EPA は「実習の任せ方」を業務単位で揃える枠組みです
EPA( Entrustable Professional Activities )は、臨床実習で「どこまで任せるか」を業務単位で言語化し、監督レベルと到達目標を揃えるための枠組みです。見学中心から一歩進めたい場面ほど、任せ方が属人化しやすく、学生側も指導者側も迷いが増えます。
本記事では、監督レベルを 3 段階に固定し、EPA を作る順番( 5 ステップ)と、病棟で使える例、観察( mini-CEX )・フィードバック( OMP )・記録までを「明日から回る形」に整理します。
臨床教育ハブで「読む順」を確認する CCS/EPA/ mini-CEX / OMP を、受け入れ側の型として整理しています 臨床教育ハブへ
- サブ(総論):臨床参加型実習( CCS )の回し方(受け入れ側)
- サブ(各論):mini-CEX(短時間の直接観察+即時フィードバック)
EPA の定義と、コンピテンシーとの違い
EPA は「実務で完結する仕事のかたまり(業務単位)」として設計します。知識や態度を抽象的に評点化するのではなく、現場で観察できる行動に落とすのがポイントです。たとえば「移乗介助ができる」ではなく、「条件を確認し、介助し、変化を報告できる」までを 1 つの業務として扱います。
コンピテンシーは能力の構成要素(何ができるか)を示し、EPA は仕事の単位(何を任せるか)を示します。両者を対応づけると、教育(任せ方)と評価(観察)の会話が揃い、指導のブレが減ります。
| 観点 | コンピテンシー | EPA |
|---|---|---|
| 粒度 | 能力要素(知識・技能・態度) | 実務の仕事単位(観察できる業務) |
| 評価の形 | 要素別に評点が散らばりやすい | 「任せられるか」を監督レベルで判断しやすい |
| 現場の会話 | 抽象語が増えやすい | 「この業務を、この条件で任せる」へ落としやすい |
| 教育への効き方 | 到達像を整理できる | 運用(任せ方・観察・記録)を固定しやすい |
監督レベル(任せ方)を 3 段階で固定すると運用が軽くなります
最初にやるべきは、監督レベルを 3 段階に固定することです。段階が多すぎると記録と合意形成が重くなり、少なすぎると学習設計が粗くなります。院内で共通語にするなら「観察 → 共同 → 監督下で実施」の 3 段階が扱いやすいです。
段階の切り替えは「行為の上手さ」だけでなく、条件の確認・中止基準・報告の質で判断します。技術より先に「判断と言語化」が育つ設計にすると、現場の安全と教育が噛み合います。
| 段階 | 学生が行うこと | 指導者が見る観点 | 記録の一言例 |
|---|---|---|---|
| 観察 | 手順・声かけ・環境を観察し、要点を言語化する | 目的を説明できる/要点が外れていない | 「本日は観察。要点を 3 点で復唱」 |
| 共同 | 一部を担当し、残りは指導者と共同で実施する | 条件確認が先に出る/報告が短い | 「共同実施。条件確認 → 実施 → 反応を報告」 |
| 監督下で実施 | 一連を実施し、変化を報告し、次の課題を提案する | 中止基準を言語化できる/再評価へつながる | 「監督下で実施。変化と次回案を提示」 |
EPA を作る 5 ステップ(院内へ落とす順番)
EPA を作るときは「業務を並べる」より、「迷うポイント」を先に拾うほうが強いです。現場が詰まりやすいのは、任せ方の境界(どこで止めるか)と、報告・記録の最小要件が曖昧なときです。
最初は 3〜5 本だけ作り、回ったものから増やすのが現実的です。下の順番で作ると、教育担当が変わっても運用が崩れにくくなります。
| ステップ | やること | 決めるべき 1 行 | よくあるズレ |
|---|---|---|---|
| 1 | 頻出の「仕事」を 5〜10 個書き出す | 「実習で必ず通る業務」を先に選ぶ | レア手技を入れて運用が重くなる |
| 2 | 前提条件(禁忌・中止基準・報告先)を決める | 「止める条件」と「誰へ報告」を固定する | 条件が口頭だけで曖昧に残る |
| 3 | 監督レベル(観察/共同/監督下)を当てはめる | 「今日はどの段階か」を残せる形にする | 段階が日替わりで学生が混乱する |
| 4 | 観察ポイント( 3 点)と、記録の型( 1 行)を決める | 「見る場所 3 点」「残す 1 行」を固定する | 観察が抜けて FB が抽象化する |
| 5 | mini-CEX/OMP と接続し、短い FB を運用に組み込む | 「観察 → FB → 次回課題 1 つ」をルール化する | FB が長文化して現場が疲弊する |
