生活範囲・外出・社会参加の評価ハブ: LSA / FAI / TMIG-IC / JST-IC / LSNS-6
「病棟内は自立しているのに、退院後は外出が減る」「 ADL は保たれているのに社会参加が戻らない」――このズレを言語化する軸が、生活範囲(ライフスペース)と社会参加の評価です。歩行速度や筋力だけでは拾えない“生活の広がり”を把握し、目標設定(どこへ行ける/行きたい)と介入(移動手段・環境・支援)に落とし込みます。
このページでは、生活範囲をみる LSA 、活動頻度をみる FAI 、高次生活機能をみる TMIG-IC と JST-IC 、孤立リスクをみる LSNS-6 を、臨床で迷わないように「選び方 → 運用フロー → 詰まりどころ」で整理します。全体の評価設計は 評価ハブ から俯瞰できます。
親記事・小記事(このハブの位置づけ)
記事数が増えるほど「どれを親にして束ねるか」が重要になります。本ハブは、生活範囲・社会参加を扱う尺度をまとめる“中間ハブ”として運用する想定です。
- 上位(親):評価ハブ(全評価のまとめ)
- 中位(本記事):生活範囲・社会参加の評価ハブ(本ページ)
- 下位(小記事): LSA / FAI / TMIG-IC / JST-IC / LSNS-6(各単独記事)
最短導線:まず読む 3 本
「どれを選ぶか」で迷う場合は、まず下の 3 本から入ると判断が早いです。ベッドサイドでも在宅でも使い回せます。
- LSA(ライフスペースアセスメント):外出の“広がり”を数値化
- TMIG-IC(老研式活動能力指標):高次生活機能の抜けを早期に拾う
- LSNS-6 :孤立リスクのスクリーニング
なぜ「生活範囲」を測るのか
生活範囲は、移動能力だけで決まりません。実務では 移動能力 × 環境(段差・交通) × 支援(家族・介護) × 意欲/不安 × 疲労・息切れの“掛け算”で落ちます。
だからこそ、歩行や筋力の結果に加えて「どこまで、どの頻度で、どの支援で行けるか」を押さえると、目標と手段が具体化します(例:敷地外までの移動手段を安定化 → 週 1 回の買い物に同伴 → 単独外出へ)。
選び方 早見表(目的 → 推奨スケール)
| 目的 | まず使う | 補助で使う | 強み | 注意点 |
|---|---|---|---|---|
| 外出の“広がり”を追う | LSA | TMIG-IC | 頻度・自立度も含めて「生活範囲」を数値化 | 地域特性(交通・地形)で差が出やすい |
| 活動頻度( IADL )を追う | FAI | LSA | “何をどれくらいしているか”が見える | 採点法が複数(スコア範囲が変わる) |
| 高次生活機能の抜けを拾う | TMIG-IC | JST-IC | 短時間で IADL・知的活動・社会的役割を点検 | 具体的支援策へは追加聴取が必要 |
| “現代的な能力”まで見たい | JST-IC | TMIG-IC | 情報活用・社会参加など上位概念を評価しやすい | 対象(年齢・生活様式)で天井効果に注意 |
| 孤立リスクを拾う | LSNS-6 | LSA | ネットワーク量を簡便に把握(スクリーニング向き) | 「質」や実際の支援の可否は面接で確認 |
各スケールの使いどころ(要点だけ)
LSA(ライフスペースアセスメント)
生活範囲を「家の中 → 敷地内 → 近所 → 町外 → 遠方」といった段階で捉え、頻度と自立度(介助・補助具)も加味して点数化します。退院支援では「どこまで行けるか」だけでなく「どの支援があれば行けるか」を同時に整理できるのが強みです。
運用のコツは、過去 4 週間など参照期間をそろえ、移動手段(徒歩/車椅子/車)と同伴の有無をセットで聴取することです。環境要因で落ちている場合は、訓練だけでなく交通・買い物動線・支援導入に繋げます。
FAI( Frenchay Activities Index )
家事・外出・余暇などの活動頻度を定量化し、生活の“戻り”を追いやすい尺度です。実務では活動の種類が見えるため、「できない理由(移動/段差/手段/支援)」を分解して介入に落とし込みやすくなります。
注意点は採点法が複数あることです(例: 0–45 形式、 15–60 形式など)。同じ患者で縦断比較する場合は、施設・チーム内で採点法を固定し、記録用紙も統一するとブレが減ります。
TMIG-IC(老研式活動能力指標)
高次生活機能を IADL / 知的活動 / 社会的役割で点検し、「 ADL は保たれているのに生活が回らない」ケースの抜けを拾いやすい尺度です。退院前後で、支援導入の優先順位(買い物・金銭管理・服薬など)を見立てる入口になります。
コツは、点数そのものよりも落ちている領域( IADL なのか、社会的役割なのか)を見て、追加で“どこで詰まるか”を聴取することです。支援(同伴・見守り・サービス)で代替できる部分と、訓練で改善を狙う部分を分けます。
JST-IC( JST 版活動能力指標 )
現代の地域生活で必要になりやすい能力(情報活用・社会参加など)も含めて評価しやすい指標です。 TMIG-IC と合わせると、「従来の IADL はできるが、社会の変化で困りごとが出る」層の見立てに役立ちます。
運用では、得点だけで終わらせず、落ちた項目を具体行動に翻訳します(例:情報入手 → 受診調整 → 交通手段 → 同伴調整)。支援者が変わると実行可能性が変わるため、本人・家族・サービス担当者で合意形成しやすい形にまとめます。
LSNS-6(社会的孤立のスクリーニング)
家族ネットワーク 3 項目+非家族ネットワーク 3 項目で、支援につながる人間関係の“量”を把握します。得点範囲は 0–30 点で、一般に 12 点未満は社会的孤立の目安として扱われます。
注意点は、スコアが低くても「支援資源が整っている」ケースがある一方、スコアが高くても「実際に頼れない」ことがある点です。低値だった場合は、退院後の見守り・受診・買い物・移動のどこで困るかを具体化し、支援導入の検討に繋げます。
運用フロー(退院支援・在宅で迷わない手順)
生活範囲・社会参加は「測って終わり」になりやすい領域です。実務では、次の順に“支援と訓練の両輪”へ落とし込むと回りやすくなります。
- 参照期間を統一(例:過去 4 週間)し、主観と実態の差を減らす
- LSA で生活範囲の段階・頻度・自立度を把握(同伴/補助具/移動手段も記録)
- 不足領域の“内訳”を TMIG-IC / JST-IC で点検( IADL / 知的活動 / 社会的役割)
