SAS(心不全)の使い方|「はい→つらい」でMETsを決める

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SAS(心不全)の評価方法|症状が出る最小運動量をMETsで決める

SAS(Specific Activity Scale)は、心不全などで症状が出現する最小運動量をMETsで表す評価です。判定のポイントは、患者さん自身のゆっくりしたペースで「できるか」を聞くだけではなく、活動条件をそろえながら「はい」から「つらい」へ初めて変わる活動を見つけることです。

この記事では、SAS単体の取り方に絞り、どの活動をSAS値にするのか、NYHAとどう区別するのか、何を記録して再評価するのかまで整理します。心不全評価全体や運動処方そのものを深掘りするのではなく、外来・病棟でSASを再現性のある形で残せることをゴールにします。

先に結論:SASは「一番強くできる活動」ではなく、心不全症状が初めて出る活動のMETsを拾います。判定の決め手となった活動は、次回の再評価に使えるよう条件と症状も一緒に記録します。

SASの取り方|「はい」から「つらい」に変わる境界を探す

SASは、活動を軽いものから確認し、「はい」から「つらい」へ初めて変わる境界を見つけるのが基本です。公的な身体活動能力質問表の記入要領では、患者さん自身のペースではなく、同年齢の健康な人と同じ程度のペースでできるかを確認するよう示されています。

「歩けます」「階段もできます」といった回答だけでは、速度や休憩の有無によって負荷が変わります。活動名だけで判定せず、速度、途中休憩、手すり、補助具、荷物などを確認し、症状が出る境界を具体化します。

SASの決め方を5ステップで示した図版
SASは「はい」から「つらい」へ変わる最初の活動を探し、症状が出現する最小運動量をMETsで記録します。

図版のMETs表記について:図中の「3.5〜5.9 METs」は、後述するNYHA IIとの比較帯の目安です。個々のSAS値を一律に3.5〜5.9 METsとするのではなく、実際には「つらい」が初めて現れた質問項目のMETsから判定します。

SASを判定するときに押さえる4つの原則
確認点 判定の考え方 記録すること
活動のペース 患者さん独自のゆっくりしたペースだけで判定せず、同年齢の健康な人と同程度のペースを基準に確認する 速度、距離、環境
「はい」→「つらい」 「つらい」が初めて現れる活動を注意深く確認する 活動名とMETs
少しつらい 公的な記入要領では「少しつらい」も「つらい」として扱う 症状の種類と程度
再評価 判定の決め手になった活動をkey questionとして残す 休憩、手すり、補助具、荷物など

なお、公的な身体活動能力質問表は、単に患者さんへ渡して自己記入してもらうアンケートとしてではなく、問診によって確認する運用が示されています。診断書などの正式な様式として用いる場合は、その様式で定められた記入者・運用条件に従ってください。

SAS値の決め方|症状が初めて出る活動のMETsを拾う

SAS値は、「つらい」が初めて現れた活動の運動量を基準に決めます。「できる活動の最大METs」を探す尺度ではありません。判定の前後にある活動を確認しながら、症状が出始める境界を絞り込みます。

公的な記入要領では、たとえば同年齢の健康な人と同程度の速度で平地を100〜200m歩く活動(3〜4 METs)で初めて症状が出た場合、初回のSASを3.5 METsとする例が示されています。METsに幅がある質問項目では、同じ活動で症状の強さが変化した場合に0.5 MET単位で変化を追う運用も示されています。

この記事での整理:これまで使っていた「最低不可MET」という表現は、理解を助ける言い換えとしては使えますが、本文では公式資料に近い「症状が出現する最小運動量」を基本表現とします。

SASの判定で迷いやすい場面
迷う場面 考え方 記録のポイント
ゆっくりならできる 患者さん独自のペースだけで「はい」とせず、基準となる速度・条件を確認する 速度、距離、休憩
手すりがあればできる 「できる/できない」だけでなく、活動が成立した条件を残す 手すり、補助具、介助
活動経験がない 無理に「はい」「つらい」へ当てはめず、類似活動や過去の経験から確認する 回答が不明な理由
疼痛などで中断する 活動不能をそのまま心不全症状による制限と解釈しない 息切れ、胸部症状、疲労、疼痛など制限因子

SASは「何METsか」だけ残すより、その値を決めた活動と症状を一緒に残す方が再評価に向きます。担当者が変わったときも、どの問いを同じ条件で確認すればよいか分かります。

SASとNYHAの関係|3.5〜5.9 METsは「SASクラスII」ではない

SASとNYHAは関連しますが、厳密に1対1で対応する尺度ではありません。日本循環器学会の資料では、SASとNYHAの運動耐容能を比較する目安が示されていますが、「NYHA分類に厳密に対応するSASはない」とされています。

したがって、記録では「SASクラスII」と書くより、「SAS 3.5 METs」など実際のSAS値を記載し、NYHAは別に評価する方が役割を分けやすくなります。NYHAの具体的な取り方は、NYHA分類の評価方法で整理しています。

NYHAとSASの比較の目安
NYHA SASの比較目安 使い方
I 6 METs以上 NYHAとの比較帯として確認する
II 3.5〜5.9 METs SASはNYHA IIの幅を補う評価として有用
III 2〜3.4 METs 実際のSAS値と症状が出る活動を併記する
IV 1〜1.9 METs以下 比較目安であり、機械的な置き換えはしない

この表はSASをI〜IVへ分類するための表ではありません。あくまでNYHA、SAS、運動耐容能を比較するときの目安です。SASそのものは、症状が出現する最小運動量をMETsで表します。

