性期から回復期、おおむね退院までの期間を対象に、リハビリテーション治療の進め方を考えるために作成されています。

公式資料では、脊髄損傷は症状の多様性や施設条件の違いが大きいため、治療内容を一律に統一することは難しいとされています。そのため、プロトコールは「この時期には必ずこの動作を獲得する」という基準ではなく、典型的な経過から優先順位を考えるための資料として使います。

2026年版プロトコールの位置づけ
使い方 適切な考え方 避けたい使い方
達成時期 典型例の目安としてみる 患者個人の期限として固定する
訓練量 時期ごとの重点配分を考える 全例に同じ時間数を当てはめる
障害像 最も近いモデルを参考にする 診断名だけでモデルを決める
再評価 状態が変化すればモデルを見直す 入院時の分類を固定して使い続ける

訓練前に医学的条件と診療体制を確認します

脊髄損傷では、動作練習を始める前に「今どこまで動かしてよいか」を確認します。脊椎の安定性、外固定、循環・呼吸状態、合併症などの医学的条件が不明なまま、座位・立位・歩行へ進めないことが重要です。

公式プロトコールでは、脊髄損傷を理解する医師との連携、神経因性膀胱への対応、血圧低下時の体制、褥瘡発生時の対応、病棟スタッフとの知識共有、装具・ADL用具などの設備確認も、治療を進める前提として挙げられています。

リハ開始・進行前に確認したい条件
領域 確認例 リハへの影響
脊椎・外固定 安静度、装具、術後制限 座位・立位の開始条件
循環・呼吸 血圧、症状、酸素化、呼吸状態 離床量・中止判断
排泄 排尿・排便管理の方針 病棟生活・ADL目標
皮膚 褥瘡、発赤、除圧条件 座位時間・支持面
環境 車いす、装具、自助具、介助者 獲得可能な動作様式

完全頚髄損傷は機能レベルに応じて動作目標を段階化します

完全頚髄損傷では、1髄節の違いによって利用できる上肢機能が変わり、車いす操作、移乗、セルフケアの方法も大きく変わります。そのため「頚髄損傷」と一括りにせず、NLI・機能レベルを確認して目標を設定します。

2026年版プロトコールでは、C5、C6、C7/8の完全麻痺について、それぞれ治療モデルが示されています。一方、全体としては以下のように生活動作を段階的に広げる考え方が示されています。

  1. 座位姿勢を保持する
  2. 食事動作へつなげる
  3. 長座位を保持する
  4. 整容を行う
  5. 車いす移乗へ進む
  6. トイレ動作へ進む
  7. 更衣へ進む
  8. 入浴へ進む
  9. 自動車乗車など社会生活へ広げる

これは全員が同じ時期に同じ方法で獲得するという意味ではありません。現在の残存機能と環境に応じて、「次の段階」を決めるための順序として使います。

完全頚髄損傷で機能レベルごとに見たい重点
機能レベル 初期〜中期に意識する動作 次に広げる視点
C5 座位耐久性、車いす、食事・自助具 移乗方法、整容、更衣など
C6 座位、車いす、上肢支持、床上動作 移乗、整容、排泄関連動作
C7/8 移乗、床上動作、上肢・手指活動 更衣、排泄、入浴、社会生活

経過中に神経学的機能が改善した場合は、当初選んだモデルに固執せず、NLI・AISを再評価して、不全麻痺や別の機能レベルのモデルへ切り替えることを検討します。

不全頚髄損傷は「歩けるか」だけで治療計画を決めません

不全頚髄損傷では、完全損傷より症状の組み合わせと回復経過の個人差が大きくなります。下肢機能が比較的保たれていても、上肢麻痺、疼痛、痙縮、併存疾患などによって生活機能が制限されることがあります。

そのため、立位・歩行の可能性は定期的に確認しつつも、見通しの定まらない立位・歩行練習だけに介入が偏り、座位活動やセルフケア、持久性の改善が遅れないようにすることが重要です。

不全頚髄損傷で確認したい5つの視点
視点 確認すること 方針への反映
立位 支持性、介助量、循環反応 立位練習を継続する価値を再評価する
歩行 距離、介助、疲労、転倒リスク 実生活で使用できるかを確認する
上肢 筋力、巧緻性、疼痛、痙縮 食事・更衣・整容へつなげる
座位活動 乗車時間、活動量、持久性 歩行以外の生活範囲も拡大する
生活環境 介助者、住環境、年齢、認知面 全自立だけを唯一の目標にしない

