生産性向上推進体制加算は、まず II を安定運用してから I を目指す
生産性向上推進体制加算は、介護ロボットや ICT などを導入するだけでなく、委員会、安全対策、継続的な業務改善、データ提出まで含めて評価される加算です。老健でこれから始める場合は、最初から I を狙うより、まず II の要件を安定して回し、記録と比較データの型を作ってから I を目指す方が進めやすいです。この記事では、加算 I・II の違い、導入機器、委員会、記録、処遇改善との関係を実務目線で整理します。
生産性向上推進体制加算とは
生産性向上推進体制加算は、テクノロジー導入をきっかけに、介護現場の業務改善を継続している事業所を評価する加算です。
ここで重要なのは、「機器を買ったか」だけではなく、「安全に使える体制を作り、現場の負担軽減や業務改善につなげているか」です。見守り機器、インカム、介護記録ソフトなどを導入しても、委員会で目的や運用ルールを決めず、効果を記録できていなければ、制度の意図に合いにくくなります。
実際の現場では、導入直後よりも「誰が管理するのか」「トラブル時にどうするのか」「効果を何で見るのか」で止まりやすいです。そのため、加算の取得だけでなく、運用を続けられる形に落とし込むことが大切です。
この記事で分かること・分からないこと
この記事では、老健で生産性向上推進体制加算を検討する管理者、リーダー、委員会担当者向けに、加算 I・II の違いと実務の進め方を整理します。
本文で扱うのは、加算の考え方、導入機器、委員会、記録、データ提出、処遇改善との関係です。一方で、各サービスごとの詳細な届出様式の書き方や、すべての算定可否の個別判断までは扱いません。最終的な届出では、自治体通知や最新の事務連絡も必ず確認してください。

加算 I・II の違い
加算 II は「導入して継続的に回す段階」、加算 I は「成果確認まで進んだ上位段階」と考えると整理しやすいです。
II を安定して回せていない段階で I を狙うと、比較データ、役割分担、評価指標の整理が追いつかず止まりやすくなります。まずは II で委員会と記録の型を作り、導入前後の変化を見られる状態にしてから I への移行を検討する流れが現実的です。
スマホでは表を横スクロールできます。
| 項目 | 加算 II | 加算 I |
|---|---|---|
| 基本の位置づけ | 導入と継続運用の評価 | 成果確認まで含む上位区分 |
| テクノロジー導入 | 1つ以上の導入を軸に進める | 複数のテクノロジー活用が前提になりやすい |
| 委員会・安全対策 | 必要 | 必要 |
| 継続的業務改善 | 必要 | 必要 |
| 成果確認 | 運用実績を積み上げる段階 | 導入効果の確認が重要 |
| 実務上の考え方 | まず取得・運用を安定させる | II の実績をもとに移行を検討する |
老健で導入を考えやすいテクノロジー
老健では、見守り機器、連絡系 ICT、介護記録ソフトの 3 つから考えると整理しやすいです。
選定で大切なのは、「新しい機器を入れること」ではなく、「現場のどの詰まりを減らすか」です。夜間巡視の負担が大きいなら見守り機器、申し送りや応援要請が遅いならインカム、記録残業が多いなら介護記録ソフトというように、課題から逆算して選びます。
| 導入候補 | 使いどころ | 確認したい効果 |
|---|---|---|
| 見守り機器 | 夜間、離床、転倒予防、巡視 | 安全確保、巡視負担、対応時間 |
| インカム・連絡系 ICT | 職員間連絡、申し送り、応援要請 | 移動時間、伝達漏れ、対応の速さ |
| 介護記録ソフト | 記録入力、情報共有、集計 | 記録時間、転記ミス、集計しやすさ |
委員会で決めること
委員会は、導入報告の場ではなく、目的・安全対策・評価指標を決めて改善を回す場です。
現場で多い失敗は、機器導入だけが先に進み、委員会では「使っています」という報告だけで終わってしまうことです。加算を安定して運用するには、導入前に何を改善したいのか、誰が担当するのか、どの指標で効果を見るのかを決めておく必要があります。
| 項目 | 決める内容 | よくある失敗 |
|---|---|---|
| 導入目的 | 何を減らし、何を良くしたいか | 導入すること自体が目的になる |
| 対象業務 | 夜間対応、記録、申し送りなどを絞る | 対象が広すぎて評価できない |
| 安全対策 | 誤作動時対応、個人情報、利用者説明 | 安全面の検討が後回しになる |
| 担当体制 | 更新担当、集計担当、現場窓口 | 誰が回すか不明なまま始まる |
| 評価指標 | 残業、記録時間、事故、業務時間など | 導入前の基準値を取っていない |
記録とデータ提出の流れ
加算 I・II のどちらでも、導入後の運用を記録し、実績データを提出できる状態にしておくことが重要です。
