エルゴメーターの負荷( W )設定|「開始 W → 上げ方 → 記録」を型にする
エルゴメーターの負荷設定は、感覚だけで合わせると「軽すぎる / きつすぎる」が起きやすいです。本記事では、W(ワット)を “体重あたり( W/kg )+ RPE ” で決める運用に固定し、開始負荷・増量ルール・記録までをテンプレ化します。
結論はシンプルで、①目的(持久力 / 息切れ / 心拍)②強度指標( RPE / HRR )③増量の条件を先に決めるとブレません。迷ったら、まずは「低め開始 → 反応で上げる」で安全側に寄せても再現性が作れます。
5 分で決まる|エルゴ負荷設定フロー(現場テンプレ)
最初に「目的」と「強度指標」を固定すると、開始 W と上げ方が自動で決まります。
- 目的を決める:持久力 / 息切れの改善 / 心拍の範囲づくり
- 強度指標を 1 つ選ぶ:基本は RPE( 11–13 目安)/心リハ等は HRRも併用
- 開始負荷を決める:W/kg で仮決め(例:低体力 0.2–0.4 W/kg 、一般 0.4–0.8 W/kg )
- 回転数を固定: 50– 60 rpm(標準化しやすい)
- 増量ルールを決める:RPE が目標より低い / 症状が落ち着く / 回復が早い → 次回 + 5– 10 W
W(ワット)とは:エルゴの「仕事率」
エルゴの負荷は、ペダルにかける力と回転数で決まる仕事率( W )です。現場で迷いやすいのは「体格差」と「その日の体調差」で、同じ 20 W でも人によってキツさが変わります。
そこで実務では、体重あたり( W/kg )に直してから強度( RPE / HRR )で微調整すると、再現性が上がります。
W/kg → METs の目安(換算の考え方)
「今の W はどのくらいの強度?」を見たいときは、W/kgから METs の目安を作れます(推定)。表は目安として使い、最終判断は RPE / 呼吸苦 / 心拍反応で合わせます。
表はスマホでは横スクロールできます。
| W/kg | 推定 VO₂( ml/kg/min ) | 推定 METs | 体感の目安( RPE ) |
|---|---|---|---|
| 0.2 | 約 9.2 | 約 2.6 | 9– 11(かなり楽〜楽) |
| 0.5 | 約 12.5 | 約 3.6 | 11– 12(楽〜ややきつい) |
| 1.0 | 約 18.0 | 約 5.1 | 12– 13(ややきつい) |
| 1.5 | 約 23.5 | 約 6.7 | 13– 15(きつい寄り) |
| 2.0 | 約 29.0 | 約 8.3 | 15 以上(高強度) |
開始 W の決め方| 3 つのルートで迷いを消す
開始負荷は「根拠があるデータがあるか?」で 3 つに分けると判断が速いです。
ルート 1 :既に “運動テスト / 経験値” がある
- 過去のエルゴ実施歴、運動耐容能テスト、心拍目標( HRR )がある → その範囲に合わせて W を微調整
- 目標は RPE 11– 13(目的により調整)
ルート 2 :評価から “仮の開始 W ” を作る
- 基本は W/kgで仮決め → RPE で合わせる
- 低体力・廃用が強い: 0.2– 0.4 W/kg
- 一般(維持〜改善): 0.4– 0.8 W/kg
ルート 3 :データが無いので “様子見スタート”
- 10– 20 Wから開始し、 2– 3 分で RPE と息切れを確認
- 目標より楽( RPE 9– 10 )なら + 5– 10 W、目標に入れば固定
増量のルール|「上げるタイミング」を固定する
増量は “気分” で決めず、同じ判定で進めると運用が崩れません。
| 状況 | 次回の対応 | 理由 | 記録ポイント |
|---|---|---|---|
| RPE 9– 10 で余裕が大きい | + 10 W(または + 0.2 W/kg ) | 強度が足りず適応が起きにくい | 同じ rpm で再評価 |
| RPE 11– 13 に収まる | 据え置き(時間を伸ばす選択も可) | 狙いの強度が作れている | 時間 / 休憩 / 回復時間 |
| RPE 14– 15 でギリギリ | − 5– 10 W または時間短縮 | 継続性が落ちやすい | 息切れ / 脚疲労の主因 |
| 症状が強い(胸部不快、めまい等) | 中止 → 条件整理(体調/薬/栄養/水分) | 当日条件の影響が大きい | 中止理由を具体に残す |
記録の型| W だけでなく “条件” を残す
同じ W でもきつさが変わる原因の多くは「条件のズレ」です。最低限、次を記録しておくと再現性が上がります。
- 負荷: W 、時間、増量幅
- 条件: rpm 、休憩の有無、姿勢(サドル高)
- 反応: RPE (全身 / 脚疲労 / 息切れ)、心拍、 SpO₂(必要時)
よくある失敗|原因→対策→記録で潰す
表はスマホでは横スクロールできます。
| 失敗 | 起きる理由 | 対策 | 記録ポイント |
|---|---|---|---|
| 開始 W が高すぎる | 「若い / 動ける」印象で決めてしまう | 低め開始 → 2– 3 分で RPE を見て + 5– 10 W | 開始 W と 3 分時点の RPE |
| rpm が毎回バラバラ | 回転数で体感が変わる | 50– 60 rpmに固定して比較 | rpm を必ず記録 |
