口腔状態評価の 3 項目|歯の汚れ・歯肉・咬合を 3 分で見る
口腔状態は、①歯の汚れ(歯垢) ②歯肉(腫れ・出血) ③左右の奥歯で噛めるか(咬合・義歯)の 3 項目だけでも、短時間で「食べる」リスクを見える化できます。入院直後や体調不良時は、食形態や姿勢をいじる前に“口の中が今どうなっているか”を押さえるだけで、むせ・残留・拒食・低栄養の連鎖を止めやすくなります。
本記事は PT / OT / ST 向けに、観察ポイント(見る場所)・記録の型(書く項目)・歯科コンサルトの目安(赤旗)を 1 本にまとめます。目的は「詳しい診断」ではなく、現場で迷わず同じ目線で共有できる “最短の初期観察”です。
まず全体像|口腔状態評価の 3 項目と使いどころ
口腔状態評価は、口腔ケアのためだけではありません。摂食・嚥下の安全性、食形態・姿勢・介助量の調整、栄養の入り方に直結します。特に次の場面で効果的です。
- 入棟・転棟直後(夜間・休日入棟を含む)
- 食事量が落ちた/むせが増えた/湿性嗄声が出た
- 義歯の有無が不明/装着を嫌がる/口腔ケアが困難
- 低栄養リスクが高い(食欲低下、炎症、活動量低下など)
評価はこの 3 つだけ|観察 → 対応 → 記録
| 項目 | 見る場所(最短) | 所見の例 | 次の一手 | 記録の型(例) |
|---|---|---|---|---|
| ① 歯の汚れ(歯垢) | 歯の表面・歯間・舌背 | 白〜黄の付着、口臭、乾燥でベタつく | 口腔ケア頻度の調整、吸引・保湿、看護と役割共有 | 「歯垢:軽 / 中 / 強」「舌苔:あり / なし」 |
| ② 歯肉(腫れ・出血) | 歯肉縁・腫脹・出血 | 赤い、腫れている、触れると出血 | 痛み・出血の有無を確認し、ケア方法を安全側へ | 「歯肉:発赤 / 腫脹 / 出血(+ / −)」 |
| ③ 咬合・義歯(左右の奥歯) | 左右臼歯の咬み合わせ・義歯の適合 | 片側咀嚼、義歯が当たって痛い、ぐらつく | 義歯装着の確認、食形態の見直し、歯科へ相談 | 「咬合:両側可 / 片側のみ / 不可」「義歯:適合良 / 不良」 |
① 歯の汚れ(歯垢)|“見落とし”が多い観察ポイント
歯垢の多い口腔は、食塊の残留や不快感が増えやすく、食事量が落ちる原因にもなります。最短で見るなら、上顎前歯の表面と臼歯の歯間、そして舌背をセットで確認します。
- 乾燥が強いと、ケアしてもすぐ汚れが戻ります(保湿とセットで考える)。
- 舌苔が強いと、食事後の口腔内残留が増えやすいです。
- むせが増えたときに「嚥下だけ」を見て、口腔の汚れを見落とすのが典型です。
記録例:「歯垢:中(臼歯歯間に付着)/舌苔:あり(軽)/口腔乾燥:あり」
② 歯肉(腫れ・出血)|痛みと出血は“食べない理由”になる
歯肉の炎症は、本人が言語化できないと「食べたくない」「噛むと痛い」だけで終わります。観察は赤み・腫れ・出血の 3 点で十分です。
- 歯肉の腫れが強いと、義歯の当たりが悪くなり、装着拒否につながることがあります。
- 出血があるとケアが雑になりやすいので、ケア方法(道具・強さ)を安全側へ寄せます。
- 抗血栓薬など背景がある場合は、出血が続くときに無理をしない判断が必要です。
記録例:「歯肉:発赤あり/腫脹あり/出血:軽(ブラッシングでにじむ)」
③ 咬合・義歯|左右の奥歯で噛めるかが “食形態” を決める
「噛めない」状態で食形態を上げると、丸飲み・残留・むせが増えやすくなります。最短で見るなら、左右の奥歯で噛めるか、そして義歯が合っているかを押さえます。
- 片側咀嚼が強いと、食塊操作が不安定になり、残留やむせにつながることがあります。
- 義歯の痛みやぐらつきがあると、装着時間が短くなり食事量が落ちます。
- 義歯を “持っているが使っていない” は頻出です(保管場所・装着タイミングを確認)。
記録例:「咬合:片側のみ(右)/義歯:あり(適合不良の訴え)/装着:食事時のみ」
OK / NG 早見|所見からの対応を迷わない
| 所見 | OK(まずやる) | NG(やりがち) | 理由 |
|---|---|---|---|
| 歯垢が強い | ケア頻度・保湿・吸引の連携を確認し、食前後のタイミングを固定する | 嚥下訓練だけ増やして口腔ケアは後回しにする | 汚れと乾燥が残ると、残留・不快感・食事量低下が続きやすい |