特に I を目指す場合は、導入前後の比較ができないと成果確認で止まりやすくなります。導入後に「良くなった気がする」と言うだけでは弱いため、導入前の基準値を残しておくことが実務上のポイントです。
| 段階 | やること | 残したい記録 |
|---|---|---|
| 導入前 | 課題整理、対象業務、基準値の確認 | 残業、記録時間、事故、巡視回数など |
| 導入直後 | 運用ルール作成、説明、試行 | トラブル、修正点、利用者反応 |
| 継続運用 | 委員会で振り返り、改善する | 月ごとの変化、安全面、職員負担 |
| 報告 | 実績データを整理して提出する | 比較可能な実績、改善結果、根拠資料 |
処遇改善の上位区分との関係
生産性向上推進体制加算は、処遇改善の上位区分を考えるうえでも重要な条件になりやすい加算です。
ただし、このページでは賃上げ制度全体ではなく、生産性向上推進体制加算をどう回すかに内容を絞ります。処遇改善や賃上げの全体像は、介護の給料は 2026 年 6 月に上がる?で確認してください。
実務では、「給料の制度」と「現場の業務改善」を別々に考えると話が進みにくくなります。処遇改善の上位区分を見据える場合も、まずは加算 II を安定して運用し、委員会・記録・データ提出を止めない体制を作ることが大切です。
現場で詰まりやすいポイント
生産性向上推進体制加算で詰まりやすいのは、導入機器よりも運用の標準化です。
療養病棟や老健の現場では、忙しい時間帯ほど新しい機器や記録方法が定着しにくくなります。最初から全フロアで一気に始めるより、対象業務を絞り、小さく試してから広げる方が失敗しにくいです。
| 場面 | OK | NG |
|---|---|---|
| 導入方針 | 課題から逆算して機器を選ぶ | 補助金や流行だけで決める |
| 委員会 | 目的、対象業務、評価指標を固定する | 導入報告だけで終わる |
| 記録 | 導入前後を比較できる形で残す | 導入後だけ記録する |
| I への移行 | II の運用実績をもとに判断する | 比較データなしで最初から I を狙う |
導入フローは最小 5 ステップで考える
これから始める場合は、最小 5 ステップで進めると委員会と現場運用がつながりやすくなります。
- 現場の詰まりどころを 1 つに絞る
- 対象業務に合うテクノロジーを選ぶ
- 委員会で安全対策と担当者を決める
- 導入前の基準値を残す
- II を回しながら、効果を見て I への移行を判断する
最初から完璧な仕組みを作るより、「記録できる」「振り返れる」「修正できる」状態を作ることが重要です。委員会の議事録も、目的、対象業務、安全対策、評価指標、次回までの宿題を固定しておくと継続しやすくなります。
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
加算 I と II は同時に算定できますか?
原則として同時算定ではなく、上位区分である I または II のどちらかで整理します。実務では、まず II を安定して回し、記録と成果確認の準備が整ってから I への移行を考えると進めやすいです。
最初から加算 I を目指してもよいですか?
以前から生産性向上の取組を進めており、必要な要件や成果確認を満たせる場合は検討できます。ただし、新規に始める事業所では、II を先に回して比較データを整える方が現実的です。
機器を 1 つ導入すれば十分ですか?
機器の導入だけでは不十分です。委員会、安全対策、継続的な業務改善、記録、実績データの提出まで含めて考える必要があります。
処遇改善の上位区分だけを目的にしてもよいですか?
処遇改善の条件に関係するため重要ですが、加算の本来の目的は現場の業務改善です。賃上げのためだけに形を整えるのではなく、実際に業務負担や安全面を改善できる運用にすることが大切です。
療法士が関わる場面はありますか?
あります。移乗、転倒予防、離床、見守り、記録の標準化などは、PT・OT の視点が安全面と効率化の両方に関わります。導入目的を現場動作に落とし込む場面で関与しやすいです。
次の一手
生産性向上推進体制加算は、制度名だけを理解しても現場では進みにくい加算です。まずは II を回せる体制を作り、処遇改善や改定情報とのつながりを確認すると判断しやすくなります。
参考資料
- 厚生労働省. 生産性向上推進体制加算に関する基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例等の提示について.
- 厚生労働省. 介護保険最新情報 Vol.1475. 2026.
- 厚生労働省. テクノロジー等を活用した介護現場における生産性向上の取組等に関する資料. 2026.
- 厚生労働省. 令和 6 年度介護報酬改定 生産性向上推進体制加算について.
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


