結論:A は「事実( O )→ 解釈 → 次の一手」を 1〜2 文で書き切ります
A( assessment )が書けない最大の理由は、「所見( O )を並べたあとに、結論(解釈)が出ていない」ことです。A は“気の利いた文章”ではなく、O に基づく臨床推論の結論を、誰が読んでも追える形で残すパートです。
コツは、A を ①いま何が問題か(結論)→ ②なぜそう言えるか( O の根拠)→ ③次に何をするか( P の方向性)で 1〜2 文に圧縮すること。ここが決まると、SOAP 全体の読みやすさが一気に上がります。
なぜ A が書けないのか:よくある 3 パターン
A が止まる場面は、だいたい次の 3 つです。① O が多すぎて論点がぼやける(全部書く病)。②「何が問題か」を言い切れず、曖昧語(〜っぽい、〜気味)で逃げる。③ P を先に決めてしまい、A が後付けになる(理由が薄い)。
まずは「主訴( S )に対して、必要な O を 3 点まで」に絞ると、A の焦点が合います。全データを残すのは別欄(測定一覧)に任せ、SOAP の O は“今日の判断に必要な事実”を選ぶイメージです。
A を 1 行で書くテンプレ(そのまま使える型)
A は、結論 → 根拠 → 次の一手の順で埋めると崩れません。文章が苦手でも、まずは「穴埋め」で OK です。下のテンプレを、日々の記録に当てはめてみてください。
SOAP 全体の流れ( S に対応する O → A → P )を復習したい場合は、親記事の SOAP によるカルテの書き方(実例つき)も合わせてどうぞ。
| 構成 | 穴埋め文 | 書く目的 |
|---|---|---|
| 結論 | 主問題は( )である。 | 「何が問題か」を言い切る |
| 根拠 | 根拠は O の(数値・所見 2〜3 点)である。 | 判断の再現性を担保する |
| 次の一手 | よって(介入の方向性)を優先し、(評価指標)で再評価する。 | P を正当化し、次回につなぐ |
頻出 6 パターン:A の書き方(例文)
ここからは、現場で出会いやすい“典型パターン”で A の例文を示します。ポイントは、O を 2〜3 点に絞って、A を 1〜2 文で完結させることです。P の詳細は別記事で深掘りできますが、このページでは「方向性+再評価指標」まで書ければ合格です。
迷ったら、A の冒頭は「主問題は〜」で固定し、末尾を「よって〜を優先し、〜で再評価する」で閉じると、読み手に“次が見える”記録になります。
| 場面 | O(絞るポイント) | A( 1〜2 文例 ) | P の方向性(ひと言) |
|---|---|---|---|
| 疼痛で動けない | NRS、誘発動作、可動域( 1 つ ) | 主問題は疼痛により課題動作が回避され、活動量が低下していることである。根拠は NRS( )と(誘発動作)での増悪であり、疼痛教育と負荷調整を優先し(評価指標)で再評価する。 | 教育+段階負荷 |
| 歩行不安定 | TUG、歩容所見( 1 つ )、介助量 | 主問題は歩行の安全性低下により転倒リスクが高いことである。根拠は TUG( )秒と(歩容所見)、介助量( )であり、歩行練習を安全条件で実施し TUG/介助量で再評価する。 | 安全条件で反復 |
| 立ち上がり困難 | 5xSTS、荷重左右差、代償 | 主問題は立ち上がりにおける荷重戦略の偏りと筋出力不足である。根拠は 5xSTS( )秒と(荷重左右差)、(代償動作)であり、課題特異的練習を優先し 5xSTS で再評価する。 | STS の課題特異性 |
| 息切れ(呼吸) | SpO₂ 変化、mMRC/RPE、歩行距離 | 主問題は運動耐容能低下により ADL で息切れが増悪していることである。根拠は SpO₂( )→( )% と mMRC( )、(歩行距離)であり、呼吸パターンと有酸素運動の漸増を優先し歩行距離/SpO₂ で再評価する。 | 呼吸+漸増 |
| めまい・血圧変動 | 起立前後 BP、症状の出現条件、回復時間 | 主問題は体位変換での循環応答不全により介入継続が困難なことである。根拠は起立で BP( )→( )mmHg と症状出現であり、体位変換手順と負荷設定を調整し BP/症状で再評価する。 | 手順調整+再試行 |
| 認知・理解の課題 | 指示理解、注意の持続、必要な介助(具体) | 主問題は指示理解と注意の課題により訓練の自立度が上がりにくいことである。根拠は(指示理解の具体例)と(注意逸脱の頻度)であり、環境調整と課題の単純化を優先し介助量/遂行率で再評価する。 | 環境調整+単純化 |
よくある失敗:A の OK / NG(修正の考え方)
A の NG は「所見の羅列だけ」「曖昧語だけ」「 P の言い換えだけ」の 3 つに集約されます。A は“感想”ではなく、判断の結論です。結論が見えない文章は、監査でも教育でも詰まりやすくなります。
