SOAP の S は「引用+文脈+困りごと」を 1〜2 文にすると、O と A が迷いません
SOAP の S( subjective )が薄いと、O(客観)を何で裏付けるかが決まらず、A(評価)も P(計画)もぼやけます。結論として、S を 1〜2 文で「引用(意味内容)+文脈(いつ/どの動作)+困りごと」に整えるだけで、その日の O と次の一手がほぼ自動で決まります。
コツは、S を “会話ログ” にしないことです。本人や家族の言葉を 引用(意味内容)として残しつつ、どの場面で何が困るかの文脈を 1 行添える。これだけで、チーム共有と指導者の添削が一気にラクになります。
同ジャンルで回遊(最短導線):まずは「記録の最低ライン」→「SOAP 全体像」→「代表的な各論」の順に辿ると迷いが減ります。
診療記録(カルテ)の書き方まとめを開く(最低ライン+ 5 分点検)
関連:SOAP カルテの書き方(実例・テンプレ・チェック)
続けて読む:SOAP の O を絞る 3 点ルール(数値 1+観察 1+安全 1)
S とは:主観的情報は「訴え」だけでなく「目標・不安・価値観」まで含みます
S は、患者さん(必要に応じて家族・介護者)の訴えを中心に、本人の目標、恐怖感、不安、生活上の優先度をまとめるパートです。ポイントは、医療者の解釈を入れず、まずは “本人の言葉(意味内容)” として残すことです。
ただし、S を増やしすぎると O が散らばります。実務では 今日の介入に一番関係する S を 1 つ選び、そこから O(数値・観察・安全)につなげる流れが安定します。
S を 1〜2 文で書くテンプレ(穴埋めで OK)
S は長文にしなくて大丈夫です。引用(意味内容)に、状況(いつ・どこで)と困りごと(何ができない)を 1 行足すだけで、読み手が迷わない S になります。
SOAP の全体像( S → O → A → P )を先に確認したい方は、SOAP カルテの書き方(実例・テンプレ・チェック)も合わせてどうぞ。
| 要素 | 書き方(穴埋め) | ねらい |
|---|---|---|
| 情報源 | 本人/家族( )より聴取。 | 誰の言葉かを明確にする |
| 引用(意味内容) | 「( )」 | 医療者の解釈を混ぜない |
| 文脈 | (いつ/どの動作/どの場面)で訴え。 | O の選定を固定する |
| 困りごと | (具体的に困ること)を主訴とする。 | A の結論を作りやすくする |
| 目標(任意) | 目標は「( )」。 | P(計画)の方向性をそろえる |
S を引き出す質問テンプレ( 5 つだけ覚える)
問診が苦手でも、質問を固定すると再現性が上がります。S の質は “質問の順番” で決まります。実務で強いのは、①困りごと → ②いつ → ③どのくらい → ④何が不安 → ⑤目標の順です。
時間がない日は、まず 5 つの質問を “そのまま” 使ってください。答えが出れば、次に選ぶ O(数値・観察・安全)が決めやすくなります(詳しくは O の 3 点ルール)。
| 順番 | 質問 | 狙い | 返答例( S に書ける形 ) |
|---|---|---|---|
| 1 | いま一番困っているのは、どの動きですか? | 主訴を 1 つに絞る | 「立つ時が一番怖い」 |
| 2 | それは、いつ/どこで起きますか? | 文脈を固定する | 「トイレの立ち上がりで」 |
| 3 | どのくらいの頻度・強さですか? | O の数値を決める | 「毎回」「痛みは 7/10 くらい」 |
| 4 | 一番不安なのは何ですか? | 安全の論点を決める | 「転びそうで不安」 |
| 5 | まず何ができるようになりたいですか? | P の方向性をそろえる | 「病棟内を 1 人で歩きたい」 |
頻出 9 パターン:S の書き方(例文)
ここでは、頻出場面の S を “短く強く” 書く例を示します。S は短くても、文脈と困りごとが入っていれば十分です。次に O(数値・観察・安全)を選ぶための “芯” を作るイメージです。
