認知症の実行機能課題と二重課題の違い|OTでの使い分け

臨床手技・プロトコル
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結論|実行機能課題と二重課題は「上下」ではなく、見たい反応で使い分けます

認知症の紙面課題で、実行機能課題と二重課題を「簡単→難しい」の順番として扱う必要はありません。実行機能課題は、開始・手順化・切替・抑制・自己修正など1つの課題を遂行する過程を見たいときに使います。一方、二重課題は、それぞれ単独で行ったときと比べ、2つを同時にしたとき何が変わるかを確認する課題です。

この記事では、OTが認知症の方へ紙面課題を使う場面を想定し、両者の違い、選び分ける場面、迷いやすい境界、生活行為へのつなげ方を整理します。紙面上の反応だけで「実行機能障害」「二重課題能力低下」と断定せず、次に何を確認するかまで決めることが目的です。

実行機能課題と二重課題の違いを比較します

最も大きな違いは、「1つの課題をどう遂行したか」を見るのか、「2つを同時にしたことで何が変わったか」を見るのかです。二重課題を実行機能課題の次のレベルと考えるのではなく、確認したい問いから選びます。

認知症OTにおける実行機能課題と二重課題の違い
比較項目 実行機能課題 二重課題
中心となる問い 1つの課題を進める過程のどこで止まるか 2つを同時にすると、単独時から何が変わるか
主に見る反応 開始、手順化、ルール保持、切替、抑制、自己修正 正確性、反応時間、中断、抜け、優先配分、再指示、疲労
比較の基準 課題内の遂行過程や支援前後の変化 それぞれの単独条件と二重条件の違い
使いやすい場面 作業開始、順序、条件変更、誤りへの気づきなどを確認したい 複数の情報や作業が重なったときの変化を確認したい
注意点 失敗を実行機能だけで説明しない 二重化による変化を見るには単独時の反応も確認する
生活場面への接続 更衣・整容・家事など一連の行為で同じ遂行上の特徴があるか確認する 別の刺激や作業が加わったとき、実際の生活でも同様に遂行が変わるか確認する

ポイント:同じ「間違えた」という結果でも、単独課題の途中でルールを保てなくなった場合と、それぞれ単独では行える課題を同時にしたときだけ崩れた場合では、次に確認する内容が異なります。

実行機能課題は「1つの課題を進める過程」を見たいときに選びます

実行機能課題が候補になるのは、1つの課題の中で、開始、順序づけ、条件変更への対応、不要な反応の抑制、誤りへの気づきなどを確認したい場面です。

実行機能課題を検討しやすい反応
課題中の反応 確認したい過程 合わせて確認すること
説明後も自分から始めにくい 行動開始 指示理解、聴力、覚醒、不安、意欲、疲労
複数工程で途中の手順が抜ける 手順化・情報保持 記憶、注意、言語理解、課題量
条件が変わっても前のルールを続ける 切替・ルール更新 新しい条件を理解・保持できているか
不要な反応を繰り返す 抑制 課題理解、刺激の見分け、注意
誤りに気づかず続ける 自己モニタリング 誤りを認識できる条件や有効な手がかり

ここで重要なのは、これらの反応があったからといって、紙面課題だけで「実行機能障害」と判断しないことです。実行機能を調べる課題は、注意、記憶、言語理解、視覚認知、処理速度など複数の能力の影響を受けます。

そのため、「切替ができなかった」と記録するだけでなく、新しいルールを理解していたか、覚えていたか、どの手がかりで反応が変わったかまで観察すると、次の評価につながります。

二重課題は「同時にしたことで何が変わったか」を見たいときに選びます

二重課題を使う目的は、「より難しい課題へ進級させること」ではありません。2つの課題をそれぞれ単独で行ったときの反応と比べ、同時にしたときに正確性、速度、継続、優先配分などがどう変化するかを確認することです。

たとえば、課題Aと課題Bをそれぞれ単独では大きな中断なく行える一方、同時にすると課題Aが止まる、課題Bへの反応が抜ける、両方が遅くなるといった変化があれば、二重化した条件が遂行へ与えた影響を検討できます。

二重課題で確認したい変化
二重化後の反応 見るポイント 次に確認すること
一方の課題が止まる どちらを優先したか、刺激追加後の停止 主に保ちたい課題を理解していたか
一方への反応が抜ける 注意配分、反応遅延、課題優先 提示方法や課題量による違い
両方の誤りが増える 二重化後の全体的な負荷増加 理解、疲労、処理速度、環境刺激
正確性は保つが時間が延びる 速度を落として正確性を保っている可能性 停止、確認行動、反応遅延も記録する
単独時と大きく変わらない 現在の条件では二重化による変化が小さい 難しくする必要があるかではなく、評価目的を再確認する

