着座(Stand to Sit)の動作分析【新人 PT 向け】

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着座(Stand to Sit)の動作分析:新人 PT が迷わない観察の型

臨床で使える評価の揃え方(PT キャリアガイド)を見る

着座( Stand to Sit )は「座れた/座れない」だけでは評価になりません。転倒や膝痛のリスクが出るのは、制動(ゆっくり減速する力)接地のタイミングが崩れたときです。本記事は、新人 PT でも 30 秒でズレを拾える観察の型(側面 20 秒→正面 10 秒)と、カルテに強い記録テンプレまでまとめます。

ポイントは「どのフェーズで」「何が先行して」「どこで止められないか」の 3 つです。まずはフェーズ分けとチェック表で観察を標準化し、次に “ズレ→仮説→まず試す介入” を表で選べるようにしておくと、自信を持って評価から介入に移れます。

30 秒観察ルーチン:側面 20 秒→正面 10 秒

最短で再現性を出すなら、見る順番を固定します。側面は重心の後方移動股関節・膝の屈曲タイミング、正面は左右差膝の内外側ブレを拾うのに向いています。動画でも現場でも、この順番にすると “見落とし” が減ります。

観察の前に 3 点だけ条件をそろえます。①椅子の高さ(大腿が水平に近い)②足部位置(足底が床にベタ接地)③手の使い方(手すりあり/なしを明確に)。条件が揃うと、同じ患者の経時変化も追いやすくなります。

着座の 30 秒観察:見る位置と拾う所見
時間 視点 主に見るところ 典型的な “ズレ”
側面 20 秒 減速(制動) 体幹前傾→骨盤後傾→殿部接地の順番 ドスン座り/途中で止まれない
側面 20 秒 下肢アライメント 膝の前方移動量(前に流れ過ぎないか) 膝が前に抜ける/踵が浮く
正面 10 秒 左右差 骨盤の落ち・体幹の側屈・荷重の偏り 健側へ “落ちる”/麻痺側を避ける
正面 10 秒 膝の内外側ブレ 膝が内側に入る/外へ逃げる 内側崩れ(動的外反)/外側逃避

フェーズ分け:着座は 4 フェーズで見ると迷わない

着座は “逆再生の立ち上がり” に見えますが、転倒リスクが高いのは立位からの後方移動殿部接地の瞬間です。観察を 4 フェーズに分け、各フェーズで “見る 1 点” を決めておくと、所見が言語化しやすくなります。

ここでは、①開始姿勢 ②後方移動(椅子へ近づく)③下降(制動)④接地・安定 の 4 フェーズを採用します。臨床では “どのフェーズで崩れたか” を 1 つに絞るだけで、介入の優先順位が立ちます。

図解:着座( Stand to Sit )の 4 フェーズと “見る 1 点”
① 開始姿勢 足底接地 骨盤・体幹の準備 ② 後方移動 殿部を椅子へ 視線・体幹の コントロール ③ 下降(制動) 膝・股関節の 屈曲を “止める” 接地 安定

観察チェック表:最小 8 項目で “ズレ” を拾う

チェック表は “見たものを丸で残す” ための道具です。新人がつまずくのは「違和感はあるのに言葉にならない」場面なので、観察項目を 8 つに絞っておくと迷いません。丸が増えた項目が、その日の主問題になりやすいです。

ここでは、臨床で頻出の 制動/膝の前方流れ/左右差 を中心にしています。必要なら施設の患者層に合わせて 2 項目だけ追加してください(例:パーキンソンのすくみ、疼痛回避の回旋など)。

着座( Stand to Sit )の観察チェック表(最小 8 項目)
項目 OK の目安 NG 例(所見) まず疑う要因
① 椅子の位置合わせ 椅子に対して正対し、距離が一定 遠いまま座ろうとする 空間認知/恐怖/注意
② 足底接地 踵が床に残る 踵が浮く/つま先荷重 足関節背屈制限/痛み
③ 体幹前傾の量 必要量の前傾で後方移動できる 前傾不足で後ろへ落ちる 恐怖/体幹可動性
④ 骨盤のコントロール 下降に合わせて骨盤が安定 早期に後傾して “ドスン” 制動不足/姿勢戦略
⑤ 膝の前方流れ 前方へ流れ過ぎない 膝が前に抜ける 股関節優位/足部不安定
⑥ 膝の内外側ブレ 膝が第 2 趾方向 内側崩れ/外側逃避 股関節外転筋/足部アライメント
⑦ 制動(減速) 最後まで “ゆっくり” 下ろせる 途中から止まらない 大腿四頭筋の遠心性
⑧ 左右荷重 左右差が小さい 健側へ落ちる/麻痺側回避 筋力差/感覚低下/恐怖