歩行可能な場合でも、「訓練室で歩ける」ことと「生活で歩行を使える」ことは分けて考えます。屋内移動、トイレ、外出など、実際に必要な場面でどの程度使用できるかを確認して環境を整えます。

胸髄・腰髄損傷では完全性・座位・歩行可能性を分けて考えます

胸髄・腰髄損傷では、完全/不完全に加え、脊椎の安定性、座位バランス、下肢運動機能、馬尾損傷の有無などによって目標が変わります。

胸髄・腰髄損傷での目標設定
障害像 最初に確認すること 主な目標設定
完全麻痺 安静度、外固定、座位バランス 車いす、床上動作、移乗、ADL
不全麻痺 下肢機能、立位・歩行能力 歩行の実用性、装具・補助具、生活環境
馬尾損傷 弛緩性麻痺、感覚、下肢筋力 上位運動ニューロン障害と分けて見通しを考える

完全麻痺でも立位訓練を行う場合がありますが、退院に必要な車いす・移乗・ADL訓練が進んでいることを前提に優先順位を考えます。不全麻痺では、獲得可能な歩行機能を見ながら、社会生活・自宅生活で必要な補助具や装具を選びます。

訓練が進まないときは「阻害因子」を先に見直します

脊髄損傷では、予定していた訓練を十分に行えない状態が積み重なり、身体機能やADLの回復が遅れることがあります。公式プロトコールでは、このような訓練実施を妨げる要因を「阻害因子」として整理しています。

脊髄損傷リハで確認する代表的な阻害因子
阻害因子 リハ場面で見えること 次の対応
起立性低血圧・循環 座位・立位で症状や血圧低下が生じる 姿勢、BP、症状、回復過程を共有する
痙縮 姿勢・動作を妨げる、拘縮や皮膚問題につながる 誘発条件と生活への影響を整理する
DVT 腫脹などを認め、離床条件の再検討が必要になる 疑う所見があれば医師へ共有し施設方針に従う
感染・発熱 活動量低下、全身状態悪化 原因評価と全身管理を優先する
皮膚トラブル 座位時間・支持面が制限される 除圧、体位、クッション、移乗方法を見直す
心理・社会面 参加量や退院計画へ影響する 本人・家族を含むチームで目標を再設定する

これらは訓練方法を変更するだけでは解決できないことがあります。投薬、病棟管理、排泄管理、皮膚管理、心理支援などを含め、多職種で原因と対応を共有します。

起立時の血圧低下への具体的な離床対応は、起立性低血圧のリハビリ対応で詳しく整理しています。

再評価は「神経学的変化」と「生活機能の変化」を分けます

脊髄損傷では、受傷から時間が経過したあとも神経学的状態が変化する可能性があります。そのため、入院時に決めたNLI・AISを固定した情報として扱わず、必要な時点で再評価します。

一方で、生活機能は神経学的回復だけでは決まりません。車いす、自助具、装具、移乗方法、環境調整、介助方法が変わることで、NLI・AISが変わらなくてもADLは改善します。

再評価で分けて追いたい4領域
領域 代表的な評価 確認する意味
神経学的状態 ISNCSCI、NLI、AIS 障害像そのものの変化を確認する
生活機能 SCIM、実際のADL 生活上の自立度を確認する
阻害因子 循環、疼痛、痙縮、皮膚、感染など 訓練が進まない原因を確認する
環境 車いす、装具、自助具、介助条件 条件差による動作変化を分ける

生活機能を脊髄損傷に特化して追う場合はSCIMが選択肢になります。構成や評価方法は、SCIMとは?脊髄損傷ADL評価の使い方をご確認ください。

記録は「次の目標」と「進まない理由」が分かる形で残します

「ROM訓練、筋力訓練、移乗練習を実施」とだけ記録すると、治療の優先順位や再評価結果が分かりにくくなります。

記録では、現在の障害像、目標動作、阻害因子、実施内容、反応、次回方針をつなげて残します。

脊髄損傷リハの記録例
項目 記録例
現在地 NLI・AISを再確認。車いす座位保持は可能、移乗は中等度介助。
目標 次の目標を側方移乗の介助量軽減と設定。
阻害因子 長時間座位で血圧低下と倦怠感あり、練習時間を確保しにくい。
介入 座位耐久性を確認しながら殿部移動と移乗動作を練習。
次回 循環反応を同条件で再確認し、練習量と移乗方法を再検討する。

