心不全リハ実務ハブ:評価→運動処方→再評価の流れ

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心不全リハ実務ハブ(評価 → 運動処方 → モニタリング → 再評価)

心不全リハは「何を見て、どの順に判断し、どう負荷を上げ下げするか」を共通言語にできるほど、事故が減って成果が安定します。このハブでは、安全確認 → 症状・活動度 → 耐容能 → 運動処方 → モニタリング → 再評価の流れを、現場で回せる形にまとめます。

最短導線(まずここから): NYHA / SAS の使い分け(比較) NYHA 心機能分類(単体) SAS( Specific Activity Scale )分類(単体)

5 分で回す「最短フロー」(まず結論)

心不全リハの迷いを減らすコツは、評価項目を増やすより判断の順番を固定することです。最初に「今日はそもそも動かしてよいか」を切り、次に「どの程度の活動で症状が出るか」を把握し、最後に「実測の耐容能」で微調整します。

基本の流れは、①禁忌・中止サインの確認 → ②症状(息切れ・疲労・めまい・胸部症状)と日常活動度( NYHA / SAS ) → ③耐容能(歩行・ RPE 等) → ④負荷設定(強度・時間・頻度) → ⑤モニタリング → ⑥再評価(同じ尺度で比較)です。

最初に見る安全管理(禁忌・中止基準の考え方)

心不全は「症状が出てから止める」だと遅れる場面があります。リハ開始前に安静時の症状と、直近の治療状況(利尿調整・酸素・薬剤変更)を押さえ、今日は負荷をかける日かを先に決めます。

中止基準は施設の既定や主治医方針が前提ですが、実務では「安静時症状の増悪」「急な血行動態変化」「危険な不整脈疑い」「強い胸部症状」「意識レベル変化」を上位に置き、迷ったら早めに相談できる運用が安全です(ガイドラインの一般原則に沿います)。

症状 × 活動度( NYHA / SAS )で “日常のつらさ” をそろえる

NYHA は「日常活動での症状の出やすさ」をざっくり共有するのに向き、外来・病棟・多職種で通じるのが強みです。一方で「どの動作で、どれくらい」での境界が人によって曖昧になりやすく、評価者間差が出やすい点が弱点です。

SAS は、具体的な生活動作から METs の目安を拾い、“どの活動で症状が出るか” を具体化できます。 NYHA で全体像を合わせ、 SAS で行動レベルの目標設定(屋外歩行・家事など)に落とし込むと、運動処方と生活指導がつながりやすくなります。

耐容能の評価(実測で “負荷の幅” を決める)

症状・活動度だけだと、同じ NYHA でも体力差が大きく、負荷設定がブレます。そこで、歩行距離・歩行速度・立ち座りなどの実測の耐容能を 1 つ決めて、毎回同じ条件で追跡します。

実測指標は、6 分間歩行( 6 MWT )などの歩行耐容能、あるいは病棟なら安全に実施できる歩行距離・歩行時間でも構いません。自覚的運動強度( Borg / RPE )と症状(息切れ・下肢疲労)を同時に記録すると、「上げてよい日」「抑える日」の判断が速くなります。

運動処方の組み立て(強度・時間・頻度・様式)

心不全の運動処方は「強度」だけを決めても回りません。現場で再現するには、強度(きつさ)× 時間(量)× 頻度(回数)をセットで決め、症状やバイタルで “当日の微調整” ができる枠を残します。

目安としては、まず低〜中等度の有酸素運動を安全に継続できる形(病棟歩行・自転車・屋内歩行)から開始し、 RPE と症状の反応を見て段階的に増量します。筋力低下が目立つ場合は、低負荷反復で「翌日に残らない」範囲から併用し、再評価の指標に結びつくメニューに寄せるのが実務的です。

モニタリング(見る順番を固定して事故を減らす)

モニタリングは項目が多いほど安全になるわけではなく、見る順番を固定すると抜けが減ります。まずは症状(息切れ・胸部症状・めまい・強い疲労)を最優先に置き、次にバイタル( HR / BP )と SpO2 の変化、最後に歩容や顔色・会話量などの観察を重ねます。

とくに心不全は、体重増加・浮腫・夜間呼吸困難など「生活の変化」が先に出ることがあります。評価時の一言質問(最近の体重変化、むくみ、睡眠時の呼吸)をルーチン化しておくと、増悪の拾い上げと主治医への共有がスムーズです。

再評価の設計(いつ・何を・どう比べるか)

再評価は “何となく良くなった” ではなく、同じ指標で比較できる形にするとチームが動きます。日常活動度( NYHA / SAS )は週単位、実測の耐容能( 6 MWT や歩行距離など)は介入の節目(例:週 1 回、退院前)で揃えると、負荷調整と退院支援がつながります。

記録のコツは、数値だけでなく「当日の条件」を短く残すことです(利尿調整直後、食後、睡眠不足など)。条件が残っていれば、数値が悪い日でも過度に悲観せず、次の介入(負荷を落とす/休養/相談)に直結します。

現場で使う早見表(目的別に 1 枚で確認)

