シーティングハブ(座位評価 → 調整 → 記録・再評価)
評価 → 介入 → 再評価の臨床フローを見る( PT キャリアガイド #flow )
本ページは、臨床で使うシーティング(座位・車椅子)を「評価 → 調整 → 記録 → 再評価」の順で引ける索引(ハブ)です。褥瘡(圧)・呼吸・嚥下・活動性の“絡み”をほどきながら、現場で再現できる手順に落とします。
結論として、シーティングは座位姿勢そのものを整えるだけでなく、圧・呼吸・嚥下・上肢活動を同時に動かす介入です。だからこそ「まず評価でズレを言語化 → 小さく調整 → 記録して同条件で再評価」の流れが、最短で失敗を減らします。
配布物・テンプレ(記録に使う)
現場で“そのまま使える”形でまとめています。まずは初期評価票 → 記録シート → 再評価の順で運用すると、介入の根拠が残りやすくなります。
- 【 30 度側臥位 】神位から尾骨部への前方への圧迫を避ける(除圧)
- シーティングの初期評価票(チェック式)
- Hoffer の座位能力分類(見立ての共通言語)
- シーティング:クイックリファレンス(目的別)
- シーティングの記録シート(再評価用)
- ティルト&リクライン:角度/時間ログ(除圧計画)
- 窒息時の対応(いざという時の手順)
- 嚥下 × 座位:安全チェックカード
- シーティング計測テンプレ( xlsx )
まず 5 分フロー(迷ったらここ)
迷いが出るのは、調整を“いきなり”始めてしまう時です。まず優先順位を決めてから触ると、修正が速くなります。
| 手順 | 見るポイント | 第一手(最小介入) | 再評価(同条件) |
|---|---|---|---|
| ① 目的の確認 | 食事/呼吸/除圧/作業(上肢)/移乗 | 目的を 1 つに絞る(まずは安全) | 主訴・症状が動いたか |
| ② 骨盤 | 後傾・前すべり・左右傾斜 | 座面奥行き・クッション位置・足部支持 | 骨盤が“戻る”か(維持できるか) |
| ③ 体幹 | 側屈・回旋・円背 | 背もたれ支持(高さ/当たり) | 頭部正中・視線の安定 |
| ④ 上肢と足 | 肩の挙上・下垂、足の浮き | アーム支持/フット支持の調整 | 上肢活動と疲労の変化 |
| ⑤ 安全と圧 | 呼吸苦・むせ・皮膚発赤 | 角度(背・座)と除圧計画 | SpO2 ・ RR ・むせ・皮膚所見 |
初期評価(見る順番)
評価は“測る”より先に、まずズレの仮説を立てます。特に、骨盤が崩れると体幹・頭部・嚥下まで連鎖しやすいので、ここを基点にします。
- 骨盤:後傾(仙骨座り)/前すべり/左右傾斜(骨盤の高さ差)
- 体幹:側屈・回旋・円背(支持が足りないのか、過介助で崩れているのか)
- 頭頸部:前方突出・回旋・側屈(視線が安定しない原因を探す)
- 支持:足底接地(踵が浮く・つま先荷重)、アーム支持(肩が上がる/落ちる)
- 圧:尾骨・仙骨・坐骨・踵(発赤・痛み・湿潤・ずれ)
- 活動:テーブル作業・食事動作が可能か(疲労・集中・巧緻性)
現場の詰まりどころ(よくある失敗)
| 起きていること | よくある原因 | まず試す対策 | 確認(再評価) |
|---|---|---|---|
| 前すべりが止まらない | 骨盤後傾+足部支持不足+座面奥行き不一致 | 足底接地の確保 → 座面奥行き調整 → 骨盤後傾を減らす支持 | 座位保持時間/殿部の位置ずれ |
| むせが増える | 頭部前方突出・体幹不安定・顎が上がる | 骨盤と体幹支持を先に整え、頭頸部は“後から”微調整 | むせ回数/咳嗽の強さ/ SpO2 |
| 肩こり・上肢疲労が強い | アーム支持不足、テーブル高さ不一致 | 肘支持(テーブル・アーム)→ 肩挙上を減らす | 作業時間/疼痛 NRS |
| 褥瘡リスクが下がらない | 角度が小さく、除圧時間が不足 | ティルト/リクラインの“角度+時間”をログ化 | 発赤の残存/疼痛/皮膚温感 |
調整(クッション・背・足・腕)
調整は「骨盤 → 体幹 → 頭部」の順で、支持を足してから微調整します。引き算(支えを外す)は最後に回すと崩れにくいです。
座面(クッション)
- 狙い:坐骨支持を作り、仙骨座りを減らす
- チェック:殿部が前に逃げる/左右差がある/大転子が当たる
- 調整:クッション位置、座面奥行き、骨盤の左右差への補正
背もたれ
- 狙い:体幹の“戻り”を作り、頭部を正中に戻す
- チェック:円背が強い、側屈が固定化、肩甲帯が不安定
- 調整:支持高さ、当たりの面積、背角(わずかな変更から)
フット・アーム
- 足:足底接地を確保(踵が浮くと骨盤が崩れやすい)
- 腕:肘支持で肩挙上を減らす(食事・作業の疲労が下がりやすい)
