SOAP の O を絞る 3 点ルール

制度・実務
記事内に広告が含まれています。

結論:O は「主訴( S )に対して 3 点まで」に絞ると、A と P が一気に書けます

記録が武器になる学び方を見る( PT キャリアガイド )

SOAP の O( objective )は、測ったこと・見たことを残すパートですが、全部を書くほど A と P が書けなくなるのが実務あるあるです。O が散らかると、結論( A )がぼやけ、計画( P )も抽象語で終わりやすくなります。

最短で整えるコツは 1 つだけで、「主訴( S )に対して O は 3 点まで」に絞ること。内訳は目安として、①数値 1(テスト・バイタル)+ ②観察 1(動作の特徴)+ ③安全 1(リスク所見)。この型で書くと、O→A→P が自然に流れます。

なぜ O が増えすぎるのか:よくある 3 パターン

O が膨らむ原因は、だいたい次の 3 つです。①「測定できるものは全部書く」発想になっている。②主訴( S )が曖昧で、何を裏付ける O なのか決まっていない。③安全管理(中止基準・リスク)を別欄に分けず、O に詰め込みすぎる。

対策は逆で、まず S を 1 行に絞り、その S を裏付ける O だけを選びます。測定の全リスト( ROM、 MMT、バイタル一式など)を残したい場合は、SOAP とは別の「測定一覧」「評価シート」に集約し、SOAP の O は今日の判断に必要な事実だけにします。

O の 3 点ルール(数値 1+観察 1+安全 1)

O は “情報の倉庫” ではなく、A(判断)につながる「事実のセット」です。迷ったら、O を次の 3 つの枠で固定するとブレません。

  • 数値 1:テスト 1 つ( TUG、 5xSTS、 6MWT、 NRS、 SpO₂ など)
  • 観察 1:動作の特徴 1 つ(歩容、代償、姿勢、呼吸パターン など)
  • 安全 1:リスク所見 1 つ(ふらつき、血圧変動、疼痛増悪、疲労 など)

SOAP の全体像を先に確認したい場合は、親記事の SOAP によるカルテの書き方(実例つき)も合わせてどうぞ。

O( objective ) 3 点ルール(成人・リハの実務向け)
書く内容(例) 選び方のコツ
数値 1 TUG、 5xSTS、 10 m 歩行、 SpO₂、 NRS など 次回も同じ条件で測れるもの
観察 1 歩容(跛行、すり足)、代償(体幹側屈)、呼吸パターン など A の結論に直結する “ 1 つ ” に絞る
安全 1 ふらつき、血圧低下、疼痛増悪、疲労蓄積、酸素化低下 など 中止基準/介助量の判断に関わるもの

頻出 7 パターン:O の絞り方(例文)

ここからは、頻出場面ごとに「 S → O( 3 点 )」の例を示します。O の書き方を整えると、そのまま A(主問題)と P(次の一手)が決まりやすくなります。

例文は “そのまま貼れる粒度” に寄せています。施設の様式(単位・表記)に合わせて微調整して使ってください。

場面別:O( objective ) 3 点セット例( PT/OT/ST 共通 )
場面( S の例 ) 数値 1 観察 1 安全 1
歩行が不安(「 1 人で歩いていい? 」) TUG(   )秒 歩行で(患側膝折れ/すり足/左右動揺)のいずれか 1 つ 方向転換でふらつき(有/無)、介助量(見守り/軽介助)
立ち上がり困難(「 立つ時に怖い 」) 5xSTS(   )秒 体幹前傾不足(有/無) 立位保持でふらつき(有/無)
疼痛で動けない(「 動くと痛い 」) NRS(安静/動作)(   )/(   ) 誘発動作: (前屈/起立/歩行)で増悪 翌日疼痛(残存/非残存)、疼痛増悪で回数調整が必要
息切れ(「 階段がきつい 」) SpO₂(   )→(   )%、 RPE(   ) 呼吸補助筋の過活動(有/無) SpO₂ 低下が(   )% 未満で中止ライン
めまい・血圧変動(「 立つとふらふら 」) 起立前後 BP(   )→(   )mmHg 体位変換で顔色不良(有/無) 症状出現まで(   )分、臥位で改善(有/無)
認知・理解(「 指示が通りにくい 」) 二段階指示の理解(可/不可) 注意逸脱(   )回/ 10 分 危険行動(立ち上がり突発)への見守り必要
低栄養が疑わしい(「 体重が落ちた 」) 体重(   )kg、 BMI(   ) 筋萎縮(大腿/下腿)のいずれか 1 つ 疲労の立ち上がりが早い( Borg で(   ))