| 歯肉から出血 | 痛み・出血量を確認し、ケア手技を安全側へ調整する | 強いブラッシングを継続し、出血を放置する | 出血が続くとケアが途切れ、汚れが悪化しやすい |
| 義歯が合わない | 装着状況と痛みを確認し、歯科相談の必要性を整理する | 「義歯があるから大丈夫」と思い込む | 適合不良は装着拒否・片側咀嚼・食形態のミスマッチにつながる |
歯科コンサルトの目安(赤旗)
| 区分 | 所見の例 | 現場での対応 | 記録のポイント |
|---|---|---|---|
| 今日相談 | 強い痛み、持続する出血、義歯で強い当たり、粘膜の潰瘍が目立つ | 無理な装着や硬い食形態を避け、安全側の調整に寄せる | 痛みの部位、出血の程度、食事への影響(摂取量低下など) |
| 近日相談 | 歯垢が強く改善しない、義歯のぐらつき、片側咀嚼が固定 | ケアの頻度と手技を見直しつつ、相談タイミングを決める | いつから続くか、ケア介入の内容と反応 |
| 経過観察 | 軽い歯垢・軽い乾燥、軽い歯肉発赤 | ケアの継続と再評価日を設定する | 再評価日、改善の目標(汚れの程度など) |
記録の型(テンプレ)| PT / OT / ST で共有できる書き方
口腔状態の記録は、長文にすると続きません。3 項目+影響+対応+再評価の 4 点で揃えると、職種間共有が速くなります。
- 所見( 3 項目 ):歯垢/歯肉/咬合・義歯
- 食事への影響:摂取量、むせ、残留、拒食、装着拒否など
- 対応:姿勢・環境調整、ケア依頼、歯科相談の要否
- 再評価:いつ・誰が・何を見るか(最低 1 回は日付を入れる)
例:「歯垢:中(臼歯歯間)/歯肉:発赤あり(出血 − )/咬合:片側のみ+義歯適合不良の訴え。摂取量低下あり。食前の口腔ケアを固定し、義歯は痛み確認のうえ装着を調整。再評価:明日昼食前に確認。」
現場の詰まりどころ
- 「口腔は誰が見る?」で止まる:職種の守備範囲の議論が長引くと、観察が空白になります。まずは 3 項目だけでも “見える化” し、必要時に歯科へつなぐ流れを作るのが先です。
- 義歯の所在が不明:持参していても使っていない、保管場所が分からないは頻出です。保管・洗浄・装着タイミングまで含めて確認すると前に進みます。
- 汚れを見ても対応が分からない:ケアの頻度・手技・タイミングがバラバラだと改善しません。食前後のどこで誰が何をするかを固定すると、短期間でも変化が出やすいです。
- 「むせ=嚥下」だけで片付ける:口腔乾燥や義歯不適合があると、そもそも食塊操作が不安定になります。嚥下以前に “噛める・まとまる・残らない” を押さえましょう。
おわりに
口腔状態評価は、難しい尺度を増やすより先に、歯の汚れ → 歯肉 → 咬合(義歯)の 3 点を “同じ目線” で見るだけで、食べるリスクの見立てが揃いやすくなります。観察 → 対応 → 記録 → 再評価のリズムで回すと、口腔が原因のつまずきを早めに拾えて、離床や栄養の立て直しもスムーズです。
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外部資料・一次情報
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1.口腔状態評価は、どのタイミングでやるのが一番効果的ですか?
入棟・転棟直後と、食事量が落ちたタイミングが最優先です。最初に 3 項目(歯垢/歯肉/咬合・義歯)を押さえると、食形態や姿勢調整の方向性が決めやすくなります。
Q2.義歯があるのに装着していません。まず何を確認すべきですか?
痛み(当たり)とぐらつき、装着時間(食事時のみか常時か)、保管場所(紛失や未持参の可能性)を確認します。痛みが強い・当たりが明確なら、無理に装着させず、歯科相談を検討してください。
Q3.歯肉から出血があり、口腔ケアを嫌がります。どう記録すると共有しやすいですか?
「歯肉:発赤/腫脹/出血(程度)」と「食事への影響(摂取量低下、痛みの訴えなど)」をセットで書くと共有が速いです。加えて、実施したケア方法(道具・強さ・タイミング)と反応も短く残すと、次の担当者が迷いにくくなります。
Q4.この 3 項目だけで十分ですか?
目的が「短時間での初期観察」と「チーム共有」なら十分に役立ちます。より精密な評価が必要な場合は、歯科・口腔領域の専門職と連携し、追加評価を検討してください。まずは 3 項目で “ズレない共通言語” を作るのが近道です。