各例文の末尾に 「次に確認する O」を 1 行だけ添えています。O を厚く書きすぎると本ページの役割(S 専門)が崩れるので、迷ったら O の 3 点ルールに寄せてください。
| 場面 | S( 1〜2 文例 ) | 次に確認する O(数値 1+観察 1+安全 1) |
|---|---|---|
| 歩行の不安 | 本人より「病棟の中を 1 人で歩いていいですか?」と発言。トイレ移動の場面で不安が強い。 | TUG(数値)+ 方向転換時のふらつき(観察)+ 転倒リスク(安全)→ O の 3 点ルール |
| 立ち上がりの恐怖 | 本人より「立つ時に膝が折れそうで怖い」と訴え。食後の立ち上がりで増悪する。 | 5xSTS(数値)+ 体幹前傾の使い方(観察)+ 介助量と危険動作(安全)→ O の 3 点ルール |
| 疼痛 | 本人より「動くと腰がズキッと痛い」と訴え。起床後の前屈で痛みが強い。 | NRS(数値)+ 誘発動作と姿勢(観察)+ 悪化サイン(安全)→ O の 3 点ルール |
| 息切れ | 本人より「階段で息が上がって怖い」と訴え。家事後の疲労感が強い。 | SpO₂/RPE(数値)+ 呼吸パターン(観察)+ 低酸素・中止基準(安全)→ O の 3 点ルール |
| めまい | 本人より「立つとふらふらする」と訴え。ベッドから起き上がり直後に出現する。 | 起立前後 BP(数値)+ 症状出現タイミング(観察)+ 失神リスク(安全)→ O の 3 点ルール |
| 家族情報 | 家族(妻)より「家では夜間に 2 回転びそうになった」と情報あり。夜間トイレ動作での不安を主訴とする。 | 夜間の転倒回数(数値)+ 動線・照明の確認(観察)+ 見守り条件(安全)→ O の 3 点ルール |
| 脳卒中(上肢の使いにくさ) | 本人より「箸がうまく使えない」「服のボタンが止めにくい」と訴え。食事と更衣の場面で困り感が強い。 | 上肢機能の簡易課題(数値)+ 代償動作(観察)+ 転倒・疼痛の誘発(安全)→ O の 3 点ルール |
| 嚥下(むせ・食形態の不安) | 本人より「水でむせるのが怖い」と訴え。食事中の咳込みが増え、食形態の調整を希望する。 | むせの頻度(数値)+ 声の変化・咳嗽(観察)+ 誤嚥リスクと中止基準(安全)→ O の 3 点ルール |
| 術後整形(荷重・疼痛恐怖) | 本人より「体重をかけるのが怖い」「階段が心配」と訴え。退院後の生活動作に不安が強い。 | NRS(数値)+ 荷重時の姿勢(観察)+ 禁忌動作・転倒リスク(安全)→ O の 3 点ルール |
よくある失敗:S の OK / NG(直し方が 1 秒で分かる)
S の NG は「医療者の解釈を書いてしまう」「会話を長文で貼る」「文脈がない」に集約されます。修正は簡単で、引用(意味内容)+文脈(いつ/どの動作)に直すだけです。
また、家族情報は有用ですが、必ず 情報源 を明記します。これだけで、読み手が “誰の言葉か” で迷わなくなります。
| NG(避けたい) | なぜ弱い? | OK(修正例) |
|---|---|---|
| 「不安そう。」 | 医療者の解釈で、根拠がない | 本人より「転びそうで不安」と発言(トイレ移動の場面)。 |
| 会話をそのまま長文で貼る | 主訴が埋もれて O が選べない | 本人より「立つ時が一番怖い」と訴え(食後の立ち上がりで増悪)。 |
| 家族の話だが情報源が不明 | 責任の所在が曖昧 | 家族(娘)より「夜間にふらつきが増えた」と情報あり。 |
現場の詰まりどころ:S を書く前の 30 秒チェック
S が散らかる日は、「今日の主訴が 1 つに決まっていない」ことがほとんどです。まず主訴を 1 つに固定し、引用(意味内容)と文脈を添える。ここまでできれば、O(数値 1+観察 1+安全 1)へつながります。
時間がない日は、下のチェックを 30 秒だけ回してください。S の質が安定すると、SOAP 全体の質も安定します。