リハ領域の EPA 例(病棟で使える 6 本)
ここでは、PT/OT/ST で共通化しやすい「病棟で頻出の業務」を例にします。院内の規程や担当体制に合わせて、前提条件と報告先は必ず施設版へ置き換えてください。
ポイントは「行為そのもの」より「条件確認 → 実施 → 変化報告 → 記録」までを 1 セットにすることです。ここが揃うと、観察とフィードバックの質も揃います。
| EPA(業務単位) | 前提条件(例) | 観察ポイント( 3 点) | 記録の型( 1 行) |
|---|---|---|---|
| ① 介入前の状態確認と申し送り | 担当範囲/確認項目/報告先が共有されている | 確認が先に出る/要点が短い/報告が筋道立つ | 「条件確認 → 実施可否 → 報告先」 |
| ② 起居・移乗の介助(監督レベル付き) | 禁忌/中止基準/介助量の範囲が明確 | 環境調整/声かけ/介助位置と手順 | 「介助量・条件・反応・次回」 |
| ③ 立位・歩行の見守り(転倒リスクの言語化) | 補助具/見守り位置/中止条件が共有 | リスク予測/介助位置/変化の早期発見 | 「条件・距離(時間)・反応・対処」 |
| ④ ADL 介入の段取り( OT でも共通) | 目的/手順/患者の希望が整理済み | 目的の一致/手順の簡潔さ/疲労・注意の変化 | 「目的 → 手順 → 結果 → 次回」 |
| ⑤ 嚥下前の姿勢調整と環境準備( ST ) | 食形態/手順/共有事項が明確 | 姿勢条件/声かけ/反応の見取り | 「条件(姿勢・形態)と反応」 |
| ⑥ SOAP の下書き(事実と判断の分離) | 記録の最低ライン(院内版)が共有 | S/O の事実/A の理由/P の具体性 | 「事実 → 理由 → 次回条件」 |
EPA と mini-CEX/OMP を組み合わせると「観察 → FB → 記録」が回ります
EPA は「任せ方」を固定し、mini-CEX は「短時間の直接観察 → その場で評価 → 即時フィードバック」を短く回します。OMP は「コミット → 根拠 → 一般化 → 良かった点 → 改善点」で、 1 分指導を安定させます。
運用のコツは、フィードバックを 3 点(良かった点 1 つ/改善点 1 つ/次回の課題 1 つ)に固定することです。次回課題を 1 つに絞ると、学習者の行動が変わりやすくなります。
| 段階 | 目的 | やること(最小) | 使う型 | 残すもの( 1 行) | 詰まりやすい点 | 回避の 1 手 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| ① 任せ方( EPA ) | 「どこまで任せるか」を共通語にする | 今日の業務( EPA )と監督レベルを宣言 | 監督レベル 3 段階(観察/共同/監督下で実施) | 「本日:EPA 名/段階」 | 任せ方が日替わり | 毎回「段階」を 1 行で残す |
| ② 観察( mini-CEX ) | 行動ベースで評価する | 観察ポイントを 3 点だけ見る(短時間) | mini-CEX(直接観察+短い評価) | 「観察 3 点」 | 観察が曖昧で FB が抽象化 | 観察は 3 点に固定(増やさない) |
| ③ FB( OMP ) | 次の行動を 1 つ決める | 良かった点 1/改善点 1/次回課題 1 に絞る | OMP(コミット→根拠→一般化→良い点→改善点) | 「次回課題 1 つ」 | FB が長くなって回らない | 次回課題を 1 つに固定 |
| ④ 記録(最小) | 共有できる形で残す | 事実→理由→次回条件で短くまとめる | 要約 1 行テンプレ(院内版) | 「事実/理由/次回条件」 | 長いのに伝わらない | “理由” を 1 つだけ残す |
| タイミング | やること | 一言テンプレ | 残すもの |
|---|---|---|---|
| 介入前( 30 秒) | 今日の EPA と監督レベルを宣言する | 「今日は ② を共同で。中止条件は?」 | 監督レベル 1 行 |
| 介入中( 2〜3 分) | 観察ポイントを 3 点だけ見る | 「今、何を見てる?」 | 観察 3 点 |
| 直後( 2〜5 分) | mini-CEX/OMP で即時 FB | 「良かった点 1/改善 1/次回 1」 | 次回課題 1 つ |
| 記録( 3 分) | SOAP を「事実 → 理由 → 次回条件」で短く | 「A は 1 行で理由まで」 | 要約 1 行 |
導入チェック:最初に決める 7 項目(ここが曖昧だと必ず詰まります)
EPA が回らない原因は「熱意」より「前提が揃っていないこと」です。受け入れ前に、最低限ここだけ決めておくと、任せ方の判断が軽くなります。
