立ち上がりの動作分析|30 秒で「相」と「ズレ」を拾う( Sit to Stand )
立ち上がり( Sit to Stand )は頻度が高く、転倒リスクや介助量の差が出やすい基本動作です。コツは、上手いフォーム探しではなく、①相(フェーズ)を決める → ②事実(見えたこと)を短く書く → ③その場で 1 つだけ条件を変えて反応を見ることです。
本記事では、側面 20 秒→正面 10 秒の 30 秒観察ルーチンと、4 フェーズのチェック表、よくある失敗→回避の手順、カルテに残る記録テンプレまでを 1 ページに固定します。
同ジャンルで回遊して、動作分析の “型” を統一する 立ち上がりは、共通の順番(事実→仮説→次の一手)を親記事で固定すると、観察と記録のブレが減ります。
現場の詰まりどころ(先に最短導線)
まずは迷いが出やすい場所だけ先に飛べるようにしておきます(読ませるゾーンなのでボタンは置きません)。
まず結論:立ち上がりは 4 フェーズで見る
立ち上がりは、相分けを固定すると観察と修正が速くなります。おすすめは、①準備 → ②離殿(臀部が浮く) → ③立ち上がり(伸展) → ④再安定(立位保持)の 4 フェーズです。
| フェーズ | 目的(何ができれば OK か) | 側面で見る | 正面で見る |
|---|---|---|---|
| ① 準備 | 足・体幹の位置が整い、反動ではなく「出力」が出せる | 骨盤前傾/体幹前傾の作り方、足部の引き込み | 左右の足位置、膝の向き(内外反) |
| ② 離殿 | 臀部が浮き、荷重が足に移る | 前傾不足/足が遠い/踵が浮く | 荷重左右差、膝が内側に入る |
| ③ 伸展 | 股・膝の伸展が進み、重心が上方へ移動する | 股関節優位か膝優位か、体幹の戻しが早すぎないか | 骨盤の逃げ(回旋・側方偏位)、患側回避 |
| ④ 再安定 | 立位で 2〜3 秒止まれる(次の動作へ移れる) | ふらつき、膝折れ、過伸展 | 支持基底面の偏り、ステップで逃げる |
※表は横スクロールで読めます(スマホ前提)。
安全と準備(中止基準・環境・声かけ)
立ち上がりは「できる/できない」の境界でふらつきやすい動作です。ふらつき増悪、めまい、顔面蒼白、強い疼痛などがあれば中止し、環境(椅子高さ・足底接地・手すり)を整えてから観察します。
- 椅子:座面が柔らかすぎると離殿が増幅して見えます(条件は固定)
- 足部:踵が滑ると、原因が「筋力」ではなく「条件」になります
- 声かけ:まずは「いつも通り立ってください」。次に「ゆっくり」など 1 つだけ追加
30 秒観察ルーチン:側面 20 秒→正面 10 秒
見る量が多すぎると所見が散らばります。観察を 30 秒に収め、相(フェーズ)ごとに 1 行だけ書ける形にします。
| 時間 | 視点 | 見る項目(最小セット) | その場での 1 手 |
|---|---|---|---|
| 側面 0〜20 秒 | 矢状面 | 足の引き込み、体幹前傾、離殿、伸展、再安定 | 足を 1 足長だけ引く/椅子を 2〜3 cm 高くする |
| 正面 20〜30 秒 | 前額面 | 荷重左右差、膝の内外反、骨盤の逃げ(側方偏位) | 足幅を指 2 本分だけ広げる/視線を正面固定 |
※「いっぱい直す」のではなく、条件変更は 1 つだけにすると原因が追いやすくなります。
フェーズ別チェック表(見る→書く→確かめる)
「できていない」ではなく、どの相で止まるかを先に決めてください。
| フェーズ | 観察(事実) | よくある仮説 | すぐ試す修正( 1 つだけ ) |
|---|---|---|---|
| ① 準備 | 足が遠い/踵が浮く/骨盤後傾で座っている | 前傾の作り方が弱い、足部条件が悪い | 足を引く/坐骨に座り直す(骨盤前傾の準備) |
| ② 離殿 | 臀部が浮かない/反動が大きい/膝が内側 | 前傾不足、荷重左右差、股・膝伸展の出力不足 | 「鼻を膝の上へ」1 回だけ cue/足幅を少し広げる |
| ③ 伸展 | 体幹が早く起きる/膝折れ/過伸展 | 股関節伸展の出力不足、膝伸展への依存 | 体幹を起こすタイミングを遅らせる cue/手すりを軽く触れる |
| ④ 再安定 | 立位で止まれない/一歩出て逃げる | 支持基底面が狭い、感覚入力不足、恐怖 | 足幅を指 2 本分広げる/「立って 2 秒止まる」だけ指示 |
よくある失敗( NG パターン )と、見落としやすい理由
現場で多いのは、「筋力がない」で止まるケースです。実際は、足部条件・前傾の作り方・荷重左右差のどれかで詰まっていることが多く、修正は小さくて済みます。
| NG(起きがち) | 見えること(事実) | 理由(ありがちな原因) | まず 1 手(最短の修正) |
|---|---|---|---|