よくある失敗:O の OK / NG(絞り方の修正)

O の NG は「データを並べただけ」「結論につながらない情報が多い」「安全情報が散らばる」に集約されます。修正は簡単で、O から 3 点だけ残し、残りは別欄(測定一覧)へ逃がします。

O は “判断に必要な事実” です。O を絞れた時点で、A は「主問題は〜」で言い切れ、P は量・頻度まで具体化しやすくなります。

O( objective )の OK / NG( 3 点ルールで立て直す )
NG(避けたい) なぜ弱い? OK(修正例)
「ROM 全部、 MMT 全部、バイタル全部、テスト全部」 論点がぼやけ、A が書けない 主訴に対し、数値 1(例:TUG)、観察 1(歩容の特徴)、安全 1(ふらつき/介助量)に絞る。全データは測定一覧へ。
「歩行が悪い感じ」 客観性がなく再現できない TUG(   )秒、歩行で(左右動揺)を認め、方向転換でふらつきあり(見守り必要)。
「SpO₂ 低下」だけ 条件・程度が不明 屋内歩行 5 分で SpO₂ 94 → 90%、RPE 15、呼吸補助筋過活動あり。

現場の詰まりどころ:O を書く前の 30 秒チェック

O を絞れない日の多くは、S が複数混在しています。まずは「今日の S は 1 つ」を決め、その S を裏付ける O を 3 点だけ選ぶ。これが最短です。

チェックは、① S は 1 行で言えるか。②数値 1 を選べたか。③観察 1 は “特徴 1 つ ” か。④安全 1 は介助や中止判断に関係するか。ここまで揃えば、A と P が書けない問題が減ります。

O 前 30 秒チェック(「全部書く」から抜け出す)
確認 目安 詰まったら
S は 1 つ? 困りごとが 1 行で言える 優先度が高い訴えに絞る
数値 1 は? 次回も取れる指標 TUG/5xSTS/SpO₂/NRS から選ぶ
観察 1 は? 特徴は 1 つだけ 歩容・代償・呼吸のどれか 1 つ
安全 1 は? 介助量 or 中止条件 ふらつき、血圧変動、疼痛増悪 など

よくある質問( O の書き方 Q&A )

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

Q1. O を 3 点に絞ると情報不足になりませんか?

A. SOAP の O は「今日の判断に必要な事実」に限定するのがコツです。ROM や MMT など全データが必要な場合は、測定一覧や別欄に残し、SOAP の O は 3 点に圧縮すると、A と P の再現性が上がります。

Q2. 何を “数値 1” にすればいいですか?

A. 原則は “次回も同じ条件で測れるもの” です。歩行なら TUG や 10 m 歩行、立ち上がりなら 5xSTS、呼吸なら SpO₂ と RPE、疼痛なら NRS など、再評価で比較できる指標を選びます。

Q3. 安全情報は O と P のどちらに書くべき?

A. O には「起きた事実(ふらつき、BP 低下など)」を 1 行で、P には「どう対応するか(中止基準、介助条件)」を書きます。まず O に 1 点として残し、P で運用に落とすと整理しやすいです。

おわりに

O( objective )を整える一番の近道は、主訴に対して 3 点までに絞ることです。数値 1+観察 1+安全 1 のセットにすると、判断( A )と計画( P )が自然に書ける形になります。

忙しい日は完璧を狙わず、「 3 点セットだけ残す」を徹底するのがコツです。O が絞れると、SOAP が“読むだけで次が分かる記録”に変わり、引き継ぎも監査もラクになります。

参考文献

  1. Weed LL. Medical Records That Guide and Teach. N Engl J Med. 1968. DOI:10.1056/NEJM196803142781105
  2. Aronson MD. The Purpose of the Medical Record: Why Lawrence Weed Was Right. Am J Med. 2019. S0002-9343(19)30352-3
  3. Wright A, Sittig DF. Bringing Science to Medicine: an Interview with Larry Weed. J Am Med Inform Assoc. 2014. PubMed Central

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信しています。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

タイトルとURLをコピーしました