FACT・TCT・TISは「評価したい体幹課題」で選ぶ
脳卒中の体幹評価でFACT・TCT・TISのどれを使うか迷ったら、「何のための尺度か」だけでなく、「どの体幹課題を、どの細かさで見たいか」で選ぶと整理しやすくなります。TCTは寝返り・起き上がり・座位バランスなどの基本動作、FACTは端座位での課題遂行、TISは静的座位・動的座位・体幹協調性を細かく捉える尺度です。
3尺度には重なる部分があり、TCT=予後、FACT=介入、TIS=経時変化と完全に分けられるわけではありません。本記事では、脳卒中の体幹評価で「最初の1本」を選ぶために、評価する課題と詳しさの違いから使い分けを整理します。なお、本記事のTISはVerheydenらの23点版を指します。
体幹評価全体の進め方から確認したい方:脳卒中の体幹評価フローでは、評価前の条件確認から尺度選択、記録・再評価までをまとめています。
まず比較:FACT・TCT・TISは何が違う?
3尺度の違いは、単純な「用途」ではなく、評価に含まれる課題と、体幹機能をどこまで細かく分けて見るかにあります。まずは以下の表で全体像を確認してください。
| 尺度 | 主に見る課題 | 特徴 | 選びやすい場面 |
|---|---|---|---|
| TCT | 寝返り、起き上がり、座位バランス | 4つの基本動作を簡潔に評価する | 臥位から座位までを含め、基本動作としての体幹機能を確認したい |
| FACT | 端座位での静的・動的な課題遂行 | 10項目20点で、重心移動や回旋を含む複数の座位課題を段階的に評価する | 端座位で「どの課題まででき、どこで難しくなるか」を確認したい |
| TIS | 静的座位、動的座位、体幹協調性 | 17項目23点で、座位での体幹機能を3つの下位尺度に分けて評価する | 座位での体幹機能をより細かく分解し、どの要素に課題があるか確認したい |

ポイントは、「TCTなら予後、FACTなら介入、TISなら再評価」と目的を固定しないことです。いずれの尺度も体幹機能を数値化し、経過観察や臨床判断に利用できます。最初に「今回の評価で何を確認したいか」を決め、その問いに合う課題を含む尺度を選びます。
迷ったときの選び方|最初の1本を決める3つの問い
尺度名から選ぶより、患者さんについて「今、何を確認したいのか」を具体化すると最初の1本を決めやすくなります。
寝返り・起き上がり・座位までまとめて見たい → TCT
TCTは、左右への寝返り、臥位からの起き上がり、座位バランスという4つの基本動作から体幹コントロールを評価します。端座位での細かな動的課題よりも、臥位から座位までを含む基本動作がどの程度成立しているかを簡潔に捉えたい場面に向きます。
TCTは脳卒中後の機能予後との関連も報告されていますが、予後予測だけの尺度ではありません。高いレベルの座位課題を細かく比較したい場合は、FACTやTISを追加する選択肢があります。
端座位で「どこまで課題をこなせるか」を見たい → FACT
FACTは、端座位での静的保持から、重心移動、下肢や上肢を伴う課題、回旋などへ広がる10項目20点の評価です。単に座位が取れるかではなく、複数の課題のうち、どこまでは遂行でき、どこから難しくなるかを確認しやすい特徴があります。
開発時から治療指向的な評価として位置づけられており、近年は歩行自立との関連も報告されています。ただし、FACTを「歩行が伸びないときだけ使う尺度」と考える必要はありません。端座位での課題遂行を段階的に確認したいこと自体が、選択理由になります。
座位の体幹機能を要素ごとに分けたい → TIS
Verheyden版TISは、静的座位バランス・動的座位バランス・体幹協調性の3つに分けて評価します。座位が「できる・できない」だけではなく、動的制御や協調性まで含めて、体幹機能をより詳しく捉えたい場合に適しています。
経時変化を追う用途にも使用できますが、TISだけが再評価に向くわけではありません。再評価が目的なら、何を追いたいかに合った尺度を選び、同じ評価条件で継続して比較することが重要です。
3尺度は完全に別物ではない|体幹機能には課題の重なりがある
FACT・TCT・TISを「それぞれ別の機能を見る3尺度」と考えすぎると、使い分けがかえって難しくなります。実際には、3尺度の中には静的座位や動的制御など、重なる体幹課題があります。
2026年に報告された急性期脳卒中患者200例の研究では、Verheyden版・Fujiwara版TIS、FACT、TCTの計38項目を統合して解析し、体幹機能を「静的座位」「基本動作」「動的座位・低難度」「動的座位・高難度」の4因子として整理しています。さらに、項目難易度には静的なコントロールから、より複雑な動的課題へ向かう階層性が示されました。
ここが選び方のポイントです。
「どの尺度が一番優れているか」ではなく、今の患者さんについて、静的座位・基本動作・動的座位のどこまで確認したいかを考えると、必要な尺度を選びやすくなります。
ただし、この研究結果を「すべての患者が必ず静的座位→基本動作→動的座位の順番で回復する」という固定的な回復過程として扱うことはできません。対象は早期脳卒中患者であり、示されたのは複数尺度に含まれる評価項目の構造と難易度の階層です。臨床では患者ごとの症状や評価目的と合わせて解釈します。
場面別の使い分け|どれを選ぶか迷ったときの早見表
実際の選択では、病期だけで尺度を固定するのではなく、今回知りたいことを基準にします。以下は最初の1本を選ぶための実務的な整理です。
| 今回知りたいこと | 候補 | 選ぶ理由 |
|---|---|---|
| 寝返りや起き上がりも含めて基本動作を確認したい | TCT | 臥位から座位までを含む4つの基本動作で構成される |
| 座位は可能で、端座位でどの課題まで遂行できるか見たい | FACT | 静的保持から重心移動・回旋などの動的課題まで段階的に確認できる |
| 静的・動的座位と体幹協調性を分けて確認したい | TIS | 3つの下位尺度から座位での体幹機能を詳しく分解できる |
| 経時変化を追いたい | 目的に合う尺度を継続 | 再評価だけを理由に尺度を決めず、追いたい課題に合う尺度を同じ条件で使用する |
| 歩行自立の見通しも考えたい | 尺度単独で決めない | TCT・FACT・TISには歩行や機能予後との関連報告があるが、歩行は下肢機能や感覚、高次脳機能など複数因子の影響を受ける |
1つの尺度で足りないのはどんなとき?