→ よくある失敗(OK/NG)へ
→ 30 秒チェック(回避の手順)へ
関連:SOAP の P( plan )を 1〜2 文で具体化するテンプレ
S 前 30 秒チェック(主訴を固定して O につなぐ)
| 確認 | 目安 | 詰まったら |
|---|---|---|
| 主訴は 1 つ? | 一番困る動作に絞る | 「今日の 1 番」だけ選ぶ |
| 引用になっている? | 本人の言葉(意味内容) | 「〜と発言」に直す |
| 文脈がある? | いつ/どの動作で | 場面を 1 つ足す |
| 情報源は明記? | 本人/家族/介護者 | 括弧で 1 語入れる |
よくある失敗(詰まりやすいポイントの正体)
つまずきは、だいたい次の 3 つです。①主訴が 1 つに決まっていない、②引用が “解釈語” になっている、③文脈(いつ/どの動作)が抜けている。ここだけ直すと、S→O→A の流れが戻ります。
よくある質問( S の書き方 Q&A )
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. S は何個まで書いていいですか?
A. 書けますが、実務では “今日の主訴” を 1 つに絞ると O と A が安定します。複数の訴えがある場合は、優先度が高いものを 1 つ選び、残りは別日に扱うか、別欄(生活情報)へ整理すると迷いにくいです。
Q2. NRS や VAS は S と O のどちらですか?
A. 数値でも「感じ方」に関する情報なので、基本は S として扱います。記録上は S に「痛み 7/10」などと書き、測定条件(安静/動作)を一言添えると、次に選ぶ O が決めやすくなります。
Q3. 家族の話は S に書いて良いですか?
A. 書いて良いです。重要なのは、情報源を明記することです。「家族(妻)より聴取」のように書けば、読み手が混乱しません。必要に応じて、本人の認識との差も次回確認します。
Q4. 家族情報が主で、本人の訴えがはっきりしないときはどう書きますか?
A. まずは情報源を固定して書きます。「家族(誰)より聴取」の上で、事実としての情報(意味内容)を短く残します。本人の認識との差がありそうな場合は、A に混ぜず「次回確認」として保留し、読み手が判断できる形にします。
Q5. 訴えが多い(痛み+ふらつき+不安)とき、S の並べ方は?
A. “今日の介入に直結する主訴 1 つ” を先頭に置き、次点は補足として 1 行までにします。それ以上は別日に回すか、生活情報として別枠に整理すると、O が散らばらず SOAP 全体が安定します。
次の一手
- 運用を整える:診療記録(カルテ)の書き方まとめ(最小 5 要件+ 5 分点検)
- 共有の型を作る:SOAP カルテの書き方(実例・テンプレ・チェック)
教育体制・人員・記録文化など“環境要因”を一度見える化すると、次の打ち手が決めやすくなります。
チェック後に『続ける/変える』の選択肢も整理したい方は、PT キャリアナビで進め方を確認しておくと迷いが減ります。
参考文献
- Weed LL. Medical Records That Guide and Teach. N Engl J Med. 1968. DOI:10.1056/NEJM196803142781105
- Aronson MD. The Purpose of the Medical Record: Why Lawrence Weed Was Right. Am J Med. 2019. S0002-9343(19)30352-3
- Wright A, Sittig DF. Bringing Science to Medicine: an Interview with Larry Weed. J Am Med Inform Assoc. 2014. PubMed Central
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