修正は簡単で、NG 文の先頭に「主問題は〜」を足し、末尾に「よって〜を優先し、〜で再評価する」を付けるだけで骨格が立ちます。中身(根拠)は O のうち 2〜3 点に絞って差し込みます。
| NG(避けたい) | なぜ弱い? | OK(修正例) |
|---|---|---|
| 「TUG 18 秒。BBS 42 点。歩行軽介助。」 | 事実だけで結論がない | 主問題は歩行の安全性低下である。根拠は TUG 18 秒と BBS 42 点、軽介助であり、安全条件での反復練習を優先し TUG/介助量で再評価する。 |
| 「改善傾向。もう少し頑張れそう。」 | 曖昧で再現性がない | 主問題は(具体)である。根拠は(前回比の数値)であり、(方向性)を継続し(指標)で再評価する。 |
| 「筋力増強練習を実施した。」 | P の記述であり A ではない | 主問題は下肢筋出力低下により立ち上がりが不安定なことである。根拠は 5xSTS( )秒と(代償)であり、課題特異的練習を優先し 5xSTS で再評価する。 |
現場の詰まりどころ:A を書く前の 30 秒チェック
忙しい日は、A を“考えてから書く”時間が取りにくいです。そこで、A の前に 30 秒だけ次を確認すると、判断がブレにくくなります。特に「 O を絞る」「結論を言い切る」の 2 点が効きます。
チェックは、①主訴( S )は 1 行で言えるか。② O は 3 点以内か。③「主問題は〜」と言い切れるか。④次回の再評価指標が 1 つあるか。ここまで揃えば、A は短くても“読める”記録になります。
| 確認 | 目安 | 詰まったら |
|---|---|---|
| S は 1 行? | 困りごとが 1 つ見える | 優先度が高い訴えに絞る |
| O は 3 点以内? | 数値 1〜2 + 所見 1 | 「今日の判断に必要か」で削る |
| 主問題は言い切れる? | 安全性/耐容能/疼痛など | 名詞でまとめる(転倒リスク、活動量低下 など) |
| 再評価指標は 1 つ? | TUG、5xSTS、SpO₂ など | 次回も取れる指標を選ぶ |
よくある質問( A の書き方 Q&A )
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Q1. A は長く書いた方が良いですか?
A. 基本は短くて OK です。A の価値は“文字数”ではなく、O に基づいて結論が言い切れているか、P と再評価につながっているかです。まずは「主問題は〜。根拠は O の 2〜3 点。よって〜を優先し、〜で再評価する」の 1〜2 文で十分に機能します。
Q2. O が多すぎて絞れません(全部大事に見える)
A. SOAP の O は“今日の判断に必要な事実”に限定します。全データを残したい場合は、測定一覧や別欄(フローシート)に集約し、SOAP の O は 3 点以内に圧縮すると A が書けるようになります。
Q3. 自信がなくて「〜と思われる」ばかりになります
A. 推測語そのものは悪くありませんが、結論が曖昧になると読み手が困ります。「主問題は〜である(結論)」を先に置き、根拠( O )を 2〜3 点添えると、表現が落ち着きます。迷う時は、結論を“名詞”でまとめる(転倒リスク、活動量低下、耐容能低下 など)と書きやすいです。
おわりに
A( assessment )は、事実を絞る → 1 行で解釈する → 次の一手につなげる → 再評価するという臨床のリズムを、そのまま記録に落とし込むパートです。まずは「主問題は〜」で結論を置き、O の根拠を 2〜3 点だけ添えて、最後に再評価指標を 1 つ書く。この型が回り始めると、SOAP 全体の質が安定します。
忙しい日ほど完璧を狙わず、テンプレで最低ラインをそろえるのがコツです。A が書けるようになると、記録が“作業”から“臨床推論の再現”に変わり、チーム内共有もしやすくなります。
参考文献
- Weed LL. Medical Records That Guide and Teach. N Engl J Med. 1968. DOI:10.1056/NEJM196803142781105
- Aronson MD. The Purpose of the Medical Record: Why Lawrence Weed Was Right. Am J Med. 2019. S0002-9343(19)30352-3
- Donnelly WJ. Why SOAP Is Bad for the Medical Record. JAMA Intern Med. 1992. jamanetwork.com
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信しています。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

