SPPB と TUG の違い【比較・使い分け】

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SPPB と TUG の違い【比較・使い分け】“ 何を測っているか ” で迷いが消える

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SPPB ( Short Physical Performance Battery )と TUG ( Timed Up and Go )は、どちらも “ 歩けるか ” を見る評価に見えますが、実際に測っているものは違います。だからこそ、同じ患者さんでも「結果の解釈」や「次の一手」がズレやすいのが現場です。

結論は、 SPPB は “ 下肢パフォーマンスの総合点(バランス+歩行+立ち上がり)” TUG は “ 立つ→歩く→向きを変える→座る の一連の移動タスクの速さと安全性 ”として使い分けることです。目的(スクリーニング/介入の焦点化/経過追跡)を 1 つ決めると、選択がブレません。

まずここだけ:SPPB と TUG の “ いちばん大きい違い ”

SPPB は複数課題を組み合わせて、下肢機能の “ 底上げ度合い ” を点数化します。介入で何が伸びたか(バランスか、歩行か、立ち上がりか)を分解しやすいのが強みです。

一方で TUG は、移動の一連動作を 1 つのタスクとして捉え、速度・段取り・方向転換・安全性の影響がそのまま結果に出ます。生活場面に近いぶん、補助具・指示・恐怖・注意負荷でブレやすい点も特徴です。

比較表:どっちを使う?(早見)

※表は横にスクロールできます。

SPPB と TUG の違い(目的別の比較・使い分け早見)
観点 SPPB TUG 向いている場面 注意点
測るもの 下肢パフォーマンス(バランス・歩行・立ち上がり)を総合点で把握 移動タスク(立つ→歩く→方向転換→座る)の所要時間と安全性 目的に応じて “ 総合 ” か “ タスク ” を選ぶ 同じ “ 歩行評価 ” でも意味が違う
介入への落とし込み どの下位要素が弱いかを分解しやすい 段取り・方向転換・立ち座り・注意負荷など “ 詰まりどころ ” が見えやすい SPPB :底上げ、 TUG :生活動作の詰まり改善 TUG は “ 速くする ” だけが目的になりやすい
経過追跡 介入での改善点を説明しやすい 日内変動(疲労・不安・環境)の影響を受けやすい 定期評価: SPPB /場面評価: TUG 条件固定(椅子・距離・補助具・声かけ)が必須
対象イメージ 虚弱・サルコペニア・慢性疾患など “ 体力低下 ” を含む人 移動自立はあるが転倒不安・方向転換で崩れる人 退院前後・通所・外来で使いやすい 重度例は安全設計が優先

使い分けの結論:選び方は 3 パターンで十分

1 )スクリーニング(まず全体像)なら SPPB
短時間で “ どこが弱いか ” を分解でき、介入の方向性が決めやすいです。

2 )転倒が気になる/方向転換が怪しいなら TUG
移動タスクの中で詰まる瞬間(立ち上がり、歩き出し、方向転換、座り込み)が観察しやすいです。

3 )退院前の意思決定なら “ 併用 ” がいちばん強い
SPPB で下肢機能の底上げ度合い、 TUG で生活場面の移動の成立条件を把握すると、支援量が決めやすくなります。

現場の詰まりどころ:ここで読み違えます

① TUG が遅い=筋力が弱い、と決めつける
TUG は “ 段取り ” の影響が大きいです。立ち上がりの手の使い方、歩き出しの恐怖、方向転換の刻み足、座る直前のふらつきなど、時間の中身を観察しましょう。

② SPPB が良い=転倒しない、と決めつける
SPPB は総合点として優秀ですが、混雑・二重課題・方向転換など “ 現実の難所 ” を直接は含みません。生活場面の安全確認には TUG のようなタスク評価が役立ちます。

③ 条件が固定されていない(比較できない)
椅子の高さ、距離、靴、補助具、声かけの有無が変わると、改善なのか条件差なのか分からなくなります。測定条件を “ 書いて残す ” だけで、評価の価値が上がります。