公式プロトコールにも進捗管理用の記録表が掲載されており、実施した訓練量、阻害因子、獲得目標の達成日を記録し、予定どおり進まない場合に原因を振り返る構成になっています。

ISNCSCI・治療プロトコール・SCIM・ガイドラインは役割を分けます

脊髄損傷の臨床では、複数の評価・資料が登場します。それぞれが答える問いを分けると使いやすくなります。

脊髄損傷リハで使う主な評価・資料の役割
評価・資料 主に答えること 使う場面
ISNCSCI NLI・AISはどうか 神経学的分類・再評価
2026年版治療プロトコール その障害像で何を優先して進めるか 目標設定・治療計画
SCIM 生活機能がどう変化したか ADL・退院支援・経過評価
脊髄損傷理学療法ガイドライン 各介入にどのようなエビデンスがあるか 個別の治療手段を検討するとき

ISNCSCIで障害像を整理し、2026年版プロトコールで進め方を考え、SCIMで生活機能を追い、個別介入の根拠はガイドライン等で確認すると、それぞれの役割を混同しにくくなります。

よくある失敗は訓練メニューから考え始めることです

脊髄損傷のリハで避けたいのは、「ROMを何分、筋力訓練を何分、立位を何分」と訓練項目から考え始めることです。訓練内容が増えても、何を獲得するために行っているかが曖昧になると優先順位を決めにくくなります。

脊髄損傷リハで避けたい考え方
避けたい判断 代わりに確認すること
診断名だけで訓練を決める NLI・完全性・現在動作を確認する
歩けるかだけを見る 生活で歩行を使えるかまで確認する
予定より遅い=訓練不足と考える 循環・痙縮・DVT・感染・環境などを確認する
達成時期を個人の期限にする 公式プロトコールは典型例の目安として使う
NLI・AISだけで生活機能を判断する SCIMや実際のADLを別に評価する

よくある質問

2026年版プロトコールどおりの時期に動作を獲得できなければ遅れていますか?

一律には判断できません。公式プロトコールの達成時期は典型例における目安であり、全身状態や合併症によって変動します。予定との差だけでなく、訓練量、阻害因子、神経学的変化を確認します。

完全頚髄損傷ではどの動作から優先しますか?

公式プロトコールでは、座位姿勢、食事、長座位、整容、車いす移乗、トイレ、更衣、入浴などへ段階的に広げる考え方が示されています。ただしNLI・機能レベルや生活環境に応じて調整します。

不全頚髄損傷では歩行訓練を優先すればよいですか?

歩行可能性は重要ですが、それだけでは決まりません。立位・歩行の見通しを定期的に確認しながら、座位活動、上肢機能、セルフケア、持久性、生活環境も並行して評価します。

NLIやAISが変わらなくてもリハ目標は変更しますか?

変更することがあります。生活機能は車いす、自助具、環境、介助方法、疼痛や痙縮などでも変わります。神経学的分類とSCIM・実際のADLを分けて再評価します。

2026年版プロトコールの記録表を使えますか?

公式プロトコールには損傷高位別の進捗管理用記録表が掲載されています。利用条件は日本脊髄障害医学会の公開ページで確認してください。本記事では独自の同種シートは配布せず、公式資料を参照します。

次の一手は「次に獲得する1動作」を決めることです

脊髄損傷リハでは、すべての訓練を網羅することより、現在の障害像と生活機能から優先順位を決めることが重要です。

NLI・完全性を確認する→現在できる動作を確認する→次に獲得する1動作を決める→阻害因子を確認する→再評価する、という流れで整理してください。

NLI・AISの判定が曖昧な場合はISNCSCI評価|NLI・AISの判定手順へ、生活機能を再評価する場合はSCIMとは?脊髄損傷ADL評価の使い方へ進むと役割を分けて確認できます。

参考文献・公式資料

  1. 日本脊髄障害医学会.「脊髄損傷リハビリテーション治療プロトコール」の公開.2026.
  2. 日本脊髄障害医学会 脊髄再生医療委員会.脊髄損傷リハビリテーション治療プロトコール(2026年版).2026.
  3. 日本理学療法学会連合.脊髄損傷理学療法ガイドライン.理学療法ガイドライン第2版.
  4. American Spinal Injury Association. International Standards for Neurological Classification of Spinal Cord Injury(ISNCSCI)Resources. 2026.

著者情報

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rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blogを2022年4月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター2級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養、シーティング、摂食・嚥下

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