| 足が遠いまま立とうとする | 離殿できない/反動が増える | 重心を前へ運べない(条件の問題) | 足を 1 足長だけ引く(踵が滑らない環境) |
| 前傾が作れず、体幹が起きたまま | 臀部が浮かない/膝だけ前へ出る | 骨盤後傾、恐怖、 cue が曖昧 | 「鼻を膝の上へ」1 回だけ cue |
| 患側を避ける(左右差が大) | 健側へ寄る/骨盤が逃げる | 疼痛、感覚低下、出力不足 | 足幅を少し広げる+視線正面(まず転倒回避) |
| 立てても止まれない | 立位で一歩出る/ふらつく | 支持基底面が狭い、恐怖、再安定が不足 | 「立って 2 秒止まる」だけ指示(歩き出さない) |
回避の手順(チェック)|原因を “条件→相→出力” の順で潰す
最短で安定させるなら、①条件(環境)→②相(どこで詰まるか)→③出力(筋・協調)の順で確認します。出力の前に条件を整えると、評価も介入もブレにくくなります。
- 条件を固定:椅子高さ、足底接地、滑り、手すり有無
- 相を決める:①準備/②離殿/③伸展/④再安定のどこで止まるか
- 修正は 1 つだけ:足を引く、足幅を変える、 cue を 1 つ追加、椅子を 2〜3 cm 高くする
- 反応を書く:できた/できないではなく、どこが変わったか
記録テンプレ(カルテに残る)|事実→仮説→修正結果を 1 行で
所見が長いほど共有されません。おすすめは、相 + 事実(見えたこと)+ 仮説 + 修正結果を 1 行で残す形です。
- 例 1(離殿):②離殿:足部が遠く前傾不足で臀部離れず → 条件要因を疑い足を引く → 離殿は成立、再安定が次課題
- 例 2(左右差):②離殿:健側優位で患側荷重が不足 → 疼痛 / 出力不足を疑う → 足幅拡大でふらつき減、患側荷重は段階付けが必要
型の全体像は親記事へ:動作分析の記録テンプレ(親)
よくある質問( FAQ )
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. 「筋力がない」以外で、まず疑うべきは?
最初は条件(足が遠い/滑る/椅子が低い)と、前傾の作り方です。ここを 1 つ変えるだけで離殿が成立するケースは多く、原因が「出力」なのか「条件」なのかを分けられます。
Q2. 観察は側面と正面、どっちが優先?
おすすめは側面 20 秒→正面 10 秒です。側面で「相(準備→離殿→伸展→再安定)」を決めると、正面で見るべきポイント(荷重左右差・膝の内外反)が絞れます。
Q3. 立てるけど、立位で止まれません。
④再安定の問題です。まずは足幅を指 2 本分だけ広げる、次に「立って 2 秒止まる」だけを目標にして、歩き出し(次課題)と分けてください。
Q4. 膝が内側に入ります(いわゆるニーイン)。
正面で「いつ(どの相)に入るか」を決めます。②離殿で強いなら条件要因、③伸展で強いなら出力配分や患側回避を疑い、修正は 1 つだけ試します。
次の一手(回遊の最短導線)
教育体制・人員・記録文化など “環境要因” を一度見える化すると、次の打ち手が決めやすくなります。
チェック後に『続ける/変える』の選択肢も整理したい方は、PT キャリアナビで進め方を確認しておくと迷いが減ります。
参考文献
- Kotake T, Dohi N, Kajiwara T, et al. An analysis of sit-to-stand movements. Arch Phys Med Rehabil. 1993;74(10):1095-1099. doi: 10.1016/0003-9993(93)90068-L
- Janssen WGM, Bussmann HBJ, Stam HJ. Determinants of the sit-to-stand movement: a review. Phys Ther. 2002;82(9):866-879. doi: 10.1093/ptj/82.9.866
- Etnyre B, Thomas DQ. Event standardization of sit-to-stand movements. Phys Ther. 2007;87(12):1651-1666. doi: 10.2522/ptj.20060378
- Guralnik JM, Simonsick EM, Ferrucci L, et al. A short physical performance battery assessing lower extremity function. J Gerontol. 1994;49(2):M85-M94. doi: 10.1093/geronj/49.2.M85
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