よく出る 3 パターン:所見を “型” に落とす

新人が一気に書けるようになるのは、所見を “パターン名” でまとめられたときです。ここでは頻出の 3 パターン(ドスン座り/膝が前に流れる/左右差)を、観察の言葉に変換します。パターン化は “決めつけ” ではなく、次の仮説を立てるためのショートカットです。

同じパターンでも原因は 1 つではありません。だからこそ、まず試す介入を小さくして再観察し、所見が変わるかで仮説を絞ります( cue は 1 個、条件は 1 つだけ変える)。

図解:ドスン座り(制動不全)の見え方(側面)
椅子 下降が “途中から止まらない” → 制動(遠心性)不足を疑う 体幹前傾不足

ズレ→仮説→まず試す介入(表で即決)

動作分析の強みは、評価がそのまま “次の一手” につながることです。ここでは、観察で出たズレに対して、まず試す介入を 1 つだけ選べるように整理します。介入は “訓練” というより、まずは条件調整と cueから入ると安全です。

再評価の合図も決めておきます。例:同じ椅子・同じ足位置で 3 回。ズレが減ったなら、その介入が当たりです。変わらないなら、要因(可動域・疼痛・感覚・恐怖)を一段深く見直します。

着座の “ズレ→仮説→まず試す介入” 早見表
ズレ(所見) 主な仮説 まず試す介入( 1 つだけ) 再評価の見方
ドスン座り 制動(大腿四頭筋の遠心性)不足/恐怖で前傾不足 椅子を 2–5 cm 高くする(まずは条件調整) 接地前の速度が落ちるか
膝が前に抜ける 足部支持不足/股関節戦略の偏り 足を “半足分” 後ろへ(足位置を修正) 踵が残るか/膝の前方流れが減るか
健側へ落ちる 麻痺側回避(筋力・感覚・恐怖) 正面で “骨盤を真ん中” の cue を 1 つ 骨盤の落ちが減るか
膝の内側崩れ 股関節外転・外旋の制御低下/足部アライメント 膝の向きは “第 2 趾” と短く cue 膝が内側に入る回数が減るか
椅子が怖くて止まる 恐怖心/後方空間の不確かさ 椅子の背もたれに “触って位置確認” を許可 後方移動がスムーズになるか

カルテ記載のテンプレ:2 行で “フェーズ+所見” を残す

記録は長く書くより、フェーズと所見を固定の型で残す方が臨床で役立ちます。着座は ③ 下降(制動)④ 接地・安定に所見が集中しやすいので、まずここを押さえます。介助量(見守り/軽介助など)とセットで残すと、翌日の再評価が速いです。

下のテンプレは “そのままコピペ” で使える形にしています。所見が 2 つ以上あるときは、主問題(今日いちばん危ない所見)を 1 つだけ先に書くのがコツです。

着座のカルテ記載テンプレ( 2 行)
重症度の目安 テンプレ 1 行目(フェーズ) テンプレ 2 行目(所見+介助)
軽度 着座:② 後方移動〜③ 下降は概ね安定。 終末で膝前方流れあり(踵浮き軽度)。見守り。
中等度 着座:③ 下降で制動不十分、速度増加。 殿部接地がドスン傾向。骨盤後傾が早い。軽介助。
重度 着座:② 後方移動が不安定、位置合わせ困難。 健側へ落ち込み+制動不全で転倒リスク高い。中等度介助。

現場の詰まりどころ:新人がハマる 3 つの落とし穴

着座で多い詰まりどころは「安全に止めたいのに、どこを触ればいいか分からない」「声かけを増やして逆に崩れる」「椅子の高さや足位置を変えずに訓練だけ増やす」の 3 つです。動作分析は “正解探し” ではなく、再現性のある観察→小さな変更→再観察の繰り返しで精度が上がります。

まずは、①条件調整(椅子高・足位置)② cue は 1 個だけ ③触れるなら “骨盤の真ん中” を意識、の順で整理すると安全です。ドスン座りが出る患者ほど、声かけを増やすより “止められる条件” を作る方が早く改善します。

新人が詰まりやすいポイントと回避策
詰まり よくあるミス 回避策(まず 1 つ)
止めたいのに止まらない 体幹や上肢を引いてしまう 椅子高を上げて制動負荷を下げる
声かけで崩れる cue が 3 個以上になる cue は 1 個、言葉は短く
訓練量だけ増える 条件(椅子高・足位置)を固定しない 条件をそろえて 3 回だけ再評価