NYHA・6分間歩行・Borgとの使い分け

SASの役割は、日常生活で症状が出る活動強度をMETsで捉えることです。心不全の運動耐容能や症状評価を1つの尺度だけで完結させる必要はありません。それぞれ「何を知りたいか」で使い分けます。

心不全で用いる主な評価の役割分担
評価 主にみること SASとの違い
SAS 症状が出現する生活活動の強度 活動をMETsで表す
NYHA 症状による身体活動制限の程度 I〜IVの機能分類として共有する
6分間歩行試験 歩行での運動耐容能 実際に歩いた距離と症状を確認する
Borg 運動中の自覚的なきつさ その時点の息切れ・運動強度調整に使う

SASで得たMETsは、生活指導や運動耐容能を考える入口にはなりますが、SAS値だけで運動処方を決定するものではありません。症状、循環動態、運動負荷試験、6分間歩行、Borgなど、目的に応じた評価と組み合わせます。

SASの記録方法|METs・key question・条件を残す

記録では「SAS ○ METs」だけで終わらせず、その値を決めた活動、症状、成立条件まで残します。判定の決め手になった活動が次回のkey questionになり、同じ問いを同じ条件で確認しやすくなります。

SASのSOAP記録例
項目 記載例
S 「ゆっくりなら歩けるが、同年代の人と同じくらいの速さでは息切れする。」
O SAS 3.5 METs。key question:同年齢健常者と同程度の速度での平地100〜200m歩行。症状:息切れ。
A 約3.5 METsの活動から症状が出現。NYHAとの比較目安は参考にするが、SAS値とは別に評価する。
P 同じ活動条件と症状を再評価。必要に応じて6分間歩行やBorgなどを併用する。

最小記録セット

  • SAS値(METs)
  • 判定の決め手となった活動
  • 出現した症状
  • 速度・休憩・手すり・補助具などの条件

SASでよくある失敗|「できる・できない」だけで終わらせない

SASがブレる主な原因は、活動条件や判定対象が毎回変わることです。同じ活動名でも、速度や休憩、補助具が違えば負荷は同じではありません。また、活動できない理由が心不全症状とは限らない点にも注意します。

SASで避けたい判定と修正方法
よくある判定 問題点 修正するポイント
「歩けますか?」だけ聞く 速度や距離が分からない 速度、距離、休憩を具体化する
患者さんのゆっくりしたペースで判定 本来の活動強度より低く見積もる可能性がある 基準となるペースをそろえて確認する
「SAS II」とだけ記録 NYHAとの比較帯とSAS値が混同される 「SAS ○ METs」と活動条件を記録する
疼痛でできない活動をそのままSASにする 心不全症状による制限とは限らない 何が活動を制限したか確認する
症状を出すまで実際に負荷を上げる SASは問診で評価できる尺度であり、無理に症状を誘発する必要はない 問診で境界を絞り、必要な運動評価は別の手順で行う

SASの細かな判定より安全確認を優先する場面

SASは問診中心の評価ですが、急性増悪を疑う訴えがある場合は、METsの境界を細かく決めることより診療・報告を優先します。SASのために実際の活動を行わせ、症状を誘発する必要はありません。

  • 安静時にも強い胸痛・胸部圧迫感がある
  • 安静時呼吸困難、起座呼吸など呼吸状態が急に悪化している
  • 失神・失神前症状、著しいめまいなど循環不安定を疑う
  • 急な体重増加、浮腫増悪、夜間呼吸困難など心不全増悪を疑う

具体的な運動開始・中止基準は、患者ごとの病態、医師の指示、施設の心臓リハビリテーション手順に従ってください。本記事のSAS値だけを運動可否の判断基準にはしません。

SAS評価票・記録用紙PDF(A4)

SAS値、判定の決め手となった活動条件、SOAPを1枚で残せるA4記録用紙を掲載しています。外来・病棟で、症状が出る活動と条件をそろえて記録したいときに使用できます。

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SAS(心不全)のよくある質問

判定時に迷いやすいポイントを、SASの基本ルールに沿って整理します。

Q1.SASは「できる活動」と「できない活動」のどちらで決めますか?

「つらい」が初めて現れる活動を基準にします。その活動の運動量が、症状が出現する最小運動量となりSASになります。「できる最も強い活動」をそのままSAS値にする評価ではありません。

Q2.患者さん自身のペースならできる場合は「はい」でよいですか?

公的な身体活動能力質問表の記入要領では、患者さん独自のペースではなく、同年齢の健康な人と同じ程度のペースでできるかを確認するよう示されています。速度や休憩条件を具体化して判定します。

Q3.SASが3.5〜5.9 METsならNYHA IIと判定してよいですか?

3.5〜5.9 METsはNYHA IIとの比較の目安ですが、NYHAとSASは厳密な1対1対応ではありません。SASはMETs、NYHAはI〜IVの機能分類として、それぞれ別に評価して記録します。

Q4.SAS値だけで運動処方を決められますか?

SASは生活活動で症状が出る強度を把握する入口になりますが、SAS単独で運動処方を決定するものではありません。病態や症状、循環動態、Borg、6分間歩行、必要に応じた運動負荷評価などを組み合わせて判断します。

次の一手|心不全評価と運動強度へつなげる


参考文献

  1. Kitai T, Kohsaka S, Kato T, et al. JCS/JHFS 2025 Guideline on Diagnosis and Treatment of Heart Failure.
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    日本循環器学会
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rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。

現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。

保有資格

  • 脳卒中認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター2級

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