標準化チェック:条件を固定すると解釈がラクになる

※表は横にスクロールできます。

SPPB・TUG の条件固定チェック(比較可能性を上げる)
固定したい項目 具体例 なぜ重要か 記録の一言
環境 床材、通路幅、障害物の有無 歩幅と速度が変わりやすい 「院内廊下、障害物なし」
椅子 高さ、肘掛けの有無 立ち座り負荷が変わる 「肘掛けなし、同一椅子」
補助具 杖、歩行器、装具 結果が “ 道具の影響 ” を含む 「 T 字杖使用」
声かけ 速度指示、見守りの距離 不安と注意負荷が変わる 「普段通り、急がせない」

ケース:SPPB は良いのに TUG が伸びない(原因の探し方)

状況: SPPB は改善しているが、 TUG の時間が頭打ち。本人は「方向転換が怖い」と言う。

解釈のコツ: “ 下肢機能の底上げ ” は進んだが、生活タスクとしての移動(特に方向転換・停止・座り込み)で詰まっている可能性が高いです。 TUG は時間だけでなく、どの局面で崩れるかをメモします。

次の一手:方向転換(刻み足)と停止動作を “ 手順固定 ” で練習し、恐怖が強い日は量を増やさず “ 質の良い反復 ” に切り替えます。 SPPB の下位項目は維持しつつ、タスク特異的に詰まりを潰すと伸びやすいです。

カルテ記載テンプレ:点数・時間より “ 条件 ” を残す

記載例(短文)
「 SPPB :下肢パフォーマンスは改善(バランス/歩行/立ち上がりのどこが伸びたかを記載)。 TUG :時間は横ばいだが、方向転換で刻み足・停止時にふらつき。条件:同一椅子、同一靴、 T 字杖、声かけ最小。次回は方向転換と停止の手順固定を優先。」

よくある質問

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

Q1. SPPB と TUG 、どちらか 1 つだけ選ぶなら?

A.目的で決めます。スクリーニングや下肢機能の全体像なら SPPB 、生活場面の移動タスクの詰まり(方向転換・停止・座り込み)なら TUG が向きます。退院前の意思決定は併用が強いです。

Q2. TUG を “ 速くして ” と指示して良いですか?

A.安全性を担保できる場合に限ります。焦りでフォームが崩れると転倒リスクが上がります。普段通りで測る条件と、最大努力で測る条件を混ぜないようにし、条件を必ず記録します。

Q3. SPPB が改善したのに、転倒が減りません

A. SPPB は下肢機能の底上げを捉えますが、転倒は環境・注意・二重課題・方向転換の影響も受けます。 “ 崩れる場面 ” を特定し、タスク特異的に練習する(例:方向転換、停止、混雑)と改善につながりやすいです。

Q4.経過追跡で大事なのは何ですか?

A.同条件で比べることです。椅子、距離、補助具、声かけ、靴、環境を固定し、条件を記録します。改善か条件差かが分かれるだけで、評価の価値が一段上がります。

おわりに

SPPB と TUG は “ どちらが上 ” ではなく、「総合点で底上げを見る( SPPB )」か「生活タスクの詰まりを潰す( TUG )」かで役割が違います。評価→介入→再評価のリズムを作りたい方は、面談準備のチェックと職場評価の視点も一緒に揃えられる マイナビコメディカルのチェックリストも活用すると整理が速くなります。

参考文献

  • Guralnik JM, Simonsick EM, Ferrucci L, et al. A Short Physical Performance Battery assessing lower extremity function: association with self-reported disability and prediction of mortality and nursing home admission. J Gerontol. 1994;49(2):M85-M94. PubMed
  • Podsiadlo D, Richardson S. The Timed “Up & Go”: A Test of Basic Functional Mobility for Frail Elderly Persons. J Am Geriatr Soc. 1991;39(2):142-148. doi:10.1111/j.1532-5415.1991.tb01616.x. DOI

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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