声かけスクリプト:cue は 1 個だけ

声かけは “説明” ではなく “合図” です。新人ほど丁寧に言いたくなりますが、着座はタイミングが重要なので、 cue を増やすほど遅れて崩れやすくなります。まずは、患者の主ズレに合わせて 1 フレーズを固定してください。

以下はそのまま使える例です。うまくいかない場合は、 cue を変える前に、椅子高や足位置を変えて “できる条件” を先に作ると成功率が上がります。

着座の cue 例( 1 フレーズ運用)
主ズレ cue(短く) 狙い
ドスン座り 「ゆっくり下ろしましょう」 下降の制動を意識化
膝が前に抜ける 「踵を床に」 足部支持を確保
左右差(健側へ落ちる) 「骨盤を真ん中」 荷重偏位を減らす
椅子が怖い 「背もたれに触って OK」 後方位置の安心感を作る

よくある質問

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

Q1. 「ドスン座り」か「椅子高が低いだけ」か、どう見分けますか?

まず椅子高を 2–5 cm 上げて 3 回だけ再評価します。椅子高を上げると制動の負荷が下がるため、速度が落ちて “ドスン” が減るなら、制動要因(遠心性・恐怖)が主因の可能性が高いです。変わらない場合は、足部支持(踵が浮く)や位置合わせ(椅子が遠い)など、フェーズ ② の問題を疑います。

Q2. 膝が前に抜ける人に、まず筋トレを入れるべきですか?

いきなり筋トレを増やす前に、足位置(半足分後ろ)と踵接地の条件調整を先に試します。条件で改善するなら “動作戦略の偏り” が大きく、筋トレよりもフォームの再学習が優先です。条件を変えても崩れる場合に、筋力・可動域・疼痛などの要因評価を深掘りします。

Q3. 麻痺側を避けて健側へ落ちます。どこを見ればいいですか?

正面から、骨盤の落ち(側方傾斜)と体幹の側屈が “どちらが先か” を見ます。骨盤が先に落ちるなら荷重回避が主で、体幹が先に倒れるなら恐怖やバランス戦略の影響が強いことがあります。 cue は 1 つ(「骨盤を真ん中」)に絞り、条件(椅子高・足位置)を揃えて再観察してください。

Q4. 触れて介助するときの安全な触れ方は?

基本は “上から引かない” です。体幹や上肢を引くと、下降の制動を邪魔して崩れることがあります。まずは骨盤付近で “真ん中へ戻す” 程度の最小介助に留め、危険が高い場合は椅子高を上げて負荷を下げた上で練習します。施設の安全基準や患者の状態に合わせて判断してください。

おわりに:観察→小さな変更→再観察で “評価が介入に変わる”

着座の動作分析は、まず「側面 20 秒→正面 10 秒」でフェーズとズレを 1 つに絞り、条件調整や cue を 1 個だけ入れて再観察する流れが最短です。この “観察→小さな変更→再観察” が回り始めると、新人でも所見が言語化でき、介助量やリスクの見立てが一段安定します。

評価と記録の型を揃えたいときは、面談準備チェックと職場評価シートをまとめた マイナビコメディカルのチェックリストも、整理の起点として使いやすいはずです。

参考文献

  1. Leung CY, Chang CS. Strategies for posture transfer adopted by elders during sit-to-stand and stand-to-sit. Percept Mot Skills. 2009;109(3):695-706. doi: 10.2466/pms.109.3.695-706 / PubMed: 20178268
  2. Samuel D, Rowe P, Nicol A. The functional demand (FD) placed on the knee and hip of older adults during everyday activities. Arch Gerontol Geriatr. 2013;57(2):192-197. doi: 10.1016/j.archger.2013.03.003 / PubMed: 23561852
  3. Janssens L, Brumagne S, McConnell AK, et al. Impaired Postural Control Reduces Sit-to-Stand-to-Sit Performance in Individuals with Chronic Obstructive Pulmonary Disease. PLOS ONE. 2014;9(2):e88247. doi: 10.1371/journal.pone.0088247 / PubMed: 24533072
  4. Pan J, et al. Biomechanical analysis of lower limbs during stand-to-sit tasks in patients with early-stage knee osteoarthritis. Front Bioeng Biotechnol. 2023;11:1330082. doi: 10.3389/fbioe.2023.1330082 / PubMed: 38173868

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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