心不全リハでよく使う評価の役割分担(成人・実務向け)
指標 何が分かる 強み 弱点 向く場面
NYHA 日常活動での症状の出やすさ(全体像) 多職種で共有しやすい/説明が速い 境界が曖昧になりやすい 入院〜外来の共通言語/カンファの要約
SAS 具体的動作レベルの活動度( METs 目安) 生活動作に落とし込みやすい 問診の質に依存/習慣差の影響 目標設定/退院後の生活指導
6 MWT 歩行耐容能(実測) 経時変化が追いやすい 実施環境が必要/疲労の影響 負荷調整/退院前評価/外来フォロー
Borg / RPE 主観的なきつさ(強度調整の軸) 簡便/介入中に使える 慣れでズレることがある 当日の微調整/在宅指導
リハ中の「要注意サイン」整理(例:施設運用のたたき台)
カテゴリ 代表例 次アクション 記録のコツ
症状 安静時の息苦しさ増悪/強い胸部症状/めまい・ふらつき 中止 → 休息 → 早期に相談 出現時点(何分・何動作)を残す
血行動態 急な血圧低下・上昇/脈拍の異常変動 中止・再測定 → 状況共有 姿勢・薬剤・食事など条件を併記
呼吸 SpO2 の急低下/会話困難 負荷を下げる/酸素確認/必要時相談 マスク・酸素流量・歩行速度を記録
増悪の兆候 体重増加/浮腫増悪/夜間呼吸困難 その日の負荷調整+情報共有 いつから・どの程度の変化かを聞く

現場の詰まりどころ(迷いが出やすい 3 つ)

心不全リハで詰まりやすいのは、①「 NYHA が同じでも体力差が大きい」②「症状があいまいで境界が揺れる」③「当日の状態変動が大きく、昨日の処方がそのまま使えない」の 3 点です。ここを前提に組むと、評価と処方がつながりやすくなります。

対策はシンプルで、①は実測の耐容能(歩行距離など)を 1 つ固定、②は SAS で具体的動作に落とす、③は RPE と症状で “当日の微調整ルール” を持つことです。迷ったときに戻る基準を先に作っておくと、経験年数に関係なく安全側に寄せられます。

よくある質問(FAQ)

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

Q1. NYHA と SAS は、どちらを優先して使えばいいですか?

まずは多職種共有が速い NYHA で全体像をそろえ、そのうえで目標設定や生活動作の調整が必要なときに SAS で具体化する流れが実務的です。 NYHA だけだと「どの動作が限界か」が曖昧になりやすいので、退院支援や在宅指導の局面ほど SAS が効きます。

Q2. “症状がない日” は負荷を上げてよいですか?

症状がない日はチャンスですが、上げ方は段階的にします。ポイントは、症状がないことと血行動態が安定していること、そして RPE が過度に上がらないことを同時に満たすかです。前回より “時間” を少し増やすのか、“強度” を少し上げるのかを 1 つに絞ると、安全に調整できます。

Q3. 6 MWT が難しい環境では、何を代替にすればよいですか?

同じ条件で繰り返せるなら、病棟の歩行距離・歩行時間でも十分に代替できます。重要なのは「毎回同じルールで測る」ことです(例:同じ廊下、同じ補助具、同じ休息ルール)。数値と一緒に RPE と症状を残すと、負荷設定がブレにくくなります。

Q4. 記録は何を残すと、次の担当者が迷いませんか?

数値(歩行距離、 HR / BP、 SpO2 )に加えて、当日の条件を 1 行で残すのが効きます(利尿調整直後、食後、睡眠不良など)。さらに「どの動作で症状が出たか」を短く添えると、 NYHA / SAS と処方がつながり、申し送りの質が上がります。

おわりに

心不全リハは、安全の確保 → 症状・活動度の把握 → 耐容能の実測 → 段階的な負荷調整 → 記録と再評価のリズムをそろえるだけで、チームの判断が速くなり、患者さんの不安も減ります。

現場で迷いが出たら、このハブの流れに戻って「何を見落としていないか」を点検し、次の一手を決めてください。面談準備チェックと職場評価シートも活用したい方は、マイナビコメディカルのチェックリストもあわせて確認しておくと、学びと働き方の整理が一気に進みます。

参考文献

  • Heidenreich PA, et al. 2022 AHA/ACC/HFSA Guideline for the Management of Heart Failure. Circulation. 2022. doi: 10.1161/CIR.0000000000001063
  • McDonagh TA, et al. 2023 Focused Update of the 2021 ESC Guidelines for the diagnosis and treatment of acute and chronic heart failure. Eur Heart J. 2023;44(37):3627-3639. doi: 10.1093/eurheartj/ehad195( PubMed )
  • Tsutsui H, et al. JCS/JHFS 2021 Guideline Focused Update on Diagnosis and Treatment of Acute and Chronic Heart Failure. Circ J. 2021;85(12):2252-2291. PubMed: 34588392
  • Japanese Circulation Society ( JCS ) Guidelines list. Official guideline index

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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