安全:嚥下・窒息・呼吸
座位は、嚥下と呼吸の“同時課題”です。むせや呼吸苦が出る時は、嚥下手技の前に座位の安定を疑うと、改善が速いことがあります。
嚥下の安全(座位で見る 3 点)
- 頭頸部:顎が上がる/回旋が強い/前方突出が固定
- 体幹:側屈・回旋で咽頭通過が乱れやすい(まず正中に近づける)
- 支持:足・肘支持がないと嚥下のタイミングが崩れやすい
呼吸の観察(座位が崩れるサイン)
- 努力呼吸が増える(肩で呼吸する、吸気が浅い)
- SpO2 低下、 RR 上昇、会話が続かない
- 円背・前すべりで胸郭運動が小さくなる
関連:栄養・嚥下ハブ / 誤嚥性肺炎( PT )ハブ
除圧:ティルト/リクライン(角度と時間)
除圧は「角度」だけでなく「時間」がセットです。小さな調整を頻回に行い、必要に応じて大きい角度を組み合わせると、現場で回しやすくなります。
| 目的 | まず試す | ポイント | 記録 |
|---|---|---|---|
| 坐骨・仙骨の除圧 | 小角度のティルトを頻回 | “戻し”も含めて継続できる運用にする | 角度/時間ログ |
| 血流(循環)の改善を狙う | 必要時に大きめ角度を併用 | 状態・安全(血圧、めまい)を優先 | SpO2 / BP /症状 |
| 姿勢の崩れ対策 | 背もたれ支持+角度微調整 | “支持を足す”が先、角度は最後に詰める | 座位保持時間 |
記録テンプレ( SOAP 例)
シーティングは「同条件での再評価」が価値です。角度・支持物・時間を固定して、次回の意思決定に使える形で残します。
- S:座位で疲れる。食事でむせが増えた。
- O:骨盤後傾+前すべり。頭部前方突出。足底接地不十分。殿部に発赤(軽度)。
- A:足部支持不足と骨盤後傾により体幹が不安定。嚥下時に頸部が伸展しやすく、むせを助長。
- P:足底接地を確保 → 座面奥行き調整 → 体幹支持を追加。食事は正中を優先し、むせ・ SpO2 を観察。除圧は角度/時間をログ化し、 1 週後に同条件で再評価。
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. まず何から触ればいいですか?(クッション?背もたれ?)
原則は骨盤 → 体幹 → 頭部です。前すべりや仙骨座りがあるのに頭部だけを直すと、すぐ崩れます。まず足底接地と骨盤の“戻り”を作り、体幹支持を足してから、最後に頭頸部を微調整します。
Q2. むせが増えた時、嚥下手技の前に見るべきポイントは?
座位の正中性と支持(足・肘)です。体幹が側屈/回旋している、顎が上がる、足が浮く、肘支持がない場合は、嚥下のタイミングが乱れやすくなります。まず座位を安定させた上で、必要に応じて嚥下の評価・介入へ進みます。
Q3. ティルト/リクラインはどれくらいで効果が出ますか?
「角度」だけでなく「時間」が重要です。小さな角度でも圧は下がり得ますが、循環(血流)まで狙うなら角度・保持時間が必要になる場面があります。現場ではまず角度/時間ログを付け、皮膚所見と症状で調整幅を決めると運用しやすくなります。
Q4. 記録で最低限残すべき項目は?
再現性のために、①支持(クッション・背・足・腕) ②角度(背・座) ③介入前後の所見(姿勢・症状・皮膚) ④再評価の条件を残します。数値よりも「同条件で再評価できる情報」を優先してください。
参考文献
- Zemp R, et al. Biomed Res Int. 2019;2019:4027976. doi: 10.1155/2019/4027976(PubMed: 30956981)
- Albarrati A, et al. Biomed Res Int. 2018;2018:3058970. doi: 10.1155/2018/3058970
- Alghadir AH, et al. Afr Health Sci. 2017;17(1):133-137. doi: 10.4314/ahs.v17i1.17
- Yoshikawa M, et al. J Dent Sci. 2021;16(1):467-473. doi: 10.1016/j.jds.2020.08.012
おわりに
シーティングは「禁忌・中止基準の確認 → 初期評価(骨盤→体幹) → 小さく調整 → 圧と嚥下・呼吸を観察 → 記録 → 同条件で再評価」のリズムで回すと、短期間でも改善が積み上がります。面談準備チェックと職場評価シートも使いたい方は こちら も合わせてどうぞ。
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下
関連ハブ:臨床手技・プロトコルハブ / 疼痛・安全管理ハブ / 評価ハブ