| 「軽いのに効かない」 | 強度不足 or 時間不足 | RPE 目標に届くまで + 5– 10 W /または時間延長 | 時間と回復の速さ |
| 脚だけ先に限界 | 筋力 / 疼痛 / フォーム要因 | サドル高調整、ウォームアップ、分割(インターバル) | 主因(脚疲労/息切れ)を分ける |
回避の手順 / チェック|運用を “固定” する
| タイミング | チェック | メモ |
|---|---|---|
| 開始前 | 目的 / 目標 RPE / rpm(固定) | 今日は “何を達成” するか |
| 実施中 | 2– 3 分で RPE(全身・脚・息切れ) | 目標より楽なら + 5– 10 W |
| 終了後 | 回復(心拍 / 呼吸)と翌日の疲労 | 増量の可否判断に使う |
現場の詰まりどころ|「読む前に答えだけ欲しい」への導線
エルゴの負荷設定で詰まりやすいのは、開始 W の根拠が弱いことと、増量の判定が曖昧なことです。先に “型” を置くと、チームで運用が揃います。
よくある質問( FAQ )
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Q1. 最初は何 W から始めればいいですか?
データが無ければ、まずは 10– 20 Wで 2– 3 分回して RPE を確認し、目標より楽なら + 5– 10 Wで合わせます。体格差を吸収したい場合は、 W/kgで仮決め(例:低体力 0.2– 0.4 W/kg )→ RPE で調整が運用しやすいです。
Q2. 回転数( rpm )は何 rpm がいいですか?
比較しやすさを優先するなら、まずは 50– 60 rpmに固定がおすすめです。 rpm が変わると体感(脚疲労/息切れ)が変わるため、 W と rpm はセットで記録すると再現性が上がります。
Q3. W を上げるタイミングは?
判定を固定すると迷いません。例として、目標が RPE 11– 13なら、 RPE 9– 10で余裕が大きい → 次回 + 10 W、目標に入る → 据え置き(または時間延長)、 RPE 14 以上 → − 5– 10 W など、同じルールで運用します。
Q4. W を METs に換算して考えてもいい?
目安としては有用です。ただし推定値なので、最終判断は RPE / 呼吸苦 / 心拍反応で合わせます。本記事の早見表は “会話の共通言語” として使い、現場では「同じ rpm ・同じ条件」で比較するのがコツです。
Q5. 「脚だけ先に限界」になったときは?
脚疲労が主因なら、サドル高・フォーム・分割(短いインターバル)で改善することがあります。記録は全身の RPEだけでなく、脚疲労 / 息切れを分けると次回の調整が速いです。
次の一手|運用を整える → 共有の型 → 環境も点検
教育体制・人員・記録文化など“環境要因”を一度見える化すると、次の打ち手が決めやすくなります。
チェック後に『続ける/変える』の選択肢も整理したい方は、PT キャリアナビで進め方を確認しておくと迷いが減ります。
参考文献
- Fletcher GF, Ades PA, Kligfield P, et al. Exercise standards for testing and training: a scientific statement from the American Heart Association. Circulation. 2013;128(8):873-934. doi:10.1161/CIR.0b013e31829b5b44 / PubMed
- Garber CE, Blissmer B, Deschenes MR, et al. American College of Sports Medicine position stand. Quantity and quality of exercise for developing and maintaining cardiorespiratory, musculoskeletal, and neuromotor fitness in apparently healthy adults. Med Sci Sports Exerc. 2011;43(7):1334-1359. doi:10.1249/MSS.0b013e318213fefb / PubMed
- Borg GAV. Psychophysical bases of perceived exertion. Med Sci Sports Exerc. 1982;14(5):377-381. doi:10.1249/00005768-198205000-00012 / PubMed
- Kokkinos P, Kaminsky LA, Arena R, et al. A new generalized cycle ergometry equation for predicting maximal oxygen uptake (FRIEND). Eur J Prev Cardiol. 2018;25(10):1077-1082. doi:10.1177/2047487318772667 / PubMed
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