- 孤立リスクが疑わしい場合は LSNS-6 でスクリーニングし、支援導入の優先度を決める
- 目標は「場所」だけでなく「頻度」と「必要支援」をセットで書く(例:近所のスーパーへ週 1 回、見守り同伴)
- 介入は 移動(身体)と 環境・支援(社会)を同時に組み、 2~ 4 週で再評価する
現場の詰まりどころ(よくある失敗 → 回避策)
| よくある失敗 | 何が起きるか | 原因 | 対策 | 記録のコツ |
|---|---|---|---|---|
| 「外出できるか」だけで判断する | 退院後に外出頻度が落ちる | 頻度・支援・移動手段を拾えていない | LSA で頻度と自立度(同伴・補助具)を必ず併記 | “場所+頻度+支援”の 3 点セットで残す |
| スコアの上下だけで安心する | 困りごとが具体化されない | 落ちた領域の“内訳”を見ていない | TMIG-IC / JST-IC で領域を切り分けて追加聴取 | 落ちた領域ごとに“次の質問”を 1 行で追記 |
| 孤立リスクを見落とす | 受診・買い物・服薬が破綻しやすい | 支援ネットワークの把握不足 | LSNS-6 を入口にし、支援導入の相談へ繋げる | “頼れる人”を氏名でなく関係性で記録(家族/友人等) |
| 活動頻度が戻らない理由を身体だけで解釈 | 訓練しても生活が変わりにくい | 交通・段差・費用・不安など環境要因 | 訪問・外出場面で課題を観察し、環境調整と支援も同時に提案 | “できない理由”を「身体/環境/支援/心理」で分類する |
よくある質問(FAQ)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. 退院前にまず 1 つだけ選ぶなら、どれが無難ですか?
迷う場合は LSA が無難です。生活範囲(どこまで)だけでなく、頻度(どのくらい)と自立度(支援が必要か)まで同時に整理できるため、目標設定と支援調整に直結しやすいからです。
Q2. “点数が低い”とき、まず何から手を付けますか?
最初は「身体」よりも、支援と環境を同時に確認します。外出や活動頻度は、同伴・交通・段差・時間帯・疲労で一気に落ちるため、現状で“何があればできるか”を具体化した上で、訓練課題(持久力・バランス等)を絞ると回りやすくなります。
Q3. LSNS-6 が低いとき、 PT として何を意識して関わりますか?
まず「受診」「買い物」「服薬」「移動」のどこが破綻しやすいかを具体化し、必要に応じて家族・ケアマネ・サービス担当者と共有します。身体機能の改善だけでは解決しないことが多いので、“生活を回す仕組み”を整える視点を持つのがポイントです。
おわりに
生活範囲・社会参加は、評価 → 目標(場所・頻度・支援) → 小さな外出の成功体験 → 再評価のリズムで回すと、退院後の変化が数字と行動でつながります。スコアが上がること以上に、「外出が増えた/活動が戻った」という生活の成果に繋げる設計が大切です。
面談前の整理や職場選びの比較を一気に進めたい場合は、面談準備チェック&職場評価シートも合わせて活用してください。
参考文献
- Baker PS, Bodner EV, Allman RM. Measuring life-space mobility in community-dwelling older adults. J Am Geriatr Soc. 2003;51(11):1610-1614. doi: 10.1046/j.1532-5415.2003.51512.x. PubMed: 14687391
- Holbrook M, Skilbeck CE. An activities index for use with stroke patients. Age Ageing. 1983;12(2):166-170. doi: 10.1093/ageing/12.2.166. PubMed: 6869117
- Koyano W, Shibata H, Nakazato K, Haga H, Suyama Y. Measurement of competence: reliability and validity of the TMIG Index of Competence. Arch Gerontol Geriatr. 1991;13(2):103-116. doi: 10.1016/0167-4943(91)90053-S. PubMed: 15374421
- Iwasa H, Masui Y, Inagaki H, et al. Development of the Japan Science and Technology Agency Index of Competence to Assess Functional Capacity in Older Adults: Conceptual Definitions and Preliminary Items. Gerontol Geriatr Med. 2015;1:2333721415609490. doi: 10.1177/2333721415609490. PubMed: 28138472
- Iwasa H, Masui Y, Inagaki H, et al. Assessing competence at a higher level among older adults: development of the Japan Science and Technology Agency Index of Competence (JST-IC). Aging Clin Exp Res. 2018;30(4):383-393. doi: 10.1007/s40520-017-0786-8. PubMed: 28646250
- Kurimoto A, Awata S, Ohkubo T, et al. [Reliability and validity of the Japanese version of the abbreviated Lubben Social Network Scale]. Nihon Ronen Igakkai Zasshi. 2011;48(2):149-157. doi: 10.3143/geriatrics.48.149. PubMed: 21778631
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