二重課題の前に単独条件を確認するのは、実行機能課題を「クリア」させるためではありません。二重化によって何が変わったのかを比較できる基準を持つためです。単独課題で満点を取ることや、一定の正答率へ到達することを開始条件にする必要はありません。

迷ったら「どの条件で崩れたか」を整理します

実行機能課題と二重課題の使い分けで迷うときは、診断名や難易度ではなく、どの条件で反応が変わったのかを整理します。

実行機能課題と二重課題をどの条件で崩れるかによって選び分けるフロー図
実行機能課題と二重課題の選び分け。単独課題での反応、二重化による変化、課題成立の前提を分けて確認します。
実行機能課題と二重課題で迷いやすい境界
観察された反応 考え方 次の選択
説明直後から課題が成立しない 実行機能か二重課題かを決める前に、理解・聴力・視覚・注意・覚醒などを確認する 課題条件そのものを見直す
1つの課題でも手順・切替・自己修正で止まる 課題遂行のどの過程で支援が必要かを詳しく見る 実行機能課題を用いた観察が候補になる
2つの課題はそれぞれ単独では行えるが、同時にすると崩れる 二重化前後の違いを比較する価値がある 二重課題として崩れ方を観察する
刺激の見落としだけが目立つ 注意、視覚探索、視力・視野など別の要因も考える 実行機能・二重課題だけで説明しない
後半になるほど全課題で反応が低下する 疲労、眠気、持続性注意、体調、時間帯などの影響を確認する 課題の種類より実施条件を見直す
手がかりを加えると再開できる できないことだけでなく、有効な外的支援を確認する 実際の生活場面で同じ支援が役立つか試す

このように整理すると、「単一課題で失敗したから実行機能」「二重課題で失敗したから二重課題能力低下」と短絡せず、反応の背景まで確認できます。

二重課題を実行機能課題の「上位レベル」とは考えません

二重課題では、課題目標の保持、注意配分、切替、抑制など実行機能に関連する働きが関与します。そのため両者には重なる部分があります。しかし、二重課題の遂行には注意、処理速度、記憶、感覚・運動条件、課題への慣れ、どちらを優先するかといった複数の要因も関係します。

実行機能研究でも、抑制、切替、更新、二重課題などを測る方法は多様で、同じ対象者でも使用する課題によって結果が異なることがあります。そのため、独自の紙面課題の反応だけから特定の認知機能を診断することはできません。

「実行機能課題ができるようになったら二重課題へ進む」という一本道ではなく、その時点で確認したい臨床上の問いに合う課題を選ぶと考えると整理しやすくなります。

紙面課題の反応は生活行為で確かめます

実行機能課題と二重課題のどちらを使用しても、紙面上の結果だけで生活能力を判断しません。紙面課題は、実際の生活で何を観察するかという仮説を作る材料として使います。

紙面課題の反応を生活行為へつなげる例
紙面上の反応 考える仮説 生活場面で再確認すること
途中で条件が変わると旧ルールを続ける 条件変更後の切替やルール保持に負荷がかかっている可能性 更衣・整容などで予定した手順が変わったときの反応
工程の途中で止まり、次の手順が出にくい 手順化、情報保持、開始のきっかけなどが影響している可能性 実際の生活行為でどの工程から止まるか
単独では可能だが、別の課題が加わると一方が止まる 複数の情報が重なった条件で遂行が変化している可能性 生活中に声かけや別刺激が加わったとき、優先していた行為がどう変わるか
二重化すると時間だけ延びる 速度を調整して遂行を保っている可能性 生活場面でも時間を確保すれば遂行を保てるか
適切な手がかり後は自力で再開できる 外的支援を利用できる可能性 手順提示、物品配置、声かけなどが生活行為でも有効か

たとえば紙面上の二重課題で反応が低下しても、それだけで「歩きながら会話する能力」や他の運動―認知二重課題を判断することはできません。課題の種類が変われば必要な認知・感覚・運動要素も変わるため、確認したい生活場面に応じた評価が必要です。

記録は「何を比較したか」と「次に何を確かめるか」を残します

比較記事として重要なのは、実行機能課題か二重課題かという名称より、どの条件でどの反応があり、そこから何を考え、次に何を確認するかを残すことです。

実行機能課題・二重課題で残したい記録
記録項目 残す内容
目的 生活上の何を確認するために課題を行ったか
条件 課題内容、説明、環境、手がかり、単独・二重条件
遂行過程 開始、誤反応、停止、切替、抜け、反応遅延、自己修正など
支援への反応 再説明、視覚提示、選択肢整理などで何が変わったか
解釈 反応へ影響した可能性のある要因を仮説として整理する
次の確認 次回の紙面課題だけでなく、確認したい生活・作業場面を書く

