うつ病の運動療法|ガイドライン2025とPT・OT実務

臨床手技・プロトコル
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うつ病の運動療法は「軽度なら選択肢の一つ」と整理されました

うつ病診療ガイドライン2025では、軽度うつ病に対して「集団あるいは指導下での運動療法」が治療選択肢の一つとして位置づけられました。ただし、すべてのうつ病患者へ運動療法を行うという意味でも、PT・OTが独立して運動処方を決めるという意味でもありません。

重要なのは、重症度によって運動療法の位置づけが異なることです。軽度では治療選択肢の一つですが、中等度・重度では運動療法単独を治療として用いることは提案されていません。また、2025年版では運動の種類・頻度・強度・期間を一律には指定していません。

この記事では、ガイドライン上の位置づけ→「選択肢」の意味→対象判断→安全確認→PT・OTが担える実務→運動量の決め方→再評価の順に整理します。

まず結論|うつ病の運動療法は重症度で位置づけが変わります

うつ病診療ガイドライン2025における運動療法の位置づけ。すべての重症度では適切な身体活動、軽度では集団・指導下の運動療法を治療選択肢の一つとし、中等度・重度では運動療法単独で精神科治療を置き換えないことを示した図
うつ病診療ガイドライン2025では、生活習慣としての身体活動、軽度うつ病における治療選択肢としての指導下運動、中等度・重度での単独治療の位置づけを分けて考えることが重要です。

うつ病に対する運動は、「健康・生活習慣として身体活動を保つこと」と「うつ病治療として運動療法を行うこと」を分けて考える必要があります。

うつ病診療ガイドライン2025における運動の位置づけ
場面 運動の位置づけ PT・OTが押さえる点
治療計画全体 状態に応じて適切な身体活動を生活習慣の一部として考える 現在の活動性や症状に合わせて無理のない条件を検討する
軽度うつ病 集団あるいは指導下での運動療法が治療選択肢の一つ 「必須」「第一選択」「強い推奨」とは解釈しない
中等度・重度うつ病 運動療法単独を治療として行うことは提案されていない 主要な精神科治療を運動だけで置き換えない

「うつ病には運動がよい」という一文だけで、対象者や運動処方を決めないことが2025年版を読むうえで重要です。

2025年版は従来版の部分修正ではなくゼロベースで再構築されています

日本うつ病学会は2025年12月25日に「うつ病診療ガイドライン2025」を公開しました。

従来版への単純な追記ではなく、Mindsの診療ガイドライン作成方法を全面的に採用し、システマティックレビューや独自のメタ解析によるエビデンス評価を基盤としてゼロベースで再構築されています。

また、軽度、中等度・重度といった重症度だけでなく、ライフステージ、臨床像、治療歴、治療フェーズなどを組み合わせて判断する構成になっています。

したがって、運動療法についても「うつ病なら行うか・行わないか」という二択ではなく、現在の重症度・治療フェーズ・身体状態の中でどのような意味を持つかを考えます。

軽度うつ病では「集団あるいは指導下での運動療法」が選択肢です

2025年版でリハ専門職が特に押さえたいのが、軽度うつ病への運動療法です。

軽度うつ病では、支持的な傾聴、生活における負担の軽減、心理教育などの基礎的介入を行ったうえで、薬物療法や認知行動療法などとともに、集団あるいは指導下での運動療法が治療選択肢の一つとして挙げられています。