3尺度を最初からすべて実施する必要はありません。まず評価目的に合う1つを選び、最初の尺度だけでは知りたいことに答えられないときに追加評価を考えます。
- TCTで基本動作は把握できたが、端座位での動的課題を詳しく見たい:FACTやTISを検討する
- FACTで難しくなる課題は分かったが、静的・動的座位・協調性に分けて整理したい:TISを検討する
- TISで座位の体幹機能は把握できたが、寝返りや起き上がりを含む基本動作も共通尺度で確認したい:TCTを検討する
大切なのは、「TCTの次は必ずFACT、その次はTIS」のような固定順序を作らないことです。追加するかどうかは、最初の評価で残った疑問によって決めます。
比較するときは「得点」だけでなく評価条件も残す
FACT・TCT・TISのどれを選んでも、再評価では合計点だけを見るのではなく、前回と比較できる条件を残しておくことが重要です。特に座位を含む評価では、足底接地、支持の有無、座面などの違いが課題遂行へ影響することがあります。
この比較記事では細かな記録方法までは扱いません。評価条件のそろえ方、所見の残し方、再評価までの流れは、脳卒中の体幹評価フローで詳しく整理しています。
尺度を決めたら、各評価方法を確認する
本記事の役割は「どの尺度を選ぶか」までです。実施方法、採点、解釈は、選んだ尺度の各論で確認してください。
よくある質問
Q1. FACT・TCT・TISで迷ったら、最初にどれを選べばよいですか?
A. 病期だけで決めず、「今回どの課題を確認したいか」で選びます。寝返り・起き上がり・座位を含む基本動作ならTCT、端座位での課題遂行を段階的に見るならFACT、静的座位・動的座位・体幹協調性まで分けるならTISが候補です。
Q2. 同じ患者さんに3つ全部実施する必要がありますか?
A. ありません。まず評価目的に合う1つを選び、その尺度だけでは残った疑問に答えられない場合に追加します。「TCT→FACT→TIS」のような固定順序にする必要もありません。
Q3. 歩行予後を見たい場合はTCT・FACT・TISのどれがよいですか?
A. 歩行予後だけを理由に3尺度のどれか1つへ固定するのは避けます。TCT、FACT、TISはいずれも歩行や機能予後との関連が研究されていますが、歩行自立は体幹機能だけでは決まりません。病期や研究対象、予測したいアウトカムを確認し、下肢運動機能、感覚、高次脳機能など他の所見と合わせて判断します。
Q4. TCTで高い得点ならFACTやTISは不要ですか?
A. TCTだけで今回の評価目的を満たしていれば、追加は必須ではありません。一方、端座位での重心移動や回旋などの課題遂行、静的・動的座位や協調性をより詳しく確認したい場合は、FACTやTISを追加する意味があります。
まとめ|尺度名ではなく「何を見たいか」から選ぶ
FACT・TCT・TISは、どれも脳卒中後の体幹機能を評価する尺度ですが、含まれる課題と評価の細かさが異なります。
- TCT:寝返り・起き上がり・座位バランスなど、基本動作を簡潔に確認する
- FACT:端座位での静的・動的な課題遂行を段階的に確認する
- TIS:静的座位・動的座位・体幹協調性に分け、座位での体幹機能を詳しく確認する
3尺度を「早期はTCT、介入ならFACT、再評価ならTIS」と固定するのではなく、静的座位・基本動作・動的座位のどこを、どの詳しさで確認したいかから最初の1本を選びましょう。必要な情報が残った場合だけ、別の尺度を追加すると評価の重複を減らせます。
参考文献
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著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