記録例

O:分類課題は単独条件では説明後に開始し継続可能。条件変更後は旧ルールでの反応がみられたが、ルールを再提示すると修正できた。別の口頭課題を同時に加えると分類課題の停止と口頭反応の遅延が増えた。

A:条件変更時のルール保持・切替に支援を要した。また、二重化した条件では両課題の遂行が変化した。ただし紙面課題のみでは生活上の問題を特定できない。

P:実際の生活行為で手順変更が生じた場面と、作業中に別の声かけが入った場面を観察し、同様の停止・切替困難がみられるか確認する。

正答率や所要時間に一律のカットオフを設けるのではなく、同じ対象者の条件間・経時的な変化と、生活場面での反応を組み合わせて解釈します。

研究上の二重課題訓練と「紙面ドリル」は分けて考えます

認知症や軽度認知障害を対象とした二重課題訓練については、認知機能や身体機能への効果を検討した研究があります。一方で、研究ごとに対象者、課題内容、運動課題、認知課題、実施頻度などが異なり、研究上の二重課題訓練をそのまま独自の紙面課題へ置き換えることはできません。

2024年のシステマティックレビュー・メタ解析では、認知症または軽度認知障害を対象とした二重課題訓練の認知機能、身体機能、二重課題パフォーマンスへの効果が検討されています。また、2026年のアンブレラレビューでも、身体課題と認知課題を組み合わせた二重課題訓練の有効性とエビデンスの確実性が検討されています。

したがって、これらの研究結果を本サイト独自の紙面課題を行えば同じ効果が得られるという根拠にはできません。OTでは、紙面課題自体を治療目標にするのではなく、本人にとって意味のある生活行為や参加を支えるための評価・介入手段の一つとして位置づけます。

NICEでは、軽度〜中等度認知症の機能的能力を支える方法として、認知リハビリテーションまたは作業療法を検討することが示されています。認知リハビリテーションは認知検査の点数向上そのものではなく、本人にとって重要な日常生活上の目標に対して、強みを活かしながら機能や自立を支える考え方です。

よくある質問

二重課題は実行機能課題より難しい「上位課題」ですか?

一律には考えません。実行機能課題は1つの課題を遂行する過程を観察し、二重課題は2つを同時にしたときの変化を観察します。確認したい内容が異なるため、単純な上下関係ではありません。

単一課題を正しくできないと、二重課題は行えませんか?

満点や一定の正答率は必要ありません。ただし二重化による変化を解釈したい場合は、それぞれを単独で行ったときの反応を把握しておく必要があります。単独時から不安定であれば、その影響を考慮して二重条件を解釈します。

二重課題で崩れたら、実行機能障害と考えてよいですか?

紙面課題だけでは判断できません。二重課題の遂行には実行機能だけでなく、注意、処理速度、記憶、課題理解、感覚・運動条件、疲労、課題優先など複数の要因が影響します。

紙面の二重課題で歩行中の二重課題能力も分かりますか?

そのまま置き換えることはできません。紙面課題と歩行を含む二重課題では必要な運動・感覚・認知要素が異なります。歩行や移動中の安全性を確認したい場合は、対象者の転倒リスクなどへ配慮したうえで、その生活課題に対応した評価が必要です。

次の一手|目的に合わせて各論へ進みます

紙面課題そのものを使うか、生活上の困りごとからどの課題を選ぶかを整理したい場合は、認知症の紙面課題|OTの選び方・観察・生活へのつなげ方で全体像を確認してください。

1つの課題内で、開始・手順化・切替・抑制・自己修正を詳しく見たい場合は、認知症の実行機能課題|OTでの選び方・観察・生活行為へのつなげ方へ進みます。

単独条件と比べ、二重化したときの主課題・副課題の崩れ方や負荷調整を詳しく確認したい場合は、認知症OTの二重課題|崩れ方の見方と負荷調整を確認してください。


参考文献

  1. Smallfield S, Metzger L, Green M, Henley L, Rhodus EK. Occupational Therapy Practice Guidelines for Adults Living With Alzheimer’s Disease and Related Neurocognitive Disorders. Am J Occup Ther. 2024;78(1):7801397010. doi:10.5014/ajot.2024.078101
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  3. Idowu MI, Szameitat AJ, Parton A. The assessment of executive function abilities in healthy and neurodegenerative aging—A selective literature review. Front Aging Neurosci. 2024;16:1334309. doi:10.3389/fnagi.2024.1334309
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  5. Chern CWJ, Cheng LJ, Chiang GSW, Yap SY, Giang TA, Lau ST. Effectiveness of physio-cognitive dual-task training on improving global cognition, health-related quality of life, and physical outcomes among older adults with neurocognitive disorders: an umbrella review. Age Ageing. 2026;55(3):afag061. doi:10.1093/ageing/afag061

著者情報

rehabilikun

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。

現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。

保有資格

  • 脳卒中認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター2級

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