ここで「選択肢の一つ」とされていることは、軽度うつ病の全患者へ運動療法を実施することを意味しません。

治療体制、症状による生活への影響、過去の治療反応、実施可能性などを確認し、患者本人の希望を重視しながら治療方針を検討します。

「選択肢の一つ」は「強く推奨」と同じ意味ではありません

運動療法の位置づけを過大評価しないことも重要です。

2025年版では、システマティックレビューによる評価と、実臨床における治療選択を区別しながら推奨・提案等が整理されています。

軽度うつ病における集団・指導下の運動療法は、「治療選択肢の一つ」として位置づけられています。

つまり、「ガイドラインに記載された=運動療法が強く推奨された」ではありません。

軽度うつ病のみを対象として運動療法の有効性と安全性を直接検証した研究には限界があり、本人の希望や治療環境を含めて個別に判断する必要があります。

中等度・重度では運動療法単独で精神科治療を置き換えません

中等度・重度うつ病では、軽度うつ病と同じように運動療法を単独の治療選択肢として扱いません。

2025年版では、中等度・重度うつ病に対して新規抗うつ薬による単剤治療が強く推奨される一方、運動療法などを単体で治療として行うことは提案されていません。

そのため、リハ場面で身体機能維持や廃用予防を目的に運動を行うことと、「運動だけでうつ病を治療すること」は明確に分ける必要があります。

身体疾患でリハビリを受けている患者に中等度・重度うつ病が併存している場合も、精神科治療の方針を確認したうえで、リハビリの目的と運動量を調整します。

「集団・指導下」という条件を自己流の運動と混同しません

2025年版で軽度うつ病の選択肢として示されたのは、単に「運動してください」と伝えることではなく、集団あるいは指導下で実施する運動療法です。

本人だけに運動量の判断を任せるのではなく、実施条件や反応を確認しながら進めるという点が重要です。

指導下の運動療法で確認したい内容
確認場面 具体例
開始前 重症度、治療方針、身体疾患、現在の活動量、運動歴
運動条件 種目、時間、頻度、強度、休憩、実施環境
実施中 身体症状、疲労、意欲、集中、遂行状況
実施後 過度な疲労、症状変化、生活活動への影響
再評価 継続可能性、活動量、生活への反映、症状変化

運動療法の目的を「できるだけ強く運動させること」に置くのではなく、本人が安全に実施・継続できる条件を探します。

2025年版は運動の種類・頻度・強度・期間を一律には決めていません

2025年版には、軽度うつ病に対して「週○回」「1回○分」「○%HRmax」といった全患者共通の運動処方は示されていません。

したがって、個別研究で使われた運動量を、そのまますべての患者へ当てはめることは避けます。

運動量を個別化するときの基本項目
項目 確認すること
目的 うつ病治療の選択肢、身体活動維持、廃用予防など
現在量 歩行、外出、家事、離床時間、運動習慣
身体状態 循環器・呼吸器・神経・整形外科疾患など
精神・身体症状 疲労、睡眠、意欲、食欲、身体症状など
本人の希望 実施したい活動、負担感、過去の運動経験
環境 集団、個別指導、施設、自宅、支援者の有無

一般的な運動処方を先に決めるのではなく、現在の活動量と実施後の反応から条件を調整します。

身体活動量や運動強度そのものの決め方は、退院後の運動指導|活動量・強度・中止条件の決め方で整理しています。

運動開始前は精神症状だけでなく身体疾患の安全性も確認します

うつ病に対する運動療法でも、一般的な運動療法と同様に身体的な安全確認が必要です。

特に心疾患、脳血管疾患、呼吸器疾患、整形外科疾患などを併存する場合は、疾患による運動制限や主治医の指示を優先します。

うつ病患者の運動開始前に確認する項目
領域 主な確認内容
治療状況 重症度、治療フェーズ、現在の治療方針
精神症状 症状変化、意欲、焦燥、睡眠、活動性
身体疾患 循環器・呼吸器・神経・整形外科疾患
薬剤 眠気、めまい、起立時症状など運動へ影響し得る反応
身体機能 歩行、バランス、筋力、持久力
現在の活動 離床時間、歩行量、外出、家事、生活活動

自殺関連行動への懸念、著しい焦燥、精神病症状など安全上重要な変化がみられる場合は、運動量の調整だけで対応せず、自施設の安全管理手順に沿って医師・看護師等へ速やかに共有します。

2025年版はPT・OTを運動療法の担当職種として指定していません

リハ専門職にとって重要なのは、「運動療法が記載された=PT・OTが担当する」と短絡しないことです。

2025年版では、軽度うつ病への運動療法について、理学療法士や作業療法士を担当職種として指定しているわけではありません。

したがって、PT・OTが関与する場合は、自施設の診療体制、医師の治療計画、多職種の役割分担に沿って実施します。

一方で、PT・OTは身体機能、身体活動、運動負荷、生活行為などを評価できるため、医療チームの中で安全な運動実施や活動再建に必要な情報を提供できます。

うつ病患者への運動でPT・OTが担いやすい実務
役割 具体例
身体評価 筋力、持久力、歩行、バランス
活動評価 日中活動、外出、生活行為、座位時間
負荷調整 種目、時間、強度、休憩、実施環境の調整
安全管理 身体症状、疲労、薬剤の影響などを確認する
再評価 運動の継続性、活動量、生活への反映を確認する
多職種共有 実施量、反応、困難、継続条件を共有する

再評価では「できた運動量」だけでなく継続性と生活への影響を見ます

運動療法の再評価を、歩行時間や実施回数だけで判断しないことが重要です。

うつ病では、その日の症状によって活動性や疲労感が変化することがあります。実施量だけでなく、運動後に生活活動が著しく低下していないか、本人にとって負担過多になっていないか、継続できているかも確認します。