院内で一度だけ合意し、紙 1 枚(または共有メモ)に固定しておくのがコツです。
| 項目 | 決めること(最小) | よくある詰まり | 先回りの一手 |
|---|---|---|---|
| 監督レベル | 観察/共同/監督下で実施 の 3 段階に統一 | 「任せたつもり」「危ないから戻す」の往復 | 毎回「今日の段階」を 1 行で残す |
| 中止基準 | 止める条件(例:疼痛・めまい・ SpO₂・血圧など) | 止めるタイミングが人で違う | EPA ごとに 1 行で固定 |
| 報告先 | 誰に・何を・いつ報告するか | 報告が遅れて事故につながる | 「止めたら誰へ」を固定 |
| 担当範囲 | 学生が触れる範囲(準備/介助/記録) | 現場で揉める | 「触れる範囲」を明文化 |
| 観察ポイント | 各 EPA の観察 3 点(見る場所を固定) | FB が抽象的になる | 観察 → FB の順にする |
| 記録の型 | 残す 1 行(事実 → 理由 → 次回条件) | 長いのに伝わらない | 要約 1 行(理由つき) |
| 同意・守秘 | 患者説明と守秘のルール(最小) | 前提が揃わず現場で中断 | 受け入れ前に紙 1 枚で共有 |
現場の詰まりどころ(よくある失敗)
実習の受け入れがしんどいのは、忙しさより「判断の連続」が積み上がるためです。詰まりどころを先回りして、ルールを短く固定すると、指導者側の負荷も下がり、学生側の迷いも減ります。
下の表は、EPA を入れるときに起こりやすいズレを「すぐ効く修正」に落としたものです。まずは 1 つだけ直し、運用が回ってから増やすのがラクです。
| よくある失敗 | 起きる理由 | 修正の 1 手 | 記録ポイント |
|---|---|---|---|
| 任せ方が日替わり | 監督レベルの共通語がない | 観察/共同/監督下で実施 の 3 段階に固定 | 今日の段階を 1 行 |
| 条件確認が後回し | 「何を見て止めるか」が曖昧 | 中止基準と報告先を EPA ごとに 1 行で固定 | 止めた理由/報告先 |
| FB が抽象的 | 観察がなく行動で言えない | 観察ポイントを 3 点に絞ってから FB | 強み 1/改善 1/次回 1 |
| 記録が長いのに伝わらない | 事実と判断が混ざる | 「事実 → 理由 → 次回条件」の順に短文化 | 要約 1 行(理由つき) |
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
EPA は何本くらい作れば十分ですか?
最初は 3〜5 本で十分です。頻出の業務に絞り、前提条件(中止基準・報告先)と監督レベルを固定して回します。回ったものから増やすほうが、院内で定着しやすいです。
監督レベル(任せ方)は何で切り替えますか?
技術の上手さだけでなく、条件確認が先に出るか/中止基準を言語化できるか/変化を短く報告できるかで判断するとブレが減ります。段階を上げる前に「観察ポイント 3 点」を言える状態を作るのがコツです。
mini-CEX は毎回やる必要がありますか?
毎回フルで行う必要はありません。忙しい日は「観察 3 点」だけでも十分です。時間がある日に mini-CEX 形式で整理し、短い記録(次回課題 1 つ)へつなげると回りやすくなります。
OMP( 1 分間指導法 )が長くなって回りません。
「良かった点 1/改善点 1/次回課題 1」に固定し、次回課題は必ず行動で表現します。次回課題を 1 つに絞るだけで、指導が短くなりやすいです。
学生の記録はどこまで直すべきですか?
最初は「事実と判断が分かれているか」を優先します。文章の上手さより、事実→理由→次回条件がつながっているかを確認すると、指導の負担が増えにくいです。詳細な記録の型は院内ルールに合わせて統一します。
次の一手
- 運用を整える:臨床実習・新人教育ハブ(受け入れ側の型)
- 共有の型を作る:CCS(臨床参加型実習)の受け入れフローを固定する
教育体制・人員・記録文化など“環境要因”を一度見える化すると、次の打ち手が決めやすくなります。
チェック後に『続ける/変える』の選択肢も整理したい方は、PT キャリアナビで進め方を確認しておくと迷いが減ります。
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- 一般社団法人 日本言語聴覚士協会. 言語聴覚士養成教育ガイドライン( 2018 ). PDF
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