運動療法の再評価で確認したい項目
項目 確認例
実施状況 何を、どの程度実施できたか
身体反応 疲労、疼痛、息切れ、めまいなど
精神面 運動前後の気分、意欲、負担感
生活 外出、家事、セルフケア、睡眠への影響
継続性 次回も実施可能な条件か

身体活動量そのものを詳しく評価したい場合は、SB・LPA・MVPAとは?身体活動量の評価と臨床活用で整理しています。

一般病棟では「うつ病治療」と「身体疾患リハ」の目的を分けます

PT・OTがうつ病患者に関わる場面は、精神科病院だけとは限りません。

脳卒中、骨折、心疾患、がんなどの身体疾患で入院している患者に、うつ病が併存している場合もあります。

この場合、身体疾患へのリハビリとして歩行や筋力トレーニングを行っているからといって、それをそのまま「うつ病への運動療法」と呼ぶ必要はありません。

身体疾患の機能回復を目的としたリハビリなのか、軽度うつ病への治療選択肢として指導下運動を組み込んでいるのかを分けて整理すると、多職種間でも目的を共有しやすくなります。

精神科領域では運動だけでなく生活・参加まで多職種で見ます

うつ病からの回復は、運動能力だけでは捉えられません。

セルフケア、睡眠、家事、対人交流、就労・復職など、生活機能全体を確認する必要があります。

PTが身体機能・身体活動を、OTが生活行為や作業参加を評価するなど、各職種の専門性を生かし、多職種で治療・生活支援へつなげます。

精神疾患を地域生活支援や多職種連携の視点から確認したい場合は、精神疾患に係る第8次医療計画の見直し|PT・OT・ST向けもご確認ください。

うつ病の運動療法で避けたい5つの誤解

うつ病の運動療法で避けたい解釈
誤解 2025年版を踏まえた整理
うつ病なら運動療法を行う 重症度・治療フェーズ・治療目的を確認する
運動療法が強く推奨された 軽度では「治療選択肢の一つ」という位置づけ
中等度・重度でも運動だけで治療できる 運動療法単独を治療として行うことは提案されていない
週3回・中等度が2025年版の標準 一律の種類・頻度・強度・期間は示されていない
運動療法はPT・OTが担当する ガイドラインはPT・OTを担当職種として指定していない

よくある質問

軽度うつ病なら運動療法だけで治療できますか?

「運動療法だけでよい」と一律には判断できません。2025年版では、基礎的介入を行ったうえで、集団あるいは指導下での運動療法を複数ある治療選択肢の一つとして位置づけています。症状、本人の希望、治療歴、治療環境などを踏まえて治療方針を決めます。

うつ病への運動療法はPT・OTが担当しますか?

2025年版はPT・OTを運動療法の担当職種として指定していません。PT・OTが関与する場合は、医師の治療計画と施設の役割分担に沿って、身体機能評価、活動評価、負荷調整、安全管理、再評価などの専門性を生かします。

どのくらいの強度で運動すればよいですか?

2025年版では、軽度うつ病に対する全患者共通の運動種類・頻度・強度・期間は示されていません。現在の活動量、身体疾患、身体機能、症状、本人の希望、実施後の反応などから個別に調整します。

中等度・重度うつ病では運動してはいけないのですか?

運動そのものが一律に禁止されるわけではありません。ただし、中等度・重度うつ病では運動療法単独をうつ病治療として行うことは提案されていません。精神科治療の方針と身体状態を確認し、身体機能維持や生活活動など目的を明確にして実施します。

次の一手は「運動メニュー」より先に重症度と治療目的を確認することです

うつ病患者へ運動を検討するとき、最初に「何分歩くか」を決める必要はありません。

重症度・治療フェーズを確認する→運動を行う目的を決める→身体的安全性を確認する→指導環境を決める→現在量から運動条件を設定する→身体・精神・生活の反応を再評価するという順に整理します。

2025年版で軽度うつ病への運動療法が治療選択肢として明確になったことは重要ですが、同時に「誰に・どのように行うか」は個別判断が必要な領域です。

PT・OTは運動療法だけを切り取るのではなく、多職種の治療計画の中で、身体機能と生活機能の両面から支援することが重要です。

参考文献・公式資料

  1. 一般社団法人 日本うつ病学会.ガイドライン検討委員会|うつ病診療ガイドライン2025.2025.
  2. うつ病診療ガイドライン作成ワーキンググループ.うつ病診療ガイドライン2025.日本うつ病学会.2025.
  3. 一般社団法人 日本うつ病学会.「うつ病診療ガイドライン2025」プレスリリース.2025年12月25日.

著者情報

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rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blogを2022年4月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター2級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養、シーティング、摂食・嚥下

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